175.ガイド西尾城 お宿は蒲郡温泉
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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岡崎城を後にして、一旦安城駅に戻ってからは名鉄西尾線に乗り換え。
「ロマンスカーだ」
「小田急よねえ」
その瞬間、周囲から冷たい視線が刺さりまくった。やべ。
「このパノラマカーは、名鉄が日本で初めて作った二階建ての特急列車で、一番前の席が展望車になってるのよ」
「知ってるわよ小田急…」「名鉄が日本で最初なのよー!」
これ以上アウェイで暴言吐いたら殺される!
「電車を作ったのが同じ会社だから、この後の小田急も国鉄の展望列車もみんな似た設計になってんのよー!」
は!殺気が消えた。私は名古屋県民の誇りを守ったのだ!
「司チャーン。乗るわよー」
母、何事もなかったかの様に…。
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ちょっと豪華。しかも特急料金無し。
10年位前に初代パノラマカーは普通車墜ちして急行や鈍行を走ってて、かつて特急だったクロスシートもタダで座れるらしいのよー。
「ぜーたくな急行ねー」
「名鉄の社長さんが、こういうぜーたくシートで通勤できるのが理想、って押し通したみたいよ。
ロングシートばっかりのどっかの〇急にも聞かせてあげたいよねー」
まあ激込みの首都圏でやったら地獄見るけどね。
「さっきのお持ち帰りのフグ唐揚げどう?」
「お母さんありがとうまうま」
「お酒頂戴よ」
「どぞどぞおっとっと」
「美味しいわねえロマンスカーで飲むと」
ギャー!また殺気が!!
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精神的にちょっと消耗して西尾駅下車、タクシーで城へ向かう。
ちょっと古い建物が残る街を西から南へ折れて向かうと、大手門。左右遠くに二層櫓。
この城は石垣ではなく、土塁の城だ。
櫓門脇が車道となって抜かれていて、その先は学校に大きな競技場。
二層の北の丸丑寅櫓と東の丸太鼓櫓が見下ろす東の丸、楼門の太鼓門前で下車。
東の丸は…幼稚園かあ。米蔵が改装されている。そういう活用法もあるのかあ。
東の丸から北の丸、そして二之丸正門の鍮石門へクネクネと曲がって進み楼門を潜ると、立派な唐破風の御殿が。
左手には本丸を守る三層の、寸詰まりな丑寅櫓が。
本丸御殿を奥に進むと、三層の…ドッシリした、というか重厚な下見板張りの天守が左右に付け櫓を従えて鎮座している。
「おでぶさんねえ」
言い方ァ!
「この天守は、それまでの古い形、一階と二階が同じ形で、その上に小さい三階を乗せる形式から進化して、一階から二階に少し小さくなる『層塔式天守』の特徴と、上に小さい三階を乗せる『望楼式天守』の両方の特徴を備えた、進化中の天守と言えます」
「でもおでぶさんねえ」
「だから言い方アアア!」
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天守は来たら昇るもの。
眼の前に広がる景色は、ここは埼玉ですか?って言われてもわからん位の平地。
でもそれこそが肥沃さの証。
西側にある知多半島とか米味噌醤油にお酒があって、おまけに温泉まであるガンダーラですよ、近世のお城は無いけど。
お城・社寺プラス温泉巡りツアーとか企画してゆっくりゆったり回るのもいいなあ。
「そんじゃあお宿にいきましょうよ」
旅情もへったくれも無え!
