147.ガイド萩城1 日本の裏側で恨みを叫んだ大名
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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豪華メガヨット3泊目。やっぱりラウンジの内装はキラキラと目が痛い位だ。
『いやあザビエル聖堂には参ったね』
『素直に前の復元であればもう完成していただろうね』
『広島城は流石堂々としていたな』
『あそこでは姫路みたいなお姫様コスプレが無いのが残念ね』
晩餐会とも言うべき贅沢料理を前に、色々な意見が飛び交う。
何だか自分までパーリーピーポーになった様な錯覚に陥りそう。
いやいや、自分は一般ピーポーだ。都心住まいでもないサイタマ県民だぞ!
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豪華なラウンジから豪華な自室に戻るとバタンキュー。
「調子どう?」携帯の文通ソフトで時サンが聞いて来た。
「色々あったけど、私は元気です」と何かの映画のキャッチコピーみたいな言葉で返した。
「つかれてそうだねー」と玉ちゃん。図星です。
「でも船は豪華だよー」と自室を撮って送る。
「これをいくらで設定すべきか」商売熱心な雅姐姐が食いついた。
「ジェフ伯爵は自分の会社で日本ツアーに乗り込むつもりですよ」と釘を刺すと…
「遅れてなる物か!ていうか既に提携の話は入れてある!今回はその準備段階みたいなもんよ!」と熱の籠った返しが。
手の平返されないようにね~。
この二日間色々あり過ぎたんでもう休もう。
「待った!お客様の反応はどうよ?!」まだ熱気冷めやらぬ奴がいるし。商売熱心だなあ。
「上々ですよ、男性陣と若者は。あとは奥様達に心から楽しんで頂けているかどうか」
色々言動が気になるしなあ。時々引っかかる。
「そこまで行けば上々よ。引き続き頑張って!」
上々かなあ。
確かに外人さん相手に初めてにしては頑張ってるつもりだけどね。
まあ、この調子で頑張ろう。
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翌朝、船は萩市の沖合にいた。日本海だ。九州の城巡り以来だなー。
またまた豪華な朝食を終えた一行は萩城の西側へ。
洋上から五層の白い天守がはっきり見える。
船はその近く、二之丸青海櫓下の水門、そこから伸びる桟橋へ。
『ここもこのくらいの船なら直接付けられるか』
『かつて毛利家の軍船がここに出入りしました。近代化されて以降に港湾施設が整備され、萩城二之丸は海軍基地の機能を持つ様になりました』
『成程寄港の手続きがやや面倒だった訳だ。
だが海軍基地へ乗り込むのは嬉しいな』
『これからは100m規模のクルーズ船の寄港を目指す様です』
『それは夢が広がるなあ!』
昨日に続いて船での登城に、少年の様なキャプテンはゴキゲンだ。
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『萩城は17世紀頭に、豊臣秀松と徳川家康を筆頭とする政権首脳と対立した毛利輝元が国替えを申しつけられ、中国112万石の太守から長門周防36万石に格下げされて広島城から移った城です。
所領を山陽の要衝、しかも完成して1年しか住めなかった広島城から山陰の僻地に追いやられ、領地を1/4近くに減らされた恨みはさぞかし根深い物であったでしょう』
ジョン卿が言った。
『毛利輝元は不幸とは言え、天下が徳川に傾いている事を理解できなかった。
更に自分が将軍になって天下を取る夢も捨てられなかった古い大名だ。
徳川政権から排除されたのも彼の考えの古さが理由かもしれないね』
詳しい。
私は女だからってのもあるけど、男の子と違って戦国大名にあまり関心が無い。
武田信玄対上杉謙信とかあまり来る者が無い。軍師黒田官兵衛とかピンと来ないし、暴れん坊加藤清正も南蛮戦争となると対外戦争だしなあ、日本軍の一軍人って感じ。
でも各地を治め、土木工事や領地経営を行い、多くの内乱を鎮めて権力を収斂させた功労者、という見方だと、凄い人達なんだなあと思う。なにせ皆さん神社で祀られる神様にまでなった人もいるしね。
毛利輝元も、この三角州だった萩を築城し街を拓き、40万石を200年間治めた礎となった。優れたスタッフがいたとしても内政手腕は大大名として堅かったんだろうなあ。
でも天下を見る目はジョン卿の言う通り微妙かなあ。
18世紀末から19世紀中ごろの近代化に貢献した天才を数多く輩出した土地ではあるけど、毎年ここで「いつ天下を取るか、いつ将軍になるか」「今年です」なんて馬鹿な年始の挨拶やってたとなると、バカじゃね?って思うよね。
そんだけ恨みも深かったんだろうけど、それは時代とか国家とか見てないよね。
やっぱ地方領主止まりだったんだよ毛利家は。
今でも貴族院で地元開発優先でゴネてるみたいだし。
『日本は良くまとまっているよ』
『私にはそうは思えません。16世紀そのまま地方のエゴを国政に持ち込んでいる貴族もいますよ?』
『忘れたのかな?我が国は連合王国だ。気に喰わない事があればウェールズなんてすぐ独立を言い出す』
『あ』
そうだった、相手はUK(連合王国)だった!日本より「国」の概念が難しい国だった!
