114.ガイド岸和田城 黒く端正な五層の天守
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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和歌山から見て、本日最後の訪問地でありお宿でもある岸和田は直ぐ北。
城は西の浜辺に向かって半分三重の堀を向けている、下見板張りの黒い天守を頂いている。
そんな城へとバスは向かう。
とはいえ三重の堀の内、外周の曲輪は普通に市街地になっている。
残る二重の堀の内側、二の曲輪。
池中門の隣に車道が貫通していて、門の南が市役所、北が緑が多い駐車場になっていて、その奥、紀州街道に面する正面に向かって二層櫓が並んで建っている。
奥はキャンピングカー等で旅する人の為に緑で囲っているそうだ。
世の中これからキャンピングカーの旅が増えるのかな?
いや、普通の車にテントや折り畳みの椅子にテーブルを積むだけでも気軽なキャンプ旅とか出来そう。
九州の島原城はそういう旅行者をターゲットにしてたしね。
何となく年末の関東豪華バスコンツアーを思い出しつつ、一行を城へご案内。
「ここ岸和田城は、羽柴秀吉が雑賀、今の和歌山一帯にあった独立気鋭の強い勢力を掃討するために和歌山城と共に築いた城です。
秀吉の部下小出秀政が五層の天守を中心とした近世城郭を完成させ、大坂の乱鎮圧後に何代か交替した藩主により石垣や櫓が改修され、現在の姿になりました。
今回のツアーと主旨は異なりますが、大坂の乱の後に大坂守備の為に強化された城です」
「ヒデヨシが築かせた城が、徳川の城になって強化されるのか」
「それが戦いってもんだぜ姐さん!」
「この能筋が…」
「周りは白壁の櫓に塀、天守が古風な黒い壁。ちょっと歪かもね」
美的な観点から広姐姐が指摘する。
「そういう天守が古くて廻りが新しい城というのは他には彦根城、先日訪れた加納城、岡山城や創建時の高松城等もありますね。
岡山城は城内城と黒の建物がごっちゃで面白い結果になっちゃってますが」
「そういうもんなのかねえ」
「16世紀にほぼ完成、17世紀頭まで改修された城なんてそうなりがちです」
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「こちらは本日のお宿となります二之丸御殿です。後程ゆっくり堪能しましょう」
「温泉あるか~?」「ありますよー」「よしゃっ!」毘姐姐…
「司ン、あそこに建ってる立派な三階の塔は?」
「あちらは江戸時代になって伏見城の外郭部分を取り壊した際、ここに移築された『伏見櫓』です。
徳川幕府は伏見城外郭を解体し、そこにあった櫓や御殿を重要な城に移築させて幕府への忠誠を硬くさせたのです」
「なんていうか飴と鞭みたいなもんだねえ」
「大坂城の来たを守る大規模な三層櫓を始め、琵琶湖に浮かぶ膳所城や、大坂のすぐ西にある尼崎城、江戸城西の丸の宮城正門脇等に伏見櫓があります。
幕府は権威を固めるために使える物は使いまくった感じがしますね」
「偉い奴はそうやってもっと偉くなるのさ」
持姐姐が吐き捨てる様に言った。
偉い人に知り合いがいるんだろうなあ。
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馬出状の二之丸から本丸、正面に櫓門を向けた本丸大手門から本丸へ。
その両脇に多門櫓で連結した二層櫓が守る、厳重な構えだ。
本丸には御殿も無く、正面に巨大な五層天守が端正な姿で聳えている。
「こちらの五層の天守は、二階建てまたは三階建ての大きな櫓の上に二階建ての望楼を乗せた古い形の天守から、継ぎ目のない五階建ての新しい層塔式天守へ進化する途中の姿として、九州の柳川城天守や北関東の沼津城天守とともに貴重な存在と評価されています」
「今日はここに泊るのかい?」
「いえ。天守は窓も小さく、水廻りも確保されていないので居住性はイマイチです。
本日泊まるのは先ほどの二之丸御殿と、これに接続される三層の伏見櫓です。
夜にライトアップされた本丸とこの天守を眺めてお酒が頂けますよぉ?」
「ん~。それもいいかぁ」
「でもよー。城の真ん中に泊ってこそ、その城を制覇した事にならねえか?」
「えー。かつてパリにエッフェル塔が建った時、多くの保守的な人が革新的なこの塔を憎悪したそうで、作家のモーパッサンもその一人でした」
「おー。司ンのウンチクが始まったぞー!」
ヘンな合の手入れないで毘姐姐。
「彼は大嫌いな筈の毎日エッフェル塔に通い、エレベーターで塔に上って食事したそうです」
「その心は?」日本人か?
