185.新・城ツアー案提出
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
そして今回は城のお話は何もありません、旅の後日譚です。
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帝国ホテルはやっぱり快適だったよー。
朝食も堪能して、堪能して…
「わーはは!みんなこれからお仕事だぞー!俺はお家でのんびりするぞー!」
父、子供である。
まあ色々ムシャクシャする所はあったんだろうけどさ。
私達埼玉県民は通勤客の反対に北へと帰った。
「ただいまー!」返事がない。
返事はないが二階からピコピコ音がする。
弟がゲームに打ち込んでいた。
ふふふ。さぞかしおひとり様を満喫した事であろう。
しかし!
夕食で母が繰り出す自慢話を聞くにつれ、弟の奴。
「えー!超豪華じゃん!何で連れてってくれなかったんだよー!」だとさ。
「連れてこうとしたのにイラネって言ったのあんたじゃん」
「知らねーよ!そんな豪華だったら行ってたのにー!」
「呪うなら過去の自分を呪え」
「チキショー!
あ!まさか、あの美人な人達も!」
「いなかったよ」
「くそー!美女と一緒に豪華ツアー行きてーよー!」
「ダメだこの男」
「あらあら素直ねえ」
「育て方を間違えたか…」
弟、父母の評価ダダ下がり。
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私は「案内士になろう!」社へ。
飴ズも横浜の就職先、徐海運系の旅行会社へ行って、後で合流して宴会する予定。
今回の親孝行信越・東海旅行をセットプランにしたり、信越と東海で別プランにしたりと企画を纏めた。
ご予算は、私が今回頂いたレベルで収まる、海外富裕層とまでいかなくともそれなりの収入の方と、国内のリタイアして貯蓄をお持ちの方向け。
「現実的過ぎるわねえ」
オウフ!雅姐姐のジャブが。
「これじゃあ海外セレブ層からの利益幅を求めるウチじゃ労多くして実りが少ないわ。
もっとド派手に客を掴むプランを…って、これ、どうしてこういうレベルのプランを考えたの?」
さっきまで軽くいなす感じだった雅姐姐の目つきが少し変わった。
「え~、前にお話した通り、この旅行は私が親孝行のために考えたプランなので、予算的にはかなり抑え目です。何せ私が頂いたお給金で出せる範囲なので、2桁万円レベルです。
しかし、国内のサラリーマン層だと盆暮れでも5日以上を旅行に費やす事は困難です。
予算的にも1回の旅で2桁万円出せるのは、子育て世代ではなく退職金等で余裕がある高齢者向けだと思います。
それに外国人客でもセレブ層だけでなく、為替レートの変動を使って贅沢を楽しみたい方、時間に余裕がある方であれば利用される方もいるかと思います。
当社も、外部提携旅行会社向けに、こういう『無理すれば手が届く』プチ贅沢プランを提供するのはどうでしょうか?」
しばらく雅姐姐は考えた。
「ウチに直接的な利益が薄そうねえ」
「今回の旅の途中、泊った城から業務提携の申し出がありました。
城泊は海外セレブ層へのアプローチとして有効です。
セットプランを提案し、提携の実績を増やしていけば我が社にとっての優待先確保、向こうにしてみれば宣伝効果と、相乗効果はあると思います。
いざセレブ層向けともなれば、歓迎イベント等を企画するなど新しい旅行プランを生み出す原動力に…なったらいいかなー、って」
素人考えながら、雅姐姐が聞いてくれた。
気が付けば、後ろには他の企画要員さん達がメモりながら私の説明を聞いていた。
そして…
「アレ昔寺ツアーで…」
「あん時ゃ寺の説法が不評で…」
「スゲー売れた名所巡りマラソンツアーもあったな」
「バカあれ赤字もヒドかったぞ」
なんか、色々聞こえる。
私、ドジ打ったかな?!まさか、内定取り消し?!
