181.ガイド相良城 田沼意次、失脚回避!
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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遠州横須賀城の天守に泊まったその夜。
会社の横暴な呼び出しに激怒しつつ帰京した父から電話があった。
「司!すまなかったな!折角の旅行プレゼントを台無しにしてしまって!」
「お父さん、仕事終わったの?」
「明日の昼には終わらせるよ」
「会社辞めたの?」
「いや。上司の首を挿げ替えてやったぞ」
…父は何を言っているんだ?
「旅には合流出来ないけど、明日の夕方には合流できるぞ!」
明日は帝国ホテルで最後の一泊だ。
「わかったよ、東京で待っててね!お母さんに替わるね!」
携帯を母に渡すと…
「賠償金はいくらよ?え?そんなもん?」
「部長に昇格したの?なんなさいよ!」
「え~?そんなんで妥協しちゃダメでしょ!」
何か駄目出し喰らってるし。
「司ちゃん!羽を伸ばせるのも明日限りよ!温泉行きましょ!」
何でだ?
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温泉効果でグッスリ寝てパッチリ目が覚めて、朝バイキングを満喫して。
昨夜お会いした人達に会釈して。
何故かチェックアウトの時スタッフの皆さんに手を振って見送られて。
ちょっと嬉しいかも。
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本丸北側を散策。
「あー、こんな立派な天守に泊まったのねー、でも下は石垣じゃなかったのね」
本丸の北側に廻ったら天守台は土塁だった。
「南側を玉石垣で固めただけでも、頑張った方じゃないのかな?」
「日本のお城も色々ねえ。お父さんに話したら喜ぶかしらね?」
母、笑顔。
昨晩何だか電話で父に色々駄目出ししてたみたいだけど、今夜の合流が楽しみなんだろうなあ。
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町役場になっている三之丸の門と櫓を過ぎて横須賀駅へ。
そしてまた、シュポポシュポポと東へ。
「またまたまたこのこのこのゆれゆれゆれ」
「これこれこれクセクセクセになるなるなるわねわねわね」
けけけ軽便鉄道ですからねねね。
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相良駅下車。ここも緑とオレンジの小さな客車がひしめく駅だ。
入れ違いで通過したのは蒸気機関車じゃなくて、トラックのボンネットみたいなディーゼル車?ガソリンエンジン車?
この辺も勉強しないと色々と濃い鉄道マニアに攻撃されそう。
そういやUKも鉄道王国で色々ヘンテコリンな鉄道があってマニアも凄そうだそうな。
ジェフ伯一行は鉄道にあまり興味なかったのかな?海の人達だったし。
駅を出ると、目の前外堀の向こうに白亜の二層櫓。
そして右手は横矢掛に屏風折れし、その先に大手門。
更に西側にはタンクローリーの貨車が、小さいながらも北に向けて走っている。駿府鉄道相良支線だ。
菅ケ谷川上流にある小さな油田から上質な石油を運ぶ路線だ。
こんな小さな町に、油田があるなんて不思議だねえ、
大手門を潜ると、目の前に三層の天守。江戸城や関東譜代の城によくある、一層目が出窓で軒破風、三層目に軒唐破風のタイプだ。でも綺麗だね。
「ここも立派ねえ」母の評価も宜しい様だ。
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「相良城は江戸時代後半の18世紀に、賄賂と天災で知られる老中田沼意次の手によって築かれました。
それまでこの相良には城はなく、御殿だけの陣屋しかありませんでしたが、意次の出世で新たな城に生まれ変わりました。
田沼意次と言えば有力な商家に出資し発展させる、資本主義に着手した一方、賄賂政治を横行させた明暗両方のイメージがあります。
反面その資金力で印旛沼・手賀沼を開拓し利根川と千葉港を縦断する水路を開拓し、米以外の作物を栽培し冷害対策を行い、かの浅間山爆発の際幕閣の走力を挙げて被災地を救った『天明の施し』を指揮した偉人として江戸末期に力を発揮した人物です」
「賄賂受け取って潔白な政治なんてあるもんかしらねえ?」
「潔白じゃなくても、やるべき事はやった、ってなことなんじゃないの?
