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155.ガイド宮津城 聖ヨハネ天主堂 殉教者?細川玉子

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


 陽の落ちる前にホワイトキャッスル号は宮津湾に入港し…

『前方コンクリートの堤防の右手に見えますのが、17世紀半ばに増築された、宮津城の海の護り、宮津砲台です』

 かつては宮津城は湾に直面していたが、砲台のため扇状の人工島が出来、更にコンクリの防波堤が出来、宮津城三之丸が港湾設備となっている。

 そして洋上からは建ち並ぶ白亜の二層櫓が見える。

 やっぱり海には下見板張より白亜塗籠だなあ。


 本丸北端には、船着き場とそれに直面する櫓門が湾に突き出ていて、ここから直接城に入る許可を頂いている。


 建ち並ぶ二層櫓の美観を眺めつつ、本丸御殿へ。中央の大広間に小さな望楼があるのが特徴だ。

『この城には天守は無いのね』とサンドラ。

 海に浮かぶ美しいこの城がイマイチ知名度ないのはそのためだったりする。


『宮津城は、元々この一帯を支配していた一色氏を、本能寺の変で有名な明智光秀と細川藤孝が攻め滅ぼし、藤孝によって築城されました。

 完成後城はその子忠興に譲られ、光秀の娘だった玉子、洗礼して洗礼名をグラッツィア、日本の表記でガラシャと名乗り、今では細川ガラシャとして有名な夫婦により治められました。

 後にガラシャ夫人は大坂の乱の際、豊臣軍に大坂の屋敷を攻撃された際、悲劇的な死を遂げました』


******


 陽が傾いて来た。

 城見物より御婦人方のご要望で、大手川の外側にあるカトリック宮津教会へ。

 ロマネスク様式の、一件石造に見える正面を持つが、横に廻ると白く塗った下見板張りの木造建築と解る。

 その聖堂の前には、悲劇の切支丹夫人で有名な、細川ガラシャの像が宮津城を眺める様に建っている。


 ローマンカトリックの教会。一応、国教途である皆さんに確認を取って承知頂いている。

 事前に教会へ連絡したお蔭で、主任司祭様が一同に挨拶した。

 相手は貴族で軍人の一族だからね。


『イギリスからの御来訪、感謝します』フランス人の主任司祭の英語での挨拶に、

『私達は皆、神の前に生まれた子供。宗派の違いへの配慮は不要に願います』

 と答えるジェフ卿。

 司祭は一人一人に簡単な祈りを捧げ十字を切った。

 一行もそれを有難く受け止めた…様だ。そう思おう。


『神父様。何故日本は過酷な弾圧をして多くの信徒を殺したのでしょうか?』

 突如、バージニア子爵夫人が尋ねた。

 一同は驚いた。サム子爵がオロオロする。


 しかし、主任司祭様は落ち着いて答えた。

『それは、当時のキリスト教会が日本人を奴隷として売り払ったからです』

『日本人など、大名の奴隷だったではないですか?

 それを宣教師が解放したのではないですか?

 私の母も奴隷でした!アジアの人間は、何の理由もないまま殺されたんです!』


 一同がハっとした。とんでもない間違った発言だ。

 そして今の話から分かった。

 バージニア子爵夫人は、日本人?アジアとのハーフだった。もしかしたら…


『私は歴史の専門家ではありません。

 その話は、貴方達が信頼する方からお話された方が良いと思いますが?』

 と言ってこっちろ見る。一同も私を見る…?!


 ヒェ~!神父様無茶振りー!!!

 この場で即答しろって難易度高すぎ!

 何故初対面なのにそんな無茶振りすんですか?!

