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123.司 新たなる旅オファー

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 爛漫の春でした。のんびりと平和な日本でした。

 けれども、その中でいささかの将来への不安を感じる私はとうとう大学四年。


「時尾~明日何限まで?」「3限ですけど?」

 3年で単位取ってお別れした筈なのに観光ゼミの教授が聞いて来たので答えた。

 あ!これ厄介事だ!

「いや明…」「じゃ4限の時間でウチの研究室迄来てくれー」

「まさか『案内士になろう!』さんじゃないでしょうね!」

「ビンゴ!冴えてきたなあ」

「スーパーデリシャス青田刈りリザーブなんですけど!」

「いやいや、ちょっと相談に乗って貰おうと思ってなあ」

「いやいや、私はもう単位取ったんで」

「最高評点付けてあげたのは誰だったかな~」

「ん~?何の事かな~?学園祭に犯罪者紛いの輩を駆逐したのは…」

「まあまあ。一応相談だけでもバイト扱いで金出るぞ、時給2千円で」

「行きます!」


 ん?なんか選択肢を誤った様な気がしないでもない。


******


『司・またガイドの仕事来そうだよー!前回雅姐姐が言ってた英語のヤツだよきっとー!』

『徐・おー!また数十万が貴女を待っています!何故角を取らない?!』

『ミカエラ・富豪でしょ~?次はイケメン男子いたら婚活だよー!』

『司・前もいたけど駄目物件だったよ!』

『徐・んだ』


 リビングに寝転がって携帯で愚痴る私。


「ねーちゃんあのスゲー美人な人達とまた旅行行かねーのかよ?!」

「行かねーよ!」マセガキな弟を成敗して携帯に向かう。


『延・相手がどんな方かお尋ねになってから決めたら如何でしょう?』

『グラシア・アメリゴ、ブリテンどっちもハポンをナメてる。

 奴等危険だな?理屈を無視する。異端審問と同じだ』

 スペイン出身のグラシアちゃんの言葉は心に刺さるな。

『玉・長崎で会った人達、神に祈るのに日本人を人間として見ていなかった。

 物凄く恐ろしい。

 でも、世界の人と戦わないと日本には未来は無い。

 戦うのは司さんじゃなくてもいい筈』

 更に島原の乱という侵略戦争の矢面に立たされたお玉ちゃんのコメントは心を抉った。


「イエロー」

 長崎でそう言い放たれた時の、相手から極めて自然に発せられた侮蔑。

 それを悪意とも思わず神の前で言い放つ傲慢。

 それを誰も諌めない、一緒にいた人達の普通な反応。


 だから私の知らない歴史では、平然とジェノサイドを行った。

 そして日本をジェノサイドの犯人に仕立て上げた。


『次・いっそ司ン南蛮船で日本人馬鹿にする奴血祭に上げて大暴れしたら?!学園祭のカルト狩り再来!』

『延・お止しなさい次!』

『次・多分司ン今凄くモヤモヤしてるんだろ?

 本業にする訳じゃないんだし、気楽に考えなよ』

『延・気楽過ぎます!』


 ぶふふっ!

 ちょっと笑った。

『司・お次さんありがと、気楽に考えるよ。

 まあ、嫌な事言われたら弁護士が許す範囲で反論してやるとしますか。

 そんな嫌な客じゃない事を祈るけどね』

『徐・ガンバレー!弁護士は雅姐姐に任せろー』

『次・やっちゃえ司ン!』

 ランもミキも、そしてお延さんも。


『延・相手が天人てんひと共に許さぬ無礼を働いたら誅すべし。

 されど慎重にお願いします』

 と、殺意100%の激励を飛ばしてくれた。

 ガイド、命懸けだなあ。


『司・時サンはどう思う?やるべきか、やらざるべきか』

『時・泣くも笑うも決断一つだよ。

 君が行くなら俺も行くから、まあ失敗を恐れずにドンと行きなさい』


 その一言で、私は決意した。


******


 大学の教授室。


「どうも時尾さん、先日は大きな案件を成功させて頂きありがとうございました!」

 と両手を掴まれてブンブンされた!

 相手はイケメンなキャリアー!!って感じの30代っぽい人だ。

「私は皆様の旅のお世話をさせて頂いています、海外日出洋と申します!」

 名刺を渡された。うみそとにでよ…国内で観光やってて海外進出か。攻めの観光会社って事だね?

「司ン、受けてくれて有難うね」

 雅姐姐も一緒だ。

「彼女は我が大学のルーキーですので、どうかお手柔らかにどうぞ」

 と援護になるかならないか解らない援護をする教授。


******


「姫路城の案内の時、なんで定番の宮本武蔵のお話をしなかったのですか?」

 海外氏が難しい質問を繰り出した!

「え?やっぱりそっちの方がよかったですか!」

 相手は乱暴者の毘姐姐だし、しくじったか?

「違います!道中の話題が城そのものについてだったでしょう?結果としてそちらの方に皆様が好意を向けていたので」

「それなら私も同じです。もし城そのものの話に飽きていたら、他の話題にするつもりでした」

 私は考えていた腹案を話す。


「素晴らしい。相手の反応で手札を選べる人は、大手の観光会社でも結構絞られます」

「いえいえ。そもそも観光会社さんはガイドをする必要はないのでは?」

「自社でガイド出来る随行員がいればコストがかからない、そういう考え方もありますが」

 何か海外氏が不自然な顔付きで言った。

 私はちょっとイラっと来た。

「それはガイドする人の知識や語学力をタダ働きさせる蛮行です!」


 一瞬、海外さんの表情が固まって、和らいだ。

 雅姐姐は…ニヤっとしていた。教授は聴いていなかった。

「時尾さん。他の旅行会社は兎に角、わが社はガイドの技量を叩き売りはしません。

 先の賃金、あの女傑徐姉妹に誓って中抜きはしてませんよ。したら殺されるんで…」


 最後の方、小声だったけど聞こえてますよ?

