159.ガイド小浜城 さらば日本旅立つ船は
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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『最後の城も、水門で迎えてくれるか』
『たまたまでしたけど、私もキャプテンが船から直接城に入る姿を見られるのを、嬉しく思いますよ』
『有難う、我が旅の女神』
『その称号は奥様へどうぞ』
昨晩から遠慮会釈なく嫌悪感を私に飛ばしまくるメアリィ~に嫌味を込めて言ってやった。
七棟の二層櫓が並ぶ小浜城二之丸南面。南川に面した所に、二層の石内櫓、そして船付場が見える。
東側に太鼓櫓と大手の大きな橋がみえるそこに接岸、一行は下船する。
一度三之丸大手前に戻ると、小浜城入口を固める大手周辺の威容が解る。
大手門を囲む、江戸城の様に出窓とその上の破風が付いた優雅な櫓が並ぶ景観に、下見板張りの素朴な光景と相まって一同は感じ入った。
『小浜城は宮津、田辺と共に京極氏の支配に入った城ですが、京極氏は幕府の城工事に振り回され、自分の城がロクに完成しない間に徳川方の酒井家が封じられました。
この小浜城には、駿府城天守や慶長期の初期江戸城、豊臣家の大坂城四層天守をはじめとする徳川幕府の命建築を手がけた大工頭中井正清、彼の弟である中井正純が支援しました』
再び二之丸へ。
『小浜城の天守を三層天守にするか、五層天守にするかが検討されました。
幕府の威光を日本海に示す為、また、藩財政に余裕があったため、五層天守が上げられました』
初層と二層が同じ大きさで、大入母屋みたいな千鳥破風が輝き、下見板張りの古風な感じなんだけど実は17世紀半ばの新しめな天守が、内堀の向こう側に聳え立っている。
天守から見下ろす小浜湾。外海は見えないが、あの島の向こうに広がっている。
『こうしてミスツカサンと海を眺めるのも、次がいつになるかだなあ』
ジェフ伯がメアリィ~を連れだって語り掛けてきた、相変わらずメアリィ~の殺意が突き刺さる。
よし売られた喧嘩だ。
『またお休みの取れる時にはお声がけ下さい。
何でしたら、お~ひ~と~り~で~もぉおお~?』
うぉ、スンゴイ顔してサムズダウンしやがったよメアリィ~。
それ見てバージニア子爵夫人がドン引きしてる。
ひっひっひ~。ザマーミロ!
本丸御殿で紅茶を頂き、本丸北門から北側へ、更に北之丸から北側、多田川を渡る。
『幕府の肝入りなのでしょうか。この四方を固める二層櫓の列と、五層の天守。
日本海を固める要害に相応しい威容です』
私達は、最後の城巡りを惜しむ様に、北の丸から三之丸東側を回り、ズラっと並ぶ二層櫓を眺める。
『確かに、出窓の上に軒破風を置く事で、変化に富んで建物の幅を大きく見せ、上層を小さく優雅基見せる構造は…、宮城の西の丸伏見櫓と同じだな!』
流石ジェフ伯。作事マニア。
『中井正清の弟というのも納得がいく。天守の三層目以降の逓減率の美しさもいい』
『この小浜城は、徳川流の作事の美しさを日本海側に示す良い事例です。
天守も上品ですし、三層櫓があればもっと徳川的だったかもしれませんが、二層櫓にも気品があります』
『そうだ、その通りだ。ここに来てよかったよ』
日本の城建築大好きお爺さん、ジェフ卿ニッコニコ。
『ああ。ジェフ伯が良い笑顔をしているよ』と、普段になく突っ込むサム子爵。
昨夜の一見で、気持ちの変化があったのか。
『サム、敬称は要らないよ』
『そうだな、天に召されたらな』
二人は笑い合ったが、それって老人ジョークだよね。
『駄目よ、長生きしますよ』
屈託のない笑顔で、バージニア子爵夫人が言った。
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ホワイトキャッスル号の前で。
ジェフ伯が往年のイケメンを彷彿とさせるナイスミドルな笑顔で言う。
『お別れは昨日にお伝えした。ミストキオ・ツカサ、ツカサン。本当に有難う』
そしてサム子爵、バージニア子爵夫人、ジョン卿、サンドラ、アラン君が握手してくれた。
『また会おう!その時はガイドでなく友人として会いたいな!』
『ガイドでも何でも歓迎します!是非いらして下さい!』
豪華メガヨット、何泊か過ごさせて頂いたホワイトキャッスル号が日本海に向かって旅立っていく。
私は、涙が抑えられずに、多分スゴイ顔して手を振った。
色々あったなあ。一生分の贅沢もさせてもらったし。
ありがとうごさいます、ジェフ伯。サム子爵、バージニア様。ジョン卿、サンドラ、アラン。
そして最後まで何だかヘンな顔してたメアリィ~。
どれだけ見送ったのか解らない、でも、もうホワイトキャッスル号は視界から消えて行った
「お嬢ちゃん、門閉めるよ~」
小浜城のスタッフのおじさんの声で我に返った。
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「司さんー!」
大手橋の向こうで、お延さんが手を広げて迎えてくれた。
私はもう多分無茶苦茶な顔で彼女の胸に飛び込んだ。
「よがっだよー。ウレジガッタヨー!」
「良く頑張りましたねえ。とっても大事にされましたねえ」
「ガングァッダヨー!ミンナミンナ、ヤザジガッタヴョー!」
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帰りは時サンのバスコンで皆さんと一緒に帰京…帰玉した。
雅姐姐は「いやーよくやった!想像以上!100点満点で150点の出来よ!
