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190.ガイド宇和島城1 予土線四万十旅情

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 はぁ~。思ったのと違う二日間を過ごし、朝風呂を上がって朝食を頂く。小魚の干物うまうま。


 早めに高知駅に行って早い列車…って、無いんだよね。宇和島行って。

 高知から宇和島ってホント断絶してるルートで、高速道路も途中で分断されているし。


 あの子達とわちゃわちゃ移動するのも楽しいって言えば楽しいけど、万一トラブっても責任負えないよ。

 皆さんの指定席とは違う自由席に先に入っておこう、ついでに高知土産をウチや時サン達に送って貰おう。


 国鉄予土線、松山行特急しまんと号で2時間半。食事も車内だ。午後一宇和島着の予定。

 お、連手さんから無事全員乗車の通知が携帯に来た。トラブルもなかった様だ。

「子供達に時尾さんが待ってるよって言ったら素直について来てくれました」?


 ん~。嫌な予感がする。

『キャプテンー!』キター!


 フーバーマン・アンド・アーメッドキッズが来たよ!

『一緒に私達の所に行きましょう!』

『キャプテンと一緒がいい!』

 こう来たかぁ。


『ゴメンね、私の席はここなの。貴方達はお家の人と一緒の席を用意している筈よ』

「すみませーん!」

 困り切った連手さんが来て、子供達に戻る様促すけど子供達はいう事を聞かない。

 ダメだコリャ。


 何事かと来た車掌さんに相談。

「この路線はお客さんが少ないんで、空いている席でしたら問題ありません。

 混んで来たら…大丈夫でしょう」

 と左右を見て、自嘲気味に言って黙認してくれた。

 この路線、大丈夫かなあ?

 あと、楠見さんちのお嬢ちゃん、一人で寂しくないかな?


「時尾さん!本当に済みません!会社にちゃんと報告します!」

「連手さんもこっちに来ませんか?大人の皆さんなら大丈夫じゃないでしょうか?」

 てか来て!私一人で二時間半持たないよ!


「それが、お客様一行を置き去りにする訳にも行かなくてぇ…」

 ダメだコリャ。ま、仕方ないよね。


「会社に判断を仰いで下さい。そちらの判断に従いますよ。こちらもそうしますよ」

 こりゃ一人旅を楽しむ目論見は儚く消えたなあ~。

『キャプテン!私達は命令に従います!』

 何だかレイチェルちゃんが私に忠誠を誓ってる。

 これ…もしかしておじいちゃんと軍人ごっごして育ったとかそういう背景あったりしない?

 マム、何となく放ったらかしっぽいし。


******


 ディーゼル車独特の油臭さがすると、発車ベルが。

『各員、着席!』『『イェスマム!!』』

 子供達、もうノリノリである。レイチェルちゃん、もうジュニアハイスクールじゃないの?