 やっぱあの人達怖いなあ。


「良いガイドが良いリピーターを産み、更に良いお客様を読んで下さる。

 そして良い日本を世界に教えてくれる。

 どこかでズルがあったら、この構図は広がらない。

 ですので、そのズルを許さない時尾さんをスカウトしたいのです!」

「ま。事実上わが社に内定よ?司ン」

 内定ー?!

 春なのーにー。内定ですーかー!小躍ーりばかりですー!うひゃっほっほー!

 いやいやちょと待て。


******


「あの、御社の労働条件を確認したいのですが」

「ぬう」「だから言ったでしょ?」

「大雑把に言えば出来高制です」雅姐姐のツッコミに海外社長が言う。

 それって仕事が来なけりゃ無給って事じゃない?


「勿論仕事が増え過ぎたり無さ過ぎた場合の補填はありますが、基本は能力主義です。

 お客さんが取れないガイドさんは社内の事務や提携旅行会社への営業に縄って頂く事も。

 そーゆー事もあるのよねえ」溜息を吐く雅姐姐。


「それってどんな場合ですか?」と雅姐姐に聞く。

 雅姐姐は、スーに目配せをする…っていつからいたよスー?!

「結構イカした歴史マニアで接客力の高いヤローがいたんだよ」

「過去形か!」

「お客さんの娘孕ませて、行方不明という事に」

「??…『という事』?」

「そう」

「そっかあ~」やっぱこの仕事命懸けだ。いやいや!そんな非常識な奴、例外中の例外だ!


「ウチの事務方、7割方は副業でガイドやってるよ。そっちの年収は大体200万程度。

 ウチは年収の中央値が600万なんで、まあ1千万いかない程度、かな?」

 社長さんがぶっちゃけた!

「それは、高いのか、安いのか微妙ですねえ」

「一般企業なら高いと思うけど、司さんが狙える大企業での生涯賃金では…

 管理職まで昇進する事を想定するとちょっと安いです」

 障害年収。まあ課長止まりでも40年で大体3億、年収400万から始まって平均750万。

 微妙だ。出来高なんで何かヘマやったらそれを下回るし。


 一瞬言い淀んだけど…

 そもそも結婚退職せず管理職までいける女性自体、いや男性でも土日残業して祝日に城址や顧客と早朝からゴルフ行って、それでも管理職になれるかなれないか、だ。

「失礼な事を伺いますが、離職率は」

「良い所を突くねえ!」

 社長が自信有り気に応える。

「我が社は創業5年!ひよっこもいいとこなんで今のところあの歴オタ以外離職者無し!」

「お蔭で利益が伸び悩んでるけどなー」

「それ、駄目じゃないんですか?」

「そうかもなー」

 大丈夫かな~?


 だがちょっと待て。

 どんな大企業でも、銀行が裏切れば莫大な利益だけむしり取られ解散させられた。

 優秀な実力者は先行き不透明、無能な経営者だけ社内争いで生き残った。

 その結果無能な経営者だけとなった大企業は、海外に買い叩かれて経営陣は汚職を暴かれ死刑、技術者は期限拘束付きの薄給雇いとなって今や名だたる企業のいくつかは機能不全に陥っている。

 いくら大企業でもそんな所はいやだなー。


「エー就職の話はですね。まずは今回のガイドが上手く行ってから、でどうでしょう?」

「何言ってんの司ン?!あなたあの徐姉妹から次…」

「お客様の情報は守秘で!」

 まあこの場の人は皆知ってるけど、次もまた契約があるかもなんって不確定情報は、あくまで未定なので。

「お、おう」


「では瀬戸内名城クルーズの企画に当たって。

 お客様の公的な経歴、

 関係する企業と日本企業や政党との関連の有無、

 関連がある場合のキーマンの洗い出し、

 開示可能な範囲でのお客様の嗜好、

 過去の来日・観光歴、日本人との交遊歴、

 出来れば宗派や支持政党、所属する集団等の情報を可能な限りお願いします」

「それは機微な情報って奴じゃないの?」

「相手は富裕層ですよね?地雷踏んで大爆発させないための自衛の策、ですよ」

「大学生とは思えない観点だねえ~」

 社長がヘラヘラっと笑う。

 あ、しまった。

 社長は一冊のバインダーを翳す。用意していやがったか!

「こちらに。でも受け取るなら一時的でも社員契約に押印してね」

「社員じゃなくて一時的な業務の準委託じゃないですか?」

「え~社員にならないの?」

「う~ん。まだです。こっちの実力が足りないかも知れませんので」


 ヘラヘラしてたイケメン社長が、突然キリっとした。

 え?すごくイカす!

「次からは基本情報を元に君が調べる事。がんばって」

 と、ヘラヘラしてないイケメンスマイルを向けてバインターを手渡しした!

 どうすれバインダー!


******


※一流の旅行会社やホテルがそこまで機微な顧客情報を掴んでいるかは知りません。あくまでフィクションです。

 もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。

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