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139.ガイド広島城2 歴史のif

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 広島城天守。東と西に三層の小天守を従えた堂々たる五層の大天守。

 小天守も一層目の庇に千鳥破風と軒唐破風を重ねたおしゃれさんで優雅な姿だ。

 東側は更に多門櫓と、その端に二層櫓が続く。


 唯その内部は居住性の無い…一応各階の内部は畳敷きだったが今では床張りとなり、広島市の成立や広島城の構造に関する展示が行われている。


 その最上層。

 高欄から広島市内を眺めるキャプテンジェフご一行と私。

『もし日本がアジアの為に戦い、アジアの近代化を率先して行っていたら、世界はもっと幸福だっただろう』

 ジェフ伯は私にそう言った。

『しかしあの美しいキャプテンは真向から否定した』

 今は本丸御殿で一行を見送りする準備をしている如月大尉。

 彼女は躊躇なく対露戦の意義を否定した。


『君は歴史や戦争の専門家ではないが、優れた見識を持っている。

 私の考えは間違っているだろうか?』

 ジェフ伯だけではなく、ジョン卿も、サム子爵も私の答えを待っている。

 そして、こんな政治の話など好きそうにない夫人たちも。


 あ、アランとサンドラは向こうでイチャイチャしてやがる、コンチキショ。


『歴史のifについて、正解は無いと思います。しかし。

 日本がアジアのために戦えば、それは16世紀と同様、貴方達の母国との戦争になります。

 しかも20世紀にはUSという工業力の怪物がいます』

『アメリカか。確かに、フィリピンを支配したマッカーサー一族などは黙っていなかったろうな』

『日本が戦争を回避し続ける事が出来たのは、日本が対外意欲を持っていなかったからです。

 もし内戦の続く中国に手を出したら対露戦争の次は対米戦争。

 そうなればUSは恐るべき工業力で日本の兵力を殲滅できます』


 ジョン卿が疑問を呈した。 

『日本は勇敢ではないか?』

『数では劣ります。その上、USは躊躇なく日本の都市の全てを無差別空襲で焼き尽くします』

『彼等はナチスではないぞ?』

『はい、彼等は正義を愛します』

『であれば、無差別に女性や老人など非戦闘員がいる都市など攻撃できないでしょう?』

『ですので、彼等は正義を使います』

『どんな理由があろうとジェノサイドはジェノサイドだろう』

『いいえ、USはこう言うでしょう。

 アジア支配を企むファシストは日本の市民によって支えられている。

 侵略者の兵器は女子供が作っている。

 だから日本の女子供は、軍に属する攻撃対象だ、と』


 気弱そうなサム子爵が、僅かに怒りを込めて言う。

『それは、いくら何でも良心が痛まないか?』

『共和党なら。ですので、戦争は民主党が起こします。

 彼等はレイシストであり大陸贔屓です』

『ルーズベルトか…』


 私は時サンから、あの人達の歴史を聞いた。

 フランクリン・ルーズベルト。蒋介石を支援し日本と敵対した大統領。

 成功したと言われるニューディール政策、しかし思ったほど向上しなかった失業率を更に回復させるためWW2に参戦し国家予算を戦争に投入。


 そして原爆を作った。使ったのはトルーマン大統領だけど。


『ドイツ戦の際、指揮官だったカーチス・ルメイ将軍は『炎の中で母と子が泣いている、そんな事を気にしていたら戦争は出来ない』と公言しました。

 そのUSが日本と戦っていたら、核は日本に落とされたでしょう』


『君はよくそんな恐ろしい事を想像できるね。私にはできない』

 サム子爵は怯えた感じでそういうが私は続けた。

『すでに日本の都市が空襲で焼き払われ、日本が降伏交渉に入っていたら…』

『降伏交渉に入っていたらなおさらそんな事は起きないんじゃないか?』

『逆です。

 厖大な国家予算を投じてドイツ戦に使う為開発した原爆が、ドイツ降伏で行き場を失っていたのです。

 日本と戦っていたら、降伏条件を厳しいものにして、絶対に使ったでしょう』

『それではまるで人体実験ではないか?』