ほなさいならー!」
と人を持ち上げて一瞬で去った。嵐の様な女だ。
道中、船内であった様々な事を、バージニア子爵夫人の部分は伏せて話した。アラン君の件は私も当事者なんで思いっきり話した。
「シンデレラみたいですねえ」「ステキな王子様はいませんでしたけどね」「お爺様ばっかだしね」
なんてフザけて笑った。
お次さんとグラシアも褒めてくれた。
「途中見た司ンは、結構打ち解けてて見てて安心したよ」
「アソンブロソ(すごい)!英国貴族と打ち解けるなんて!」
「ホント大したもんだ。司ンの凄いところだよ」
「そそう?ウヘヘ」
途中、車中泊。
久々の大浴場温泉でビバノンノン。
メガヨットのお風呂も、米子城の天守を眺めながらの温泉もよかったけど、庶民にはこの大浴場がしっくり来るわ~。
船の豪華パーティーとは違った、キャンプ料理。焼き肉うまうま。
「「うまうま」」
「は~。グラ玉のうまうま久々で癒されるう~」
「美味しそうに食べますものねえ」
「あたし夏になったら岩ガキたべたいー」
「一緒に食べに行こうね!関東だと千葉とかが美味しいらしいよ?」
「お?グルメ情報もリサーチしたね?流石ガイドだ」
時サンがからかう。
「今回道中であんまりグルメ知識が役に立たなかったからね。
ま、美味しい目にも遭えたからよかったけど」
時サンは冷えた嘉美心を飲んでくれている。道中、岡山で買ったお土産だ。
酒だけで結構買ったので消費してくれて有難いね。
私もご相伴に与る。久々の日本酒、うんま~。
「司さんは割と難しいミッションを成功させただけじゃないよ」
「そんなぁ難しいなんてぇ」
「さっきお次さんも言ってた通り、英国貴族だ。世界の海運を握る大商人でもある。
そんな人に気に入られたってのは凄い人脈だよ。
前回の徐姉妹と言い、ガイドだけじゃなくて貿易商にもなれるレベルだ」
「私…何かやっちゃいましたー?!」
「それだけじゃないしネー」
お次さんがニヤニヤという。
「何なの?お次さん」
「帰ったらテレビとかネットとか見るといいヨ~」
「こらお次!司さんはお疲れなんだから、あんまり揶揄わないの!」
「…一体何が起きてるのよ~」
「そうだ。時サン、ジェフ伯とサム子爵が言ってました。
『貴方に感謝する』、と」
すると時サンは複雑そうな顔をした。
「領民救助に関してですか?」
探りを入れると
「ああ、多分。あん時徐姉妹が亡命者からの救援をピーコック伯に伝えた事、日本の船団が救援を決意した事。
優秀な人達だ。こっちの仕業だってバレてるんだよ」
「そうだったんですか…」私には、何となくそんな感じで陰で動いてたのかな?とか思う位だ。
「今回のツアーも時サンが仕組んだりしてません?」
「それは無いよ。運命だ。もしかしたら旅の女神、司ンのお蔭なのかもね」
時サンが笑った、やっぱこの人色々知ってやがるよ、ジェフ伯が私に言った事とかどこで聞いてたんだ?
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お次さんの不吉な一言も忘れて爆睡し、翌日自宅の狭い道まで送り届けて頂いた。
時サンには感謝しかない。
「え~?またあの人達着てたのかよー!」
弟はまた美人姉妹に会えなかった。ザマミロ。
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※実際の小浜城天守は三層です。領民保護を優先し、五層天守の出費を抑えたと言われていますがホントはどうなんでしょうか。
この世界では、実在した三層の天守ではなく、幕府の規制もゆるく、財政も余裕があったため五層天守になっています。
実は小浜城天守には小田原城や赤穂城同様、五層天守案が現存しています。
https://ameblo.jp/orin-pos/image-12179951470-13695879195.html
※因みに、この城郭復元模型作家の島充様のブログ
https://ameblo.jp/orin-pos/entry-12179951470.html
に、「豊臣は黒い城・徳川は白い城」という俗説に対する反論が乗っていますが、NHKが流したこのフェイクニュースは城好きにとって瞬間的に「馬鹿か!」って思うものでした。
まあ西ヶ谷恭弘先生が「わかりやす~く」作ったナンチャッテ説なんで目くじら立てるのも馬鹿馬鹿しい話なんですけど。
太閤殿下の白い城の存在を愛してやって下さいよ、小田原御在所以下を。
※小浜城全体の鳥観図は、明治初年のスケッチがこの通りです。
https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/87/d9223649d28e9e2b9bbe246c8595e9b0.jpg
※小浜の南川、その南側が航路になっていて港が設けられていますが、小浜城二之丸の岸辺である北側に50mの船が接岸できるかは…この世界の謎です!
※岡山の笠岡市、神功皇后が三韓征伐で立ち寄ったと言う伝説がある大浦神社の近くの蔵が嘉美心酒造です。本編中に紹介する場所が無かったので帰り道にちょこっと出しました。
https://kamikokoro.co.jp/
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。