「『ここで食事すると、あの醜いエッフェル塔を見なくて済む』だからだそうです」
「「「…???」」」
「逆に言えば、その城が好きで天守を愛でたければ、一歩別の場所から眺めて乾杯するのがベストなんじゃないかなーって…ダメ?」
「「「イイネー!!!」」」
若干反応が微妙だけど。
「よかったー!」
受けた事にしとこう。
「最初の名古屋のホテルもそうだったしなあ!いやー司ンの観光美学、おもしろいねー!」
満面の笑顔で広姐姐が言う。
「ありがとうございまーす!では天守へいざレッツゴー!」
「因みにエッフェル塔を一番楽しめる場所はどこだい?」
今度は持姐姐。
「セーヌ川対岸の、イエナ橋を渡った先にあるシャイヨー宮ではどうでしょうか?」
「いいねー!あのチビっ子の親、アタシのアホ娘が小っちゃい頃連れてったよ!
トロカデロ公園の噴水で泳ぎやがってアホ娘が!」
「元気があっていいですねー流石あのお子さんたちのお母さん!」
「誰に似たんだか!」
あんたじゃね?!と心の中だけで突っ込む事にした。
天守から海を望む景色は、陸に多くの車が行きかう高速道路、海に多くの船、空に多くの飛行機と、厖大なヒトとモノが動く姿を実感できた。
更に眼下には、天守を取り囲むいくつもの二層櫓。
そして二之丸御殿の先に三層の伏見櫓。城内第二の格があるんだろうなあ。
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ビバノンノン。
「前の城みたくこっから天守はバッチリとは見えないかあ」
「天守がバッチリ見えたら私達も天守からバッチリ見えちゃいますよ?」
二之丸御殿の大温泉。流石にこれは後世の増設だ。
温泉は山間から輸送される天然ラドン温泉、弱アルカリ泉。
肌の角質を洗い落とす美肌の湯だー!
「おー!この毘姐姐の裸を拝みたけりゃ金払えってもんだよ!」
「強いですねえ」
「司ンはああなるなよ?」
『ハオ!あんたも金採れる位に美を磨くんだよ!』
『嫌ダヨー!』
『女の価値は下僕にする男の数で決まるんだ!ちったあヤーを見習いな!』
『ヤー姐姐!そんな男を捕まえてたの?!』
なかよし親戚会話。私は立ち入らないヨー?
でもお城の御殿で温泉満喫。イイネー。お値段6桁以上なんだけどイイネー。
自腹じゃないからイイネー。
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※大阪の南、岸和田城の復元図はこちら。
本丸、二之丸とそれを囲む内堀以外は現在は消滅しています。
かつて下見板張りの五層天守が聳えていましたが落雷で焼失、戦後何故か(ホント何故か)三層白亜、しかも木造建築上有り得ない巨大入母屋という外観上明らかに異様なデザインで模擬天守が建てられてしまいました。
個人的には今治城模擬天守と並んで「こんな天守は嫌だ―!立て直しを要求する!」模擬天守の一つです。
https://livedoor.blogimg.jp/g2009h/imgs/9/9/99522545.jpg
※伏見城の主要部分が関ケ原の戦いでも焼かれず、開幕後の廃城でも解体されずに存続しても、本丸と二ノ丸以外の建築は解体されたお蔭で、伏見櫓は史実とやや同様全国に存在している模様です。
但し元となる建物は現実と色々違いはあるんでしょうけど。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。