表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

第9話 使う予定のない伝説の剣

 四天王を全部討伐して五十時間切りのタイム。イベントも順調にこなしてますし、なかなか良い調子だと思いませんか?


「これが勇者の戦場なのか? いや絶対違うだろう。御伽噺でも、もっとこう苦戦して、ようやくって感じだっただろ。つーかもう戦場でさえねぇ」

「さすがKだなっ! あれがKの魔法か! 最高だ!」

「デュラリオン王国、絶対に魔王よりも危険な存在を呼び寄せたから」


 さて、次のイベントです。


 次は伝説の勇者が使っていた装備を取りに行きます。その他、魔王の力を封じる特別な何かがあれば一緒に入手します。


 どうも私の前に召喚された勇者は世界異世界機関(WDO)に連絡したりせず、自分の力だけで頑張っちゃったみたいですね。各地に色んな逸話を残しているだけでなく、様々な物品が現代にまで伝わっているらしいです。


 まあ国々がこんな状況なので、大した物は残っていないようですが、ご多分に漏れず勇者しか抜けない伝説の剣が封印されているって噂の祠があります。


 台座から伝説の剣を引き抜くのは、遙か太古の物語でも語られる王道中の王道イベントです。


「あ、デルギーン、王都には帰らないで、そのまま北西に向かって」

「あん? なんでだ? 四天王を全滅、いや四天王を含めた魔王軍の拠点を消し飛ばしたんだぞ。大戦果を持って凱旋すんじゃないのか?」

「いちいち帰ったって、ただの時間の無駄じゃん。ここまで来たんだから、やる事やってかないと」

「………ちっ、お前はそういう奴だったな。たくっ、こうなりゃどこまでも付き合ってやる。一秒でも早く世界を救ってやろうぜ!」


 まったく花のないおっさんが、私のRTAに最も協力的という不思議。




 勇者の祠に着きました。


 これ、祠ですか? どこにでもある木造二階建ての一般住宅にしか見えないんですけど。


 異世界召喚ですけど、その対象は人間に限りません。家や乗り物、酷い時は島ごととかも有り得ちゃうんですね。たぶんこの勇者は、自宅ごと異世界に召喚されたんでしょう。


 可哀想に。自分だけ帰っても家の建て直しをしなきゃならないなんて、一体いくら掛かった事やら。


「温室王子、本当に勇者の祠なのか? 異国の建造物だが、飾り気もないし、なんならギルドの建物のが立派なくらいじゃねぇか」

「誰が温室王子だ。ここが勇者の祠だ。一度、神官に案内されて来た事がある」

「へぇ。中には何があるんだ?」

「中には入れなかった。強力な結界が張ってあって、ドアが開かないんだ」

「なんで開かないもんをわざわざ見に来たんだよ」

「それは僕が勇者の生まれ代わりで、城のにあった勇者の残した魔剣も起動できて………くっ、何を言わせるんだ!」


 私のどんなに強力なセキュリティでも突破する術式ムカバアの出番ですね。


「はあぁぁぁ」

「K、何を、するつもり?」

「いやドアを蹴り壊すだけだよ」


 アスが勇者の祠の玄関ドアに近付いて、ドアノブを回しました。あれ? するとガチャリと音がしてドアが開きましたね。


「なんだよ、開くじゃねぇかよ、温室王子」

「い、いや、神官たちは開かないって言ってたんだ! K、嘘じゃない! 信じてくれ!」


 分かってるよ、ミカエルくん。私だって結界の存在を感知していたから、室内のものを壊さないで扉を開けるため、術式ムカバアを使おうとしてたんだしね。


 いやあ、それにしてもアス。


 良いヒロインムーブですね! 容姿や行動で魔王との関係を匂わせつつ、手も掛からないし邪魔もしないし、めっちゃ当たりです。


 勇者の祠もとい家の中を散策します。


 家具や壁は壊れていて、物が床に散乱しています。この壊され方は、誰かが意図的にやったものですね。地震とかで壊れたのでもなく、動物が暴れたのでもなく、人が意思を持ってやったのでしょう。


