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188.ガイド高知城 出し抜き出世城

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 陽も傾き始めた頃、私達の船旅も終わる。

 ってか翌日からは、アメリカン姉弟に付きまとわれ、船内探検…あれ?意外と楽しかったかな?

 紀伊半島辺りではトビウオを眺めて興奮したり、「あれが本州」「あれが四国」とか説明したり。

 3人、もとい2人と1人ででまたお風呂入ったり。

 もう混浴は駄目だぞ、リチャード君。

 お蔭で?大人組3人はデッキでのんびり過ごせたと感謝された。

 まー、楽しかったけど、結構エネルギー使ったかも。


 故郷土佐を捨てた現代戦の軍師、坂本龍馬も歩いた…かもしれない桂浜を横目で眺め、巨大な浦戸大橋を潜ると、そこは浦戸湾。そして、高知港。


 そこから土佐電鉄線で…

『キャプテン!小さい列車が!道路の上を走って来た!』

『キャプテンじゃないわよ。あれはトラムよ。昔はステイツにも沢山走ってたわ』

『日本の女は、綺麗で物知り…』


『あれに乗れば城に行けるの?』

『途中でクロスする線に乗り換えます。案内します。レイチェル、リチャード、逸れないでね』

『イエッサー!』『ついていくよ!』

 二人の熱い視線がコワい。夫々別の意味で怖い。

 何だか今までと同じだなあ。


「日本三大ショボい名所」として不名誉な称号を得ている播磨屋橋を経由して高知城前へ、そして追手門で今回のツアーの皆さんと待ち合わせ。オンタイム。


******


 桝形門ながら高麗門が無い、堂々とした下見板張りの渡り櫓門へ。

 あ、ツレテク社の旗持った女の人が。あれが今回のツアコンさんだー。

「はじめまして、案内士になろう!社の…見習いの時尾司です」


 すると相手は走ってやって来た。

「は、初めまして。

 私、ツレテクのツアーコンダクターやってます、連手幸寧つれてゆきねです!

 今回は、宜しくお願いします」


 あれ?ベテランさん…だよね?年上な感じだし。でもなんか緊張してない?

「学生さんなのにもうお客さんを案内してるって聞いて、流石セレブ御用達だなーって感心しました!」

 何か私の評判に尾鰭付いてない?

「いえ、それは偶然でして…」


「今回外国の方が一杯で、上手く行くか心配だったんです!私語学がイマイチで…」

 ベテランさんじゃなかったのかー?!こっちが心配だよー!


「あ!他の方も来ましたー!よかったー!!」

 停車場の方を見ると…

 何か声の大きいイチャイチャしてるカップルと、大人しそうな…アジア系?ヨーロッパ系?でも肌が褐色な親子がこっちに向かって来た。


 あとは日本人の家族が…あ、城内から来た。流石時間の正確な日本人。

 お爺さんお婆さんと、孫娘の御三方。


 連手さんは旗を立ててマイクを握る。昔ながらノスタイルだなあ。


『えー、本日はツレテク社主催の、四国戦国城ツアーにご参加頂きましてありがとうございます。

 これから皆さんに日本を代表する文化財、城を4日間楽しんで頂きます!』

 英語全然駄目って訳じゃないのね。

 一応フランスのカップルさんもインド人一家も英語はOKだそうだけど。


『ご案内は私、ユキネ・ツレテと…』こっちに目配せして来た。

『案内士になろう!社から、城の解説役に来ましたツカサ・トキオです』

 あ、なんか拍手を頂いた。ドモドモ。

『ツカサーン!』『キャプテーン』ヤンキーキッズの応援が痛い。


『それでは、最初の城、土佐国の中心である高知城へご案内します!』


 そして一行は追手門の中へ。


******


 追手門前から、三之丸入口である鉄門の渡り櫓門へ続く扇状の階段を昇りながら説明する。

 壮大な石垣の上には白壁が巡り、左手の奥には二層の太鼓櫓が見える。


『四国の南、土佐国は戦国時代、16世紀後半に長曾我部氏によって統一されました。

 17世紀に日本の支配が豊臣家から徳川家へ移ると、山内一豊がこの地を支配します。

 今夜泊まる浦戸城は長曾我部の城でしたが、一豊はもっと内陸のここに新しい城、高知城を築きました』

『サー!何故新しい城を作ったのですか?!』

 レイチェルが元気に聞いてくる。

『浦戸は海に突き出した岬で、港をつくるのには良かったけど町を造る広さが無かったのよ』

『解りました!サー!』

 レイチェルが敬礼すると、リチャードも敬礼する。

『はははー!子供達はボーイスカウトに来たみたいね』とマムが笑ってる。


『USは子供から軍人訓練とは大変だねえ』

『私達はもっとのんびり暮らしたいわぁ』

 フランス人カップルがフランス語でイチャイチャ話している。

 私、第二外国語フランス語なんで大体何言ってるか聞き取れるぞ。

 ノンビリし過ぎてナチスに寝首掻かれたのどこの国だよと言いたい。


『かつては三之丸にも御殿がありましたが、近代化に伴い解体され、今建っている県庁に役目を譲りました』

 これまた偽洋風の、大き目の三階建建築が壁の向こうに見える。

『今では更に城の外の現代建築に役目を譲っています』


『こっちはヨーロッパのお城っぽいわね』

『ちょっと泊まってみたいよね』

…それもアリか。偽洋風建築で和洋折衷お姫様ツアー。

 いや待て。現代欧米人の体格で18世紀後半の各地洋館とかのベッドに収まるか?