 特急しまんとが動き出し、高知城を南に眺めつつ西へ向かう。

『キャプテン!高知城です!』

『みんな、楽しかった?』

『『『イェスマム!!!』』』

『大きな声を出しちゃ駄目!他のお客さんがビックリするから』

『『『イェスマム…』』』


 少ないとはいえ、他のお客さんの視線が痛い。

 鉄道唱歌の鉄琴が流れ、アナウンスが。

『キャプテン、今の音楽は何ですか?』

『今の歌は、鉄道唱歌って言うの。

 日本で最初にお客さんを運ぶ鉄道が出来た時の歌よ。

 汽笛一声京橋を、早我が汽車は離れたり、っていうメロディなの』

『世界で最初の蒸気機関車ですね?!』

『レイチェル、貴女は良く知っている』

『光栄です、マム!』

 そう呼ばれると、何だか子持ちになった気分だよ。年齢=彼氏いない歴なのに。


******


『ほら、昨日乗った路面電車が見えるよ!』

『本当だー!』

 土佐電は結構西の郊外まで延びている。

 そんな郊外の景色も、高知の西端、仁淀川を超えると田園風景に変わる。


 そこから先はトンネルも増える。それから日本の昔話をしたり、替りばんこにお絵描きしたり。


『あ!そろそろ四万十川が見えるよ!』

 車窓のには、曲がりくねった四万十川が見える。

『これからあの川を沿って走るの?』

 ユセフ君がワクワクしてそうに聞く。

『半分正解。これから、トンネルに入って、出たら四万十川。またトンネルに入って、また川。

 これを繰り返すのよ』

『何で?』

『川がくねくね曲がってるのよ』

 タブレットで地図を見せる。ホントくねくね曲がってる。


『すごく曲がってるね!』『何で?』『真直ぐ流れないの?』

 御尤も。

『みんな、地球は熱いマグマの上に、硬い大地が浮かんでるって知ってる?』

『え~?』『学校で習ったわ!昔は一つの大陸だったのがプレートの動きで別れて今の姿になったって!』

『レイチェル!貴方はクールです!』『イェスマム!光栄です!』

 ノリノリである。


『ここ四国はプレートの境目に浮かんでいます。そして四万十川は、境目にあってプレート同志がぶつかる場所で…』

 私はスカートをピンと張って、両側から押し込んだ。

 真ん中が皺になる。

『押し込まれた海底の土がくちゃくちゃのまま海から押し上げられる。

 そして皺くちゃになった所に水が流れると…』

『解りましたマム!その皺の間を水が流れて曲がりくねった川になる!』

『正解です、レイチェル!』『サンキューマム!』

『みんなもわかったかな?』


…男子2名、レディの足に視線釘付けになるのには5~6年早いよ!

 あ、リチャード、レイチェルにひっぱたかれた!


******


 途中、川魚の駅弁を頂く。

 駅弁を食べてお腹が膨らんだ男子二人をお昼ねさせつつ、向かい席ではレイチェルもウトウトしてる。


 そうして昼過ぎに宇和島駅に到着。ムニュムニュと起きる子供達、可愛い。


『ヤー、すまなかったねミスツカサン。子供達はすっかり君のファンになってしまった様だ』

『昨日の夜もキャプテンはどこ?って凄く聞いて来てねえ。

 リチャードはすっかり貴女の虜になってしまったわ』

『息子の世話を押し付けてしまったね』

 列車から降りた皆さんに労われた。

 てか世話しなさいよ、2時間半預けっぱなしじゃん!

 楽しかったけどさあ。


 駅の先は海。九州へ向かうフェリーに接続して、別府に向かう船が出ている。

 以前訪れた日出城の豊国神社に太閤参りに向かう人も載せているらしい。


 そして波が洗う左手には、下見板張りの二層櫓。初層は多門櫓になっていて、更に門が開いている。

 一旦そこを横目で見て南の追手門へ。

 南に向かって、海水を引いた堀が続いている。


『宇和島城は16世紀末、豊臣秀吉の配下だった藤堂高虎が築きました。

 後に築城の名人と言われ、徳川家康の為にいくつもの巨城を築く高虎の最初の城がこの宇和島城でした。

 その後高虎は今治へ栄転し、後に仙台の独眼竜で有名な伊達政宗の長男、伊達秀宗が入城し、19世紀までこの地を治めました』


 うんうん、ここまで説明出来るんだったら私要らないよね。

 おや?今度は質問はないね。

 真壁造り、柱と張りを白木のままにした、矢鱈大きな追手門が眼の前に迫る。

 高知城追手門よりデカいなあ…


 もう一度北に戻る様に進み、堀に囲まれ二層櫓を伴った桜門を潜って三之丸へ。

『こちらが、徳川家から伊達家に贈られた、伏見城の御殿を移築した千畳敷御殿です』

 車寄せから中に入り、遠侍や対面所を抜けると、広大な…でも千畳は無い豪華な大広間へ出る。

 柳橋の図を描いた金の絵だ。


『これは、京から持ってきたのかな?』

 またクールに質問するアーメッド氏。

『はい。伏見城を京の支城とした時、不要になり解体された御殿の一つをここに運んだものです』

 連手さん、ちゃんと英語で答えているなあ。


『それは、幕府の命令に従う様に贈られた賄賂かな?』

『え~、ちょっと待って下さい…』

 また自信なさげにこっちを見るしー。

 ガンバ!と私は両手を握って応援のポーズを取った!


