108.お宿は松坂城2 明日の自分再び
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
******
本丸上段の御殿で大宴会!並んでる酒、凄!!
ワインもシャンパーニュも同じ年のラベルだし、ウイスキーとかブランデーなんかもそうだ。
…ロマネコンティとか書いてある気がするが、気の所為だろう。
宴の準備が出来た。と、持姐姐が立ち上がった。
『あれから40年。
キ〇イ共の同族殺しから日本に逃げてきた私達は、騙されつつしくじりつつ、何とか生き延びてきた。
あん時私達を助けてくれた人。
バカみたいに騙されながらも私達に再度金を寄越してくれた馬鹿な可愛い男達。
そして手の平で踊ってくれた偉大な役者達。
彼等に感謝しよう。乎乾啦!!』
『『『乎乾啦!!!』』』「ボダラー」
あんまり聞かれたくなかったのか母国語での乾杯に、訳も解らず私も続いた。
「あと、この場所を用意してくれた日本の若い星、ガイドしてくれた時尾司ンにも、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
今度は日本語だ。ここは深くお辞儀しておこう。
でも名前の最後に「ン」がつくのねえ。何故だ―!!
あ、何か携帯で誰かにつないでいるみたいで、その人からも母国語でお祝いが語られている。
「司ンンン、あのなナナ」
スーが何か震えてる。風邪ひいた?
「なるべくななな、こここここの会話に突つつっ込むんじゃないぞぞぞぞ?」
「はは。私閩語解んないし―」
「いいい一応忠告したからね!」
思った通り、4人の叔母さんを中心に思い出話に花が咲いたのか、母国語での大爆笑合戦となった。
イケオジも、ぱっとしない老人達も時折馬鹿笑いしている。
更に宴席には松坂牛のステーキが。叔母さん達が瞬時に平らげる!
『あん時の首席、誰だったか知らねーけどバカみたいなマヌケ面で逃げ帰りやがってさー!』
『どんな偉そうな野郎でも、拳銃の一発でも打ち返してやりゃあ漏らして逃げ出すってもんよ』
『でもあのキ〇イ独裁野郎はヤバかったよ』
『アメリカのヘナチン共も奴のヤバさが解ってなかった。あん時は覚悟したね』
『いっそ日本がヤツラと戦争してくれりゃあんなキ〇イ独裁無かったかも知れないよ!』
『いや、逆に日本とアメリカが戦争になっちまう。そうなりゃ私らも革命の肥し、だ』
『坊や達が来てくれなかったら皆殺されてたわねえ。あん時の甘ちゃん坊や、惚れたわ~』
『惚気~』『命懸けの惚気よお』『『『ガッハッハー!』』』
うん、微笑ましい。何言ってんだか解らんけどね。
松坂牛おいしいね?スー。
「ききき聞いてないししし!」やっぱ風邪かな?
******
宴も酣、皆さん自室に帰って行った…と思いきや、4姉妹と私、スーは拉致られて御殿から多門櫓を引き摺られて天守へドナドナ。
何と最上階は和風モダンな宴席になっていて、10人位寛げる。
ここで「お話は親しい御親族だけで~」なんて言っても相手の面子を潰すだけだ。
「え~お話は仲良し4姉妹でどぞ~」こらスー!思ってる先から!
「ハオあんた卒業してどうすんだい?」あ、そっちの話か?
「ははははいっ!まままだ具体的にもなってないけどどど!」
「いーんだよ!それがいーんだ。言ってみなよ!」
あ、なんかスーが地獄のお迎えが来た時みたいに全てを悟った様な顔になったー。
「日本の大学には結構頭良い奴が多くてさ。
でも発想が無いっていうか、大企業に就職するのがゴールだと勘違いしてんだ。
そういう連中に声かけて、商社や観光開発のコンサルタントを立ち上げようかな。
そのため先ず色々就職して、3年か5年で独立出来る様経験をシェアして…」
ちょっと声が弱いな。でも私なんかより余程考えている。
「続けて」ちょっと冷たい声が持姐姐から響いた。
「大学で3人、これはって仲間が出来た。他にも5人位仲間になれそうな奴はいる。
そいつらと商機をつかんで、副業を立ち上げたい」
「で?何売るんだい?」
「毘姐姐。まあ聴こうよ」お?こういう時厳しそうな広姐姐が待ったをかけた。
4人の叔母さん達は沈黙した。
スーもそれ以上、具体的な目途が語れない。
「司ンはどう思う?」
持姐姐が聞いて来た。
「私には明確な目的がありません。
それでも今まで学んだことを活かせる仕事に就ければ、漠然とそう思っています」
「ブレないブレッブレさ加減だね」
「どうも」
褒められたのか駄目出しされたのか解んないよねー。
「ガイド志望じゃないのねえ」と増姐姐が助け舟出した?のかな?
