132.お宿はメガヨット、豪華クルーズ!なんだけど。
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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「うわー!」
メガヨットのタラップから入った先は、巨大なラウンジ。半分露天で半分屋内。
座り心地が良さそうなソファに、豪華なシャンデリア、色々な酒が並んだバーカウンター。
内装も豪華。金細工のモールが室内を彩り、あちこちにカラフルなガラスの照明が目を引く。
船尾の大きなバスタブの中には、なんか泡が出そうな…ジャグジー?
『どうだいミスツカサン!
この船はアジアで仲間達とクルーズする時のモデルケースとして用意したものだ!
50人位のツアーならこの船でどこにでも行けるぞ?!
この船は、そして君のアイデアはアジアの船旅を革命するぞ!』
『ヒー!それは恐ろしい拡張された解釈です!私はそんな大きいアイデアを持っていません!』
なんかマヌケな英語になった!みんなが笑ってるー!今日もいい天気ー!
『ミスツカサン、今は君を含めて8人の航海だ。
しかし君の提案は10人、20人、そして100人に受け入れられる。
その時この船は君の夢を実現するんだ!』
『キャプテン、あなたはそのためにこの船を用意したのですか?』
『アジアの謎の国、日本の市場を!日本企業より先にこの手に入れてやる!
日本観光を王国が仕切る!こんな楽しい事は無いぞ?』
しまったー!私、日本以外に観光ビジネスのチャンスを売ってしまったー!
『ハハハ、ミスツカサンからこのアイデアを受けた時、この船と同じものを用意できなかった日本企業の負けだ。
日本企業は若者の素晴らしいアイデアをまだまだ生かせていない!
俺の情熱は日本の苔むした経営者なんかに負けないぞ?!』
社長!海外さん!言われてますよ?!あとヤーティン許さん!
あ、皆さんのグラスに給仕さんが…シャンパーニュを注ぐ。え?私も?
『淑女紳士諸君!私達に今までにない日本旅行を計画してくれた才媛、ミスツカサンを歓迎しよう!チアーズ!』
『『『チアーズ!!!』』』
何だか微妙なんだけど、ここまで初対面に近い私を歓迎してくれる皆さんに、感謝だ!
「チアーズ!」
そこから出されたワイン、シャンパーニュの美味しい事、料理のおいしい事!
誰だ英国料理がマズいとか言った奴!
あ、これフレンチやイタリアンだった!
牡蠣とかあるよ?デカい!
夏に採れる岩牡蠣か。
うわでか、プリップリ!うまうまー!海の味がするー!私にグラ玉が舞い降りた!
調べといてよかったけど、岩ガキって瀬戸内海にいないよね?
あ、鳥取ですか。
はふー、牡蠣にシャンパーニュ、ウルトラ贅沢!!
『来てくれて有難うツカサン!』
あ、ジェフ伯爵。
『君に告白しよう。私達は日本旅行に飽きてきたのだ』
何だってー!
『あー。旅行会社が提案する日本旅行に飽きた、そういう事だ。
日本には無数の素晴らしい所がある筈だという私達の質問に、旅行会社は過去何度も行った所を提示した。ウンザリだった』
よかったー。そうかもと思いました。
『でもツカサン』もうツカサンでいいですよ。
『君は違った。海から街へ、そして城へ。
それも国際的に知られていない城を、日本の歴史と共に案内してくれた。
あの東洋のじゃじゃ馬姉妹を満足させたり、友人達と関東で私達が行った事も無い無名な城を楽しませたと言う、君の目と頭、そして心を、私は称え、そして知りたい』
東洋のじゃじゃ馬って、徐4姉妹の事?
年末の関東旅行まで知ってんだー!
『徐姉妹を御存知で?』『知らん!だが有名人だ』
…これ、知っててウソ言ってないか?
ん?バージニア子爵夫人がこっちに反応している。ちょっと笑ってる?
『先のご案内で、徐姉妹とご家族にはとても良くして頂きました』
『それはツカサンが素晴らしいからだ。12人の誰と行ったか忘れたが、あの連中は全員気まぐれだからな』
やっぱ色々知ってそうだな。てか他の姉妹もスゴいのか…
あ、バージニア夫人が笑ってる。
そんな顔も出来るんだ。
メアリ伯爵夫人は…逆に済ました様な、いやあれは違うな。微妙な表情でこっち見てる。
『私に城や寺、歴史を辿る旅を教えてくれた恩人がいます。
私はその人の教えを友人と共有し、その友人が徐姉妹の親戚で、その縁で評価頂いただけです。
私も告白します。
私の企画は友人と楽しい旅をしたいという子供の気持ちと同じ物なのです。
多くの費用を惜しまず投資する皆様の、旅の計画や費用との整合性を考えていないのです』
うわ、言い過ぎた!これ会社から怒られる!
