117.ガイド丹波亀山城 西から睨む大坂城
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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「おはようございまーす!」
私は自室ではなく、伏見櫓の最上層、叔母さん4姉妹が潰れて寝てたラウンジで目覚めた。
何となく気に成っちゃって、戻っちゃったのよ。
「おお!司ンは元気だねえ!」皆さん、ぼちぼち起きて…また飲み始めてた。
「若者は元気じゃなきゃね、ハオ!」
「うげろっちぇ~」
スーが謎の生物みたいな鳴き声上げて起き上がる。
バスは第二坂和から坂神高速を経て名神高速へ。
途中、徳川再築の白い大坂城を左手に、右手に古代の難波宮を見てバスは進む。
「金銀で飾ったトヨトミの大坂城は、あの城の地下かあ」
「天守や千畳敷御殿が九州の日出市に移築されていますよ。
一族の衰亡を覚悟して戦った秀松、秀次に配慮して徳川が残して与えた、豊臣家のモニュメントです。
一見の価値はあるかと思います」
「切ないものだねえ」
「これから向かうのは、あの大坂城に引導を渡す大坂包囲網の一つ、丹波亀山城です」
山崎の巨大な円形のオブジェみたいなジャンクションを経て、バスは京都縦断道へ、そして丹波亀山インターで下車。
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高層建築が少ない地方都市の外から見える、白く輝く五層の天守。今でも京都で色々な国際イベントが行われると来賓から宿泊の希望が募る丹波亀山城だ。
ゴージャスリムジンバスは本丸西の二之丸手前に停車した。因みに本丸南にも二之丸があってややこしい。
そして広大な内堀から南の二之丸を眺めつつ、二ノ門から城内へ入る。
西と南の二之丸の家臣屋敷は明治前に洋館に建て直されて藩の役所、そして迎賓館になっている。
そして南の二之丸と、内堀のさらに内側の堀を挟んで聳え立つのは、西国大名を動員して積み上げた重装な石垣と、その上を廻る多門櫓。アチコチに下見板張りの石落としが設けられ、下への守りを固めている。
その奥に、本丸御殿の巨大な妻側、更に奥に五層の破風の無い天守。
スッキリーっていう位、白い壁に小さい四角い突上げ窓が点々と連なり、最上層は高欄が巡る、シンプルイズベストな層塔式天守の典型。唯一最上層の棟側に軒唐破風がデザインされる、一点の華。
「この丹波亀山城は大坂包囲網の一環として築城されました。
元々、本能寺の辺で織田信長暗殺を企み失敗した明智光秀によって16世紀後半に築かれました。
これを17世紀初頭に大坂城包囲の一手として西国の親秀頼派大名に備えて現在の姿に拡張したものです。
縄張は藤堂高虎で」
「うぇ!」
築城の名手、形無し。
「彼が当時領有していた四国の今治城の天守を解体して移築させたのが、あの『層塔式天守のパイオニア』と言われる五層の飾りのない天守です」
「どうにも上に阿る奴だねえ。『忖度』ってのか?大陸っぽい言い方で好きじゃないけど」
日本語に無い言葉だな。
「そう?あの天守は大雁塔みたいでかっこいいじゃない?」
ちょっとマニアックなのは流石広姐姐。
規模は半分以下ですが。
「今治城天守は大坂の乱後に再築されています。19世紀までは瀬戸内海の灯台として最上層にライトを置いて瀬戸内海の安全を担っていました」
「ほう。海の安全の役に立ってるじゃないか。
私は海を守る奴は好きだよ」
流石、海賊持姐姐。
「京都近辺の城は国際行事の迎賓館として人気で、結構近代的、洋風に改装されています」
本丸御殿は鏡面仕上げの床張りに替えられ、天井からシャンデリアが吊り下げられ、ダンスホールになりそうな感じに仕上がっている。
「ここでもう一泊したいなー」
「子供みたいな事言うんじゃないよ。気持ちはわかるけどさあ」
毘姐姐への持姐姐のツッコミが鈍る。
「では、四国から海を渡って来た天守へどうぞー」
本丸御殿と、二重の付け櫓を介して繋がっている天守。
これも夜間に天守をラウンジとして使えるので、迎賓館として人気があるポイントだったりする。
昨夜の岸和田城伏見櫓は現代になって渡り廊下をくっつけて往来可能にしたんだけどね。
「やっぱさ、天守って城にとって特別なんだよ」
最上層の高欄から持姐姐が良い事言う。流石長女!…長女なのかな?
