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156/251

156.お宿は最後のホワイトキャッスル1 私はお詫びする

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 豪華メガヨット、ホワイトキャッスル号は宮津を離れ、お隣の田辺港へ向かう。

 洋上の豪華ディナーが始まる。


『皆!今宵は我等を歴史の旅に案内してくれたミスツカサ・トキオとの最後の夜だ。

 彼女のお蔭で私達は普通では学ぶことのできない日本に触れたと思う。

 この旅を記憶し、次の世代に伝えたい、そう思う。

 彼女に感謝の杯を捧げよう!ミスツカサンに乾杯!』

『『『乾杯!』』』

 ジェフ伯の音頭と共に、皆が私に乾杯を捧げてくれる…


 ドヒャー!

 セレブな皆様に乾杯を頂いてしまった~!

 ヘーコラ愛想笑いするしかないよ~。


『楽しかったわ。今夜でおしまいなって信じたくないわ』

 サンドラが抱き着いて来た!

『ありがとうサンドラ。そんな風にって言もらえると嬉しい!』

『私も遠い場所に友達が出来て嬉しいよお!』


 例によって海鮮や、この季節にない牡蠣等を堪能し、シャンパーニュを頂き、贅沢な夕食に与らせて頂いた。


******


 宴も酣、な筈だが。


 ラウンジの一画でバージニア子爵夫人が俯いていた。

 サム子爵が彼女の隣に付き添っていた。

 夫人は、あ。顔付きが変わった。


 何かを決意した様に、サム子爵に向き合い、言った。

『私はミスツカサにお詫びする。その時全部正直に話すわ』

 サム子爵は頷いて、二人を見ていたジェフ伯爵に向かう。

 ジェフ伯爵も頷く。さらに近くにいたジョン卿も頷く。

 メアリ伯爵夫人が何とも言えない顔をしている。


 さっき聖堂でジェフ伯が「もっと早く助けに行けば」と言っていたから、まあ解るんだけど。

 あ、こっち来た。


『先ほどは取り乱した事をお詫び申し上げます、ミスツカサ』

『ご気分が落ち着かれたなら、何よりです』

『ありがとう。とても貴方は優しい』

 接客業ですから。

 そう思い夫人に伝える。


『私は、貴方達にとって快適で思い出に残る旅をして頂くために雇われています。

 それ以上のお気遣いは不要です。

 ましてやお客様のプライバシーに関する事柄には、触れない方がよいかと思います』

『それでも聞いて頂けないでしょうか?一人の人間として、解って欲しいのです』


 そこまで言われちゃうとなあ。

 でも世界のセレブ、伯爵の隠し子で子爵夫人、それが奴隷の子とかいう話ですよ?

 私が知って、何か犯罪とか脅迫に巻き込まれてもイヤだしなあ。


『私からも彼女の話を聞いて欲しい』

 いつも気弱なサム子爵が夫人の肩を抱いて言った。

 あー。この人決心すると無敵なタイプだな。


『解りました。それであなたの気持ちが安らぐのであれば』

 何だか私神父様みたいな気分だよ。


『ありがとう、ミスツカサ』


******


 思った通り、バージニア子爵夫人はジェフ伯の娘、彼の一族が東南アジアに持っていたピーコック地方の奴隷女性の娘だった。

 ジェフ伯は若い頃遠く離れた領地に初めて来た時、アジアの文化風俗にカルチャーショックを受け、海軍の軍務の合間に領地を訪れた。

 そこで待遇の酷かった奴隷の少女を助け、領地の改善のため父親に改善を訴えた。

 その努力の中で奴隷の少女と愛し合った。


 ジェフ伯は東アジアの核戦争に参戦し、補給艦隊や掃海艦隊の護衛を務め、更に艦砲射撃にも勇敢に従事した。

 停泊地の現地人への当たりも良く、協力を得て作戦を有利に遂行させ、更に家柄の良さもあって昇格した。

 彼の娘は、彼の知らない間に生まれ、育てられていた。


 しかし、東南アジアに延焼した共産主義の殺戮に対しては無力だった。


 彼は軍に辞表を叩き付けてまで領地民の脱出に腐心したが、既に愛した女性は共産軍に誘拐され、暴行され殺害されていた。

 そしてまだ幼かった彼女は他の領民達に守られ、他の徐姉妹の船団と日本の商船群に救助された。


 ジェフ伯は愛した人の娘を認知できなかった。

 極めて英雄的ながらも違法な行動の上、自分の婚外子となれば国を巻き込む醜聞となる。

 更に避難させた領民に対し、UKは難民認定せず本国での保護を断ってしまった。

 難民たちはUKの他領に割り振られる事になり、ジェフ伯の娘もその中に含まれる筈だった。


 そこに、救助作戦に協力してくれた海運会社のサム子爵が言った。


『君の正義と勇気と、愛情を無駄にしない。この子は将来私の妻とする。君の誇りを守ろう』


 20歳以上も離れた、東洋人との混血の少女をサム子爵は養女としてではなく、婚約者として迎えた。

 その辺りの国籍取得にも、後輩のジョン卿が情報網を駆使したらしい。


 …そっちの方が醜聞じゃないか?どうもそうでもないらしい。

 貴族様には歳の差婚なんてフツーだとか。


 遠い英国を想って、母からバージニアと名付けられた幼い彼女。

 幸いブロンドで青い目だったので、アジア系だと思われずにピーコック伯爵家とポートメイリヨン子爵家の庇護の下育てられ、成人してサム子爵の妻となった。


 一方、ジェフ伯は貴族令嬢だった妻と離婚する破目に陥った。

 ピーコック伯が無領地伯爵家になった時、彼の妻は実家の思惑で離婚した。

 失意の中にあったジェフ伯を必死で慰めた、これまら20も歳が離れたメアリさんが結婚を決意し、二組の歳の差婚が生まれ、救出作戦で一緒に危ない橋を渡ったジョン卿と合わせて今の仲良し5人組になった。

