103.ガイド加納城 大坂包囲網の一手
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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バスを見送った私は…待たせていたタクシーに飛び乗って、地元の人しか分からん道をシュバーっとダッシュし(て貰う様お願いし)、チップをはずんで涼しい顔してバスを待つ。
場所は岐阜城大手から約5km南、加納城厩曲輪、今や小学校のグラウンドと駐車場になっている場所だ。
そしてゆっくり駐車場にバスが入って来た。
平日なのでグラウンドには結構子供がいる。そこに豪華仕様バス、そして豪華な叔母様達が降りてきた。
「何だなんだ?」「何かの撮影か?」「デケー」どこ見てんだ小学生!
『あらまあ、こんな近くにまた別のお城があるなんて』
『来た事ないわね』
『心揺さぶる山がねえなあ』
何か言ってる、気にしない。
「日本語で失礼します。こちらは山城で不便だった岐阜城に替わって大坂への攻撃の一手として築かれた新しい城、加納城です。
織田信長の様な来訪客を威圧する建築は無く、唯一あちらに建つ三階櫓が岐阜城の天守を模して上げられた程度です。
唯、西に広い長刀堀と、東に荒田川に囲まれた城は、水に浮く城と呼ばれました」
「名古屋城程大きくもなく、岐阜城程山の城でもなく。
城にも使いやすさってあるのかね」
「はい。あまり広くても守る手勢がなければ」
私は一行を二之丸御殿へ案内した。
「ここも、サクラ、キレイネー」「ネー」ちびっ子二人が声を揃えて言う。
小学校を囲む桜並木は、見事だった。
『空の青と水の青、城の壁と石垣の灰色。そこにピンクの花が咲くととても綺麗ですね』
英語でゆっくり話した。解ってくれたかな?
『うわー厨二!』『ポエムってるぞこいつ!』『『ワハハアー!』』
よかった、解ってくれたみたい。
なんだよスー、生きてたの?
名古屋の国際イベント等でここ加納城も岐阜城とならんで迎賓館になるみたい。
あちこち洋風になった御殿で…なんか酒が出た。何この手回し。私知らんぞ?
あれ?周囲の観光客もいない。
何かお城の係の肩がスゴいテキパキ動いている。
大広間から御三階櫓を眺めてフルートグラスのワイン…いや泡の肌理が細かい。
「あの~こちらシャンパーニュですか?」
「あら?解るの?贅沢してるわねえ司ン」広姐姐がほほ笑みながらグラスを呷る。
「学生さんで見聞の広い事。どうぞ召し上がれ」
「あ、その、有難く頂きます」
何だコレ?今まで時サンと飲んだのより香りが強い!芳醇!うはー!
「どーだい40年前のビンテージは?」
「40年前…皆さんの記念でしょうか?」
時サンから聞いた事がある。誕生日や創業記念日、ヨーロッパでは富裕層はその年を刻んだ=ビンテージワインを重宝し、お祝いに使うとか。
古酒より新酒が好まれる日本では無い習慣だね。
「そうだよ。40年前にね…」
「オッと!ここから先が聞きたけりゃツカサーン、あんたも私達と一緒に行こうぜ」
毘姐姐が啖呵を切る。
これ駄目だ。絶対行ったらイケン奴だ。
「お前も来ーい…」青い顔したスーが言う。
「私が出来るのはご相伴に預かる事だけですわオホホホ」
「手ごわいな…」毘姐姐、悔しそうだけど笑ってるし。
「では私達の船出から40年を、今若い人達と一緒に…ホラ!ハオも笑顔で!」
「ふへ…ふへへへ」それを笑顔と言うのかスー?
「ホッダーラ(乎乾啦)!」「「「ホッダーラ!」」」「…ホダラ!」
台湾でも乾杯って言ったり乎乾啦って言ったりだけど、この人達は思う所があるんだろね。
そして宴会、と言っても酒をちょっとだけ。
この人らがよくそれで納得できるな。
城の係のお姉さんに聞いたら
「1ダース限定で宴席使用を許可されたとの事です」
…一人4合瓶1本?立派な宴会じゃね?
「案内士になろう!様ですね?この度は多額の寄付を頂き誠にありがとうございました」
手回し済かよ?!
「この処加納城をご利用頂くイベントが少なかったので今回の寄贈は維持費の為に大変有難いものでした!いっそ宿泊を…」
「あ~、オファーがあったら、ご相談させて頂きますね?」
「是非!」
…。
やべー。あの人達やべー。
随分派手に好き勝手やってんなーとか思いきや、出す物出してんだ。
まー、迎賓館に浸かってる御殿だし宴会は手慣れたもんだろ―し…
しかし40年前のビンデージ入りシャンパーニュか…
はい!以上!
