150.お宿は米子城 天守と夜景と温泉と
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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私達は浜田城を後にして今夜のお宿である米子城を目指した。
100km近い距離をブっ飛ばす!時速30kmオーバーって自動車だとそんな早くないけど、海の上だと速い速い!
ラウンジでは今までの旅路の映像に替わって、サンドラ嬢の成長アルバムみたいなモノが移されていた。
サンドラ嬢、もう恥ずかしくて真っ赤っか。それを眺めるアラン君ニッタニタ。
いい加減しにないと早くもカップル崩壊だぞ?
あとお酒うまうま、んで他人の不幸うまうま。
グラ玉ちゃんはこんな事にうまうましないでね。
あ、イキナリ昔の8ミリフィルムっぽいのに変わった。
あれ…10歳くらいの女の子、メアリ伯爵夫人じゃない?うわ美少女ー!
一緒に遊んでるのはバージニア子爵夫人か。
貴族の令嬢は、子供のころから貴族なんだなあ。サイタマ県民とは違うぜチキショウ。
うげ、後ろにいるの若きジェフ伯?うわーイケメン!
初夏とはいえ西日本は日が長い。
船は境港の有名なすっごーい高い橋を潜って、宍道湖の東隣にある中海へ。
これ100m超えるクルーズ船も楽々通れる高さだよね!
もう東側が暗い。街の明かりが綺麗。
そしてその先に…
『『『おおー!』』』
ライトアップされた米子城の天守が遠くから見える。下見板張りの天守なので、壁の上部とか軒先鼻隠とかが白く輝くのが見える程度だけど、周囲の櫓や白壁と、軒下の漆喰のお蔭で、形が解る。
『普通天守は上が白い物なのだがなあ』
『米子城天守は最上層が軒下まで下見板張りで黒いので、ライトアップされた時は損ですね』
ジェフ卿の感想に応える。私も同感ですよ。
ホワイトキャッスル号は城の南側に廻る。本丸のある湊山の南側、そして城の東を守る様に聳える飯山との間に挟まれる様に広がる、二層櫓が見下ろす深浦と呼ばれる平地の曲輪に接岸し、下船。
この辺は海軍基地もないので歓迎行事がないな。心臓に優しいなあ。
そして湊山の上の本丸、天守が今日の宿。国宝ホテルですよ!国宝!
一同は下船し。
『皆様お疲れ様でした。本日は天守での宿泊となります。
本丸にはこの近くにある皆生温泉から輸送された温泉を満たした大浴場もあります。
どうぞ、日本海の海の幸と温泉の癒し、そして400年の文化財でお寛ぎ下さい』
『ツカサン、この城のオカミサンみたい!』
『『『ウワッハッハ!!!』』』
一同が笑ってる。後ろに控えていた城ホテルのスタッフの皆さんも笑ってる。
ルールル今日もいい天気ー、陽は沈んだけど。
…ハズカシィ~っ!!
一行は城ホテルのスタッフさんの案内で、湊山裏側に設けられたエスカレーターで山上の本丸下段まで一気に登る。荷物もスタッフさんが運んでくれてラクチン。
目の前に、四層の小天守、いや古天守。その脇の鉄門を潜って本丸へ。
目の前に、古天守より一回り大きい、やはり四層の天守と、それに続く新築の付帯建築。奥からは湯気が昇っている。
『ピーコック拍車ジェフ・ショア様とメアリ伯爵夫人…』
この城ホテルの代表者だろうか、一行7人の名前を読み上げる。私は入ってないだろなあ。
『…そして案内士の時尾司様。
本日は米子城天守ホテルへようこそ』
入ってたー!!
私達は案内され…
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ビバノンノン。
本丸内側、天守と古天守は下見板張りの壁の内側に増設された渡り廊下で結ばれ、私や男性陣は更に西側に延長された渡り廊下の先の露天風呂から天守を眺めている。
さっきの湯気は露天風呂だったんだ。
お湯が塩っぱい、塩化物泉、古代海水だ。
城内には本丸西下段や北西に伸びる内膳丸にも貸し切り宿があり、更に山麓の御殿も宿に行事に貸し出されているみたい。
お隣の松江城に観光客を取られて、起死回生で始めた城泊が凄い勢いで売れてるとか。
「負債なんだか観光資源なんだか。時サンやってくれたわねえ…」
『時サンって貴方の愛する人?』
「うひゃあ!」
サンドラが来たあ!美女!ナイスバディ!
『貴方のアイデアがたったの数か月で広がって、今ではヨーロッパからキャッスルステイの予約が大変だってアランが言ってたわ?』
おう。仲良くやってるみたいで安心したぜ。でも。
『いや私のアイデアじゃないしもっと前からキャッスルステイありましたし』
『私達の旅をレポートしたアランの動画がバズったのよ。
で、ピーコック伯爵に負けてなる物かってオーダーが殺到してるけど』
何と!けど。
『けど?』
『今回の旅ってツカサンと貴方の会社が日本海軍とかに協力してもらってるでしょ?
