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192.ガイド大洲城 丘を埋め尽くす櫓

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 宇和島から高松行の特急宇和海で1時間弱。

 肱川を越えたあたりに、小高い丘の上に天守が見えた。

『マム!テンシュです!』

 例によって私の席の周りに集まった子供達が、天守を見つけて盛り上がる。


 そしてすぐに大洲駅に着く。

 この駅は城の至近距離には無い。城の周囲に山があって駅を城の正面に構えられなかったそうな。

 なお江戸期には予讃線から城下三之丸へ引き込み線があったという。


 そこから無料観光バスで城へ。


******


 バスが肱川を渡ると…

『丘が上から下まで、塔だらけだ!』

『あれは要塞だよ!日本のセンゴク要塞だ!』

 リチャード君とユセフ君が驚く。


 橋の上から見える大洲城は、下見板張の二層櫓が建ち並んだ堅固な要塞だった。


 そして頂上、本丸を囲む多門櫓の上に頭を出す四層の天守。


「只今右手に見えますのが…」

 無料バスでも観光案内は丁寧だ。日本語だけど。


 そして、バスは広大な外堀を渡り、芋綿櫓と太鼓櫓に守られた、長大な大手の櫓門の脇を通り過ぎて三之丸へ入る。

 この道は元の道を拡張し、石垣も少し奥に移築し、桝形の正面は撤去して車道にしたものだ。

 まあ近代化の中、これでも保存されていて車窓から楽しめるのも、苦肉の策、かな?


 そしてバスは二之丸正門の櫓下門前で停車。眼前の二之丸南面には、これも広い内堀と、右に多門櫓の上に二層目を載せた二層櫓、左に二重多聞、金櫓、そして遠くに物見櫓が連なっている。

 こちらから見ても本丸下段、そして最上段の本丸に櫓や壁が丘を守る様に連なってる。


『この壮大な大洲城は、戦国末期に日本を統一した豊臣秀吉の部下、小早川隆景が統治し、その後、築城の名手として知られる藤堂高虎、そして南蛮征伐で活躍した脇坂安治が城主となり、この二人によって今の姿になりました。

 連手さんが危な気なく案内する。


 皆さんゾロゾロと土橋三之丸側の高麗門を潜り、更に櫓下門のL字型の桝形を潜る。

 橋の手前に門があるのも堅い造りだ。


 門内の二之丸下段、表御殿には、宇喜多、藤堂、脇坂、そして江戸期に渡ってこの地を治めた加藤家の資料が並べられている。

 私は連手さんと手分けして、大人からの質問を受けていた。

 連手さんは走り出しそうな子供達を頑張って抑えていた。


 あ、また大広間で殿様ごっこやってるよ。


 御殿から本丸に向かう石段を上り、薬医門の三ノ門を潜ると、二之丸中段。正面は本丸下段の二層、釜櫓が石垣上に聳え、右手は長屋門の奥に、藩主居館だった奥御殿がある。

 今でも加藤家の所有で、各種行事を行ったり時々公開されている。


 いい殿様じゃん。城の大名って言うと加藤清正とか毛利元就とか築城者が有名だけど、国替えされた後に来て、治水や災害対策、開拓をこなして、江戸幕府200年を治めて近代化から中央集権、民主国家へまとめ上げた殿様も偉いよね。中には酷い殿様もいただろうけど、島原みたいに。