 兎に角知っている限りの事は応えなければ。


『エー。日本人は決して大名の奴隷ではありません。

 大名は領民統治のために壮大な土木事業を行い、それを成し遂げた大名は領民から尊敬され、信仰の対象にすらなりました。

 大名は、領民との信頼関係を無視しては存続できなかったのです。

 今アジア諸国も、政府は国民を弾圧しては立ち行かない事を学んでいると思います』


『日本はアジア最大の力を持っているわ。何で各国を導かなかったの?』

『それは質問の内容が変わっていますが…

 日本が他国に介入するのは、直接日本と他国が敵対して戦争になった時だけです。

 攻められない限り係る事はありません』

『それは見殺しにしたのと同じではないの?』

 嗚呼。子爵夫人がヒートアップしてる。

 そして旦那様のサム子爵は、私を縋る様な目で見ている。

 多分、過去何度も説得したのかも知れないなあ…


『全ての国は、国民が自分で未来を選ぶべきです。他国に頼った時点で国は主権を失います。

 そうやって歴史上、多くの国が消え、逆に多くの領土が国として独立しました』


 何か神父様ウンウンと頷いてるよ?


『しかし日本では、あまりに殉教が多すぎます!

 日本は、アジアは不寛容で残酷なのではないですか?』


 あー。

 この人は、助けて欲しかったんだ。

 死んでしまった母親を。

 自分の中に渦巻く、整理できていない色々な問題を。

 それを、一番軍事経済力がある日本に責任転嫁して、日本を悪者にして安心したいんだ。

 だが、断る!


『日本は弾圧なんかすべきでなかったわ!もっとキリスト教を信じて、国を開いて、アジアのリーダーになるべきだったんだわ』

『それは不可能というか、極めて非現実的です。

 先ほど司祭様が仰った様に、キリスト教を全面的に受け入れていれば、日本はアフリカ諸国と同じ奴隷市場になり、国が消えていたでしょう。

 逆にアジアのリーダーを名乗れば、アジア侵略を進めていたUSに無数の原爆を落とされてUSの経済属国にされていたでしょう。

 一度負けてしまえば、その後日本が独立を名目上保てても。

 傀儡政権がUSに貢ぐため増税を繰り返し、数万の国民を自殺に追い込む奴隷国家に成り下がっていたでしょう』

 この辺も時サンから聞いた話の受け売りだ。


『嘘よ!日本は世界を牽引する大国じゃない?』

 相手は興奮を抑えられない。ダンナも夫人を抑えられない。しっかりしろよ子爵。

 ここは落ち着いて話そう


『20世紀半ばにWW2に参戦し、世界最大の空母爆撃部隊を持ち、核武装したUSには勝てません。

 それでも国は強敵を相手に独立を主張し続けなければなりません。


 アジアの国々は半分は共産勢力下で奴隷国家になっています。

 独立するか隷属するかを決めるのは、その国の国民なのです。

 日本が介入したら日本の植民地になるのと同じ、今と変わりません。

 援助だけ受けて独立は自分のもの、そんな虫のいい話などないのです。

 日本は16世紀に植民地にされかけたので、そんな虫のいい話を絶対に拒否します』


 もう殉教関係ないし。

 流石に歴史や政治論議になってしまって、神父様は難しい顔をしていらっしゃる。

『日本人が幸せに生活した同じ時に。私の、お母さんは。見殺しにされたのよ…』

『それは日本が独立を維持するために頑張ったからです。

 同じ日本人でも苦しみぬいて自殺した人はいましたが、それは個々の問題です』

『神様は…すべての人を救って下さるのでは無いのね…』

『当然です。そんな事があれば十字軍はエルサレムを奪還してペストは地上から消えています。

 恨むなら貴女の母親を殺した共産主義を何故憎まないのですか?

 貴方を救助したのは日本の船では無かったのですか?

 何故あなたを救った日本に多くを求めて日本を憎むのですか?