『高望み、という奴だな、日本が羨ましい!ハッハッハ!』
『…失礼、しました…』
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二之丸の正面に聳える堂々とした天守。綺麗だなあ。
『綺麗ねえ。白鳥みたいな綺麗さがあるわ』
メアリ伯爵夫人もウットリだ。
『日本の天守の中でも首位を争う美しさだ』
ジェフ伯も頷く。
『この天守は、世間では層塔式天守が現れ始めた時代に、敢えて古い手法とデザインで築かれています。大きな二層櫓の上に三層の櫓を乗せ、窓も古風な突上げ窓としている望楼式天守です。
一方で天守台を大きくはみ出た初層を持つ等新しい技術も使われており、極めて貴重な天守建築遺産となっています。
また、江戸中期の一時、天守は赤瓦で葺かれていた事もあり、突上げ戸や降り棟を包んでいた銅の緑と相まってカラフルな姿をしていたと想像されます』
『それは見たかったわ』
どうやらメアリ伯爵夫人に気に言って頂けた様だ、この天守。
本丸内門。右に二層の月見櫓と左に天守を仰ぎ、後ろに緑茂る指月山を控え、何かおとぎの国の中にいる様だ。
更に指月山の山頂部は木が刈られており、石垣の上に二層櫓が並んでいるのが見える。
門を潜ると、本丸御殿。遠侍、対面所、大広間。高い大きな建物が横に三棟並んでいる。
御殿の内部は広島城同様、豪壮な装飾に彩られている。そこで一息。
大広間から見える山側には、破風板を金細工で飾った檜皮葺の大きな御殿が見える。
あそこが今でも毛利伯爵家の行事に使われる奥御殿だろうか。
この大広間も国宝だけど。
『僻地に追いやられても大大名の実力は感じるなあ』
『本来毛利家は転封の際、瀬戸内海に面した防府かそれに近い山口を希望した結果、この辺境に指定されたという更なる恨みもあるそうです』
『いやはや、徳川というのも恐ろしく慎重だな』
『お蔭で近代化の際に、財力を蓄えた毛利が育てた革命家達に発言力を奪われていくのですが。
因果応報、と仏教では言います』
広間を通り抜ける初夏の風は、そんな怨念を感じさせない爽やかな物だった。
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※山陰の名城、萩城の復元模型はこちら。
ちょっと櫓のサイズが大きめです。
https://livedoor.blogimg.jp/syouanmaki/imgs/1/3/134bfc04.jpg
復元CGは不鮮明ですがこちら。
https://8787pc.com/%E8%90%A9%E5%9F%8E.html
※劇中、100mのクルーズ船寄港の話がありますが、現実では萩城ではなく4~5km北東にある萩マリーナという港にこのクラスのクルーズ船が寄港しているみたいです。
実際の萩城二之丸西岸は埋め立てられ、公園や浄水場となっていて西の浜という砂浜に続いています。
また、現在萩城中堀を埋め立て、三之丸市街を襷掛けに切断する指月川(萩疎水)ですが、存在しません。中堀と外堀を海に繋げて、水深や橋を改良して運河にしています。
尚、実際の萩藩の軍船等は三之丸の松本川に面した場所に4棟の御船蔵に格納されていました。その内の一棟が、埋められた川岸から遠く離れて現存しています。
城の内郭からちょっと離れていたので本編に登場しませんでした。
※この世界、関ケ原の合戦が無いので、大大名を簡単に追放できるかというと苦しいですね。
余程酷い理屈をつけた事でしょう。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。