 まあ水廻りの改修だけでも大変だろうか。ましてや食事の供出とか。

 待てよ?近くに意匠を統一した宿泊棟や調理場を増設して、夕食を文化財で…。

 出来なくもなさそうだが、課題は多そうだ。


 一行は二之丸へ向かう、その前に左手に聳える天守を仰ぎ見る。

「オー、ジャパニーズドンジョン…」

 キープって言う方が英語的には正しいのかな?まあ、そこは好みで。


 私達の目の前には、四層の望楼式の天守が。三層目に大入母屋屋根と、棟側には同規模の千鳥破風を置いて「八方正面」に見せ、その上に軒唐破風と最上階の望楼を載せた、絶妙なバランスを匠に整えた、瀟洒な天守が聳えていた。

 高欄からは観光客が市内を眺めていた。


 山内一豊が駿府県の掛川城天守を偲んで上げたといわれるが、確実に進化した天守がそこに在った。

 今の掛川城天守、下見板張りで最上層が壁で覆われて全く別印象になっちゃってるけどね。


 そして私達の正面には、本丸と二之丸、高石垣で固められた二つの丘を繋いでせき止めるかの様な、巨大な渡り櫓とその下に小さく開けられた下見板張りの漆黒の門、詰門が建っている。


『二之丸からあの廊下を通って、本丸と天守に進みますよ』

『ファンタスティック!』『ニンジャー!』いや忍者関係ないし。


******


 薬医門の二之丸詰の門を通ると、二之丸御殿の車寄せ。

 現在でも山内子爵家の所有ながら維持費肩代わりを条件に一般公開されていて、他の大大名貴族同様、一族の記念行事等に使われている。


『高知城本丸へ入るには、まず二之丸に入る必要があります』

 という訳で靴持って二之丸御殿へ。外側から大大名の御殿として装飾された大広間を見学し、そのまま詰門上の渡り櫓を経由して本丸へ。


『サー!ドンジョンです!』『かっこいい…』

 天守は手前に本丸御殿、小さく最低限の機能を持った本丸御殿が天守に接続されていた。

 本丸内側から見た天守も、外から見たのと変わらない見事な姿だ。


『この本丸には御殿があり、食料を提供するキッチンもあり、詰の門を崩せば陸の孤島となって、本丸だけで最後まで戦える設計になっています。


 天守は、山内一豊が高知に来る前に領有した駿府県の掛川城天守を参考に設計し、更に進化した美しい姿になっています。

 現在掛川城天守は後世の改修で印象が異なりますが、元のイメージは高知城天守に近い物でした』


『何でヤマノウチって人はスンプからトサに来たの~?』イチャイチャカップルのアラン・マッソン氏が気軽に質問して来た。

『日本は16世紀後半、織田信長によってほぼ統一され、その後豊臣秀吉が統一を完成させ、最後に徳川家康がその後を引き継ぎました。これに不服を持った秀吉の部下、石田三成が家康暗殺を計画した時、内乱となる可能性がありました。

 その時に、一豊は居城掛川城を返上して石田三成と対峙すべしと進言しました。

 結局内乱は回避されましたが、その時の恩として家康は一豊を移封させたのです』


『人間、一言で出世したり没落したりするものだね』

 インド人家族の御主人、オスマン・アーメッド氏がボソっといった。

『最初は他の人、松江城を築いた堀尾氏の発案を一豊がフライングして発言して、手柄を横取りしたとも言われています』

『結果を出したのだから、彼の勝ちなんだろうね』

 クールだな、オスマン氏。


******


 本丸御殿は国の資産になっている。

「タイムハズジャストカム(正に時は来た)!」「イェッス!ショーグン!」「ソーグン!」「ゴーアヘッ!」「「オー!」」

 なんかインドの子も一緒に上の間で将軍ゴッコやってる。姉、ノリノリだな。

 周りの環境客もニコニコしながら見てる。



 そして天守へ。

 高知城が築かれた大高坂山の標高もあって、遠く海…

 あら。意外と見えないもんねえ。

「ヨワマンゾクジャー!」「「ハハー!!」」

 まだ続いてたんだ、ショーグンごっこ。


「ハッハー!レイチェル!ショーグーン!!」

 なんだか両親が大笑いしてるし。

 あ、クールなインド父も笑いをこらえている。

 日本人の女の子も仲間になりたさそうに見ている!


 今回の旅行、子供に救われそうだな。


『キャプテン!あそこにも天守が!』


 二之丸北側の三層櫓を指さしてレイチェルが言う。

『あれは二之丸乾櫓。二之丸で北側を守る大事な櫓だよ』

『解りました、サー!』


 一行は本丸を搦手の黒鉄門から出て、本丸と二之丸の西側の高石垣と壁、櫓を見て溜息を洩らした。

「獅子の段」と言われる本丸・二之丸の西外郭から城外へ出ると予約していたタクシーに分乗し、二層櫓群を眺めつつ高知駅へ向かった。

 本丸、二之丸の固めも壮大だったが、獅子の段と言われる下段もまた、荘厳でした。


******


※南国土佐のシンボル、高知城の復元模型は下記の通り。

 左側の天守のある丘が本丸、右側の丘が二之丸、右手一段下が三之丸です。

 現在は本丸が御殿を含め完全に残っており、特に本丸御殿は全国唯一の現存遺構です。

https://livedoor.blogimg.jp/sujin_10/imgs/9/1/9115089e.jpg

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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