第7話 魔王軍四天王はサクっと討伐
「流星の耀き!」
たーまやー!
私が召喚した隕石がすべてを消し飛ばしました。
オリエンスってどんな姿だったんでしょうね。もちろん千里眼で魔王軍は確認しましたけど、どれがオリエンスなのかなんて見分けが付かなかったです。
まあよく言うじゃないですか。口の中に入れればみんな同じ。全部吹き飛ばせばみんな同じです。
RTAなので必要な戦闘以外は回避推奨ですしね。
「な、なな、ななな」
「どっか寄ってきたい? もう走り出してるから、引き返して欲しいてのは無しで」
「ちょ、ちょっと、え? 何? 今の? 何?」
戸惑ってるアスに関するコメが多いですね。概ね好意的で良いんですが、うーん、この要望には困りました。
アスはミカエルくんより年上でお漏らしさせるのは難しいですし、さすがにこの年齢でお漏らしを全国配信は可哀想でしょう。いやぁ、投げ銭の前振りじゃなくて、わりとマジで。アスが外歩けなくなっちゃうよ。
その時は養ってあげるとか、そういう問題じゃねぇよ。
「そうそう。魔王軍四天王、南のゴアプってのがさぁ、ちょっとだけ東側に拠点を構えてるらしいんだよね」
「まさか」
「ちょっと寄り道して、そっちも消し飛ばしてから王都へ帰るから」
「ど、どうして?」
「どうしてって、時間短縮以外の理由はないけど。アスが目を覚まさなかったら、東からぐるりと時計回りに四天王討伐して、それから王都へ戻るつもりだったし」
あ、もちろん異世界召喚に慣れてない人は、四天王を一匹討伐するごとに王都に戻って身体を休めたり、新しい装備を整えたりして下さい。
じゃあ、移動の間にアスの装備に関するアンケートを採りますね。ここは視聴者の要望に応えます。配信である限り、見た目はとても重要ですから。
おい勝手にアンケートを始めるな。
えー、これやんのー。私がヤバイ奴みたいじゃん。ヒロインの服選びイベントって言われてもなぁ。
分かったって。そりゃレギュレーションは守るよ。
「ねぇ、アス、ちょっと頼みがあるんだけどさ」
「な、何?」
「メイド服着てくんね?」
「………Kは頭が変?」
ほらあああぁぁぁーーー!
東と南の魔王軍四天王を討伐して王都へ凱旋します。大歓迎でセレモニーが開かれるなんてことはありませんけど。
あれミカエルくんが出迎えてくれるようです。でもミカエルくんとのイベントはもう終わったので、さっさと追い払いましょう。
「勇者! 無事だったか!」
「悪いけど、急いでるから後でね」
この後の予定は、まずアスのサイズのメイド服を調達。それから冒険者ギルドで討伐完了の報告をして、それも終わったら北と西の四天王を討伐しに出発です。
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ミカエルくん、馬で移動してる私たちを追い掛けて来ます。街中なんでスピードは出してないですけど、歩幅が合わないのか小走りになって苦戦してますね。
「君に助けられたこの命、少しでも魔王討伐のために役立てて欲しい!」
「じゃあ城に帰って大人しくしてて」
「なんでだっ!?」
なんでも何も、アス一人なら馬一匹で後ろに乗せれば良いけど、ミカエルくんを連れて行くとなったら馬二匹か馬車になります。その時の移動時間がどれ程延びるのか、考えるまでもありません。
んー、でも連れて行って欲しいってコメが散見してますね。どうしましょうか。
「だって付いて来れないでしょ?」
「くっ、だけど僕は、知ったんだ! 君の言った通り、僕がまだまだだって!」
「なら、やるべき事が違くない?」
「いやそんな事はない! これが僕のやるべき事だ!」
やべぇ奴ですね、ミカエルくん。将来、人の話を聞かない暴君にならないと良いですが。
「K、誰この人?」
「むっ、君こそ誰だ。何故彼女と同じ馬に乗ってるんだ」
「この子はミカエルくん、デュラリオン王国の王子様らしいよ。この子はアス、事情があって私と行動を共にしてるんだよ」
「この国の王子?」
「事情ね。気を付けてくれ勇者、こいつ魔王と同じ不吉な髪の色をしてる。間諜かも知れないぞ」
おっとミカエルくんが嫌な情報を口にしましたね。もしかして魔王が銀髪美少女だったりするんでしょうか。そんな事になったら、私の視聴者様たちが攻略難度を天井知らずに上げそうで怖いです。
あー、もう上げようとしてるし! おいてめぇら、これで魔王がおっさんだったら、おっさんの衣服だけを一枚ずつ丁寧に引っぺがして欲しいのかよ!