そもそも潔白だったら政治家なんて出来ないでしょうしねえ」
そんな清濁併せ飲んだ辣腕政治家の城を、私達はノンビリ見学させて貰っている。
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本丸に入り御殿へ。
「元々田沼意次は八代将軍吉宗の足軽から出世した為に、老中に上り詰めても権力基盤は脆い物でした。
そのため天災対策を終えた後は領地に籠って余生を過ごしました。
晩年は領地相良の発展に尽くし、相良油田の開発や駿府鉄道の開業に腐心し、他にも製糸工場や塩田を開発し、相良市を小さいながらも住みやすく発展させた名君主として今でも親しまれています」
本丸御殿内はその功績を説明する資料が展示されている。
「印旛沼干拓とセットになった千葉水路の開削は江戸を襲う水害を何度も防ぎました」
「天才発明家、平賀源内と様々な発明で日本の近代化を加速させました」
…この駿府にある田舎の城、侮れないなあ。
「そんな立派な人なのに、学校で汚職の達人みたいに教わったわよ?」
「そりゃ、型破り過ぎて他の幕閣から疎まれたからよ」
そして天守へ。
「平和な江戸時代に新たな城が築かれる事は希で、この相良城は例外中の例外でした。
ましてや関東では上げる事も自粛された『天守』を名乗る櫓を堂々と上げたのも極めて特殊な例です。
この天守は、老中田沼の力を見せつけるモニュメントです」
その内部には、相良油田開発と、世界最初期のエンジンの模型なんかが展示されていた。
「その割に、田舎よねえ」
「あそこに精油場と港があるじゃないの」
海側の小さなコンビナートに向け、軽便鉄道がしゅぽぽ…ではなく、ガソリンカーがブロロロローと石油タンク車を引っ張って走っている。
「樺太油田に秋田油田、この相良油田も日本の近代化の原動力になったのよ。
世界が蒸気機関を必死に作っている間に、ガソリンエンジンの開発にいち早く着手してね」
誰かさんのお蔭で。
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※静岡鉄道駿遠線相良駅は、城跡から見て萩間川の対岸にありました。物語では相良城大手の南に歴史改変されています。
また相良油田への支線なんてモノは史実では存在しません。
※子供の頃は金権政治で日本三悪人として語られていた田沼意次。
NHKの平賀源内を主役にしたドラマ「天下御免」あたりでの再評価を切っ掛けに、みなもと太郎の漫画「風雲児たち」で江戸期の資本主義化の先鞭を付けながらも失敗した無念を描かれ、色々再評価されています。
このネット小説でも現代から転生した主人公を救うファクターとして愛され?ています。
そう言えば相良油田も最近の石アニメで舞台になっていました。
※その田沼意次が出世して築いた相良城。
史実では意次失脚後に松平定信によって完璧に破壊されましたが、この物語では様々な改革を成功させた所為で田沼家の居城として存続しています。
18世紀に築かれながらも資料が乏しく、天守の資料もありません。時期的に建地割があっても全く不思議ではないのですが。
この辺、田沼時代を徹底的に潰した松平定信の執念を感じます。
復元図すらありませんでしたので縄張図を。らんまる様のページから。
https://ranmaru99.blog.fc2.com/blog-entry-496.html
※実際の歴史では浅間山の噴火による凶作「天明の大飢饉」や、その時の火山灰で千葉行の水路が浅くなって豪雨で決壊、干拓事業が失敗する等の不運に見舞われ失脚した田沼意次。
この世界ではその辺上手く予知して失敗を回避して「天明の施し」なんて呼ばれている様です。
誰かが後ろで糸を引いていた様ですが。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。