124.今度の旅は船の旅!
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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今回の依頼主は、UK…イギリスの伯爵で、インド・アジアの農業に影響力を持つ海運商でもあり、自らを含め代々海軍に多くの親族を輩出しているショア一家。
当主のジェフ卿…その御先祖様は第一次大戦で先祖が乗った船が沈められた際、日本軍に助けられている。
これを恩と感じるか侮辱と感じるか。
後、アジア唯二の独立国家である日本に倣って独立したインドのお蔭で広大な農地を失い、爵位喪失の危機があったって…敵意むき出しじゃん。
その癖来日歴20回。内5回は自らが海軍に就任していた時の公務だけど。
それ以外15回って、大杉。
この人を先頭に、貿易会社、IT会社の重鎮、そして自称インフルエンサーなんかがやって来る。
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これは…外れ籤を「案内士になろう!」さんに押し付けられた?!
いやいやいや!
雅姐姐に言われた事を思い出す。
「あの人達が訪問先や案内会社でトラブルを起こした事は無いわ。
でも、アジアでは率先して欧米人のガイドを起用して来た。
日本に来た時で欧米系ガイドが調達出来ない時だけ日本人ガイドを雇ったけど、問題は起きていないわ。
唯、彼を案内したベテランガイド達に個別にヒアリングしたら」
『人種の壁』とだけ帰って来たそうだ。
「『差別』と全く同じ意味の、観光業界用語なのよ司ン」
と雅姐姐。
って、バリバリ差別主義者ファミリーじゃんー!!!
何でそんな何度も日本に来るんだよー!
あ、そうだ、他にタイとかインドとかの渡航歴は?
仕事ついでに何回か、ですか。
15回も観光で来てるの日本だけ?
どんだけ日本大好きなのか大嫌いなのか謎な人達だよこの家族~!!
あ~、面倒だ、止めよっかな。
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「その時ね」
ガイドの話が出た後、何度目かの江戸城夜景堪能ビアガーデンで時サンハーレムと飴ズ、それに雅姐姐を入れて何だか宴会になった。
「感じたのよ。何でこの人達、好きでもない日本に態々地球の裏側まで10回以上来てるんだ?って」
「いつか勝って占領してやる、みたいな?」
スーは、まあ有り得なくはない事を言う。
「マゾ体質?」「ツンデレ?」
ミキとランは日本文化に侵され過ぎた。
かつて侵略と抗った時サン達は、黙って私達の話を聞いている。
雅姐姐がゆっくり話す。
「私には正しい事は解らない。
今手元にある情報は。
一族は過去にインドの植民地を失っている。
そして現当主は15回も私的に日本に来ていてる。これは異常よね。
そして、何度か人種差別的な事件を起訴されて母国の横槍で免罪されている…」
「ちょっと待って、横槍入れたの政府?」
「伯爵様が問題興したって大っぴらにしたくなかったんでしょう」
「え~」
集めたネット上の資料にはそれ以上何も無かった。やっぱ裏情報ってあるもんだな。
「ショア伯爵は東南アジアが共産圏の侵略を受けた時に…
まあ何だ。持姐姐と一緒に領地の一族や従業員の避難を最前線に立って成し遂げたそうだ」
今度はスーが言う。
「それって。公の歴史にしていいの?」
「アウト。共産ゲリラから逃げる時、持姐姐の恋人を自称してたとあるオボッチャマが大艦隊を率いてたからね」
「はあ~。それ、公言したら国際問題だねえ」
「そのオボッチャマも行方知れず、だそうだよ」
「今頃若々しい持姐姐とイチャイチャしてくれてればいいけどね」
私とスーは遠い目をした。まさかあの存在感ない爺さん…まさかね。
「司ンー!ジェフさんの奥さん、メアリさんはそういう人じゃなさそうだよー」
色々な資料を基にランが言う。英国国会議員、国際協力基金理事。
うわ!名士だわこの二人。
「問題はこっちかな?」
今回同行する、ジェフ卿の親類、同じく貴族でサム・スベンソン子爵の妻、バージニア夫人がアジア差別がヒドいとか。
「敬虔過ぎる国教徒で、何でかハプスブルグの一族を自称して日本を敵視してるヤバい奴みたいだよ?」
「この人ヤバいね。心に傷を持っている可能性がある。司ン、わかるかい?」
スーが医者の様に言う。
「わ…解る訳無いじゃない!」
私は頭を回した。
今ある厄介事をどう回避し…
どう、日本の素敵なお城を楽しんでもらって。
気持ち良い思い出をご自宅に持って帰って貰うか。
そして、母国で親戚、友人知人と日本の城の話をどう楽しく共有してもらうか。
城だけでなく、出来る事なら周囲の町や店、産物に酒、なによりそこに暮らす人との楽しい時を過ごしてもらうか。
宿はクルーズだからその地の人とは会話は無い。
でもまあ、城の近くにある地元の学校の近くは通るだろう。
あの脂ぎった連中も連休は…多分部活だ。うわあ。
「場合に寄っちゃ司ンじゃなくて別のベテラン、外国人ガイドを充てる必要があるかも知れない。
もしかしたらショア伯遠征は私達では負いきれない事情があるかも知れない。
穴埋めに他の参加者も良く調べましょう!特に宗教関係!」
雅姐姐が言う。
「まー、裏を取るのは必要だけど、表面的には粛々とやりますよ」
ちょっとこのままどうぞどうぞって言うのも何だな、って気持ちもある。
「司ン!今度は下手したら日本人殺す殺す団みたいなテロ集団の巣窟にあんた一人を投げ込むみたいな物なんだぞ!」
スー、心配してくれて有難う!
