169.ガイド諏訪大社下社 お宿は境内山王閣
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
******
諏訪大社下社秋宮。下諏訪の高台にある。
対となる春宮は1km程先、砥川手前の参道を右折した先にある。
秋宮だけでも古代から伝わる神域という感じがする。
「諏訪大社は国家神道とは別系統の古代宗教を受け継ぐもので、水運による繁栄を祀るミシャクジ信仰とそれを司る洩矢神の聖域でしたが、大和朝廷の勢力拡張により現在では建御名方神を主神として祀っています。
諏訪大社の創建年代は不明ですが、伊勢神宮より古いとされています。
この諏訪には上諏訪に上社前宮本宮、下諏訪に下社春宮とここ秋宮の二社四宮があります。
いずれも中心部は御柱と呼ばれる4本の柱に囲まれた空間で、本殿が無く、神域全面に拝殿があるだけという独特の構造になっています。
御柱は6年毎、数えで7年毎に山から切り出され、市内を神輿の様に引き回す「御柱祭」が行われます。特に山から切り出す際に柱を崖の斜面から落とし、その柱に男達が跨り勇敢さを競う「木落し」は祭りの山場として有名で、何人もの死者や重傷者を出しています」
「良く勉強したのね~初めて知ったわ~でもホテルすぐ近くって楽でいいわよね」
台無しである。
「ここからこの坂を下った先を曲がると、春宮があるんだよ。
あの人力車に乗って行ってみるか?!」
「まだお夕食前にお風呂入るにも時間あるしねえ」
******
人力車で下諏訪の町、旧中山道を山沿いに進む。途中路地に入って坂道を降りると、春宮の前、車道の真ん中に謎の橋。
太鼓橋の上に切妻屋根が付いた下乗橋だ。
車通りも少なく、のんび~りと、道の真ん中に建っていらっしゃる。
「この辺は変わらないねえ。いや、昔は養蚕業のシンボルだった繭倉庫があちこちにあったけど、無くなったかな?」
「繭倉庫?」
「製糸場だ。大きな3~4階建てのビルみたいな木造の蔵で、その中で糸取りが行われてたんだ。
ウチの婆さんは蔵一番の糸取りだったのを工場主のボンボンだった爺さんに見初められたって自慢してたよ。
嫁いびりも酷かったらしいけどなあ」
そんな歴史が。
「あ~、あの洋館の向こうがそうだな」
「ビルじゃん?」
「木造の倉庫だよ。残ってたんだなあ~」
まずは春宮に行きましょ?
******
森の中の拝殿は、静かだった。
秋宮の方が人が多かったかな?でも何となくカジュアルな感じだ。
「コッチから万治の石仏に行けるぞ」
神社の西側から砥川に出ると、小さい赤い橋。周りは森だ。
「この浮島の先は、別天地だ」
「前にも来たわねぇ、思い出したわ。別天地よねえ」
母の認める別天地か。一応ガイド本には載ってたけど、どんなだろ?
浮島って位だから、川に挟まれた島だ。既にこの辺も市街地の真ん中とは思えない別天地なんだけど。
川の西側の歩道は、川と畑の間を縫うように進む。すると…
木々が立つ坂に囲まれた様な、小さい田畑の空間。
その真ん中に、大きなかまくらみたいな石の上に、お鼻の大きな顔が乗った、モアイ?
万治の石仏。
その造作も不思議だけど、この時間が止まった様な空間も不思議だ。
本当に今はもう少しで21世紀になる時代なのかな…
あ。
「昔、来た事あるなあ…」
「そうだぞ?連れてきたぞー」
「司、あんた川で遊んでゴム草履流されて、大泣きしちゃったわよねー」
「覚えてないよー」
でもこの空間は、かすかに覚えてる。夢みたいだったけど、夢じゃなかったんだなあ。
「ガイドの本で勉強するだけじゃ、知ってる筈の事も思い出せないもんなんだぁ」
涼しい。日照りは強いけど、空気が綺麗。
ここに来て嬉しくもあり、力不足を感じたり、でもこの空気を浴びるとどうでもよくなったり。
******
タクシーで秋宮に戻る。さっき父が言ってた繭倉庫が見えた。
大きな4階建ての倉庫だ。あれも木造なんだ。
「昔はこんな倉庫が下諏訪中にビッシリ建ち並んでたんだ。
その繭を茹でた排水が原因で諏訪湖は水質汚染がひどくなるところだったが、18世紀半ばに「廃水御浄令」が敷かれて汚水処理が義務付けられて、諏訪湖の水質は守られたんだ」
それきっと時サンが絡んでるな。
秋宮に戻り、拝殿を参拝する。
春宮と秋宮は同じ作りだ。二層の切妻楼門で正面に唐破風。左右に片拝殿を従える堂々とした姿。
両宮とも拝殿の前に、正面に巨大な切妻屋根と、これまた太い注連縄を掲げた神楽殿を置いている。
「さー、お風呂入ってご飯ヨー!一杯歩いたからお腹空いたわ~」
母、城も神社もお構いなしだな。
******
「おおー!」
内湯から階段を降りた先には、諏訪湖を一望する展望露天風呂!