 連手さんは意を決したらしい。

『半分正しいと思います。でも、将軍から城の建物を貰うのは賄賂ではなく、勲章と同じで名誉を認められた事なのです…と、思います…』

 私は大きくウンウンと頷く。あ、連手さん、ちょっと安心したかな?


『ではこの御殿はこの城と大名にとって、名誉だと』

『はい!』

『他にもそんな城があるのかな?』

『はい、例えばー、大坂、福山、東京の江戸にもあります』

 あ、これはアーメッド氏、「江戸と大坂は将軍の城だよね」とか行って来るパターンだ。

 それが解ったのか、さっきまでの自信はどこへやら、連手さんまたコッチを見てるし。


『尼崎、岸和田、膳所にもあります。どれも大坂周辺で西日本を抑える重要な拠点です。

 また、東北の仙台には、伏見城と同じ様に支城扱いになって規模縮小した名護屋城の大手門を移築した二之丸大手門があります。

 この海の向こう、九州の日出には、豊臣秀吉が築いた大坂城天守や本丸御殿等も移築されていますし、解体して遠くへ運ぶのは割と普通に行われていた様です』


 するとアーメッド氏、感心した様な呆気にとられた様な顔で、

『日本の建築は、こんなに壮大なのにフットワークが軽いものだなあ』と感想を漏らした。


『こんな大きな文化財が京からここまでやって来たのか…日本は凄いなあ』

 グランパも感心している様だ。

『私も勉強になりました』と連手さん。あ、皆さんちょっと笑った。

 手ごたえを感じたのか、連手さん、

『それでは本丸へ行きましょう』と話題を切り替え、笑顔で一行を案内する。


 私も時サンから特訓を受けなかったら、連手さんみたいな案内だって出来なかっただろうなあ。


******


※高知から宇和島を結ぶ予土線には、かつて一時期「I LOVE しまんと」という特急がありましたが、それ以外は特急はありませんでした。

 今は各駅停車で4時間近くかけて曲がりくねった四万十川沿いをゆっくり進むしかありません。

 それでも景色を楽しむトロッコ列車などは運行されており、今ではガレージキットメーカーの海洋堂沿線に博物館を造って観光誘致に協力しています。琵琶湖畔の長浜にある店は本作でも17話で紹介しています。

 なお、鉄道以外でも往来が殆どない高知・宇和島間を劇中の様に2時間半で結ぶ交通機関は自家用車しかありません。高速道路も途中で途切れている格好です。

 

※四万十川の蛇行はその昔ブラタ〇リで放送していたのを参考にしています。


※宇和島・別府間を結ぶフェリーは2000年に廃止されています。日出行き太閤参りは67話で書いたこの世界でのフィクションです。


※宇和島城三之丸に在った千畳敷御殿は伏見城のどこから移築されたのかは謎ですが、千畳敷とまで言うのなら本丸か二之丸、中心的な儀礼の場から移築された物かも知れません。

 この世界では本丸も二之丸も保存されてしまってるので、その他の曲輪にあった御殿を移築したのでしょう、きっと。


※宇和島城の全景を描いた復元図は、やはり余湖くん様の復元図だけでした。本丸を中心とした図はぎょうせい刊「復元大系日本の城」で描かれていましたが、WEB上にはありません。

http://yogokun.my.coocan.jp/uwajima.htm

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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