「そこで宴会。最高じゃないか!バカと煙は高い所が好きって日本でもいうだろ?」
「あの~ご自分でそう言うのは~」
「はははっ!あたしらなんかはバカ姉妹の集まりなんだよ。
だから、こんな高くて御大層な建物がね、大好きなんだよ。
天守の無い城築くならね、天守だけで堀も石垣も無い丸裸の城の方がイカした心意気ってもんだよ」
「ひー!それは日本の多くの中世山城好きを敵に廻す爆弾発言をー!」
今でも中世の、山林に埋もれた城がサイコーとか言うアドベンチャーでエクスプロアラーな人が多かったりするからねー。
それ、もう『城』の概念が違うよね。
近世西国の天守と石垣の城と、古代から中世の、山や高地を切り崩した土の砦。
別物だよねえ。
「あ!」
堀を挟んだ南の二之丸で、必死にタブレットに向かって光速の右腕を奮う二人。
お次さんとグラちゃんだ!
手を振って見たら…あ!気付いてくれた!うれしー。
え?広姐姐が二人に近づいてって、今そこにいなかった?テレポーテーション?
あれが目利きの美術商の跳躍力か!
お?何か広姐姐、ペコペコして…一瞬でダッシュした!
「持姐姐!」
え?広姐姐が私の隣にいるよ!やっぱテレポーテーション?
何か母国語で必死にしゃべって…
え?持姐姐の顔色が変わった。でこっち見た?
なんかしらんが笑顔で返そう。
あ、溜息吐かれた。何だったんだ?
…時サン関係か。関わらんとこ。
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次に向かうはまたまた天下普請の城、篠山城だ。
篠山までは国道372号線でたらたらと。
後ろでは4姉妹が深刻そうな顔で何か母国語で話してる。知らんけど。
『迂闊だったね広姐姐』
『だってこんなとこに時様の妻達がスケッチ旅行してるなんて思ってもみなかったんだよ~!』
『まさかあの子が心配で着いて来てるんじゃ?』
『あのオッサンがそんな狭量な人かね?!
単に面白そうだから着いて来てニヤニヤ笑ってんだよ!
そんで司ンに…』
あれ?なんか私の名前が出た?
『あたしたちの事聞いてるのぉ?』
『…無いな。気まぐれな人だけど悪趣味な人じゃない。どうせ昨日もどっかで泊って司ンが上手くやってるか酒の肴にしてたんじゃないの?』
『は!オッサンらしいや!じゃああと少し、ハオと司ンを可愛がってさ、楽しい旅を続けようぜ!』
『そうだね。それがいい。
私らは私らだ。あのオッサンの手助けでこの年まで育てて貰えた小娘だ。
あの、将来有望な金の卵をね。潰さない様に、腐らない様に、可愛がって行こうね』
何だか笑顔で会話が終わって飲み始めた。
4姉妹、仲良しさんだね。
こらちびっ子、私の頭の上に立つな!それ以前にシートベルトしなさいって!
今度はロシアの交通事故記録動画のオンパレードだ!
…やり過ぎた。流石にビビらせてしまった。
ロシアの事故は、おそロシア。
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※天下普請で丹波の地に忽然と出現した丹波亀山城、今では亀岡城と呼ばれる城の復元CGは下記サイトで。
https://8787pc.com/%E4%B8%B9%E6%B3%A2%E4%BA%80%E5%B1%B1%E5%9F%8E.html
本丸の復元模型も。一番下です。
https://kojodan.jp/castle/193/memo/1200.html
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。