157.お宿は最後のホワイトキャッスル2 あんたの事嫌い
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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ビバノンノン。このメガヨットの豪華船室も今夜でおしまいか~。
何だか一生分の贅沢させてもらったなあ。いや、徐姉妹との旅も含めたらそれ以上だよ。
貧乏人の心臓に悪い旅でした。帰ったら父さん母さんに自慢してやろ。
そんで、ここまでじゃないけど、贅沢旅行をいつかプレゼントするんだ。
でもあと二城の案内が残っている。
キッチリ楽しんで貰わなきゃ。
でも何故か寝られない。
ちょっと最後だしヨットをじっくり散策しよう。
と思ってあんまり行かない船首に行ったら。
でっかいプールがあって…湯気出てるからバスタブか。お湯がブルーの照明で光ってる。
ゴージャスだなあ。
『いらっしゃい』
え"?!
メアリ夫人がいたよ。
『あなたもどう?』
嫌な予感がする。
『水着を持っていないので~』
『二人だけだし要らないじゃない。お別れの夜だもの、お話しましょう』
確実に嫌な予感がする。
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星空の下、豪華メガヨットの露天ホットタブでノンビリ。
…だったらリッチだろうなあ。
だが今の私はヘビに睨まれたカエル状態。
『ジニーのトラウマを癒してくれて、ありがとう』あ、バージニア子爵夫人の事か。
『そういうつもりではなかったので~』
『あの子はずっと怯えていた。ジェフもサムもあの子を大切にした。
だから私もあの子を大切にしたわ。
アジアって酷い所。何であんないい子があんな目に遭わなければいけなかったのかしらね』
何言ってだこのご夫人は。
だが反論はちょっと控えよう。
『ジェフは英雄よ。だけど愚かな前妻は彼を捨てた。
愚かな国も彼と彼女を不幸に貶めたわ。
でも彼はアジアを愛して私を何度もあの地に連れて行った。
私も自分の出来る事でジェフをサポートしたいと努力したわ。
でもはっきりってアジアは地獄よ!』
この人か。
この人の憎悪が、この旅の裏側に潜んでいたのか。
『あなたから色々な話を聞いてよく解った。
アジアは異常よ。
彼女のいた国は、目の前に火の手が迫っていても、何もしない。体が焼かれても何もしない。
他人を頼るばかり。
逆に日本は先の先を読んで、ひたすら異常なまでの努力をする。
何で400年も昔に世界で最大の軍事国家を造れたんだか。
あなたも二十歳そこそこで軍事や政治の専門家みたいな未来予測をする』
あー。ミキが言ってたな、フィリピンだと男は働かないって。他もそんなもんなのか?
そして私の言ってる事は時サンという異常者の受け売りですスミマセン。
他の日本の皆様と一緒にしないで下さい。
『私達は伝統を重んじて、ヨーロッパの枠の中で生きていきたいのに、怠け者だったり異常に勤勉だったりするアジアが入り込んで来る。
私はね、そんなアジアなんて無ければいいと思ってる。日本がアジアを統一してどっか行って欲しいと思ってる。
ジニーの言う事は解るのよ』
わかりませんよそんな有り得ないリクツ。
1000年近く日本を亡ぼせなかった隣のデカい国にでも言って欲しいよ全く。
『あなたはどうなのよ?』
『日本は、新しい物が好きなんじゃないですかね』
あれ?我ながら何かホイっと答えてしまった。
『何よそれ』馬鹿にした様にメアリ夫人が吐き捨てる。そうですよね。
『なんか地球の反対側から知らない国の人が来た、大歓迎。
アジアだか何だか他の国は知りませんが日本はそんなもんです。
で、行ってみたい、知ってる事を教えて欲しい、持ってる物を作ってみたい。
でも敵だったら戦わなきゃ。そんなもんじゃないでしょうかね』
『そんなのどこの誰でも同じでしょう?バカにしてんの?』
失礼な事言ったかな?
『いえいえ、鉄砲自作しちゃった国なんて日本だけですよ。
ちょっとオカシくありませんかね?
