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195.ガイド伊予松山城2 探検、天守曲輪

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 御殿の東側、奥御殿の跡。

 泉水のある日本庭園を望む庵が本丸大手門行の屋外エスカレーター乗り場となっている。


 昇り石垣の周囲はよく剪定され、エスカレーターから防壁の内側が眺められる様になっている。

 キッズも私に続いて乗り込み、ちゃんと手すりを…

 レイチェルちゃんは刀利ちゃんと、私はユセフ君と手を繋いで登っていく。

 リチャード君は、ムっとしてる。


 おー、後ろには二之丸御殿や外堀、そして松山市外が広がってる。

『みんな、後ろを見て!』

『ワオ!素晴らしい!』

『高ーい!』

 建物の上から見るのと吹き曝しから見るのとはちょっと違うよね。


 そしてエスカレータ終点の目の前には大手門。

 そこから壮大な石垣、綺麗に成型された切り込みハギの石垣が成す九十九つづら折の坂を二層の太鼓櫓に向かって昇る。


 『マム!あそこが銃撃ポイントですか?』

 レイチェルちゃんが太鼓櫓を指さして聞く。どっち視点だろう?攻城側?

『城を護る側から見たら、城へ入ろうとする敵を攻撃するポイントね。

 16世紀末の城の、この進路を塞ぐ様な構造は、城を攻撃する側にとって脅威なのよ。

 あの窓から矢や弾丸が飛んで来るのよ?』

『怖い…』

『遠くから見てそう思わせるだけで、城には敵を脅かす力があるのよ。

 さあ、今は平和だから、安心して城に乗り込みましょう!』

『イエスマム!』

 レイチェルちゃん、ノリがいいなあ。


 太鼓櫓の更に北側にも、石垣が伸びて二層櫓と長大で屈曲した下見板張りの塀が本丸を囲っている。

 凄いなあ。


 太鼓櫓後ろの門扉が無い高麗門の戸無門、そして更にUターンすると両脇を平櫓で挟まれた筒井門の渡り櫓が出迎える。

 そして漸く本丸へ到着だ。


『テンシュだー!マム!綺麗ー!』

『きれいだねー』

 青空の下、白く輝く五層の天守は、綺麗だった。

 下層の比翼千鳥破風から三層の入母屋の上に伸びる上層部。

 広島城天守よりスマートな感じだ。


 そしてその前面に二層の鈍重な小天守、その左手に多門櫓で繋がった隅櫓。

 右側にも入口を固める平櫓や壁が続いている。


 姫路城や、和歌山城とも違った頼もしさを感じる。

 どっかで次グラ画伯ズがスケッチしてるんじゃないかな?


******


 勝山山頂の本丸はほぼ南北に長細く、その北辺の東西に短く出っ張ったT字型をしている。


 本丸は風雨の強い立地ながら良く維持・修復されていている。

 一部の櫓は解放され、展望台に使われている。


 その本丸の北端に、連立天守が成す天守曲輪がある。


『伊予松山城の天守は、小天守と二つの隅櫓の四基で天守曲輪を造る、連立式天守です。これは姫路城や和歌山城と似た形で、天守の進化の最終形とも言われます。

 他には、駿府城天守や淀城天守等、四つの櫓で囲んだ形の連立式天守もあります。


 しかし標高100mを超える山上は風雨が強く、江戸期を通じて四層と五層は何度か破損し、都度建て直されて今まで17世紀初頭の姿を伝えています。それでは天守曲輪に向かいましょう』


 やや専門的な内容なので連手さんに替わって私が説明する。


『ボーイズ!ゴーゴーゴー!』『『ヤー!!』』

 子供達が元気よく進む。

 小天守と単層櫓の間に挟まれた桝形の奥、一の門を過ぎて、これまた桝形の階段を二ノ門へ。

 眼前に聳える真っ白な五層天守。

 その脇の三ノ門を入った先は、大天守と小天守を結ぶ渡櫓の下にある筋金門だ。

『マム!目が回ります!』『グルグルだよー!』

『はははー!それも城を護るための知恵だよ。

 何度も天守の周りをまわらせて、その間に櫓や門から敵を攻撃してやっつけんるだ』


『日本の城は恐ろしいです!』

 リチャード君、そうでしょうそうでしょう。


『この城を築いた加藤嘉明や他の大名は、16世紀末にフィリピンや台湾でポルトガルやスペインと戦ったから、どうやって敵から城を護るかよく考えたんだよ。


 さっきエスカレータの脇にあった、山を囲う石垣と塀も、山の下の御殿、それが港だった場合もあるよ。

 山の下と上を結んで敵を寄せ付けない防塁なんだよ』


『強くて綺麗。日本のお城は女の人も同じ…』

『何言ってんのボーイ!』

 この少年、真直ぐに育って欲しい。大丈夫か?

 親御さんたち、後ろで笑ってないで何か言ってやってよ!


