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179/251

179.ガイド横須賀城 日本唯一、玉石垣

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 東海道線で一旦西の袋井駅に戻り…

 ザ・昭和ー!って駅に、小さい蒸気機関車が入って来た。


「あら可愛い汽車ぽっぽ」

「その通りです。レール間76センチという小さい鉄道、軽便鉄道としては日本最長を誇り、駿府県の海沿いをシュシュポポと結ぶ駿府鉄道駿遠線のミニミニ機関車です。


 モータリゼーションが日本を覆った20世紀初頭に廃止になりそうだったこの路線、ミニミニ機関車を復活させて観光路線化し、今でもゆっくり目に走っています。

 今では新幹線と提携して行は汽車ぽっぽ、帰りは新幹線でという割引切符も販売されています。

 遠州の人達、特に子供には今でも人気を誇っています」


…何気に鉄道の紹介は初めてかな?前にパノラマカーとロマンスカーの関係を説明したっけ。


******


「そそれにしてももも」

「やぱやぱゆれゆれゆれれるわねね」

「やややゆゆゆ」

「まままいっぱぱぱい」

「むりむりむり」


 軽便、揺れるなあ。そうだろと思って買ってきた缶ビールで一人カンパパパイイイイ。

「やぱやぱわたわたしもしもしもちょちょちょ」

「どぞどぞどぞ」


******


 ゆっくりと西日に色づく景色。

 途中の無人駅に石炭の匂い、駅の昔と変わらない看板。

 これもまた時間旅行みたいだ。

「ホント、時間を遡る…」

 ジリリリ!「シュッパーツ」ガタン!

「旅びびびみたいなななな」

「つかつかさささちゃんんしたしたかまないででで」


 やっぱり揺れる!


 弁財天川の橋を渡り、汽車はしゅぽぽと横須賀駅へ。

「あー、揺れた揺れた」母娘二人で汽車を降りて首や頭をグルグル回す。


 もうすっかり夕陽、赤い世界だ。

 汽車の汽笛が鳴る。踏切の信号が鳴る。

 学生さんも帰路を急ぎ、汽車が東へと進む。


 駅の看板も、色々な広告も、色あせた手書きの物。

 ホームの反対側には、都心では見なくなった緑とオレンジの湘南カラーの、小さい客車と繋がった蒸気機関車。


 もうすぐ21世紀だよね。

 私が子供だった頃、こんなだったかな?

 今ここで暮らしてる人も、いつか都心へ行くのかな?

 昔から変わらない時間の中で過ごすのかな?


 何か、涙が出そうな、懐かしい…。


「お城に泊まるわよー!行くよー!レッツゴー!」

 母、台無しだよ!


 余韻もへったくれも無く、駅の北にある横須賀城へ。


******


 広い沼の向こうにある、白壁に守られ幾つかの渡り櫓門に仕切られた城の奥に建つのは白亜の、今は夕日に染まった赤い四層の天守。


「こんな田舎に立派なお城があるのねえ。でもちょっと低いかしら?」

「まあ岡崎や掛川と比べると、城のある丘がちょっと低いかな?」

「今日はここに泊まれるのね?」

「あの天守と、その下の御殿にね」


 そう。ここ横須賀城と、もちょっと東、御前崎を過ぎたあたりにある相良城の二城は、駿遠線存続を掛けた城泊イベントで御殿と櫓をホテルに改装して観光客の呼び込みを始めたのだー!

