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133.ガイド福山城1 西国防衛最先端

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 西日本は、陽が長い。いつもより早く目が覚めた私はホールから瀬戸内の景色を見た。

 うわあー!こういうの初めてかも!いや、小さい頃両親に連れてってもらったかも知れないけど憶えてないなー。


 見える対岸は、工業地帯。石油コンビナートじゃないし赤錆びた工場が並ぶ…

 あ。製鉄工場か。山陽工業地帯の要衝、福山まで来た。

 ホント私西日本を色々旅させてもらってんなー。

 ありがとう時サン、雅姐姐、そしてキャプテンジェフと皆さん。


『お飲み物は?』

『あ、カヴァを』

『シャンパーニュで宜しいですか?』

『お願いします』

 朝シャンですよ、朝からシャンパーニュですよ!

 何このブルジョワジー!ヤクルトジョワー!誰の物?あ、私か…

 てかまだ6時前じゃんよ!何でサっとクルーが給仕に来るのよ!

 それが一流のサービスかあ~。


******


『おはよう!朝から君がいると特別な気分だ!』

『ジェフ!若い人に親しすぎる言葉は逆に失礼よ!ごめんなさいミスツカサン』

 あー。もうメアリ伯爵夫人もツカサンになってるよ。いいけど。

『おはよう司ン!グランパの船、どう?』

 あー、サンドラ嬢はジェフ伯のお孫さんか…貴族令嬢!?

『あばばそののの、カンファタボボボー!』


 また何人かテーブルに伏せて痙攣してる。

『エリック・アイドルの真似かな?』

 何かインフル君が食いついて来た?

『いえ、知りませんが』あ、みんな残念そうな顔した。


 なんて話していると皆さま起きてきて、朝食が始まる。

 昨晩もそうだけど今朝の食事もおいしー!誰だよUKはメシマズとか言ったのは!


******


 船は福山港から日本製鉄の工場を横目に見ながら、街の中心部へ進む。

 途中、国鉄と新幹線の鉄橋を潜る。

 おー、あれ福山に止まらない超特急だ。


『日本の弾丸列車は凄いなあ!未だに我が国が追いつけないよ!』

『あの~。ある意味、追い越されて周回廻りになっていませんか?』

 一番最初に鉄道旅の提案を考えてUKの鉄道事情を調べて、魂が口から抜けかけた。

 カーブで角度を変える振り子車両、桟橋を走る小さい汽車、小さな島を走り回る蒸気機関車に路面電車。

 極めつけは海の中に線路を敷いて鉄の櫓を走らせる、SF映画に出て来そうなゴンドラ鉄道…

 この国、鉄道の変態国家だー!


『ハッハッハ―!流石ミスツカンサン!君は王国を良く知っている!』

『サー、それは悪い意味だと思うよ?』お?ジョン卿が珍しく突っ込んだ。

『私は知ってるよ。この福山の工場行きの鉄道も中々悪い意味で発展しているとね』

 そう。ここ福山とか川崎とかは湾岸の工場へ向かう引き込み線がとっても面白い事になってると時サンが無駄知恵を教えてくれた。

 まさかこんな時に話題になるとは…ガイドって四方山話知っててナンボだなあ。


 工場の岸壁にはこの船の倍以上、いやもっとありそうなタンカーが泊まっていた。

 この舟入川はこのまま福山城大手門まで直行する。

 でも天井のない遊覧船は兎に角、流石にこのメガヨットが来るのは珍しいのか、山陽道つまり国道2号線あたりまで来ると周りの船は小舟なかりになって…


 国道バイパスに人だかりが出来てるしー!