『マンハッタン計画に参加した科学者は、WW2の後に実戦で使用された時に反対したそうですが、逆に使用を主張した者が半分いました。

 彼等にとってアジア人は人間ではなかった』


 一同は衝撃を受けていた。


『ですので、対日戦争であればもっと使用をためらう事は無かった筈です。

 長崎、小倉、広島、大坂、京都…』

『京都は無いだろう?世界遺産のひしめく聖地だ』

『当時USでは敵国文化財の接収試算を行っていました。対日開戦も想定されていました。

 結論は、『日本には接収すべき文化財は無い』でした。

 反面、京都は盆地で人口密集地です。

 最適な実験場の一つだったのです』


 誰も何も言わなかった。


『そして、この広島も、軍事都市であり人口密集地で、よい投下目標も…』

 私は旧太田川の分岐に架かる相生橋を指さす。


 時サンの歴史で実際に原爆の投下目標にされた、T字型の橋だ。


『プルトニウムを使った原爆、ウラニウムを使った原爆。破壊半径は2km。

 丁度太田川放水路から、南にある比治山の放送塔位です』


 私は知っている。

 目の前に広がる大都会と、そこに住む数万の人々が、一瞬で消されもう一つの現実を。

 消えたんじゃない。生きたまま焼かれ、生き残った人もその後何十年も苦しめられた現実を。


『これも一つのifでしかありません。

 私は、日本が戦争に参加しなかった判断は正しい、そう思います』


 誰も何も言わず、天守を降りた。


******


 天守の下というより、本丸の北西隅には、洋館があった。

 入口に菊の御紋の幕が下げられている。

 20世紀初頭に対露戦争の危機が迫った時、明治天皇が行幸され鎮座された広島大本営だ。


 玉座に敬意を捧げる一同。


「四方の海 みなはらからと 思う世に など波風の たちさわぐらん」

 ジェフ伯が日本語で言った。


『明治天皇が戦争回避のために作った短詩だ』

『はい、WW2で大陸に進出した日本人を避難させるか、保護するため開戦するか紛糾した際にも昭和天皇がこの詩を口にされた事で有名です』


 これは学校で習う。大抵の生徒は高校卒業直前で浮かれてロクに聞いちゃあいなかったけど、もう一つの歴史を知ってしまうと心に刻みつけておかなければと思う御製の句だ。


『ツカサ、有難う。とても良い勉強になった』


 ジェフ伯が頭を下げた、今度は私に。サム子爵もジョン卿も続く。

 私も頭を下げ返した。


 この珍妙な風景を、明治天皇がご覧になっていたらどう御評価されるだろうか?


******


 来る時同様、一同は海軍有志に見送られて軍のボートで船へ。

「皆様、ご気分が優れないのでしょうか?」

 イケメン女子の如月大尉が聞く。

「すみません、もし日本が戦争してたらって話になって、ここに原爆が落とされたらという話をしましたら」

「貴方、凄いですね…戦略論の授業を私的に受講されていますか?」


 ん?何「私的に受講」って…もしかして私の受講歴とか全部知ってる?身バレしてる?

 海軍、怖!

 その上、日米戦争で原爆が使われた可能性については戦略論でも講義されている?

 それとも海軍内の独自研究?


「妄想ですよ。それよりそんな事言っちゃっていいんですか?」

 大尉、自分の失言に気付いた様子でハっとする。


「も、妄言です」「はい、聞かなかった事にします」


 ホワイトキャッスル号は海軍有志の敬礼を受け、広島を後にした。


******


※現在の本丸上段は天守周辺以外は土塁となっていますが、石垣の端は明らかに撤去された跡があります。完成時には本丸上段も石垣で固められた堅固なものであったと推測されます。


※実際の広島大本営は日清戦争のために設置されたもので、日露戦争とは関係ありません。

 この物語では日清戦争は発生せず、日露開戦前夜の示威行為として設置されました。

 また場所と規模も、広島城本丸御殿が現存しているため、北西の空き地に設置されている設定です。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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