 それが一番楽だからではないですか?』


 ちょっとカマかけた。

 でも当時私的に共産化された国の難民を支援した日本企業は他にもあったし、一般論の範囲内だろ。

 そしてバージニア子爵夫人は応えない。


『日本はかつてWW2の時、ユダヤ人の出国を援助してドイツと戦争になりかけました。

 ソビエトからもドイツに協力したと言いがかりをつけられ、オホーツク海に艦隊を出されて交戦しました。

 ユダヤ人保護は正しい事でしたが、日本国民を危険にさらす事でした。

 もう、日本は他国民のために日本人を危険にさらす事をしないと宣言しました。

 それでも、一部の有志の方々のために危険を承知で活動される方はいます。

 貴方を助けた人々の様に』


 何だか、時間が止まった。


 バージニア子爵夫人はジェフ伯を見ていた。

『私が、もっと早く動けば。

 二人とも助けられたんだ』


 バージニア夫人は、顔を覆って泣き出した。

 ジェフ伯と、サム子爵が彼女を抱きしめた。


 神父様は、優しい眼差しで三人を見つめている。そして。


『あなたの涙は、今苦しんでいる人を救うために流されるべきです。

 貴方を助けた人と同じことを、貴女が行う。神はその行いを讃えるでしょう』


 神父様、良い〆をなさるー。


******


『豊臣も徳川も、信仰を捨てろとは言わなかったのですよ。

 領主や幕府への批判を止めろと言っていたのです、世界でも希な容認政策だったのですよ』


 聖堂を出る最後に、身も蓋もない事を神父様が言った。

 でもそれを最初に言ってもバージニア子爵夫人は聴いてくれなかっただろうなあ。

 流石は神父様だ。


『後、ガラシャ夫人は殉教ではなく、人質となる事を拒否して部下に殺害を命じたのです。

 戦国武将の決断の一つでしかないのです』

 あー、これは明治以降のキリスト教会が持ち上げすぎて本質を見失った事例だなあ。

『おまけにと言っては何ですが、石田の軍と敵対するため、邸に火薬を集めて爆破して、これに驚いた石田方は大名の家族を人質にとる作戦を断念したそうで、これも大坂の乱を短期で終わらせる武功といってもいいでしょう』

 オウフ!流石戦国の女!もうお腹いっぱいです。


 私達は司祭に深くお礼を告げ、聖堂を後にした。

 周囲を見渡す。あ。

 大手門の前で時サンと4姉妹がコッチ見てる。

 時サンは何だかニヤニヤしていやがる。

 謀ったな?謀ったな時サンー!あ、逃げた。


 もう陽は沈みかけている。

 ホワイトキャッスル号は宮津城を離れていく。

 宮津城の二層櫓の列は、見送ってくれるかの様にライトアップされ、赤く染まった空の下、美しく白く輝く景色を見せてくれてた。

 時サン達も港から見送っていた。

 コノウラミハラサデオクベキカ。


******


※今回城少な。

 天守も無い、元々地味な城の上に城跡もほぼ完全に破壊しつくされた宮津城。

 本丸北は国道178号線が覆い、二之丸と三之丸にはJRが突っ切って駅が出来ています。

 往時の縄張図は下記の通りです。左上にちょっと砲台が見えます。

https://ameblo.jp/highhillhide/image-12385643591-14215865345.html


※復元CG、個人有志の方が作成されたのが下記です。

 三之丸西を流れる大手川から見た城内。手前中央が古写真が残る大手門

https://www.geisya.or.jp/~furukawa/time0/nisikara.jpg

 二之丸・本丸

https://panajam.exblog.jp/iv/detail/?s=20485173&i=201412%2F08%2F32%2Fa0188932_18462241.jpg

 本丸御殿

https://panajam.exblog.jp/iv/detail/?s=21581932&i=201508%2F25%2F32%2Fa0188932_21261127.jpg


※細川ガラシャ夫人の最後は部下に刺殺を命じ自殺しなかった説がドラマにもなって有名ですが、実際は切腹し介錯された様です。一節には二人の子を刺殺した後自害したとも言われ、いずれにしろ殉教とはかけ離れたものです。

 それでも今なお信仰のお手本みたいに言われているのは、それでいいのかキリスト教と言いたくなります。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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