 案内士になろう!社が絡んでいるのかどうかは不明という事にしておこう。

 そもそもウチが話題になる前から松坂城とか島原城とか城泊やってたしね。


 それにここは市民の足である鉄道の興廃がこの一泊にあり!だからね。

 ヘタしたら掛川行バスや自家用車に客足取られて赤字拡大に拍車がかかりそうだし。


 大きな沼の先、外堀に綺麗に並んだ白壁。

 そして目の前に壁の内側に建つ二層櫓。例によって一瞬三層に見える。関東の城っぽい。

 そして高麗門の西大手門。櫓門じゃないんだよね。


「横須賀城は、武田と争っていた16世紀中ごろの徳川家康が、『遠州を制する』と言われる高天神城を奪回する攻略地点として家臣の大須賀氏に命じて築かせました。

 例によって江戸移封の際、秀吉配下の有馬豊氏…後に久留米城を築く人ですが、彼が入封し、その後再び大須賀氏に、更に多くの城主が交替してこの地を治めました」


 二之丸を過ぎ、本丸に入ると…

「へんな石垣ねえ」

「これは、この地に良質の石材が無く、天竜川の川石を集めて築いたため丸い石垣になっています。

 川の石で石垣を築いた例は緑泥片石を用いた和歌山城本丸や徳島城などがありますが、この様な玉石を使った石垣は日本で唯一の例です」

「なんか可愛くて凄い感じはしないけど…日本唯一って言われると有難みあるかもねー」

 母、あんまり興味無さそう。


「それより早く天守に行きましょうよー」

…何か違和感があるな。


 あ、時サンが言ってたな。

「私のいた世界では、ほぼ九割の人が天守の事を『城』と言ってた。

 なにせ城地は森みたく木々が茂りまくって門も塀も櫓も取り壊され、御殿なんか片手で数える程にしか残ってなかった。

 だから日本人はみんな城=天守、それも明治以後の呼び名の天守『閣』だって思い込んでたんだよ」


 母みたいにあまり歴史に関心が無い人でも自然に「天守」って呼んでる事が引っかかったんだな。

 この世界、時サンが思うようにされてしまったなんだなあ…。


******


 本丸の入口は壮観だ!

 二つの渡り櫓門が階段状に道を守っている!


「立派な門ねえ」

「特に上段の本丸南下二ノ門は二層で相当長く作られて、南下一ノ門から侵入した敵を殲滅する重厚な構えです」

 左右に折り重なる白壁も戦国っぽさを演出しててイイ!映画撮影の誘致なんかも行われてるらしいし、横須賀町必死だね!でも特徴的な玉石垣が見えたら一発でここだってわかっちゃうよね。


 そして二層の櫓門を潜ると…

 もう一段、鉢巻土塁の上、階段の先に本丸御殿が灯りをともして私達を待ってくれていた。


 車寄を入ると遠侍がロビーになっていた。

 畳敷きはカーペットに改められ、フロントでチェックイン。

 受付嬢も着物っぽい制服で対応してくれている。


「あの、時尾様はUKの貴族を瀬戸内海で案内された…」

 小声で聞いてくる受付さんを制し、

「そのお話を聞きたければ『案内士になろう!』社を通して下さい。

 今日は只の観光客という事でお願いします」

 と返すと、申し訳なさそうに詫びてきた。


 こっちも申し訳ないので

「お城側の意見も参考にしたいので、是非問い合わせて来て下さい。宜しくお願いします。

 それと今晩はお世話になります」

 と丁寧にお辞儀したら、却って恐縮されてしまった。


 ふむふむ、業務提携できそうだな。サービス向上を期待できるかな?

 それは欲張り過ぎか。


「司ちゃんも偉くなってくれたわねえ!」

 何だか母も威張ってるよ?何故だ?


******


※かつて廃線になった静岡鉄道駿遠線の往時の姿は下記の通りです。

 尚、「静岡」という名が存在しなため「駿府鉄道」となっています。

 また、実際にあった駅は「新横須賀駅」で、劇中の「横須賀駅」よりもっと西側にありました。

https://www.youtube.com/watch?v=eFN14t2yvl0


※実にマイナーな近世城郭、横須賀城。復元図とかありませんでした、web検索では。

 残された絵図では下記の通り、中央の本丸の西に二之丸、東に三之丸を連ねた縄張でした。

 南面に広がる池は今では田んぼになってます。

https://livedoor.blogimg.jp/sujin_10/imgs/5/7/57671b72.jpg


※マイナーな近世城郭ながらも、近年発掘調査に加え、河原の玉石による石垣の復元が行われ、往時をしのばせる城址公園が整備されました。

 横須賀城天守も、絵図に残された姿があるだけで、その礎石すら近年の発掘調査で明らかになった程度で正体不明です。

 復元図も見当たりませんでした。上記の絵図を元に偲ぶより無さそうです。


 絵図によると劇中の描写と、壁は四隅の柱を塗り出した真壁造りにも見える…程度の情報しかありません。今後新資料が発見され研究が進むことを祈ります。

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