137.お宿は…洋上大混戦?
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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今夜もゴージャスなメガヨットでゴージャスなパーティーだ。
インフル君の撮影した福山城、鞆城、三原城の情景がBGMと共に流れる。
あ、福山城のお婆ちゃん…一緒にいるイケメンで背筋がピンとしてる老紳士は、海軍にいた御主人なのかな?身なりもいいし。あ、こっちに敬礼した。肘を前に出す海軍式だ。
いつ撮ったんだ?
音楽もパーティーの雰囲気に合ってるし、流石インフルエンサーを自称するだけあるなあ。
私もガイド業をやる時はこういう動画編集技術を持ってないといけないのかな?
高校の時授業で電子告知と一緒に電子動画の授業を受けて以来だよ。
そう考えると、去年の学園祭で動画頑張ってくれた男子陣には感謝だなあ。
『楽しかったよミスツカサン!
危うく底や脇を削りそうだったが、何とか接舷出来たぞ、海の男にとっての誇りだ!』
そうですよねー。
舟入があるって言っても今の50m級の船が接弦するなんて考えてないでしょうしねえ17世紀。
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『ミスツカサン!私達の後を追う様に、訪れた城の素晴らしいスケッチがupされている!
君はもしかしてあの画伯の友人か何かかな?』
「ぶふうーっ!!」
ジョン卿がタブレットで見せてくれた絵はお次さんの絵だー!
『こっちは私が昔買った絵と似ている画風なんだ!二人の画伯は友人なのかな?』
「アイドンノー…」スっとぼけた。牡蠣うめー。
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『ミスツカサン!君のお蔭で素晴らしい動画が撮れたよ!皆も大喜びだ!』
インフル君が食いついて来る。
『ちょっとアラン!レディの食事を邪魔しちゃ駄目よ!』
セットでサンドラ嬢も来る。
もうバラエティーショーの定番みたいだ。謎の拍手や笑い声が聞こえて来そうな。
『王国ではあまり有名じゃなくても、日本にはこんな素晴らしい城が沢山あったなんて!
伯爵じゃないけど、僕も日本で生活したくなったよ!』
『え?伯爵は日本に滞在していたのですか?』
『アランのバカ!ごめんねツカサン、グランパは日本に暮らした事はないわ、軍務以外では。
コイツ日本と他のアジアの国の区別がついてないのよ!』
まあ、そんな事もあるだろうなあ。
『これを機会に学んでください、ミスターアラン。
アジアの各国は同じ歴史を経験したのではありません。
それぞれの国が、別々の文化を持って別々の歴史を築いてきたのです!』
ちょっと気合入り過ぎたかな?
『こ、怖いよツカサン!』
『それぞれの国がもがき苦しみ、今を築いたその歴史を学んで下さい!』
『わ、解った』
インフル君は階下に消えた。
『言い過ぎたでしょうか?ミスサンドラ』
『いい薬よ、有難うツカサン!これでアイツのナメた物言いもマトモになればいいけどね!』
サンドラはフランクだなあ。
ネット環境に密接なインフル君の方がステレオタイプなのがよくわからん。
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『ミストキオ、私の親族が無礼を働いたなら申し訳ない』
そう申し出たのは、影薄いサム子爵だ。
『大丈夫です。彼は好奇心が強いのでしょう。
後はレディをエスコートするテクニックが必要ですね』
『ハハ…彼は昔から社交を嫌って。その所為かインターネットに逃げてしまいました。
貴女の慈悲に感謝して、アイツを鍛える事にします』
私とサム子爵はシャンパーニュを乾杯した。
バージニア子爵夫人は…遠くにいた、しかしこっちを見てる。
怖。
それより、あれですよ。
船は多くの船が航路とする四国沿岸を避け、本州寄りを西へ進んでいる。途中通過する安芸灘大橋を潜る。
巨大な橋の下を通過するのは、迫力があって感動するなあ~。
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ゴージャスパーティが落ち着いて自室へ。
レポートを「案内士になろう」社へ送信。途中経過を促す指示がウザイ。
こっちは英国貴族かつ海軍軍人OBと外交戦の最中なんだぞ!
と、ノックの音。
同時に嫌な予感がする。
「一行のアラン氏から強い私的アプローチを受ける。経過は追って報告」と入力し、送信した。
『どなたです?』
『僕だ、アランだ、お願いがあって来た。話ができるか?』
あ、これは言い寄られるな。よし、携帯の録音スタート!
『これから入浴します。40分後にラウンジで話しましょう』
『今話せないかな?』
『お断りします、強要された場合は私はこのツアーから離脱します。
お話があるのであれば、交替した代理人にお願いします』
『わかった!わかったよ!待つよ!だから一緒にいてくれ!』
そういい言いつつ私は携帯でサンドラに助けを求めた。
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ホワイトキャッスル号は呉港の脇に停泊していた。
そして照明を抑えた豪華なラウンジ。遠くに街の灯りが見える。
これが好きな恋人と一緒だったらどんだけロマンチックだったんだろうか。
しかし今ここに来る奴は、敵だ。
私の嗜好も感情も理解しようとせず、一方的に自分の感情を私に押し付けようとする、敵なのだ。
こうなりゃ客だろうが貴族だろうが関係ない、証拠を固めて反撃するだけだ。
そう決意を固めていたら奴が来た。
『良い夜だね、ミスツカサン』
『私は時尾です。略称や愛称は尊敬した人、友好を結んだ人にだけ許されます。
貴方は含まれません』
あ、なんかショック受けた顔してる。でもそんな深刻そうじゃないな?