******


 釜櫓脇の階段を進み、本丸下段へ。

 その西側、石垣の上は多門櫓が守っている。その石垣に沿う様にスロープ状の階段を上がり、二ノ門の中には…


『『『ほお~!!!』』』

『すごーい!』『『ヤー…』』


 手前に二層の高欄櫓、その奥に四層の大きな天守が、少し銅色に染まった空に聳える。

『これは、高さ何mあるのかな?』

 アーメッド氏の質問に答える。

『天守台を除く建物は約20m、先ほどの宇和島城天守より少し高いものです。

 天守台が高く、櫓が接続されている分、壮大に見えます』


『ハフの並びも、綺麗にまとまっているね』

 流石インドの人は頭がいいのか。良く見てらっしゃる。


『はい。一番上が入母屋の三角になっている妻側は、一番下が1つ、その上が2つ、と盛り上がり、その上をまた一つにしてスマートに見せます。

 一番上が平な、棟側は宇和島城と同じ構成です』


『マム!二階の窓が、全部キンカクみたいです!』

『大洲城天守の特徴は、二階の窓が、花のつぼみみたいな、火が燃えている様な飾り窓になってる事よ。

 仏教のスタイルで、カトウマド、頭が花の窓とか、頭が火の窓とか書くのよ』

『イエスマム!カトーマド!解りました!』

『元気があって宜しい!』『サンクスマム!』


 本丸南面の暗り門を入った先は本丸。そして、天守。

 外から見ると下見板張りだけど、内側の一層目は天守も両側の櫓も、白亜の漆喰塗籠だ。

 と言ってももう城ではなくて、夕陽に染まっている。

 そして高欄櫓、台所櫓からは本丸を囲む多門櫓が伸びている。


『綺麗ねえ…』

 お?ずっとイチャイチャしてたカップルのアンヌさんが心奪われている。

『ホントだ…』

 相方のアラン氏も、「君の方が綺麗だよ」とか言わず、一緒に見とれている。

 二人の未来に残る思い出になって欲しいなあ。裏山。


******


 天守に登ると、中の一層目と二層目は吹き抜けだった。

『この天守も層塔式だね?』

 アーメッド氏のいつもの質問に、連手さんは一瞬こっちを見る。


 これはね、引っ掛け問題です。なので私が答えます。

『外から見たら江戸城や二条城の天守に似た、完全な層塔式に見えます。

 しかしこの天守には…』


 一層目にある柱を二つ、触って見る。

『二つの中心の柱、心柱があります。

 これは、各階の柱が上の階の柱と分断されながら重量を支える、新しい構造が出来る前の、古い構造です。

 この天守は、内部には古い望楼式天守の姿が見えています。

 この吹き抜けも、層塔式天守には見られない物です』


『じゃあ、これは層塔式に見せた、古い天守なのかな?』

『ここに天守を挙げた脇坂安治は元々四国と本州の間、淡路島の洲本にいました。

 その洲本城天守と同じ構造の天守を造ろうとした、そう考えられています』

『設計の再利用か…

 短期で城を幾つも作った16世紀にはそれも知恵の一つだったんだろうか』

『先ほどの高知城も、旧領の掛川城天守に似せて上げられた物です。

 もしかしたら元の領地への想いもあったのかもしれません。

 まあ、指示した本人に聞くしかありませんね』

『タイムマシンがあればね』


 私達の会話を、子供達はじっと見つめて聞いていた。

 ちょっと難しかったかも知れない会話に、この子達は何かを感じてくれただろうか?


******


 最上層から菫色の空を眺める。

 陽は山間に沈みかけている。

『上から見ると、本当に建物が多いな、特に櫓が』

 二之丸周囲、西側もさることながら、肱川に面した北東側も凄い。

 特急の車窓から見た北の丸やその下段の二層櫓群が天守を守る様に並んでいる。


『なんだか豪華ねえ』

 フーバーマン夫婦も何だかいい感じだ。


『江戸城や大坂城も凄いけど、日本にはこんな立派な城がもっと沢山あるんだぞ!』

『グランパが粉かけたヤマトナデシコも?』

 自慢げなグランパに、マムが突っ込む突っ込む。


『ミスツカサンは僕が守る!』

 お、手を広げて私を守ろうとするリチャード君、君は良い子だ。

 このお城の櫓みたいに健気だね。

 ちょっと歳が離れ過ぎだけどね、残念。


『それではみなさん。松山は道後温泉へご案内します』

 一行は本丸を北に下りて、北の丸の二層櫓越しに天守を眺め、無料観光バスで内堀越しの城を眺めつつ駅へ戻った。


 駅から見える天守や櫓は、ライトアップが始まっていて夢のお城の様だった。


******


※大洲駅、現伊予大洲駅は立地条件的に大洲城の近くには作れそうにありません。

 また大洲盆地は肱川の洪水が過去たびたび発生しているので、その面からも城の対岸、松山往還に沿って伸びた北側の城下町の端に出来ています。

 なお、「城まで引き込み線」はフィクションです。


※画質が荒いですが、大洲城の盛観を復元したCGが噛Kの通りです。

https://8787pc.com/%e5%a4%a7%e6%b4%b2%e5%9f%8e.html

 縄張図は、元禄年間の絵図に重ねた物が大洲市のHPに載っています。

 今では堀は完全に失われています。

 辛うじて、肱川沿いの芋綿櫓と外堀南端が学校のグラウンドとして埋め立てられ周囲の石垣と南隅櫓が残っています。

https://www.city.ozu.ehime.jp/bunkazaitanbou/ozu_jp.html


※幕末の写真も、木組みの立体設計図とも言うべき雛形も残っているお蔭で性格な復元が出来た大洲城天守、元は脇坂氏が旧領の洲本城天守を移築した、という説もありましたが、近年藤堂高虎創建説も出て来ていて、どっちが正しいかとは断言は出来ません。

 本作では解りやすいので移築説を元に、その上でフィクションとして「同じ設計」としました。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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