雅姐姐はズーッと考えた。
「この後時間ある?」「は…18時位迄なら」というと雅姐姐はニヤっと笑って
「わかったわ」と社長室に消えた。
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「司さん、いい親孝行できたみたいだなあ」
「本当に上手く行ったみたいですね、時様。
きっとこの旅も商売に繋げますでしょう、あの子の事ですし」
駿府城三之丸の旧県庁の屋上をお借りして、大天守や城内の諸櫓を眺めつつ、私は妻達と宴会を開き、司さんの親孝行旅の成功?を祝った。という名目で飲んだ。
県側は城の売り込み、そして維持費捻出のために必死だ。機能的に問題がある旧県庁をホテルに改装!とまで前のめりになっている。
眺望に問題あるけど、屋上ビュッフェは温かい季節には人気出そうだ。
「「うまうま」」グラ玉コンビは、駿河湾の海鮮に夢中だ。
「司ン、やっぱ庶民だよね」とお次。
「それがいいのよ。太閤様の御代の終わりにも、黄金の雨が降る時代は終わりかけていましたよ?」
「徳川の幕府も好景気は50年かそこらしか持たなかったしねえ」
「景気自体は持ったさ。でも、皆がもっと豊かになる、って膨らむ夢を持てなくなったのはそのくらいかな?
明暦の大火とかは防げたけど、もう安土大坂の様な黄金の夢は見えない。
そんな現実が見えてしまった。
もう争いが亡くなって、偃武の時が来たという、最大の恩恵よりも経済発展はいつの世も甘い夢なんだろうなあ…」
そう思うと、この城の主、大御所様には申し訳なく思った。
「でも戦いは無くなったよ?それが一番いい事だよ!」
お玉が元気に言ってくれた。余りに残虐な戦いを知っている彼女の目は真直ぐだった。
「今なら世界、どこでも行けマース!ならず者の国以外ネ!」
みんなでもう何度も里帰りしているグラシアも、小魚の揚げ物とカヴァを楽しみながら同意してくれる。
「これからまた日本にも不景気も来るかも知れない。
今の豊かな日本の貯蓄を横取りしようと、ハゲタカの様な資本家が日本に裏切者を送り込んでいる。
いつかは奴等が普通に暮らす人達を自殺や餓死に追いやる日が来るかも知れない。
でも、平和であれば、働く場所があれば。
この日本の社会を裏切って、敵に利益を明け渡す外道共の首を斬り飛ばす術さえあれば。
皆で幸せを手に入れる道はまだあるさ」
皆でニコニコと料理を楽しみながら酒を飲みつつ。
「あの子達が自由に夢を広げられる様に頑張ろうな」
私達5人は乾杯した。
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「司~ん!あなたのアイデア採用よー!」
「時尾さん!家族旅行まで仕事させてしまって済まなかったねー!」
雅姐姐と海外社長がやって来て、雅姐姐が抱き着いて来た。
続いて社長が抱き着き…そうになって自重した。
蹴り喰らわさなくてよかったよ。
「「「オー!」」」
さっきまで企画案で色々話し合ってた先輩達も何か喜んでくれた。
「君の英国貴族旅行以来、提携先の旅行代理店からセレブっぽいけどもっと抑えた企画での提携を打診されていたんだよ。
君のプランはもう少し調整すれば、海外客の要望に応えられるベストなプランになる」
社長はそう熱く語った。
「まあ司ンみたいに語学と歴史と、謎の愛されパワーが必要だけどね」
何だその愛されパワーって?!
「時尾さん!君のプランに対しては研究費として報酬を払うよ。
この後友達と会う時には、ちょっと色々、時に城泊についてはナイショにしてもらえると有難いな」
成程。企業競争は既に始まっていたか。
「その分、報酬に色付けるからね。私の分も」
「姐姐の分?」
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その後、中華街で飴ズと落ち合った私に雅姐姐が付いて来て、費用は雅姐姐が持ってくれて思わずラッキー!だった。
だが後日スーから凄く嫌味言われましたよ。
どうやら徐海運系の会社から旅の土産話にかこつけて色々探りを入れたかったみたいだ。
うわあ。もう産業スパイ戦争みたいな事が始まってるんだなあ…
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※今回で信越東海親孝行ツアーは完了です。
次回、司ンが提案したチョイ高いけどフツー層向けツアーは成功するのか?
フツーなツアーの四国城巡りに、チャンネルセーット!