「ガイドを専業にするためには、私個人に直接オファーが来るレベルにならなければ無理です。
旅行代理店では私の企画は特殊過ぎて一般的ではない様です。
なので今はガイドで食べていく事は考えていません」
「え~勿体ない!」
「評価頂き、有難う御座います」
「現場で揉まれて見なよ。司ン、いいガイドになるかもよ?」
「…ありがとうございます。
先ずは今回の皆様へのガイドをお楽しみ頂ける様努力する事。
これが私の目の前の課題です」
そうだよね。バイトの一つも終わらせなきゃ、何が専業かって事だよ。
「良い目だねえ。ハオ!このお友達をよ~く見ておき」
「うっ…」
え?私ただのバイトだよ?
起業を視野に入れてるスーにそんな目をされるのも恥ずかしい。
そして持姐姐。
「いいかい?二人とも。
未来は色んな選択肢があって選び放題だ。
思いっきりやってみて、それで失敗してもいい。
でも無駄にすんじゃないよ?」
何か気合と、怖い位の厳しさと、ちょっとだけいい香りがした気がした。
「うわ説得力ねーぞ持姐姐!ボンボン袖にして遠回りしたクセに」
「あんたは早すぎ。それよりあの姉弟、そろそろちゃんと起業して身を固めさせなさいよ?」
あー、あの美人姉弟かあ。キラキラオーラ纏ってるしなあ。
「アイツらお題目ばっかで中々仕事動き出させねーしなあ…」
毘姐姐にも親…もとい祖母の悩みがあったんだー。
「あんたが見切り発車過ぎて反面教師になったんじゃないの?」
「ケっ!広姐姐みたく男を鑑定しすぎると行き遅れるって言っとくか」
「面白い事言うわね?」
お?姉妹喧嘩かな?
「あれ?広姐姐って美術鑑定士みたいなイケオジと夫婦じゃないの?」
「広姐姐は結婚してないんだけど、あのマニア仲間なダンナとの間に子供が3人孫が10人いてな」とスーがヒソヒソと教えてくれた。
「じゃあご一行様の後ろの方で大人しくしてる、超ナイスバディな女性二人は?」
「増姐姐の娘で、二人とも旦那に子供預けて呑気なニセ独身旅行だよ」
…あんたの一族、結構フリーダムだねえ、って口から出かかったけど言わない言わない。
徐に目を逸らす。徐一行様だけに。
「何よ?司ン、ご意見は?」あ、広姐姐が絡んで来た。
「いえ。月の明かりに桜が映えて、周りの櫓も綺麗だなあって。
その時、風が吹いた。
一同が望楼の外に目を移したその時。
風が桜の花を散らした。
紫の夜空に散った、光る桜の花が輝きながら空を覆った。
眼下に控える金の間櫓を、太鼓櫓を背に、光る花が舞って行った。
「良い眺めだねえ」
「良い眺めだ」
「値千金だね」
「司ンが私達に見せてくれたんだよね?」
4人が日本語で言った。私に聞かせてくれる様に。
「じゃあ次は司ン、あんたの言ってた『冴えないオジサン』について聞こうか?」
「「「持姐姐ー!!!???」」」
「ヘンな意味じゃないよ。この子にとってどんな人か、真面目に聞きたくてさ。
他言無用だよ。思ったまま教えてよ」
「え~それでは」
******
目が覚めたら何故かふっかふかの布団…だと思ったら増姐姐に抱き枕にされていた。
私ったらお客様に何て事を。早々に脱出しました。
因みにスーは毘姐姐に抱き枕にされていた。堅そうだ。
私何時寝たんだろ?
飲んだお酒が余程良かったのか悪酔いも無く、朝風呂を頂いて朝食を軽めに頂いて出発準備。
4姉妹は朝から思いっきり松坂牛を喰らっていました。すげーパワフル。
そして朝の花咲く城を散歩し、見事な石垣の上に聳える古風な櫓の景色を堪能した。
腹ごなしが終わったとばかりに持姐姐が笑顔で言った。
「さあ今日もガイド宜しくな!司ン!」
バスは大坂城包囲網の次なる城、伊賀上野へと向かった。
私も載せて。
載せないでいいから。あー朝からワインが出たよー。
******
※現実の歴史で戦後の虐殺事件と言えば文化大革命ですがあれは60年代後半から約10年です。この世界ではどっか別のトコで別のトキに何かあったんじゃないですかね?
後はポル・ポトによる75年から79年の虐殺ですが女傑4姉妹はこれと似た世界に首突っ込んで色々危ない橋を渡ってたみたいです。
何せ第二次大戦に日本が首突っ込んでない世界なのでアジア現代史も無っ茶苦茶変わっています。
なおこの4姉妹の若き日の波乱万丈なサイドストーリーは…書く予定はありません。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。