 まー赤穂とか岡山でも目立ってたし、下津井でも凄い歓迎されたし、こうなるよねー。


 船は何回か舟入の跳ね橋を通過し…渋滞出来てるー。

 流石に国鉄の鉄橋は潜れるかー。

 大手門脇に停泊した。もうね。凄い人だかりが出来てる。

 大手南にあって大手門に向き合う国鉄駅前の広場も人がぎっちりだ。

 流石にお出迎えのバンド演奏とかは無いね。そんなんあったらパニックになりそう。


『何だか段々賑やかになってくるねえ』

『イェッサー、キャプテン…』

 私は力なく答えた。


 大規模な大手門を抜けると、その先に更に長大な渡り櫓を正面に向けた本丸鉄門。

 どっちも90度曲がる桝形とは違う、クランク状に進路を曲げる「喰い違い」とか「筋違い」という桝形門だ。

 その両脇に広がる、高石垣の本丸、そしてその先に上部を見せる天守。


******


『福山城は、徳川幕府が西国防衛の最前線、山陽道に最初に築いた、17世紀最後の城であり、日本の近世城郭の最終形です』


 鉄門を潜り、眼前に迫る二段の石垣と、高欄を巡らせた優雅な月見櫓、石垣上に張り出した小さな御殿の様な湯殿、そして左手に聳える伏見櫓を眺めつつ私は説明する。


『監視対象は九州の有力大名、そして山陽最大の大名毛利家でした。

 そのため、この城は徳川家の部下、水野家が徳川幕府から莫大な援助と、解体縮小された伏見城の材木を譲られて、高度な技術をつぎ込んで完成させました。

 天守は小規模ですが江戸城等と同様に耐震性に優れた層塔式、石垣も布積みという均一に加工された石をほぼ横一列ごとに並べ重ねた高いものです』


『確かに石垣が綺麗だ、大坂城の様だ』

 石垣って年代によって進化するよね。大坂城とかその完成形だ。

 逆に明治になると石垣技術が衰えて、コンクリの壁になってくる。

 なんだかV字型に落とし込むのが「落とし積み」って言って、布積みみたいな安定感がなくなってしまう。技術が上がるとなくなる技術。そんな物もあるんだなあ。


『反面、本丸を固める櫓は古風です。

 外壁は真壁造りという、外壁を均一にしないで柱の形そのままに漆喰を塗ったものです。

 三層櫓は一階と二階が同じ大きさの重箱造り、その上に小さい望楼を乗せた様式です』


『何となく岡山城に似た形ね』

『その通りですミセスメアリ。京の伏見から移築された櫓と、西側を固める三層櫓が16世紀の古い様式だったので、デザインをそれに合わせたのです。


 西側には、長大な二層の櫛型櫓と、伏見櫓の先に同形式の神辺一番櫓が聳える。

『あの神辺一番櫓も、福山築城の際縮小され支城となった神辺城の材木で造られ、神辺城天守の形に似せて作られた物です』


 神辺櫓は4つあって、外様大名を睨む様に福山城の西側を固めている。

 それは福山から山一つ越えた先にある神辺城、この地方抑えの城から持って来てる。

 山陽地方は16世紀から17世紀に、山間から沿岸へ町が移転して城も移転して来ている。

 沼城から岡山城へ、神辺城から福山城へ、そして郡山城から広島城へ。


 一行は、伏見櫓手前の筋金門へ向かう。

 すれ違い様、バージニア子爵夫人が

『ふう~』と、妙に色っぽい溜息を吐いた。

『貴方の話を聞いていると。まるでその時を見ていたみたいね』

 笑顔とも、怒った顔とも思えない微妙な顔で私を見るバージニア子爵夫人。


『日本では私みたいな者をこう戒めます。

 講釈師、見てきた様な嘘を言い。

 歴史知識は新発見でアップデートされます。

 私も皆さんに嘘を言わない様に勉強しなければいけません』


『あなたは。いえ、日本には貴方みたいな優れた人が沢山いたのに』


 過去形?

 バージニア子爵夫人は歩き去った。

 色々気になるな、後で色々調べなきゃ。

 下手に地雷は踏みたくない。


******


※福山城本丸については多数の資料と文献から明治以前の姿が詳細に解っています。

 で、本丸御殿の形を色々無視して書いた拙作が下記の通りです。

 解像度が荒いのは、PC更改の際データを移し忘れたからですorz。

https://www.pixiv.net/artworks/74302857


※現実の福山城の船入りは国道二号バイパスの手前から北側は埋め立てられています。

 そして大手門、そして内堀は…完全にJRの敷地となって消えています。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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