このまま悪酔いしない程度に美味しい~この…ペリエって馬鹿高い奴?!195xって描いてあるし!
…はい!以上その2!考えない考えない!
他の櫓は白い壁なのに御三階だけ下見板ってオシャレだなあ~加納城!
…何だか最上層の華頭窓がコッチを見て微笑んでいる様な気がした。
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この後は簡単な酔い覚まし程度の散歩の後、バスに戻さなければ。
でも1人1瓶かあ。ちびっ子ちゃんたちは頭数に使われたな?
『あたし安くてもモエのグランクリュがいーなー』
『あたしやっぱドンペリニョン!天下盗った気分よー』
コーラかファンタかどっちがいいか話してるのかな~?
「おめー聞こえてんだろ」
「何が~?」聞こえない聞こえない。
加納城本丸。何もない。この辺徳川家康の縄張ならではの東日本ローカライズなんだろね。
「この城の本丸は、天守台と言われる北西隅の土台には何もなく、本丸の敷地にも御殿もありません。
しかし入口に当たる黒鉄門は多門櫓という渡り廊下に囲まれ、侵入する敵を殲滅する厳重な構えになっています」
「ヒャッハー!ヤッツケロー!」毘姐姐はご機嫌だ。
「そういうトコ、嫌なのよねー」
持姐姐がボソっと言う。
「もしかして、本丸をあけておいて天守とか豪華な物を避ける風潮、ですか?」
「あら。貴方も?」
「半分そうで、半分は…わかりませんね」
「わからないというのは?」
「東の人は、貧乏性なんですよ」
「ぶふっ!」お、今度は持姐姐に受けた。あ、広姐姐も何か肩が震えてる。
「これだけ大きな城を新しく築いて天守は無いし本丸も無い。
でも万一大きな戦いになったらしっかり戦える様に構える。
そういう抜け目なさが、案外日本のしぶとさの秘訣かもな、なんて思うんです」
「あなたスーと関東の城を旅したみたいね」
「あ、はい。スゴくパっとしない城の旅でした」
「今度ご一緒していいかしら?」
「どうぞ!」あ、スーが地獄獄門攻めみたいな顔した!まいいや。
「私、気が短いわよ?」
「お手柔らかにお願いします」
「「「ウキャーッハッハッハ!!!」」」オバサン達が大笑いした。
周りでは…老人やおじさんたちがかなり微妙な顔で、スーがこの世の終わりみたいな顔してた。
「あんたおもれーな!」平手が肩に飛んで来た!
バッシーン!
う…受け止めたぜ。お?次は…お姫様だっこか?目が廻るー!
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「そ、それでは~、次の大垣城でまたお会いしましょ~」
「ガンバレー司ンー!」
『肩行ってないかな?』『ニンジャガールはあれ位大丈夫!』
「あたし彼女の様子見て来るぞ!」
あ、スーが来た、てか逃げてきた?
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※岐阜市内に静かに現存する加納城について、復元図、現在の地図との比較等は下記の通り。
かつては自衛隊の駐屯地で、今は公園として開放されています。広大な堀は、公園になっています。
http://geo.d51498.com/qbpbd900/kanoujo.html
※実際の岐阜城は構造的に欠陥があり、乾(北西)の方角が弱点だとか。そこを突かれて関ケ原の戦いで落城したため、大坂城包囲網のため岐阜廃城、加納築城となったのです。その際石垣や建築が加納城に移築されました。
今尚残る加納城の野面積みの石垣ですが、石材が加工し辛いチャートという自然石だったため、近世の天下普請っぽく見えません。
尚、岐阜城天守を移築した加納城御三階櫓は、修理届図面が残っています。wikiに掲載されてますね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E7%B4%8D%E5%9F%8E
※ヴィンテージ(醸造年刻印)が日本酒で行われないのは、劇中で司ンが言った好みの問題ではありません。日本では酒の在庫に固定資産税がかかるので長期在庫が持てない、という文化抹殺税制の悪影響です。いい加減日清日露の軍費捻出目的の酒税を撤廃しなければ。
※因みに今90年代のペリエ、1本3万円…考えない考えない。
もし楽しんで頂けたら、また読者様ご自身の旅の思い出などお聞かせいただけたら今後の創作の参考とさせて頂きますのでお気軽に感想をお書き下さい。