189.ガイド浦戸城 天守眺めてビバノンノン
※本作は本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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一行は高知駅方面、土佐電はりまや橋停車場で電車を乗り換え。
船を降りた桟橋通の更に南、吾南・浦戸線に乗り入れて南へ南へと移動。
途中、民家の軒裏ギリギリみたいな所を通り抜け、お客さん達大喜び。
『この電車、あの家の中に入って行くんじゃない?』
『オー、それじゃ今夜のディナーは味噌汁だな!』
等と盛り上がってるフレンチカップル。
電車は太平洋へ、浦戸岬へと向かう。
かつて19世紀後半に、海戦から上陸戦、空からの援護、そして上陸後の機甲師団の展開までを立案した軍事の天才、日本海兵隊の父と呼ばれる坂本龍馬が土佐を後にしたと言われる桂浜がある浦戸岬。
そこ迄は私も一緒なので、レイチェル、リチャード、そしてインドファミリーのユセフ君に何だかモジャモジャと絡まれつつ移動した。
「子供と旅する時は絵を描くといいよー」とお次さんに教えられて…
『みんなー、ちゃんと座ってね』
『イェッサー!』
ノリノリである。と、ブーバーマンのグランパが来た。助け船来た!
『こらレイチェル!リチャード!レディに対してサーと言うな!イェスマムだ!』
そっちかよー!
『『『イェスマム!』』』
どっちでもいいよ。
『え~、じゃあ、お城の歴史を描くね。お城は最初は、敵が入って来れない様に、山に作られましたー』
と山を描いて木の柵を描いて井楼や館を描く。皆が見入る。
『田んぼや畑が増えて、街を広くしなくればいけません。
殿様の仕事も増えて、お城は低い山の上に戦う場所を、山の麓に街を治める邸を造りました』
今度は平山城を描く。
絵は…グラ玉姉妹に特訓されたんで何とか描ける。描いてるよ!グラシア、玉ちゃん!
お絵描き帖とペンを持ってきてよかったよー。
『平和になると、大きな街を造って、その街や大きな道を治めるため、平地に城を築く様になりました』
『『『おおー!』』』
ん?ツアコンの連手さんがコッチをジっと見てる…もしかしてツアコンの仕事を取っちゃったかな?
てかこんなサービス、仕事の範囲外なんだけど。
もっと言えば、通勤通学客の皆様までコッチ見てるしー!
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秋の陽は短く、すっかり暗くなった中、山の上にライトアップされた天守。三層の下見板張り、浦戸城の天守だ。
もう他のお客さんも少なくなって、多分浦戸に向かう観光客だけになっている。
『皆さん、左側をご覧ください。山の上に光って見えるのが、16世紀後半に高知一帯を統一した戦国大名、長曾我部元親が築いた浦戸城の天守です』
と、連手さんが英語で案内する。何だ、ちゃんと観光地の案内も英語でやってるじゃない。
『高知城に引っ越した後は、この城はどうなったのかな?』
アーメッド氏が鋭い質問を投げかける。
『え~、それは…』
あ、その辺は助太刀せねば。
『日本全国で、本拠を移した旧城や、本拠の周囲を守る支城が幕府の直轄となって、幕府の兵が派遣されました。費用は各大名の負担で』
と私が答える。何か連手さん泣きそうだったし。
『幕府は賢いが、大名は堪ったもんじゃないな、金を出してその上国の監視を受けるなんて』
流石アーメッド氏、幕府の真意を見抜く。
『城と幕府兵の維持費は各大名の経済負担となりましたが、むしろ道路や鉄道等の交通整備には幕府も協力し、領内の、全国の通商を発展させる事になりました』
この辺、時サンから聞いた、他の歴史での「参勤交代」なんかより社会発展に貢献してるよね。
まあ、まさか鉄道がその歴史では19世紀まで存在しなかったと聞いた時はビックリしたけど。
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一行の泊まるホテルは、浦戸城三の曲輪跡に建つ国民宿舎という名のホテル。
南の部屋は海を、北の部屋は城を眺められるいいロケーションだ。
そこで荷物をホテルに引き取ってもらい、一行は堅牢な本丸西門の桝形を通り、本丸へ。
何か、ライトアップされてるお城って特別感があってワクワクするよね。
『者共ー!突撃―!姫を救うぞー!』『『ヤー!』』
レイチェルちゃんの号令にリチャード君と、大人しかったはずのアーメッド氏のお子さんユセフ君が続く。元気だ。
てかレイチェルちゃん、お姫様って…あんたがお姫様役じゃないの?
「時尾サ~ン!!」
うわ!連手さんが泣きついて来た!
「助かりましたー!私、質問に答えられなくてー!」
そういや「諸国旧城支城留置令」なんてあんまり学校で習わないしね。
「連手さんだって流暢に案内してたじゃないですか」
「質問に答えられるのとそうじゃないのって、全然違うんですよー!
私、いつもお客さんに相手にされなくなっちゃってー!」
オイコラツレテク社さんよ!頼れるベテランじゃなかったのかよー!
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本丸御殿は閉館ギリギリだったけど入れた。
係員さんが英語で説明する。サービスかな?
