表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/251

193.お宿は道後温泉 いつもの合流

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 秋の陽はすっかり落ちて、星空の下私達は予讃線特急、宇和海で伊予松山へ向かう。

 そう、私達は、だ。


 空席の多い自由席で、遊び疲れたチビっ子たちが、私に折り重なる様に寄りかかって寝ている。

 流石に12歳のレイチェルは向かい席で寝てるけど。


 あ、楠見さんのお孫さんまで来ちゃったよ。えーと、名前は刀利とうりちゃんか。

「おねえちゃん」

 仕方がない。

 両脇に男の子が寄りかかってるんで、私は

「お膝にどうぞ」と座る様に言うと、ちょこんと座った。


「楽しかった?」と聞くと頷いて、

「いっぱいきれいだった」と小声で答えた。


 楽しかった、には届いていなかったかあ。

「あしたはみんなと、お殿さまごっこする?」と聞くと、

 お目々をきらきらさせて頷く。

 可愛いなあ。

「みんなと遊ぼうね」

 そう言うや、頭を私の胸にポテっと預けて、寝ちゃった。


 松山まで40分、割とすぐだ。


******


 駅の手前、荷物を抱えた親達が子供を引き取りに来ると、絶句してた。

 子供3人が私にしがみついて寝てた。

 どこのビッグマムだよ。私、人生イコール彼氏いない歴だよ。

 でも子供って暖かい。てか暑い。


『二十四ならぬ、八つの瞳だねえ。時尾先生、お手数をおかけしました』

 と、楠見さんが頭を下げた。

 ハっとしつつも、起き上がる訳にもいかない。


 楠見さんの奥様はゆっくり刀利ちゃんを抱き上げた。

 それに倣ってアーメッド氏の奥様もユセフ君を抱き上げた。

 二家族が降車デッキに行くと…

『ヘイレイチェル!リチャード!到着よ!ムービッムービッ(動け動け)!!』

 と頬をムニムニした!!

『ふにゃ~、いえす、まむ…』何が起きたか解らない二人もむにゃむにゃと起きた。

『ヘイゴーゴーゴー!』と二人の荷物を放り投げて来た!


 これがUS流の子育て術か!

 驚いて眠気がスッ飛んだよ!!


******


 松山駅からは路面電車…じゃなかった。

『蒸気機関車だー!』『すごーい!』「けむりがいっぱい…」

 子供達が驚く。伊予鉄道の観光列車、「坊ちゃん列車」という蒸気機関車がやって来た。

足元から蒸気が、煙突上の煤塵除去装置から白い煙が、独特の石炭の燃える匂いと一緒に吐き出された。


『日本ではまだ蒸気機関車を使ってるの?』

 ん?ユセフ君がお父さんに何か聞いているぞ?でもなんだ?インドだからヒンディー語かな?

『日本ではもう蒸気機関車は珍しいんだ。

 ここでは、特別に蒸気機関車を走らせて、昔の景色を蘇らせているんだよ』


 ユセフ君に何かを説明しているアーメッド氏は、連手さんや私に質問してる時のクールさとは打って変わって優しそうだ。


 皆で木造の客車に入ると、またまた子供達は大はしゃぎだ。

 19世紀のレトロな空気に包まれる。


『日本の旅は本当に時間旅行ね!』

『ああ…印象派の時代に来たみたいだ。

 これから僕たちはモンマルトルに行くのかな?』

『エヴィアンよ。レマン湖はないけどね』

 中々洒落たジョークだね。日本中温泉だらけでエヴィアンでもヴィッテルでもヴィシーでもドンと来いだけどね!


『よし、マイボーイ&ガール!大陸横断の旅に出発だ!』

『『ヤー!』』

 グランパもノリノリである。


 最後に載って来た連手さんと顔を見合わせて、苦笑すると

『ハッハッハー!グランパ、子供みたいだね!』とマムが笑った。

 私達もつられて笑ってしまった。


******


 ロコモーションは街を西へ。

 電車が松山城の堀沿いに曲がると、丘の上に白亜五層の天守が、それに連なる小天守群や本丸の櫓、そして山の裾から山上へ駆け上がる昇り石垣と共にライトアップされていた。


『ヘーイ!テンシュだ!』

『きれーい!真っ白に光ってる!』

『マハラジャの神殿みたいだ!』

「きれーい」

 お?刀利ちゃんもみんなの所に来たぞ?


『まるで御伽のお城ね』

『昨日の浦戸城も素晴らしかったが、規模が違うな』

 フーバーマン夫婦も子供の肩に手を置いて、車窓の上を眺めている。

 皆が松山城に目を奪われている。


 私は連手さんにコソコソと話した。

「私はこの次で。連手さん、後は宜し…」

 すると、連手さんが何だか凄い、この世の終わりみたいな顔をした。


 あ、何となく解っちゃった。だが。

「次は、県庁前、県庁前」

「後は宜しく!脱出!!」

 電車を降り…

 刀利ちゃんがスカートの裾を掴んでいた。

 うわあ。


 これは少なくとも、ちゃんと皆さんに「お休みなさい」の挨拶をしないと駄目だな。


******


「おわかれなの?…」

 クラシカルな道後温泉駅にて。

 やっぱりかあ~。

 刀利ちゃんが泣きそうな目で私を見上げる。


「お別れじゃないよ、明日また会いましょうね」

『マム!僕たちと行きましょう!ここは素晴らしい温泉があります!』

 リチャード君。君は…スケベだ。

『私は他のホテルなのよ。それと君は男湯に行きなさい!』

『綺麗な日本の女の人の…』

 その先は言ってはいけない!


