166.お宿は湯田中温泉 ガイド善光寺
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
真田最後の里松代を後にして、昔懐かしい感じの向かい座席の電車で須坂駅へ。
そこから長野線に乗り換え、鎌倉時代から親しまれている湯治場、湯田中温泉へ。
「…ロマンスカーだ」
長野県で、小田原を見た。運転席が二階にあって、先頭が展望席になってる。
「昔小田急を走っていたロマンスカーを購入して特急車両にしているみたいね。隣にある電車も、東京の地下鉄だった物だし」
鉄道マニアにとっては都心で引退した車両が地方線で再活躍してるのをわざわざ見に行く人達もいる見たいだ。
そういう層向けの企画とかも考えてもいいかも。
ちょっと贅沢した気分で終点へ。そこから送迎バスで、太閤風呂で有名な旅館、〇ろづやへ。
「御殿がお風呂になったみたいねえ!」
大喜びの母。
「日本の温泉ベスト10にもなってるし、この建物自体が文化財なのよ」
「お城見物の後に、お風呂まで御殿とは贅沢ねえ」
い~でしょ~い~でしょ~。
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古い建物も贅沢な雰囲気を味わいつつ、本館の風呂から戻って来た父と食事へ。個室でお食事だ。
風呂上りばビールで乾杯ー!
「いや~司にこんな贅沢な旅行をプレゼントして貰える様になるとはなあ。
もう2~3年先かと思ってたよ」
「良いご縁に恵まれたもんねえ~」
「まだまだこれからだよ。たまたま2件好評貰えただけで、これからも成功させ続けなきゃいけない。
プレッシャー感じるよ~」
お、氷の桶に入って出されたお酒は縁…七十七?「ENGI」と書いてあるけど、異字体で「縁喜」か。
味わいの強いお酒だ~。も一度温泉入って楽しみたくなる。
メインは信州牛の鍋か。ペース配分が問題だ。温泉旅館の夕食は最後お腹パンパンになるからね。
だが松茸の土瓶蒸しに岩魚、とろろそば…問題だ。
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負けた。またしても温泉旅館の夕食に負けた。お腹パンパンだ。
だが温泉と湯上りの一杯が私を待っている!
やっぱり極楽だ。温泉と一杯を繰り返す。健康には非常に問題ありそうだけど。
「う~む、早く交替の時間にならんかな?」
「凄かったよ~太閤風呂。夜景も素晴らしかったし」
ここの御風呂は時間で男女入れ替え。後で本館の温泉も楽しもう。
濡れ縁で縁喜を頂きながら父が言う。
「やっぱり長野はいいな~」今日何度目だ?
「そういや実家に寄らなくて良かったの?」
父の実家には行った事が無い。
「お爺さんの大から没交渉になってるし、正直どこなんだかも解らない。
お爺さんの親類の方なら付き合いもあるだろうけどねえ」
「どんなところだったんだろね」
「まあ東京に出てきた曾祖父さんの頃から信州に疎遠だったし。
三男坊だったんで実家に居続ける訳にも行かんし、東京に賭けて出てきたそうだ」
故郷を捨てて生き残るために見知らぬ都会で働く、か。
「東京で印刷業を始めて、なんとか会社を持つまでになったら関東大震災で工場が潰れ、それでも建て直したら世界恐慌で倒産。
そこで諦めたんだろうなあ…」
曾祖父は、そこからは印刷会社の会社員となって普通の人生を送った。
その中で、祖父を育てて、それも普通の人生。
「曾祖父さん以来の出世頭かな?司は」
「お母さんたちを楽させてね~」母よ…。
「ま緊張しない事だ。曾祖父さんだって失敗しても普通に頑張れたんだ。
世の中がよっぽどおかしくならなきゃ、ちゃんと仕事出来るし何とかなる。
普通に働く事が大事だ。そう思って働いてくれ」
普通に働いて家族を養ってくれた父が言う。
「ありがとう。お父さん」
私も派手な成功とかじゃなくて、目の前のお客様に喜んでもらうために、普通に頑張ろう。
「おっと太閤風呂交替の時間だ」
「私も本館の温泉に行こー!」
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翌朝。早くからまたまた温泉を堪能して一杯頂く。
朝寝はせずとも朝酒朝湯は大好きです。これじゃ身上潰すなあ。
あ~、考えてみるとゆっくり宿に泊まったのも久しぶりだな。
豪華メガヨット連泊とかも凄く贅沢だけど、日本旅館もとても素晴らしいものです。
そして朝食を美味しく頂き、恋しいお布団に別れを告げて、次の目的地へ旅立つ。
歴史ある名旅館を後に、一家はまたまた特急で長野駅へ。
そこから善光寺参り。
夏休みで賑わう参道にはお土産屋が一杯。
「やっぱ甲斐善光寺とは賑わいが桁違いだなー」
「甲斐善光寺って?」
「それは…」
「武田信玄公が上杉との戦いで善光寺が焼けるのを恐れて甲府に建立した、善光寺2号だ!
建物はあの山門と本殿をほぼそのまま再現したものだ。
こっちが白木造りで甲斐が朱塗りと外見の違いもあって見比べるのもいいぞ?」
「司ちゃんにゆっくりガイドして欲しかったわ~」
もっと言ってやってお母さん!
甲斐の方には無かった仁王門や五重塔までじっくり見物し、善光寺名物御戒壇巡りもしっかりすませて
国鉄特急しなので私達は松本へ向かった。
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※全話に続いて、今や廃線となった長野電鉄屋代線。途中飯坂まで一家が乗っていたのは、長野電鉄オリジナル特急2000形です。実際に屋代線を走った事は引退記念運転位でした。
なお屋代線から湯田中へ直行する普通電車もありました。
更に昔には上野発国鉄特急志賀が屋代駅で一部を分離し、屋代線から長野線に乗り入れて湯田中へ直行する運行もあったそうです。
※現実の長野線を走っている特急は小田急の10000形HiSEという物(2012年引退)で、このお話では有名な3100形NSEです。長野電鉄でもパノラマカーを開発しようとする計画はあったそうですが、このお話では完全にフィクションです。
※湯田中温泉で人気のお宿、よろづや。露天風呂に向けて巨大な唐破風の車寄せが聳える桃山風呂が有名ですが、伏見城が健在のため「桃山」=史実で廃城となった伏見城の跡地に桃が植えられた事による名が存在しないので、この世界では太閤風呂という名前になってしまっています。
昭和14年に建てられたこの宿、旧館松籟荘が2021年火災で全焼してしまい、新しいデザインで再建に向けて動いているそうです。
幸い桃山風呂は延焼を免れ今でも楽しむ事が出来ます。
※このお宿で頂けるお酒は玉村本店の「縁喜」(ラベルには「縁㐂」)です。志賀高原ビールもこちらで醸されていると知りました。尚「㐂」は異字体ではなく、新字ですね。
https://tamamura-honten.co.jp/
※善光寺。過去78話で甲斐善光寺は紹介しましたが、周囲の空間が広い分、巨大感はこちらの方があります。なお五重塔は13世紀半ばに完成しましたが二度の火災で失われたままになっています。
この世界では18世紀初頭の火災もスプリンクラーのお蔭で大事に至らず、改修記念に勧進を受け再建されたものとして現存します。
現実では善光寺本堂は12回も焼亡と再興を繰り返しています。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。