191.ガイド宇和島城2 トランジスターグラマー
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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城が築かれた標高100mにも見たない丘には、小さい曲輪が幾つかある。
とりあえずそこらはスルーして、二之丸へ、そして本丸へ上る。
坂の上、本丸の一段下、二之丸の御算用櫓が見える。その下を左に曲がり、平櫓の御書物櫓の真下の階段を昇って二之丸入口の三ノ門へ。
『この、櫓の平面が、L字型の物が多いのが、宇和島城の、特徴です、はあ~』
『ヘイ!ヤングガール、へたばるには早いぜ!』
フーバーマン氏に励まされてしまった。
うわ、私の体力低すぎ!
『キャプテン!ファイト!』『『ファイト!』』
子供達にも負けてる?負けてなる物か!
「ヘイキッズ!フォローミー!」
『『『イェスマム!!!』』』
「時尾さーん、がんばってー!」
連手さんは楠見夫婦とゆっくり来るみたいだ。
薬医門の三ノ門の内側は、本丸を守る堂々とした高石垣。その上には、やはり平面L字で二層の御弓櫓。石垣に沿って緩やかな階段を昇る先に、やはり薬医門の二ノ門、そして二之丸。
回れ右して見る本丸北端は、両脇を平櫓に固められた、これまた薬医門の櫛型門。山上には櫓門を建てるスペースが無かったのかな?
息が上がる中登った先、本丸には右手に白壁の台所。
その向こうに聳える端正な白亜の三層天守。
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『はー!ビューティホー!』『『ヤー…』』
子供達も、この整った天守の姿に息を飲んだ。
『みなさん、こちらのダイニングホールで休憩しましょう』
『私達は、天守を攻略するー!』
『まってレイチェル、ホールにはあの天守の構造模型があるよ。
そしてあそこに建っていた、一つ前の古い天守の模型もね』
『あれの前に、他の天守があったのですか?』
『そうよ。あれは二代目なの』
『行きましょう!みんな続け!』『『ヤー!』』
子供達が台所の唐破風に突入すると、大人たちが苦笑する。
『ミスツカサンは子供を操るのが上手ねえ!先生の免許を持ってるの?』
『いえいえ。弟がいましたので』
アレに比べたら、あの子達の可愛い事ったら。
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台所内には、新旧二代の天守の模型。
建築時に設計用に作られた、立体の設計図、雛形が並べてあった。
全く姿形が違う二つの天守。
連手さんが説明する。
『こちらの小さくて、岩の上に建った天守が、藤堂高虎の上げた最初の天守です。
50年を経て老朽化したため、伊達家が上げ直したのがこちらの二代目天守です』
『全く違うね』
『今の方がとても素敵』
『建築技術が進化したからなのかな?』
また連手さんが不安そうにこっちを見る。
こっち見んな。
この人、出来れば自分で答えて、お客さんに満足して欲しいんでしょう。
だったら、頑張らなきゃ。私が全部答えちゃ駄目だ。
「天守の発達、望楼式から層塔式って解りますよね?」
小声で連手さんにヒントを出す。
「御自分で、答えてみてください、さっき見たいに」
連手さんが、キョドり半分で頷く。
『16世紀後半には高層建築を建てるには、建物の上に建物を載せるしかありませんでした。
最初の天守がその方法で、一階の上に、二階以上が乗っています。
そして最上階は望楼になっています。これを望楼式天守と言い、地震に弱い設計となっています』
いい感じだ。
『17世紀に入ってからは、一階から最上階まで計画的に柱を載せて、高層化、負荷分散という利点を持ち、そして一階から最上階まで小さくなる比率が均一で美しい様式、層塔式天守が上げられました。
今の天守は、その技術で造られたので美しく見えます』
おー、その通りです!
『あの小さい三角の屋根には、どんな意味があるのですか?』
アーメッド氏。いつもクリティカルな質問してくるなあー!