よし収まったな。
想像しちゃった? お前の勝手だって言いたいところだけど、口直しにアスがメイド服を着るんで投げ銭していって下さいね。
「ねぇK、これ動きにくいし馬にも乗りにくい」
サイズの合うものがあって良かったです。銀髪ヒロインにメイド服はなかなか映えますね。映像が華やかになって嬉しいです。なんかもう次にアスに着せる服のアンケートを始めている人がいますが、イベントとしてヒロインの服イベントはこなしたので、次はないです。無いってば!
「我慢してね。神々が理不尽な試練を与えてくるからさ」
「侍女服がKの趣味なのか?」
「違うよ。神々の趣味」
「Kは勇者だから神々の声が聞こえるという事か。しかし、侍女服なのか。神官たちはこれを知っているのだろうか? 後で伝えておくか」
視聴者様たちとミカエルくんのせいで、デュラリオン王国の宗教が大変な事になりそうですが、まあ私には関係ないのでさっさと冒険者ギルドへ行きます。
冒険者ギルドへ入ると、入り口近くに座っていた酒臭かったおっさんが立ち上って、私に近付いて来ました。
今日は酒の臭いはしないし、依頼を出してくれたのがおっさんなので、ここは笑顔で応対してあげましょう。私のスマイルはゼロ円ではないですが、依頼料という形で徴収するのでサービスです。
ニヤリ。
これが私の笑顔です。
「お前、本当にっ!」
「次は北と西もやってくるから、そっちの依頼も出してくれる?」
「は、はははっ! くそったれ! いいぜ、超特急で作らせてやる!」
「ああ、超特急で頼むね」
おお、急に良い奴になりましたね。全国配信で碌な大人じゃないとか言っちゃってごめんよ。おっさんの癖に興奮して、せっかくアスが華やかにしてくれてる映像を汚しているんで、プラスマイナスで言うとマイナスな気もしますが。
「ギルドの管理してる魔導馬車も手配してやる。普通の馬より早い」
「んじゃ、それもよろしく」
「今の人も、まさか魔王軍四天王があんな形でやられたなんて、夢にも思わないでしょう」
「ふんっ、なんだお前、Kのやり方に文句があるのか? 卑怯な魔王軍に対抗するのに、どんな手段を使っても許されるだろう」
「………まだ卑怯な手段だったら良かった」
おっさんの名前はデルギーンって言うらしいです。はい、どうでも良いですね。
魔導馬車は石油自動車程度の性能しかないようです。私とアスだけなら馬に強化術式掛けたほうが早いですけど、ミカエルくんが付いて来ているので、こちらを使って移動になります。
操縦はデルギーンが買って出てくれました。
「ガキ勇者、勇んで出発したが、俺たちは温室王子入れてもたったの四人だ。作戦とかはどうすんだ?」
「誰が温室王子だっ!」
「作戦? そんなの立ててたら時間掛かるじゃん」
「そう。Kには不要」
「へっ、まあいい。アイツがぶっ殺されるところ、この目に焼き付けてやる!」
「………無理だと思う」
「無理? 俺だってアイツの力は知ってる。だが、それでも勇者ならやってくれるかもって期待してんだよ!」
「そういう意味じゃない」
ん? 何? ああ、仲間の割合かぁ。
まあ、視聴者様たちのご指摘は尤もです。仲間の割合が男女比二対一、しかも片方はおっさん。これは由々しき事態ですね。
RTAにタイム以上に優先されるものなどない、のはある種の正解ですが、RTAの前に配信、私のチャンネルです。真に重要なのは私と視聴者が楽しめて、投げ銭が貰える事。
仲間を増やしたいところですが、見つかるかな。
あ、着いたみたいですね。
「流星の耀き!」
かーぎやー!
46:58:31