でも、私はビジネスプランナーじゃない、そこは正直に言うべきだ。
『それでいいのよ』
メアリ伯爵夫人が私の手を取った。あれ?さっきと表情違くね?
『不思議な人ね、ミスツカサ。貴方は私の夫が認めた、素敵な旅の案内人です。
これから旅の終わりまで、宜しくね?』
嗚呼、聖母様!
その笑顔に癒されますー!
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『ねーツカサン!』サンドラ嬢が色々日本の事聞いてくる。
大人に見えた彼女、18歳だった!
『エーツカサン21なの?!』日本人は西洋基準では童顔ですよー!
『素晴らしい…やはり君は女神だ!』
あ、自称ナントカ君いたんだ。
『これから動画を編集するんだ、君にアナウンスを頼めないかい?』
『会社に確認して下さい』勿論会社には全力で断ってやる!
『ゴメンねツカサン。アランはオリエンタルガールに弱いのよ』
『そうなんですか。彼が紳士的にアプローチしたら多くの日本女性は喜ぶでしょう』
『貴女以外でしょ?』
あ、サンドラ嬢の目つきが変わった。
『彼が女性をリード出来、女性に喜ばれる作法を学べば完璧でしょう』
『日本人なのに逆説的表現が上手ね』
心、読まれてる?
『ミスサンドラ、あなたも黒髪でオリエンタルな美女ですよ』
『何を…!』
あ、赤くなった。
アランに目を向けると、挙動不審になった。
周りで何人か笑い…を何とか堪えた!女性陣が顔を背けているし!
バレバレじゃんミスサンドラ!
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このメガヨット、客室が多い。その半分が空室なので私も一室を借りたけど…
これ、客間?奥に書斎、そして別に寝室?!更にバスルーム!
スイーツじゃん!時サン達と泊まって以来だよ!
…とりあえずお風呂入ろう。
カポーン。ビバノンノン。
疲れたなあ。でも、楽しいなあ。
最初は伯爵一行がレイシストかもしれない、日本人の言動に過敏かもしれない、なんて思ってたけど、それはどうやら間違いだ。
むしろそう思ってた私達がレイシストだ。
あの人達は、この東洋の謎の国日本に興味深々なお客様なだけなんだ。
宜しい!ならば案内だ!
とは言う物の駆け出しバイト案内士の私が、ブリテン貴族の求めにどこまで応じられるのか?
そもそもあの方達の求める物とは何か?あー、それ最初にみんなで話したなー、解らなかったけど。
今までのジェフ伯やメアリ伯爵夫人の反応から見ると…知ってる様で知らなかった、今までの旅の知識の補完?
日本文化の知らなかった部分の新発見?
地元の人達との接触?
ア"ー、ハードル高いな、こんなの大学の授業のレベルじゃんよー!
いや、そのレベルの事を私は今までの旅を通じて学んだ。
特に、お延さん、お次さん、グラシアちゃん、お玉ちゃんの悲劇を教えて貰って、そして。
時サンから聞いた戦争という地獄を聞いて、聞いただけでも恐ろしい地獄を聞いて、その僅か一厘一毛だけでも知ることが出来た。
せめてそれを忘れずに、多くの文化財を見て、楽しんで頂こう。
そして出会いに感謝しよう。
もし向こうに言いすぎとかの行き違いがあったら許さなければ。
私が相手を傷つけることが無い様気を配り、万一の時は許しを請おう。
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ふわー。ベッドもふかふか、ダブルベッドだあ~。ぐう。
「あんたは人の嫌がる事をしちゃ駄目よ!」
わかったよママ。
「嫌な事されたら、ちゃんと相手に言ってやりなさい」
怖いよパパ。
「幸せになってね」「大好きなつかさ~ん」
あ~、幸せ。あったか―い。
「ウェアアムアイ?イン、ザ、ボート。」
ヘンな独り言を言いつつ起きると、船は福山城へ向かい始めていた。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。