「前にあんた連れて来た時は湖畔のホテルだったけど、ここも中々ねー」
「もっと豪華な所にって思ったけど、諏訪大社の中にあるのが際立ってたかな~って」
「あんたも色々考えてるのね」
「今度は豪華な老舗旅館に連れてってあげるよ」
「お城に泊まるんでもいいわよ」
「高島城はどうかなあ…今んとこそんな話は聞かないし」
「あんたが結婚する頃にはお城に泊まるのが当たり前みたくなってるかもよ?」
これからも維持費がかかる木造の天守、御殿のためにも、好ましい試みかも知れない。
******
「「「乾杯ー!」」」
今夜は最初からお酒で乾杯、全国でも有名な「真澄」ではなく、その蔵元、宮坂酒造が少数生産する「みやさか」だ。
「爺さんは真澄ばっかり飲んでたなあ。俺も子供の頃飲まされたけど、美味かったよ」
「それ、大丈夫?」
「今ならアウトだけど、昔は子供の内から酒の席の楽しさや、深酒の大失敗なんかを感じて大人になってったんだよ」
大人になる前に急性アルコール中毒で死んだら大事だよ!
「うわーこのステーキ上等ねー!」
お宿がリーズナブルなので食事は贅沢に信州牛のステーキにした。
母、今までにないテンション。この旅で一番の笑顔だよー。
******
「それでね、お義母さんったら、いっつも言うのよ。
真面目に、コツコツ。真面目に、コツコツ、って」
母、絶賛酔っ払い中。
「それなのにお父さんったら親戚と飲んで助けてくれないしさ~」
酷いな、父。
「よっぽど実家に思う所があったんだろうねえ」
「そーでしょ?そーなのよ!
お義祖父さんがボンボンだからお義祖母さんが泣かされて、それを見て育ったお義母さんは本当に真面目な人だったのよ。
でも説教臭いのがねー」
「そんな母さんも、お空から今の愚痴を聞いてるよ」
煽るなって父。
「どうせ死んだら仏さまになって全部お見通しなんだから隠す事もないわよ!
でも司には、まあ、派手派手になっては欲しくないかな~」
「あら意外。セレブ仲間になってパリピでーって思わない?」
すると以外にも母が真面目っぽい顔で話した。酔ってるけど。
「お義母さんじゃないけど、人生中庸が一番ってね。
派手さを求めた訳じゃないけど、外国で活躍しようって海外に出て行った友達が沢山いたのよ。
結局みんな戻って来たけどね。
ちょっと前の海外バブルは凄かったらしいわよ~?
日本は全~然変わらなかったけど。
で、その反動で今は株が落っこちて失業者が増えてて、皆日本に戻って来たって訳。
中には向こうで結婚して、離婚した人もいたのよ」
悲しそうに、母が遠い目で話した。
数年前に世界は好況から不況に転落してたそうだ。
日本は不動産投機や外資規制をして「バブル景気」にノータッチだったそうだけど。
まだその頃高校生だったし日本は可もなく不可も無かったから知らなかったのよね。
徐姉妹やジェフ伯はその辺上手く凌いだのかな?
「そーゆーの見ちゃうと、お義母さんの、真面目にコツコツ、ってのが頭をグルグル回ってねえ」
なんだ。薬になってるんじゃないお婆ちゃんの持論。
「司。アンタもあんま派手にハマり過ぎるんじゃないわよ?
あと過労死とか気を付けてね?」
「お父さんもだよ?最近死にそうだったじゃない?」
「この旅の為だよ」
「全部他人にブン投げるのよ!」
母、絶好調である。
「ハハ…ありがとねお母さん」
******
※今は無き山王閣を偲びつつ書いた…つもりが、司の母の愚痴で終わってしまった…。
※繭倉庫、作者が子供の頃は結構見かけましたが、今では記念館だったものも解体された様ですね。
明治の鳥観図等には、繭倉庫が町中に建ち並ぶ様が見られました。
下は、春宮参道に21世紀まで残りながらも2002年に老朽化のため惜しくも解体された倉庫です。
https://gijyutu.com/ohki/tanken/tanken2003/shimosuwasouko/shimosuwasouko.htm
※諏訪大社については、公式HPを見て頂ければと思います。
※宮坂酒造のホームページは下記の通り。今ではあちこちのコンビニですら見かける様になりました。
かつて、交通の要衝、上田との街道のT字路にあった本社にトラックが突っ込んで蔵が大破する惨事がありましたが、その地はオシャレな店として観光名所の一つとなっています。
ただそこだと「みやさか」売ってないんですよ。
https://www.masumi.co.jp/
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。




