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180/251

180.お宿は横須賀城天守

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 天守を改装したお部屋で落ち着く。

 最上層はラウンジになっていて、私達はその一層下を丸々使った客室に泊まった。


「普通のホテルとちょっと違うのね」

「天守は戦いの場だから窓は小さいし、その上平面構成は各階の外側が通路で内側が居住スペースになるのよ。

 これ内側通路の内側にに壁を造っちゃうと窓が無くなっちゃうんで、ムリヤリ窓側に客室を作ってるの。

 んで階段の周りは空きスペースにしたりね。

 おまけに水廻りとかも文化財に穴をあける事になるんで批判もあって、極力開ける穴を小さくしてるみたいよ?」


 その所為で階段廻りが客室の外になっている。


 しかし室内は、御殿の様に壁が漆で塗られ…てはいない。漆塗装っぽい何かを張り付けているみたいだ。

 寝室は水墨画、リビングは金の障壁画と意趣が変えられているのは面白いね。

 部屋風呂も落ち着いた木目の色で設えてある。


 鐙窓の外はもう暗くなっている。

「温泉行こうか!」


******


 ビバノンノン。

 軽便鉄道に全身シャッフルされた疲れに加えて、時間旅行した不思議な感覚をリセットするかの様に、心地よいお湯に浸かる。


 本丸御殿には温泉大浴場が増設されている。

 御殿と違和感がない様に、和風で造られている。

 ちょっと湯田中温泉を思い出すけど、あそこまでの豪壮な感じはないね。


「は~。太平洋側って色々温泉があるのね~」

「ここで沸いてるんじゃなくて、天竜川河口からタンクローリーで運んでるみたい。

 気合入ってるねー」

「ここは温泉出ないのかしらねえ」

「よっぽど深く掘れば地熱で温められた古代海水とか出そうだけどね」

「そういうもんなの?」

「埼玉の温泉なんて秩父以外は大体そうよ」

「司ちゃんは物知りねー」

「勉強しないとガイドできませんから」

 社寺仏閣と城、温泉は日本観光の肝ですからね。


「外行ってみない?」

 母に連れられ、露天風呂へ。

 マジックミラーで外から見えない様に囲われた先には、ライトアップされた天守。

「地面に建ってるのね」

「ちょびっとだけ石垣があるけどね」


 石材に恵まれない横須賀城、天守台も殆んど高さが無い。

 湯煙の向こうに照らし出される白亜の天守。

 白亜の四層、初層の四方に出窓を配し、軒唐破風を載せ、二層の軒にも唐破風を載せた…

 結構オシャレな天守さんだ。


「綺麗ねえ…」

「お風呂から眺める天守って、やっぱりいいよねえ…」

「お父さん見たら凄く自慢するでしょうね」

「ホント!」

 お父さん、上手くやってるかなあ。


******


 夕食は本丸御殿の大広間。畳敷きだ。あまり派手な装丁ではないのが2万石大名の限界か。

「みてこれー!おいしそー!」

 御殿は兎に角、魚はマグロにしらすの海鮮御造り。

 そして後に控えるは、ここ横須賀から西、太平洋に突き出した御前崎の遠州牛ステーキ。


 駄目だ!ダメダ!ペースを整えるんだ!

 温泉旅館のコース料理に負けるな私!

 そうだ!お酒だ!え~、「葵天下」?徳川所縁の地らしいお酒じゃん!

 野菜の天ぷら?そんなの埼玉でも食べられるうまうま。

 卵料理?うまうま。

 ステーキ!!うまうまー!

 お酒おいしー!


******


 温泉旅館のコース料理には…勝てなかったよ。

 帰りにお父さんに葵天下買って帰ろう。


 満腹の幸福と苦悶を抱えつつ天守の客室に戻る。

 窓の外は、城内のライトアップ以外は真っ暗だ。

 東西に二つある大手門の脇、二層櫓が綺麗に光っている。


「天守にいると天守が見えないのが残念ねえ」

 母、そんなエッフェル塔が嫌いで毎日通って「ここなら醜い塔が見えない」とか言ってた誰かさんみたいな事を。


******


 最上層に登ると、何人かのお客さんが出来上がっている。

 無骨な板壁いた床ではなく、畳敷きで御殿造りのサロンになっていて、隅にカウンターが、窓際と中央が客席になっている。


 照明は雪洞の様な間接照明だ。

 これ、天下人の城よりモダンで豪華なんじゃない?


 母と窓辺で眺望を楽しみつつお酒を…


「あの眼鏡の娘、海賊マスター・ミスツカサじゃない?」

「まさかこんな田舎に…でも美人だな」


 何だかアッチのテーブルのオッサン達から不穏な会話が聞こえる。

 何だよ海賊マスターって。


「あんたも有名になったわねえ~。お母さん鼻高々だわ~!」

 ヤメテお母さんー!!


「あーすみません、もしかして…」

「すみません今勤務外なので…」

と言いかけた時!


「もー司ちゃんったらすっかり芸能人みたいねー」

「お母さん!偉いのはお客さん達なの、私は只の学生バイトなんだからね!」


「やっぱり謎の才媛案内士の、時尾司さんですか!」

「そーなのよー自慢の娘なのよー!」

 お母ーさんヤメテー!


「ニュースで凄く取り上げられて、あの学園祭で敵のスパイを絞め殺した!」

「そーなのよー!」

 何言ってだ母ァ!


「絞め殺してません!お母ーさんテキトーな事言わないの!」

「ウチの娘ったら強情で曲がった事が嫌いでねー」

「お会いできて光栄です!遠州に世界のお客さんを呼び込んで下さい!」

「私まだ学生ですからー!卒業してませんからー!」

「女子高生ですか?!」

「大学生ですー!子供っぽいですかー?!」

「いやアイドルみたいに可愛いから…」

「司ちゃんアイドルー!」

「ヤメテー!」

 何だコレ?


「すみませんサインを」

 カウンターからバーテンダーさんが出てきたよ?!

「いえ私実績上げられなかったら年内にクビですよ?」

「じゃあ駿府県の観光課に!是非とも!」

 しまったこの人ステークスホルダーだったー!

「スミマセン実績作ってからにして下さい!」

「いえインターネットではもう幻のアイドル扱いですよ」

「ナニソレヤメテー!」


 このドタバタから逃れるべく、階下の自室へ脱出!


******


「すごいわねー!司ちゃんのアイドル具合、お父さんにも教えてあげなきゃー」

「それはどーでもいーけどー」


 その時、携帯に父からの着信があった事に気付いた。


******


※横須賀近辺には温泉は2023年現在ありません。西には天竜川河口と、東には菊川河口にナトリウム=古代海水温泉?があります。


※以前にも書いたかもしれませんが、エッフェル塔を見たくない余り毎日エッフェル塔一階のレストランに通って「ここなら見えない」とか言ってたのは、「女の一生」「脂肪の塊」等で有名なギ・ド・モーパッサン。


※代々譜代の大名が治めた横須賀城。その城下で醸された「葵一代」は遠州山中酒造のお酒です。

https://aoitenka.jp/pages/company-overview

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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