私そんな程度の女なのか?こん畜生!
コイツ面構えはイケメンな癖に、なんだかキモい。
そうだ。言葉が通じない、イッちゃってる系のキモさだ。
お、持ち直したかな?逆にもっとキモい。
『ツカサン!君はとても魅力的だ!僕は君を愛してしまった!
どうか僕の愛を受け入れて欲しい!』
『だが断る!』
キモイよコイツ。
『何故だ!』ここはビシっと言おう。
『貴方は今私を自分の支配下に置いたと思っている。
この船は貴方の親族の物だ。
そこに来た私を、貴女は貴方の親族の支配を受け入れた人形だと思っている。
そんな環境で放たれた言葉は、愛の告白ではない!隷属命令だ!』
凄いヘンな英語になってるだろうけどお構いなしだ!
『そんな事は思っていない!私は…』
まあ、悪意や害意は無いのは解るよ。
でもこの閉鎖環境で一方的な告白なんてダメダメだ。
ここは厳しく言ってやろう!
『ならば女性に愛される様に努力しなさい。
貴方はこの旅の中で私のために何かしましたか?
私が喜ぶ様に、私の支援をしましたか?
何もせず、私が船に乗ったら一方的に告白?
ダーレクと同じ、言葉が通用しない恐怖の対象よ!
あなたには私や周りの人の心が全く見えていません!』
はあ~。言い切った。英語で考えて言うのは、疲れるなー。
あれ?インフル君、項垂れちゃったよ。
『あ~、大丈夫?』
『僕は…インフルエンサーだ』
『人々が感心を持つ話題を選んで、取材し、面白く語る才能はあります』
『ありがとう』
見上げるインフル君、アラン君は、泣いていた。
『だから君も僕を好きになってくれると思っていた』
『馬鹿じゃね?』あ、素直に言っちゃった。
『はは!司ンはセーキマツハオーだね。ストレートだ』
何だか忘れたいヘンな称号が飛んで出た!
『オウフ!誰ですそれ言った馬鹿野郎は!』ここは抗議したい。
『僕は。
思い上がっていたんだ。
君を可愛い人形か何かだと思い込もうとしていた。
でも君は、優れた頭脳があり、勇気と力がある偉大なレディだ』
そんなんどうでもいいよ!世紀末うんちゃらの方だよ!って聞いちゃいねえし。
『私はボンドガールか何かか?』
『心からお詫びする!僕は貴方の心を傷つけた!貴女を物の様に扱ってしまった!
僕は貴方の前に居る資格は無い…』
『いやそうじゃなくってセーキマツの方…』
と、扉が開いてジェフ伯とサンドラ嬢が乱入した!
『大丈夫かミスツカサン!』
『アランあなた何したの?ツカサン!』
ジェフ伯、ライフル持ってるし―!サンドラ嬢が私に駆け寄った!ああ柔らかい…癒される。
『ご安心下さいキャプテンジェフ、少々精錬されていな愛の告白を頂いただけです』
『愛の?!…俺を差し置いてこの馬鹿者が!』
『伯爵!今何と?』このジジイ、サラッとなんか嫌らしい事言いやがった!
『すまないミスツカサン、この償いは必ずする。
愚か者は今すぐこの船を降りろ!我らが女神を侮辱した罪を償え!』
聞いちゃいねえし更になんか追加されたし。もういいや。それよりインフル君だ。
『待って下さい…』
『イェス、サー!』
『駄目よアラン!』
力無く立ち上がったアラン君、部屋を出ようとしている。
縋りつくサンドラ嬢。まさか本当に船を降りるつもりじゃ?
それは駄目だー!
『ミスターアラン!そしてキャプテンジェフ!
私を女神だと思うなら私の願いを聞いて下さい!』
二人は止まった。そして、私の言葉を待った。
『ミスターアラン。あなたはまだ淑女の扱いを学んでいない。
今回はその学習の一歩です、落第でしたが』
インフル君は顔を赤くして恥じた。ジョン伯…いま噴き出しそうになりましたね?
まいいや、話を続けよう。
『人間には失敗する権利があります。
何度失敗しても、努力して成功して下さい。
決して女性を、有色人種を物だと思わず、他人から愛され、信頼される紳士に成長して下さい。
その努力を怠らないと誓うなら、私は貴方を許します』
『あ…あ"あ"ー!』
アラン君は泣き崩れた。サンドラ嬢が彼の肩に寄り添った。
大の男の泣く姿って、あんまり見たいものじゃないなあ。
『素晴らしい。君は正に女神、いや聖母だ。私は君をガイドに迎えられて幸福だ』
ジェフ伯はなんだか私を評価してくれた。が。
『いえさっき『俺を差し置いて』とか言いませんでしたか』
『君は我が一族に迎えたい位だ!』
『ですからノーサンキュー!』すげえ無視しやがった!
アラン君はまだ泣いてるし。
まあ、何だ。
挫折を知らない人間は弱く哀しい…。
アラン君が流した涙が、彼が過ちを省みて恋愛の再スタートを切る時に、大きな糧になる事を願う私であったよ。
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※ダーレクは、英国の人気ホラーSF番組「ドクター・フー」に登場した殺戮ロボット(?)。
当時凄い怖がられたとか。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。