『ボーイ!イェスかイェスマムかアイアンダスンのどれかだけを言いなさい!』

『イェスマム!』

『オーケー、レッツゴートゥユアルーム!

 明日の朝、君達の元気な顔を見せなさい!それが今日の最後の命令です!』

 子供達はまだ渋っている。


『アンサー?!』

『『『イエスマム…』』』

『もっと元気に!』

『『『イェスマム!!!』』』


 ご家族が苦笑いしている。

 ホテルに向かう一行を見送りつつ、見えなくなった所で私は電車で城の近くのホテルへ。


******


 屋上温泉でビバノンノン。全国展開のビジネスホテルなんだけど温泉あるし松山城も見えるしサイコー。

 でもやっぱり、子供達に後ろ髪引かれるなあ。

 いっそ保育士の資格でも取って、その分給料釣り上げるかな?


 なんてモヤモヤしつつ、街に繰り出して一人居酒屋を楽しんで、また温泉入って…

 部屋に戻って報告を上げて、をお次さんとグラちゃんのホームページを覗くと…やっぱり宇和島城と大洲城がUPされてた。

 どっかで時サンもチビっ子小隊を笑いながら眺めてんだろうなと思いつつ、栄光酒造の「松山三井」をちびちび飲む。

…そろそろ寝ないと。


 と、携帯が。雅姐姐からだ。

「ハロー、司ン?」

「え?態々、どうも遅い時間なのにお電話頂いちゃって済みません!」

「明日お客さん達と泊まっていーよー」

「はぇ?」


「なんかまたお客さん達に愛されちゃったんだってねー」

「うげ…」

 何かどんな話になってんだこれ?

「いやー、司ン、愛されてんねえー!はっはっはー!」

 アッチ、酒入ってんじゃね?


「いやね、ツレテクさんから『ウチのツアコンが時尾さんを一緒のホテルへ!』って泣きついて来てさ、何でも子供達が『キャプテンと一緒に行動する!』ってぐずるんだってさ!これ、司ンの事だよね?」

 連手サン…


「はいー」と気のない返事をすると…

「ぶっはっはっは!キャ、キャプテンになっちゃったかー!ブハッハ、ゲホゲホ、オエー」

 雅姐姐。もうあんた出来る女性、じゃないよ。ただの女オッサンだよ。


「ゲヘッゲヘッ…イヤ~、面白れー。

 なんで同行を許可する」

「いや、許可されましても」

「毎度の事じゃんキャプテ…ブフフっ!ブハッハッハー!!」

 笑い過ぎだぞ。


「はー。子供達が敬礼してる姿が目に浮かぶわー」

「私そこまでせんといかんとですか?」

「あのね、案内士なんて求められてナンボよ。

 スケベオヤジに媚びる訳じゃないんだし、親御さん達も割り増ししていいからって言ってくれてんのよ。

 いっそ保育士資格取って割増料金でプラン建てたら?」

…雅姐姐、私と同じこと考えてたし。


「はあ~。解りました。明日から一緒の宿に行きます。

 一人居酒屋も堪能しましたしね」

「一人…ブフー!ブッハッハッハー!あんた吉〇類かよー?!渋!渋過ぎブハッハー!」

「じゃあ宿の手配とキャンセルお願いしますよー」


 もう雅姐姐一か月分位笑ったんじゃない?


 はあ。明日からあのちびっ子達とお宿も一緒かあ。

 ま、可愛いからいいか。


******


※伊予鉄道の名物、夏目漱石の「坊ちゃん」でも描かれた、マッチ箱みたいな蒸気機関車。昭和28年に運休となり、その後道後公園に展示されていたため部品の破損・盗難が著しく、欠損部品を復元し遊園地内で展示されました。

 その後復活を望む声が高かったのですが、煤煙凄まじい蒸気機関車を都心で走らせる訳にもいかず、外観をそのままに復元したディーゼル機関車を2001年から運行し、観光名物となりました。

 劇中では本物の蒸気機関車を維持し、煤塵除去装置を増設して走らせている様です。


 しかし…電車運転手資格の他にディーゼル機関運転資格が必要なためか、2023年11月から運休となってしまいました。

 尚、伊予鉄道では同時に他の電車やバスも全面的に減便させ、電車もバスも運転手不足が深刻になっている事を世間に認識させる事態となりました。


※吉田〇の酒場探訪、夫婦で見てました。居酒屋っていいですよね。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