『浦戸城本丸御殿は、かつて長曾我部氏の殿堂であり、幕府軍の駐屯地であり、今は坂本龍馬記念館となっています。
高知の誇る19世紀の英雄坂本龍馬は、帝政ロシア南下を阻止しつつ全面戦争を回避するという偉業を成し遂げるため、神出鬼没の働きをした天才児です。
船から車両を降ろして密かに上陸、飛行機と連携しつつ偵察し、敵砲台を沈黙させる海兵隊を立案し、自ら先頭に立ってロシア軍へのサボタージュを敢行しました。
その結果ロシア艦隊は同士討ちや衝突を繰り返し、日本への全面戦争を断念する事となり、順調に発展していた日本経済に大きなダメージを与える戦争を回避できました』
慣れた感じだなー。やっぱ海外客の多い所なんだろうなあ。
『日本は戦争から逃げる天才だな。
ステイツも元は外国の戦争に係わらない筈だったのに…
民主党の糞共が祖国を戦争の奴隷にしてしまった!』
悔しそうにフーバーマン氏のおじいちゃんが呟く。
時サンの歴史ではその民主党が日本を戦争に引きずり込で原爆落として乾杯してたんだ。
頑張ってそいつらやっつけてくれよパトリオッツ!
頑張らないと南米の麻薬市場になったり黒人犯罪者の天国になっちゃうよ?
『リョウマは土佐藩のヒーローだったのかな?』
またアーメッド氏が鋭い質問を!
また連手さんが泣き出しそうな目を!
そして応え辛い質問のせいか、係員さんは逃げ出した。
『え~。坂本龍馬は、高知を逃げ出しました。高知には、厳しい身分制度があって、彼は低い身分だったのです』
私の答えにアーメッド氏は頷いて聞く。
『長曾我部氏の統一した高知は結束が固く、後に入った山内氏に靡きませんでした。
そのため山内氏は反抗的な集団の身分を下士と定め、冷遇して統治したのです。
竜馬はその身分に捕らわれた故郷を捨てて、実力主義だった日本陸軍に入り、更に海軍に鞍替えし、海兵隊を私的に組織し国軍にまで喧嘩を売ったのです』
向こうで係員さんが頭を抱えている。
あんまり触れて欲しくない郷土の陰の部分だし、仕方ないか。
『凄い胆力だな』
とアーメッド氏が感心する。
『くるしゅうない!』『『ははー!』』
大広間では子供組が殿様ごっこを続けている。マムが笑ってる。姫様救出はどこ行った。
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御殿を出て、ライトアップされている天守へ。望楼式の典型的な三層四重の天守だ。
それでも夜は、漆喰塗りの軒裏の垂木が白く輝いて、幻想的な景色だ。
ドラマなんかで有名な竜馬脱藩の地、桂浜はもう真っ暗だ。東には灯台が光っている。
ここに来る時、あの太陽の船が潜った巨大な浦戸大橋の下は、まだ多くの船が右に左に往来している。
北の方には、浦戸湾岸の造船所や沿岸の町の灯りが広がっている。
遠く、空が明るい辺りが高知の街だろうなあ。
『もうじき食事の時間です。ホテルで寛ぎましょう』
一同は浦戸城を後にした。
なんだか、日本人老夫婦の孫娘ちゃんだけはもっと居たそうだった。
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私は一行に一礼し、市内の宿へ…
『キャプテン!私達とオンセンへ!』『綺麗な日本の女の人…』
リチャード君、混浴はもうダメだっての!スケベボーイ!
国民宿舎の前、子供達に文字通り後ろ髪を引っ張られつつお別れした。
そこから城の丘を降りて、海辺の宿でビバノンノン。
温泉からは、さっきまでいた浦戸城の天守が見上げられて、これまた最高。
ここならお客さん達やあのチビっ子達と遭遇する事は先ずないし、ちょっと一休み。。
風呂上りにビール、食事は名物カツオのたたき、そして高知の銘酒、「酔鯨」。
サイコー!
あー、そうだ。蔵元見学したいー!そういうツアーも考えるか?!
アッチの皆さんも、美味しい酔鯨を楽しんで頂けているだろうか?
日本酒とか慣れてないと美味しく感じないかな?
ちゃんとお風呂にヘアゴム持って行ってるかな?
何か、色々気になるなあ。損な性分だ。
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※実際の土佐電は桟橋通五丁目が終点です。そこから吾南地区や浦戸に行く路線は存在しません。
昭和初期に浦戸湾周回、吾南地区に向かう鉄道が企画され認可されながらも実現に至らなかった事はありました。
この世界では浦戸城への移動のため鉄道が敷かれた様です。
※実際の浦戸城址は、本丸に坂本龍馬記念館と国民宿舎桂浜荘が建ち、遺構は破壊され僅かに石垣が残ります。なお、国民宿舎桂浜荘はコロナ禍で2021年に休業しています。
浦戸城の推定復元図は下記の通りです。
https://blog-imgs-77.fc2.com/k/a/n/kanaisocho/20180606054753f31.jpg
※坂本龍馬の歴史がかなりちっちゃな事になっています。
でも史実でも、船中八策がどこまで実際の歴史に影響を及ぼしたのか疑問視されていたり、彼の人は課題に盛られ過ぎているのでは?なんて意見もある様です。
龍馬ファンの皆様、後免なさい。高知だけに。
※高知の酒と言えば酔鯨。
幕末の名君主(?)山内容堂の雅号を冠した銘酒を醸す蔵は浦戸の近くにあります。
https://suigei.co.jp/
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。