大陸側の方がその程度簡単に出来そうなのに、不思議ですよ』
『そうね。どうでもいいけど?』
メアリ夫人が無視しやがった。
『それに日本なんて、新しい物の前なら今回色々訪れたお城や寺、神社なんて平気で壊しちゃいますよ?』
『あんなに沢山保存して維持してるのに?』
『それはそういう法律を昔に考えたヘンテコな人が居るからです』
誰とは言わない。
『日本は地震も落雷も火事も台風も、何度も来ます。
だから本当は城も寺も半分以上壊れています。
経済的に考えれば、全部壊してもっと最新の建物、現代の鉄筋ビルで政治すればいいんですよ。
実際、多くの御殿は壊されて偽洋風の市庁や県庁に変わってますし、武士も廃止されて現代的な軍政に切り替えてますしね』
『貴方の言ってる事はおかしいわ。頭、大丈夫?』
う~ん。今の日本の、異様なまでの文化財保護政策がある以上、今のは暴論だったかも。
『あくまで、もし日本に旧物保存令が無かったら、という話です。
日本の気候、湿潤な風土は木造建築を蝕みます。
日本の風土は、伝統に縋る事を許さないんですよ。
だから前に進まざるを得ないんです。
ヨーロッパの安定した風土は、日本から見たら羨ましい限りですよ。
そんなヨーロッパの一部であるUK様からどっか行けって言われたら、そっちに行きたいですよ、全く』
そもそもアジアに侵入したのソッチだろ?って話しても聞いちゃもらえないだろうから、その話はしない。
暫く、メアリ夫人はボケーっとしていた。
『今まであって来た日本の外交官でも、そんな狂った話をする人はいなかったわ』
『20世紀後半以後の日本の外交官は低質ですので。
WW2回避に尽力した優秀な外交官をマスメディアが追放するキャンペーンを張った所為で』
『マスコミの共産化はどこも同じなのねえ』
『アイツラ、テメェが世界で一番エラいって思ってますからね。一遍死ねって思いますよ』
『ふふっ。そこだけは意見が合うわね』
『いえいえ、国会議員様のご苦労と庶民の愚痴では全然レベルが違いますよ』
メアリ夫人は深く溜息を吐いた。
『あー。もう全部やめちゃおうかしら』
何かまた明後日の方向に凄い事言ったー!
『努力もしない、他人頼りのアジアの親善とか援助なんて。
なんだかあんたの言う事を聞いてたら馬鹿馬鹿しくなっちゃった。
全部日本がやりゃいいのよ。
さもなきゃも一遍、共産主義に支配されて皆殺しになりゃいいんだわ』
『庶民に議員様の行く末とか国際問題を訪ねないで下さい』
『あんたのせいよ』
何かくだけたかな?
だが知らん。
『知らんがな』
『他人の夫に色目使いやがって』
『私は若い人と結婚したいです!』
『アランでいいじゃない!』
『彼はもうサンドラとラブラブですよ?』
『そうね。その事もありがと』
『言い寄られた時は怖かったんですよ!』
『彼だってセレブよ?あんた変な奴』
『やっぱそう?』半分自覚ある。
『もうどっか消えて欲しいわ』
『明日でお別れですよ!』
『清々するわ!
皆に好かれて、色々な才能があって。
私、あんたの事嫌いよ!』
まあ、そうだと思ったよ。この人は私の事が嫌いだ。
でも、私はこの子供みたいなご夫人そんな嫌いじゃないので、イヤガラセに言ってやった!
『そうですかぁ~?でもぉ、仕事ですのでぇ。
最後まで!一緒に!いますよぉぉ~!』
ニヤニヤしながら体をクネクネさせてアヤシイ踊りを踊ったら、吹き出しやがった!
勝ったー!
とそこに人の気配が。
『おー賑やかにやってるな!』
『あー!キャプテン!』
助け舟だ!と思って立ち上がった!
あれ?ジェフ伯が固まった…
私…
『ギャー!!!』
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まあお孫さんまでいるお爺さんに見られて減るモンでもないと割り切ろう。
メアリ伯爵夫人からの突き刺す様な視線には命削られそうだけどね。
『水着、持ってくる様に言うべきだったわ…』
先に詫びられた、凄く鋭い目で。
『お詫びは、出来るだけの事をするよ…』
『まあ、なんというか…お気遣いなく。それより飲みませんか?』
もう日付変わりそうだけど、このまま寝られるかあ!