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西尾から名鉄線で吉良吉田乗り換え、蒲郡へ。
そこからタクシーで海へ。
海を臨む温泉宿で今夜は一泊。
「あらー!お部屋に温泉があるわー!豪華ねー!」
「奮発しました」
早速ひとっ風呂。
「今までの山や町から今度は海ねえ」
「湖もあったけどね」
「海は果てしないからいいのよ。遠くに来たーって感じが。
あんたもお金持ちと豪華客船で旅したんでしょ?」
「仕事中だったからこんな解放感なかったよ!」
「勿体ないわねー」
一旦上がって、今度は温泉大浴場でビバノンノン。
「ここのお湯はしょっぱくないのね」
「古代海水じゃなくて、弱アルカリ単純泉、お肌ツルツルになる奴よ」
「一杯入んないとね!」
母、現金。
そして夕食はアワビに伊勢エビ。
「うわー!贅沢ねー!司ちゃん出世したわねー!」
うん。海の香りが、歯ごたえがプリップリだ~、幸せ~。
そしてお酒は再び蓬莱泉。今度は純米大吟醸だ。
「今度の旅の日本酒は美味しいのね~。
今まで外で飲まされてたのはヒドかったのよ~」
「お父さんもいいの買ってたじゃん」
「居酒屋とかの印象が悪くってご相伴に与らなかったのよ。勿体ない事したわー」
おのれ大手酒造許すまじ。
「今は地方の美味しい日本酒が注目されてるのよ。
そこも外国人向け日本観光のキーワードになるよ!」
「司ちゃん、お仕事の顔になってるわよ」
あ、母が心配そうになった。
「それもお父さんやお母さんが私達をあっちこっち連れてってくれたお蔭だよ。
やっぱり、旅して色んな歴史や凄い建物や、美味しい料理に美味しいお酒を楽しむ。
人間そのために仕事してるって言ってもいいわー」
おや?母、ニコニコして私の話を聞いてる。
いつもなら突っ込んでくるのに。
「司ちゃんに案内して貰えるお客さんは幸せねえ」
ズン、と来た。
何か、嬉しい様な恥ずかしい様な、それでいて厳し事を言われた気がした。
「駄目よ、厳しい顔しちゃ。あんたも楽しまなきゃお客さんも遠慮しちゃうわよ?」
満腹になりながら、も一遍大浴場へ。
「今日だけで3つもお城廻ったわねえ」
「お父さんにも見せてあげたかったなあ…」
「お父さんなら大丈夫よ。今頃退職金タンマリせしめて来週にでも一人で日本一周するんじゃない?」
そんなバカな。
「その位の勢いで東京に戻ったからねえ。きっと面白い事になってるわよ」
ん?母の目が笑っていない。
てか微妙に怒っている。
「あの人、怒ったら本当に怖いからね」
…そうなんだ。そうだったかな?
部屋に帰ってのんびり夜の海を見つめて一献。
「この辺なんて観光地じゃなくて名古屋の郊外みたいなもんでしょ?
こんな素敵なホテルやお城が一杯あるんだから不思議よねー」
「日本はいいところが一杯あるのよ。
世界各国だってそうだろうけど、社寺に城、温泉に料理にお酒、これが一杯選べるのは日本ならではよ」
「この間の貴族様も温泉に行ったの?」
「…チョットダケネ」
「やっぱ向こうの人はそんな温泉やお風呂に入らないのかしらねえ」
「…ソーカモネ」
ここは、温泉文化をもっとアピールする必要あるなあ。
「最初に泊まった太閤風呂なんて絶対外人ウケすると思うわあ」
「うん。そういう豪華さからアピールするのも手かもね。
帰ったら雅姐姐にも相談して見よう!」
また母がニコニコしている。
「日本人にも案内してね?」
そっちも色々考えてみよう。ただ、会社は富裕層向けを狙ってるからなあ。
他の代理店とのタイアップ企画にして、国内一泊向けや海外のセレブまで行かない長期滞在客用に提案して小銭稼ぐてもあるかな?
帰ってからやる事が出来た!
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※実際の安城駅は名鉄と接続していませんが、この世界では鉄道の利便性向上が19世紀には行われているので、接続しています。
※古き良き昭和の思い出車両、名鉄パノラマカー7000系。
1990年頃から普通列車として乗客にちょっとした贅沢感を味合わせてくれた後、2009年に引退しました。
劇中の名鉄の社長さんとは土川元夫氏。
尚車両を製造したのは日本車両製造で、小田急ロマンスカーも同社で製造されており、似通っているのもそのためかと。
※現在復元計画が進み本丸丑寅櫓、二之丸天守台、丑寅櫓、鍮石門の復元が完了した西尾城。
目下戦前以来悲願だった天守復元を目指していますが、その往年の姿は下記の通りです。
実際はこの図に描かれた中核部分の東に、城下町を囲う惣構えが大きく伸びていました。
https://www.facebook.com/photo/?fbid=589569912599468&set=a.589569875932805
※西尾城の天守は二之丸に上げられています。その姿は過去幾つも復元案が描かれています。それが下記にまとめられています。現在広島大学名誉教授の三浦教授案に収束しかけていますが、本当にそうなのかは不明です。
かつては御殿復元計画もあったそうな…。
https://ameblo.jp/8omote/entry-12634518473.html
市の資料館の復元模型はこんな感じです。ページの真ん中あたりにあります。
https://nishio-museum.jp/exhibition/permanent/
※吉良吉田から蒲郡。色々な温泉宿が点在しています。一度訪れてみてはいかがでしょうか?
なお、本作のモデルとなったのはホテル竹島です。
すぐ隣に和洋折衷の文化財指定建築、蒲郡クラシックホテルもあってこちらも訪れる価値大です。
https://hotel-takeshima.co.jp/
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。