146.ガイド櫛崎城 海に臨み戦った城
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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山口から船に戻り、更に1時間以上。
洋上彼方に山口宇部空港を眺めつつ、関門橋への航路を外れて長府の街へ向かう。
あ、海軍のボートが先導してくれる。
海沿いに突き出た島の上に石垣と白壁、下見板張りの二層櫓の列が見えてきた。
櫛崎城だ。
『ここも直接乗り込めるんだな?ミスツカサン!』
あーやる気満々だ。
船は狭い壇具川に頭を入れ、バックで舟入に入る。
小さい高麗門の向こう、島の中腹に櫓門を構えた松崎口門が見える。
三之丸、長府藩の御殿があった海沿いの道は見物人で一杯だ。
そして対岸にある海軍小月基地の有志軍楽隊が歓迎してくれる。
行進曲「樫の心」、もう何回か聞いたけど、勇壮な演奏に迎えられ一行は松崎口門から二之丸へ。
北側の一段高い場所には、洋上からも見えた4棟の二層櫓が固める北の丸。
南側には、三層の天守が聳える本丸。
中央の凹んだ二之丸は二段に別れ、上段には兵舎が建つ。
…偽洋風だ。更に奥には、煉瓦建ての兵舎も。
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『櫛崎城は、広島から毛利家が追放された時、吉川広家の岩国城と同時に、毛利家の養子毛利秀元が築いた、支城です。
岩国城同様完成直後に幕府に接収され現在まで下関航路を見下ろしています。
特に日本の近代化に脅威を感じたアメリカと、貴国との戦いでは監視哨として、砲台として活躍しました。
特に天守は敵の標的となり崩壊しましたが、逆に敵の弾道を示す役割を果たし、沿岸部に散開した砲の攻撃が敵艦隊を殲滅させました。
その記念碑として、戦後復元されたのが今の天守以下の建築群です』
気が付くと、海軍の何人かが私達の後ろに整列し、敬礼している。
そして、ジェフ伯とジョン卿も返礼。軍人ではない他の方々はお辞儀をしている。
有志代表…後で聞いたけど基地司令官だった!!とジェフ伯が固く握手を交わし、天守へ見送った。
『日本軍は敵国にも義理堅い。共産圏だとこうはいかんよ』
ジェフ伯は80年代、つい10数年前にも南米で軍務に就き、善戦されたそうだ。
善戦。
日本の歌にも「功の陰に涙あり」という節があると父に聞いた。
ジェフ伯の過去にどんな戦いがあったのか、さっき迎えた司令との間に何があったのか。
だからこそ、100年以上前の戦いに彼我を超えた敬意を取り交わす必要があるのだろう。
『相手が共産圏でなければな』
あ!つい深刻な顔で考え込んでしまった!
ジェフ伯が私の肩に手を掛けて励ましてくれた。
不思議と嫌な気分にはならな…
『痛っ!』
伯爵のおててをつねるはメアリ伯爵夫人。
『そういうのを性的虐待と言うのですよ。
ミスツカサン。あなたもこの位しても宜しくてよ?私が許します、というか命じます!』
いや~夫婦喧嘩に巻き込まないで頂き度思いましてよ?
伯爵様にお手てつねつねなんて、ワタクシ出来ませんワ?
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L字型の本丸、その中心に三層の天守群がある。
『先ほど説明しました通り、この天守も戦禍で大破しましたが、一部の部材を使って戦後復元されました。
東と南に付け櫓の上に望楼を乗せた小天守を伴う、小さいながらも堂々とした複合式天守でした。
しかし海戦で標的となった事は、16世紀の天守が戦争の場から引退し、軍事的には無用の長物となり、建築史、文化史、そして観光のための文化財となった事を強く物語っていました』
もっと言えば星形要塞なんてものが大坂の乱の頃にはあったんだけどね。
日本はクラシカルなお城をず~っと守ってたのよ17世紀前半まで。
『16世紀から長射程のライフル砲を持っていた日本が19世紀にも古風な城を活用していた事が、驚くというより面白いね。
それでちゃっかり戦果を挙げているし』
面白そうにジョン卿が言う。
時サンの言う本当の歴史ではボッコボコだったんだけど。
それでも目の前に聳える白い三層の大天守と、左右の二層の小天守は堂々としている。
二之丸上段が元兵舎や監視哨を改築した迎賓館。二之丸下段がイベント会場。
本丸というか天守は下関の海軍展示場になっている。
天守から東の海側を見てジェフ伯は言う。
『あそこにも港はあるが…浅いのかな?』
『はい。しかし砂浜ですからホワイトキャッスル号をあの浜に近づけたら座礁します。
ボートなら上陸できますが』
『やはり内陸側にフナイリを設けた工夫を尊重すべきだな』
ですよね。
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『この城は現在でも海軍の交流に使われることが多く、既に予定が入ったため宿泊できなかった事をお詫びします』
天守の下で待機していた基地司令官がお詫びした。
『司令官。私は引退した只の老人です。こうやって出迎えて頂けただけで光栄です。
この城を訪れた客が、日本の戦いの勇敢さを知り、日本との友好の大切さを実感する事を私は希望します』
ジェフ伯。すごく貫禄があってハリウッドスターみたいだなあ~人の肩にさりげなく手を回すけど。
アジアの領地にいた人も、そうやって墜とされたのかなあ。
…待て。それで終わりだったのか?いやいやいや。そっから先は野暮ってもんだ。考えるのを止そう。
そして私達は櫛崎城を後にした。
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『瀬戸内海は、デカイ橋が多いなあ!』
『あの端は関門橋、下関と門司、本州と九州を結ぶ大動脈です!』
すんごい巨大な橋の下をホワイトキャッスル号が通過する。
『これだけ多くの巨大な橋を潜ると、ガリバーの探検をしている様で面白いな!』
ガリバーって日本にも来たとか聞いたけど?!
しかし凄い周りに船がいる。高速道路みたいな訳じゃないけど。
『ここは船乗りのテンションが上がるんだ。下手すると連鎖的な事故を及ぼす、最大の注意が必要な航路だよ』
サム子爵が教えてくれる。
しかし、難なくホワイトキャッスル号は本州と九州の間を超えて、日本海に出た。
その頃には結構日が傾いていた。
『さて、瀬戸内海との別れの杯だ』
ブリッジからラウンジに下りたジェフ伯の声と共に、給仕さん達がディナーの用意を始めた。
ジャンパーニュうはうは。
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※城好きでもあまり話題に上らない(いや本作の数割はそんなもん)櫛崎城の復元模型は下記ページの中ごろにあります。
結構広い二之丸を持っていますが、御殿建築等の有無等の発掘調査は行われたのでしょうか?
なお、各曲輪の名称を記載した縄張図も、もうちょっと下の方に載っています。
勿論天守以下の諸建築については想像です。
https://nanokaw.blog.fc2.com/blog-entry-81.html
※実際の下関戦争では列強4ケ国郡の砲撃で櫛崎城跡に仕立てられた砲台はボコボコにされていますが、この物語では米英2ケ国対幕府軍の戦いで勝っているみたいです。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。