「時尾さんと一緒だと子供達が凄く元気ですよ!」

 いや連手さん、そこは追認されても困りますって。


******


 北隅櫓脇、玄関多聞にはその名の通り唐破風の玄関がある。そこから入ると、内部は畳敷きだ。

 内部も御殿造りになっている。

『この天守は住めるのかな?』

 おっと連手さんが固まった。

 目で合図してバトンタッチ。


『はい、ここは数少ない、御殿の構造を持った天守です。

 熊本城天守も本丸御殿が出来るまで御殿として機能していましたが、ここ伊予松山城は形式的に御殿の形をとっていて、御殿建築の無い本丸での式典に使われていた様です。

 大天守には城主が座する式台も用意され、障壁画も描かれています。

 これからご案内します』


 天守の低層部分の内装も御殿形式で、畳敷き、障壁画が描かれ、二階には城主に相応しい上段の間が置かれている。

 天井も上の間は格子天井となっている。


『天守建築が発展した16世紀末には既に天守は御殿としての役割を終えており、こうした例は極めて珍しくなっています。

 その意味でも現在まで修理補修されてきた松山城天守は貴重な存在です』


 と、その貴重な上の間にレイチェルちゃんが…刀利ちゃんの手を取って連れて来た。

『今日よりトーリ姫を城に迎える!皆の物、忠義を尽くせ!』

『『ハハーッ!!』』

 正座してお辞儀する刀利ちゃん。お姫様に迎えて貰えてよかったね。

 楠見さん夫婦もニコニコ見てる。


 一行は天守からの眺望を楽しみ…遥か遠くにチラっと海も見えた。

 最上階にも上の間の式台があり、儀礼にも使ったのかもしれない。

 加藤家時代の行事の記録が失われ、松平家に入ってからは使用されていない。

 その後使用されたのは…近代日本での天皇陛下行幸からだ。


『姫、日本の夜明けゼヨ!』

 レイチェルちゃん、それは高知城で言って欲しかったよ…


「時尾さん、すみません。また」

 と済まなそうな連手さん。

「まずは知ってる知識を動員して、疑問形式でお話してはどうでしょう?

 私の知識と違っていたら補足します。会話形式で皆さんに説明するのも面白いかも」

「そうしますー!」

 ベテランセンパイ、頑張って下さい。


******


 その後一行は小天守から大天守を間近で見上げ、子供達は天守曲輪を一周して満足した。

 本丸北西端の乾門を出て、西側の昇り石垣の外側を下りエスカレーターから眺めて降りた。


 お、レイチェルちゃんが新しい仲間のトーリ姫をエスコートしてる。

 お姉ちゃんだねえ。


 運よく坊ちゃん列車が来た。大喜びの子供達を載せて汽車は再び蒸気と石炭の臭いと共に伊予松山駅へ。


******


※劇中の五層天守はあくまで想像によるもので、正確な姿を伝える資料はありません。


※現在、盛観を誇る本丸天守曲輪ですが、実は昭和に狂人の放火で小天守以下が焼失させられました。

 犯人の古川義雄は13府県45か所で社寺仏閣、学校等に連続放火を行い逮捕され、一度釈放されました。梅毒に罹患しており、それによる出血が証拠となって逮捕されました。

 しかし釈放後も窃盗と放火を続け、漸く死刑になりました。

 実はこの狂人は宇和島城天守への放火も計画していました。

 実現していれば貴重な文化財が狂人の独善によって奪われる所でした。

 この死刑判決は歓迎されるべき英断と言えるでしょう。


 本件は、狂人と量刑、再犯の可能性という問題を鑑みて判決が下された、後世に語り継ぐべき事件でした。死者ゼロで死刑になった稀有な例でもあります。現在でも放火の最高刑は死刑です。


 なお、WW2の空襲でも本丸は被災し、戦後にも狂人によって放火され筒井門と櫓が焼かれました。

 それでも大天守が残り、失われた諸櫓も門も復元されたのは、全国的に見ても極めて幸福な例と言えるでしょう。


※現在の幕末再建の天守は内部に式台があり、御殿の形式をとっています。これは18世紀に再建された高知城天守同様「復古様式」と呼ばれ、時代のニーズを無視して古風に寄せた造りを再現したものです。

 但し、焼失した旧天守の様式に倣ったものと言われていますので、かつての五層天守も内部は御殿造りだったのかも知れません。


※近年、加藤氏の松山城天守曲輪は壮大な五層天守が聳える姿…ではなく、四棟の二層櫓と二層三重の望楼式天守が不等辺多角形に接続し、その内部は二之丸大井戸の様な巨大な井戸になっていた、という絵図が発見され、どっちが本当が解らなくなっています。

 その様子を香川元太郎先生が描いたものが、下記の上部2図です。

https://rekishi.kagawa5.jp/category/%E6%84%9B%E5%AA%9B%E7%9C%8C/page/2/

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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