日本に縁も所縁もない他の貴族が相手にしてもらえなくてイライラしてるみたい、面白いわね!』
チキショー雅姐姐そういう情報サポートしてくれよー!
『貴方のお蔭で素晴らしい旅を楽しめたのよ!ありがとね!スーパー世紀末案内士ツカサン!』
「ヤメテーっ!」変な声が出た!
暫く、今まで訪れた城の話をして、サンドラの理解力の高さを実感した。
この娘ミーハーっぽいけど、ちゃんと歴史の流れも、産業や流通も理解してる、凄く頭良い娘だ。
流石ジェフ伯のお孫さん。
『前妻の孫だけどね』
オウフ!重い話繰り出さないでよ。
『私の祖母は結局政略結婚で、ピーコック伯爵がアジアのピーコック領を失った時、お爺様を捨てたのよ。
私の母は祖母からも見捨てられ邪魔者扱いだったわ。それをジェフお爺様が助けてくれたの。
お爺様は領地に愛していた人が居たみたいだけど、その人も失って』
更に重い話!宮島の夜にはそんな話聞いてなかったよ!
てか聞きたくないよそんなお客様の辛い話!
私タダのガイドだよ?!
『何故か解らないけど、この旅でツカサンが色々歴史の話や宗教の話をするとね。
色々なわだかまりの、その先が見えるような。足元の泥が消える様な。
そんな爽快感があるのよ』
『ないわよ』
『あるよ?』
ヘンなの。ちょっと可笑しくなって笑ってしまった。
サンドラ嬢も、笑い返した。
『でもね、メアリ様もバージニア様も、色々抱えてるのよ。
だから注意してツカサン。出来たら、あの二人の気持ちも、楽にしてもらえたら…』
『私聖女でもアヤシイカルト教祖でもありませんよ、只のガイドですよ?』
そう言った瞬間、サンドラ嬢は凄くポカーンとした顔をした。
『そ、そうだったっけ?』
『そうなんですけど』人を何だと思ってたんだろ?聞きたくないけど。
暫く考えてサンドラ嬢は話した。なんだか長く感じたな。
『もしかして嫌な思いをさせた?』
『いえいえ!とても楽しく、幸せですよ?
この船はジェフ伯の家じゃないですか。
そこに招かれて、家族の様に迎えて頂いて、私は案内士以上の待遇を得ています。
勿論ミスサンドラとこうして温泉に入ってるのも、一生の思い出になります!』
あ、サンドラ嬢、ぱあ~って音がしそうに喜んだ。
『嬉しい~っ!ツカサン大好き!』
オウフ!グラ玉に負けない柔らかさ。
『私初めての日本旅行で、初めての日本人の友達が欲しかったの!』
『私達は、もう友達。違いますか?』
『ありがとうツカサン!』
あー。米子城の天守って黒いなー。
『でね、出来ればだけど、あの二人の事…』
風呂から上がって二人で浴衣姿で天守へ。
『それは約束できない。でも、誠意をもって会話する、それが私の限界よ』
『ありがとう。二人とも、最初の頃と随分雰囲気が違う気がする。
あの二人も日本には色々難しい思いがあるみたいなの』
『それが何なのか。解れば手も打てるけど、貴女は知らない。でしょ?』
『そうなのよ。アランにも聞いたけど』
『知ってるのは多分ジョン卿、もっと知ってるのはサム子爵。でも簡単には、話せないでしょうね』
『ツカサン、そこまで見えてるんだ』
あー凄い面倒に巻き込まれたー!
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『よう!サンディもツカサンとすっかり仲良くなったな!』
向こうから風呂上りの浴衣姿の男性陣が。
『ツカサンはとってもフレンドリーでビューティフル&セクシーよ!』
『ヤメテー!』
男性陣が顔を背けた。それも礼儀なのだろう。
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天守最上層の海鮮料理、うまうま。
頂いたお酒は「八千矛」。これまたうまうま。
『ミスツカサン、この酒にも何か伝説があるのかな?』
『これは、出雲大社の祭神である大国主命の別名でもあり、出雲大社に捧げられるお神酒です』
調べてよかった訪問地の地酒。有難う時サン!
今までは洋上で揺られての豪華宴会だったけど、やっぱり地上で落ち着いた宴会も素敵ねえ。
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※山陰に聳える五層なんだか四層なんだか微妙な米子城天守と、四層なんだか三層なんだか微妙な古天守の威容は下記の通り。
現実の米子城天守は解体され風呂屋の薪になりました。
http://33kannonji.blog.fc2.com/blog-entry-638.html
※出雲大社の御神酒の一つ、八千矛を醸す旭日酒造は下記サイトで。
http://jujiasahi.co.jp/item/%E7%B4%94%E7%B1%B3%E9%85%92-%E5%85%AB%E5%8D%83%E7%9F%9B/
※なお、城下では「寿城」というお菓子屋さんが米子城を偲んでこんな建物をお店にしています。愛を感じます。
https://www.kotobukijo.jp/7302.html