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172/251

172.ガイド岩村城 行きは怖々、帰りはラクチン

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 中津川から快速で次の次の恵那駅で降りて、明智線に乗り換え。ここからは電車じゃなくて汽車だ。

 観光用の蒸気機関車でシュポポシュポポ。

「本当に時間旅行してる気分だねえ」

 ゴキゲンな父、ビール飲んでらっしゃる。私もだけど。

「SLは石炭臭いわねえ」

 そらそうでしょと言いたくなる母。


******


 単線をひたすらシュポポシュポポと30分、田舎町岩村に到着。

「苗木も田舎だったけど、岩村も田舎だねえ」「ホントねえ」


 タクシーで岩村城へ。

 途中の街並みが時代劇のセットの様で、正に時間旅行だ。

 山麓の駐車場に着くと、目のの前に袴腰の太鼓櫓が建ち、城の入口であることを伝える。

 そこからロープウェーへ。


******


 簡素なロープウェーの昇降場に到着。

 目の前に楼門、一ノ門が多門櫓を従えて聳える。楼門も多門櫓も下見板張りで力強さを感じる。

 でも楼門上層の真ん中が華頭窓でオシャレ。

 そして綺麗に樹々が刈り取られた山上は…

 石垣と白壁、ところどころに櫓がチラチラ見える。けど坂がきつくてよく見えない。

 これを登るのかあ。


「この岩村城は…」父の方をチラっと見る。どうやら割り込んでこない。

 岐阜は専門外かな?

「鎌倉時代に遡りこの地を治めた加藤家の家臣、さっきの苗木も支配してた遠山氏が16世紀初頭に築きました。

 その後16世紀後半に織田と武田の最前線となり、武田に降伏し妻となった女城主おつやの方の悲劇が有名です」

「女城主だったの?」

「織田信長の叔母で、遠山氏に嫁いで未亡人となって、武田に責められた時信長の援軍が間に合わなくて降参。武田の武将の妻となったのよ。

 その後今度は信長がこの地を奪い返しに来て、おつやの方はみんなの命が助かるならと降伏したけど夫共々長良川で逆さ磔にされて殺されたのよ。城にいた人たちも皆殺しにされてね」

「信長酷いわねー!自分の叔母さんじゃないの」

「しかもあんまり年も違わなかったんだって」

「もっと酷いわー」


「そんで織田配下になったこの城は森蘭丸で有名な森家の城になって今の近世城郭に改築されました。

 17世紀には松平氏の居城になって、廃藩まで続きました。

 今では山麓の御殿で元の遠山氏と松平氏が時代祭などで菩提寺を参拝し合う行事などで交流して、観光名物にもなっています」

「おつやの方の事も忘れないでほしいわー」

「その時は夫婦の墓がある妙法寺にもお参りしてるのよ」

「まあ、せめてもの慰めよねえ」


 うんうん。女性には女性ネタが食いつくな。


「ここから500m、本丸に行くよー」

「おー!」「痩せるかしら」

 500mじゃあそうそう痩せません。悲しいけど。


******


 200m昇って、土岐門。

 そしてUターンする様に進むと。

「おー!これが天守じゃない三階櫓か!」

「実質天守ね。城下町とか登城ルートからの見栄えを良くするため、見え辛い本丸じゃなくて二之丸や城下に近い場所に天守を置く城も多いのよ。

 徳島城とか加納城とか」

「司は物知りねえ」

「勉強しました」

「その調子でいい男捕まえるのよ」

「約束しかねます」

 私はソッチ方面は苦手なのよ、ゴメン母。


 父、ダッシュで三階櫓に向かう。今飛ばすと後が辛いよ?


「うおー」

 目の前は橋。石垣の上、左手に鈎の手に曲がる珍しい橋、畳橋。その曲がり角の向かい。

 ドデーン!と聳える三階櫓。橋櫓とも言う。

 下見板張り、さっきの土岐門同様、真ん中に華頭窓を置き、その上は大きな入母屋が敵を威嚇する様に映える。コワいけどオシャレ。


 奥には追手門の楼門が連なり、その手前に桝形を成す高麗門。

 手前の畳橋と合わせてこの厳重な風景こそ、岩村城の顔だ。


「これロープウェー無しで登ってきたら、敵にしてみりゃ絶望的な景色だろなあ!

 今の観光客には絶景だけどな!」

 父大はしゃぎ。


******


 追手門の先、八幡曲輪の先、左手に八幡櫓。二層建てで初層に華頭窓が二つ並ぶ、オシャレ。

 この城の櫓、普通は最上層に置く華頭窓を初層に持ってくところが特徴だね。

 山頂の本丸の先にある出丸とかにも二層櫓が二つ並んで華頭窓、ってのがあるみたいだし。


 何でそうなのか調べたけど謂れは解らなかった。


******


 更に、昇って、ひぃ、菱櫓の下を抜けて、目の前には六段に連なる石垣。

 後100m。

「いやあ、さっきの、苗木城も、だけど、ここもおー、キビシイなあー」

「痩せるかな?」

 父と、ヒィ、母の、ハァ、体力差が、ヒャア、何だか、歴然だぁ。


 道は石畳で整地されてはいるけど、なにせ急勾配だ。

 全国で多くの山城が18世紀中に山麓に居館や練兵所を移し、山上を儀礼にしか使わなかったのも頷けるよ。


 二之丸の門も櫓もさておいて、ヒィ。

 もうちょっと、あのナントカ門の先が、ヘェ、ゴールだ!


「本丸着いたー!」

「着いたー!」


 かつては御殿もあったかもしれない岩村城本丸。

 数棟の二層櫓と多門櫓が固めるそこは、天守も御殿も無い。

 その東側に、一段下がった出丸があり、二棟の二層櫓と多門櫓が山麓を見下ろす。

 見下ろす。が。


「駐車場だね」

「駐車場ですよ」


 出丸は駐車場だった。


「帰りはあそこからタクシーで岩村駅まで帰れまーす」

「何だこの○ュン○ュン丸みたいなオチはー!」

「お父さん何それ知らないよー!」

「キビシー!」

「ちょっとは痩せたかしら?」


 母、無敵だ。


******


 城からの眺望もそこそこに、出丸からタクシーで駅にダッシュで戻った。

 は~、ラクチン。


******


※国鉄明智線。この世界では分割民営化という暴挙?が成されていないので第三セクターの明知鉄道は存在せず、国鉄の車両が走っています。明知鉄道独自車両ファンの皆様すみません。

 尚蒸気機関車C12も体験乗車として時々走らせていますが、連結されているのは客車ではなく車掌車です。


※18世紀の享保地震での修理届絵図や、幕末の廃城直前のスケッチで建物の詳細が詳らかな岩村城。

 香川元太郎先生の復元画は下記の通りです。

https://rekishi.kagawa5.jp/2065-%E5%B2%A9%E6%9D%91%E5%9F%8E/%E5%B2%90%E9%98%9C%E7%9C%8C/

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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