 散策と言いましたが、散策するのは他の人で、私は何も迷わず二階の子供部屋へ直行です。


 そこの中央に堂々と台座に突き立てられている剣を発見。さっさと抜きましょう。


 伝説の剣よりも部屋に対するコメントが多いようです。テレビゲームや漫画、フィギュアにポスターが飾られた部屋のど真ん中にある伝説の剣。まあ確かにシュールです。


 調べなくて良いのかですか? 先代の勇者の趣味嗜好を知ったところで、攻略に何のプラスも無いでしょう。


「はい、用事終わったから次行くよ」

「もう終わったのか?」

「それが伝説の剣か!? 確かに、鞘に納められているというのに、荘厳な力を感じるぞ!」


 荘厳な力って何? どんな力だ。まあね。この年齢の男の子は、覚えたばかりの難しい言葉を使いたがるものだよね。


「ほら、アスも行くよ」

「………分かった」


 アス、勝手に家の中の物を懐に仕舞ったみたいですね。まったく、私だから見逃してあげるね!




「封印を解いたのが何者かと思えば、そういう事か」


 私たちが勇者の祠、ではなくオタクの住処から出るのを待ち構えていたのは、大きな二本の角を持った男です。魔人族か羊人族でしょう。あとこの男は実体ではありませんね。テレビ電話みたいなものです。


 こうして見ると、アスの髪と肌の色は、その男そっくりですね。種族は違うようですが。どうせ何か関係があるんでしょう。


 ここでアスを攫われでもしたら大幅なタイムロス確実なので、先に突っかかっておきましょう。


「お前、どこの誰か知らないけど、何か用?」

「余を知らぬ者が、未だこの大陸に存在していたか」

「居るに決まってんだろ。頭大丈夫か? 生まれたばかりの赤子が、なんて揚げ足を取るつもりはないよ。でもさ、この家の勇者みたいに引き籠もって外界の情報を得てなかったら、お前が誰かなんて分かるはずないだろ?」


 なんかこの男、真顔になってますね。こういう偉そうな男って、正論を真正面からぶつけられると弱いんですよね。


「K! こいつ、魔王ベルゼだ!」


 デルギーンによれば、こいつが魔王らしいです。


 こいつが魔王なのかぁ。


 あ、うん。アスみたいな美少女じゃなくて良かったよ。そうだったら、お前らがどんな無茶振りするか分かったもんじゃないから。でもなぁ。これはなぁ。


 まあ悩むと時間が掛かるので、進めるか。場合によったら死闘になるけど。なったらお前ら投げ銭しろよ。


「うおおおぉぉぉーーー!」

「うわあああぁぁぁーーー!」


 デルギーンとミカエルくんが一緒になって、魔王の幻影に立ち向かいましたが、一瞬で二人共やられました。デルギーンは少し粘ってましたが、まあ一分の違いもなかったので大差ないです。


 コレ、魔王の力を勇者が知って絶望するイベントかも知れません。


 これが魔王の力なのか! でも私は絶対に諦めない! はい。何やっても白々しいんで、さっさと止めます。私は起こせるイベントしか起こしません。敗北イベントとか絶望イベントとかは、私じゃ起こせないのでスルーします。


 このまま魔王の幻影と話していても、時間の無駄なので幻影を消しちゃいましょう。


 はい、バチン。


 魔力の腕で合掌すると、あら不思議、手の中には何もなくなりました。


「ちょっ!? い、今、私が」

「話してるところだった? まあ、どうせ本人の所まで行くんだからさ、言いたい事があるなら直接本人に会ってしたら?」

「………そうね」


 お、凄い額の投げ銭、に見せかけたチラ見せかよ。


 常連さんですね。えっと何々? 魔王ベルゼがアスの彼氏だったら、この世の地獄を味合わせた上で世界の塵にしてくれ、ですね。いや、だからさ、やってんのRTAだから、そんな時間掛けられないんだけど。




 59:14:29


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