 サンドラは、離婚した元夫人の孫で、ジェフ伯の英雄行為を侮辱した祖母を軽蔑しているとか。

 なんか映画撮れそう。


『でも、どうしても母が救われなかった事が許せなかった。

 そのため…結局は日本に対しては逆恨みしていたのです。

 改めて謝罪します』


 この人はレイシストではなかった。

 自分を助けてくれなかった日本に縋っていただけだった。

 その言動をメディアはレイシストと面白おかしく捉えていたんだな。

 まあどっちにしろいい迷惑だ。


 しかし何だ。

 父は悲劇を前に、自分の力不足を嘆き、

 娘は悲劇を前に、第三者の救いに縋った。

 この辺は経験の差なのか、民族の差なのか。


『謝罪を受け入れます。

 もし日本が援助していたら、あの東アジアの、何も得る物の無かった愚かな核戦争と同じ悲劇に巻き込まれていた事を、理解して欲しいです』

『知識が足りませんでした。

 貴方が教会で私に厳しく教えてくれなかったら、自分の無知を思い知る事も無かったわ。

 あなたは良いガイドで、良い歴史の先生です』

『まだガイドにすらなってませんし、教師の免許も持っていませんよ』

 ちょっと持ち上げられ過ぎて、笑ってしまった。


『ミス・ツカサン。貴方には資格も経験も超えた素敵な力がありますよ』

 バージニア子爵夫人も笑顔になった。目に涙を流しながら。

 私はバージニアさんと抱き合った。

 そして、張り詰めた空気が和やかに、暖かい物に変わって行った。


******


 シャンパーニュ…ローランペリエー!!を持って来てくれたジェフ伯が私に礼を言ってくれた。

『ミスツカサン、私の過ちを受け入れてくれて、心から感謝する』

『伯爵、あなたは勇気と決断で多くの人の命を救ったのです。

 誇る事はあっても、悔いる事も、恥じる事もありません』

『ありがとう』と、乾杯した。


 するとサム子爵とジェフ卿が来た。

 ジェフ卿が、満面の笑顔言った。

『何で彼女は今まで私達が言っても同意せず、会って数日の君の言う事を聞いてくれたんだ!

 これが東洋の女性の力なのか!』

『あたりまえだ!彼女は知性と慈愛の女神だぞ!』

 持ち上げ過ぎだー!


『ツカサンモテモテねえ!』

 やめてサンドラ、お爺様方にモテてもうれしくねー!

『ミスツカサは、ホストファミリーみたいなガイドだ。僕たちを心で迎えてくれるんだ!

 それに僕らにとっても、愛の女神だしね』

 先日思いっきり拒絶された筈のアラン君が何か私を讃えるし!

 そんで私の前でサンドラとラブラブすんなよ!愛の女神、サビシィ~っ!


 ところで。

『あの~サンドラ。今までの旅行のガイドさんって、どんな感じだったの?』

『長距離旅行の場合はつきっきりじゃなくて場所毎で交代してたよ。

 同行を頼んでも断られて、ちょっと同行しても途中で他の人に替わってた。

 まあ、あんまり印象無かったしね。

 この数日を一緒に過ごしてくれて私達を幸せにしてくれた人は、ツカサンだけよ。

 ガイドっていうより、何か…特別な人よ!』


 何か…特別やっちゃいましたよ私!!

 どーすんだヤーティー!ヘンな前例作っちまったよ!

 今回はいい人達だったけど、そうじゃなかったら私どうなってた事かー!


『…それが、フツーだよね。アハハハ…』

『普通じゃないのがツカサンのいい所じゃないの?』


『ミスツカサン、この旅は君にとって辛い物だったのか?僕が言えた義理じゃないけど』

 心配そうにアラン君が聞く。

『とんでもない!一生の思い出ですよ!こんな経験、普通出来ないですよ。

 あなたとのアレコレあった事も含めて、私は幸せですよ!』


『そうか、幸せか!』ジェフ伯が笑顔で言う。

『私達も君に案内して貰って幸せだよ!』ジョン卿も続く。

『ミストキオは私達の恩人だ』サム子爵、それは言い過ぎですって。

『私達は、また会えるかしら?』それは歓迎の意という事ですね?バージニア様。


『私は明日で皆様とお別れします。

 この旅を楽しんで頂けたら、そしてまた日本に来て頂けたら、私にとってとても嬉しい事です。

 またお会い出来たら神に奇跡を感謝します。

 皆様の旅はまだ続くと聞いていますが、ご自宅に帰るまでが旅行です。

 更に楽しい時間を過ごせる様祈ります』


 お、給仕さんがみんなにシャンパーニュのグラスを運んできた。

 ジェフ伯が私に乾杯の音頭をとる様に視線を飛ばす。


『皆様に神の祝福があります様に、乾杯!』

『『『乾杯!!!』』』


 中々辛い告白を受けた夕食会も、旅の思い出を語り合う賑やかな宴会に変わった。

『次はもっと日本の姫のキモノを着るわ』

『きっと似合うよ、バージニア』

『一度この城郭画を描いた人に会ってみたいよ』

『それは難しいだろう。出来る事なら私も合いたいがね』

『今回ジェフ伯爵が日本の海軍に今尚尊敬されている事を痛感しました!』

『アラン、それは向こうの好意に過ぎない。私達はこの好意にお返ししなければならない。

 君は何が出来るか、私達と一緒に考えよう!』

『イエッサー!』


 その時、私はメアリ夫人が先に休んだ事に気が付いた。

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