これは私が説明しないと…お、連手さんが続けて説明する。
『天守の壁に付いている三角の屋根は、望楼式の時代、下の階の屋根、入母屋が建物の美しいアクセントになっていたものを真似た飾りではないでしょうか?』
お、一旦レシーブしてこっちにパスして来た。
『はい。望楼式で、下の層の大きな屋根、イリモヤは美観上のアクセントになっていました。
層塔式ではイリモヤは一番上だけにしか無く、明日見学する今治城では現代のビルディングの様に、壁を飾るものがありません。
そこで、装飾のためにイリモヤを真似て三角の飾りを設けました。これを破風と言います』
さて、ベテランさんに帰しましょう。
『二階に二つ並んだ破風、三階に一つの破風、そしてその上に波の様に曲がった唐破風を置く事で、下から上へ収束する美しさを演出しています。
宇和島城天守は、小さい中に美しさが詰まっている、芸術的な美があります』
言い切った!連手さん、流石ベテランだよ!
『そうですか、素晴らしい。納得しました』
鋭いアーメッドさんから合格点出ましたよ!
一同は台所を出て、天守へ向かった。
連手さんは、やり切った感じだった。
そして天守は、さっきの説明の通り、やはり美しい。
『そういやミスユニバースで日本人が優勝した時、トランジスターグラマーって不思議な言葉を日本で聞いたなあ。
正にこの宇和島城はトランジスターグラマー、だな』
…なんかいい話にまとまりかけてたのを、グランパ。褒め言葉になってないからね?
『グランパ!それは女性への侮辱じゃないかな?』
マムが怒った!もっと言って!
『スーザン!私はミスユニバースに例えたんだ』
『それでもいい気はしないわ!男がトランジスターコックって言われたらどんな気分?』
オオ…マム…
男性陣が頭を抱えてしまったよ!
『では天守へ行きましょー!ヘイ、ソルジャーズ、ゴーアヘッド!』
『『『ヤー!』』』
あ、連手さんが流した。しかも子供達を焚きつけて!
連手さんが笑顔になった。
天守からの景色も、一層晴れて見えた、気がした。
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『キャプテン!この城は魔法が罹っています!ペンタグラムです!』
お!レイチェルちゃん、いい発見だ!
『ミスレイチェル!君は素晴らしい発見をした。確かにこの城は魔法を宿しているよ』
それを聞いたマム、『え?本当?子供の嘘を持ち上げないでね』
ちょっと連手さんに目配せしたけど、知らない様だ。
『ソルジャーズ、よく見なさい。この城は海に面して、二辺を出している。
これが魔法だ、地上から見るとこの城は五角形ではなく四角形に見える。
敵はこの城の四辺を囲んで、城を取り囲んだと錯覚する。
しかし敵が見落とした一辺から、この城は反撃できるのよ。
それが、このペンタグラムの魔法です』
『『『オー!』』』
『『『ほお』』』
子供達だけじゃなく、大人たちも感心してる。
するとレイチェルが色めきだって、
『宜しい!では反撃だ!』叫んだー!
『『ヤ…』』さらに少年二人も!
『静!』
私も叫びそうになったけど、小声で諌めた。
『文化財の中では静かに、ね?』
『『『ヤー…』』』
『うふふふっ!』
誰か笑った?と思ったら、楠見家のお嬢ちゃんが笑ってた。
あの子も一緒に遊びたいんじゃないかなあ。
でもずっとおじいちゃんおばあちゃんに張り付いてるな。
『ではそろそろ、駅に戻りましょう』
ちょっと頼もしく見えた連手さんが一行を率いて天守を降りた。
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※現存する宇和島城天守は劇中語られている通り、老朽化の為新築された二代目天守です。
現実では、城の修理に厳しかった幕府に、「同じ様な規模で修理する」と詭弁を弄してちゃっかり新築した模様です。広島の福島正則なんかそれで飛ばされたのにねえ。
今の天守と似ても似つかない初代天守の復元図は下記の通りです。
https://rekishi.kagawa5.jp/1068%E3%80%80%E5%AE%87%E5%92%8C%E5%B3%B6%E5%9F%8E%E5%A4%A9%E5%AE%88%EF%BC%88%E8%97%A4%E5%A0%82%E6%99%82%E4%BB%A3%EF%BC%89/%E6%84%9B%E5%AA%9B%E7%9C%8C/
※宇和島城天守をトランジスターグラマーと呼んだのは…確か小学生の頃、日本城郭協会の機関誌、と言っても小冊子みたいな本で宇和島城特集の本に書いてあった記憶があります。
この和製英語、日本人初のミス・ユニバース、児島明子さんを称した「小柄なグラマー」の意味だとか。やっぱり結構失礼な言葉だなあ…因みに児島さんは167センチ、日本では長身な方でした。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。