だが。
「何だその物騒な集団。いやそんなもの雅姐姐が事前にハネてるだろ?」
「バ婆さんの情報ちゃんと掴んでるか確認するぞ?」
バ婆さんって誰だ?あ、バージニアだから。ってまだ40代じゃないのよ!酷いなあ。
「それはお願い、なんでカルトっぽくなったのかも」
「あまり無理はしないでな。就職前の大事な体なんだからね」
時サンが親みたいな事を言う。
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相手が解らなきゃ、旅程も決められない。でも骨子だけでも考えておこう。
ま、鉄板の姫路城、岡山城、福山城、広島城に厳島神社、呉軍港。
日本海側に廻って萩城、浜田城、松江城、米子城、鳥取城…
途中に尼崎城、明石城、赤穂城、下津井城、鞆城、亀居城、岩国城…等々があるけど。
まあ先方の瀬戸内・日本海沿岸での来訪歴は広島、岡山、松江位か。
訪問先のチョイスと、案内ストーリーかあ。
あんまりストーリーは無いか。
瀬戸内交易って言ってもビジュアル的に解りやすい話じゃないな。
あ、下津井城か明石城に本四大橋が出来た時にそのテーマの展示が出来た、みたいな話ないかな?
後は時サンが問答無用で戦国末期に蒸気船作りまくった幕府海軍西進の話か。
これはジェフ卿が海軍で呉とか浜田とか田辺とか行って日本海軍の歓迎を受けてるみたい。
後は毛利や豊臣臣下の凋落と、徳川臣下の進出。歴史の悲哀は蜜の味だ。
話す場所と話題は…
尼崎や明石、姫路が徳川の西の護り。
赤穂、岡山、広島、岩国、萩が大坂の乱後の外様処分で豊臣方の悲劇。
同時に幕府の建艦施設として強化発展する。広島がその極致みたいな。
浜田、田辺で、もし希望された場合は海軍拠点見学も考えて、事前に現地基地に打診してみよう。
あと、宮島、出雲、で日本神話に触れて頂き、米子は日本海海運の実地見物。
その問題のバ婆さんのために山口ザビエル教会…はちょっと遠いなあ。
すぐ寄れそうなのは細川ガラシャ所縁の、宮津聖パウロ記念教会か。
よし、これで見積もって、会社経由で先方の感触を調べるか。
まずは一行10人が自由に停泊できたり、はしけに乗り換えられる船をチャーターして、停泊許可と…
そうだ!
今でも舟入が機能してる城なら、事前に許可取ってクルーザーと城をはしけで往復するとかどうだろ。
ちょっと楽しいかも?
費用はもう青天井だなあ。港に接岸するのも沖に泊めるのも手続き面倒そうだし費用もかかりそう。
でも相手は海軍から海運、海のベテランだ。
こういう遊び心に乗って来てくれるだろうか?
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「素人にしては…よく調べ上げたねえ…」
海外社長がPCの向こうで驚いている。
「明石、姫路はもしかしたらパスされるかもね。他は、先方が洋上で過ごしたいか、上陸したいかにもよるわね。下津井城とか亀居城とかは珍しがられるかもねえ」
画面分割で雅姐姐も褒めてくれる。
「クルーザーからボートで城へ、ってアイデアは結構他にも応用が利くかもしれないぞ?」
「前に琵琶湖から淀川を下った時、割と城の近くまで行けた者もので。
それに友人と関東旅行に行った時も、堀に向かった門があったのを思い出して企画しました。
関東水運城ツアーなんか出来ないかなーっても思ったり…」
「それも面白そうだね!
いや、地域での往来はあるけど…長距離だと…クルーズ船じゃあ無理かな?」
しまった海外社長を脱線させてしまった。
「まそれは置いといて」あ、戻って来た。
「よし、ヤーティンさん。先方と折衝してみよう。避けたい場所とかあるかもしれない。
外洋と城までの水路については他の連中に手分けして調べさせよう。
行き止まりとか、水路の幅によって揺れが激しいとかあったら台無しになるからね」
さすがプロ。キチンと裏を取るなあ。
「普段はここまでやるなんで有り得ないけど、上客中の上客だからね。
それに貴女や訪問先に負担になる事も事前に排除したいし」
「き、恐縮です」
こうして、瀬戸内・日本海城クルーズの企画がスタートした。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。