第6話 冒険者ギルドイベントは丁寧に
謎の遺跡にあったクリスタルの中で眠っていた銀髪ヒロイン。
起きるまで待ってるなんて時間の無駄が許されるはずもなく、魔力の腕を使って運びます。
私が早馬を走らせてる間も、魔力の腕を使って持ち上げてます。もちろん私自身は移動時間は睡眠時間に充てます。ではデュラリオン王国の王都までの帰還の途、おやすみなさい。みんなも寝てね。
はい、帰ってきました。
銀髪ヒロインまだ寝てますね。生きている事は確認してますが、睡眠系ヒロインはRTA的にどうなんでしょう。寝てるから邪魔にはならないですが、荷物にはなるんですよね。
さすがに魔力の腕で運ぶと目立ちますが、私の身長だと背負って運ぶ訳にもいかないので我慢します。彼女との関係を考えるのであれば、宿を取って寝かせるなり、王城に部屋を用意して貰うなりが一番なんでしょうけど、タイムロスになるのでこのままギルドイベントへ向かいます。
さあさあ全視聴者様方! お待たせしました! 冒険者ギルドイベントです!
異世界召喚の王道にして最高の瞬間とも言えるでしょう。
被召喚者を舐めて掛かる先輩冒険者を叩きのめしたり、美人の受付嬢と仲良くなったり、圧倒的なステータスで冒険者登録して周囲を驚かせたり、他の冒険者たちとクエストや危機を通じて信頼を深め合ったり、貴族に目を付けられて対抗してみたり、何よりもチートや現代知識を使った華々しい活躍こそ、冒険者ギルドイベントの醍醐味と言えるでしょう!
冒険者ギルドの扉を開きます。
「ひぃ!?」
「な、なんだコイツは!?」
「魔王が攻めて来た!?」
「俺が時間を稼ぐ! お前たちは逃げろ!」
誰がどう考えても私の事を話題にしていますね。
何でしょう。理由を考えてみます。うーん。銀髪ヒロインを魔力の腕で運んでるせいですかね? あ、やっぱりそのせいだってコメが多いみたいですね。
私たちの世界では一般的に使われている魔力の腕に、この異世界で驚かれるのは最初に勲章を付けた男の反応から分かってたんですが、ここまでの反応があるのは予想外ですね。王都の東にあった占領された街を救った時にも使ったはずなんですけど、あの時はこんな酷い感じじゃなかったような。
「待て人質を取ってる!」
「人質を助けるんだ!」
「うるせぇ!」
襲い掛かって来た先輩冒険者を叩きのめしました。早速イベントをクリア出来ましたね。ちょっと想定と違いますけど、気にしません。
まあでも魔力の腕に驚かれているので、銀髪ヒロインは近くの椅子に寝転がせておいて、魔力の腕を消します。怯えさせてしまうと受付に時間が掛かりますからね。
「冒険者になりたい」
「ふざけんな! そんな訳ないだろ! ぶへらっ!」
「いいから早く手続きしてくれる? 金出すから一番早く手続きが終わるやつで」
ステータスのような考え方はなかったので、そのイベントは発生させられませんでした。それでも私の力は見せつけられたので良しとしましょう。
「お前、神官共が召喚したって言う勇者か?」
おや、私を知っている人が居たようです。なんか薄汚れたおっさん、鍛えられた軍人っぽい体躯に鋭い眼光………それ以前に酒くせぇ。昼間から酒飲んで碌な大人じゃないですね。
「本当にガキじゃねぇかよ。こんなガキが魔王を倒して世界を救う? 神官共はイカれてんのか?」
めっちゃ分かり易い悪役をしてくれてますね。裏でコソコソネチネチやるんじゃなくて、こうして真正面から来てくれる。有り難い事です。
「人を見た目で判断すると痛い目見るぜ」
「確かにな。だが、てめぇみてぇなガキに全てを託そうなんざ、イカれてんのは間違いねぇ」
「そう? 私はそうは思わないけど?」
「………何だと?」
「種族や年齢に関わらず、世界を救うなんて出来る奴がやれば良いじゃん。私はここの王様の考えに賛成だね」
「おめぇ、本気で出来るってのか」
「当然。むしろ一秒でも早くやる。こうしてお前が邪魔してる時間も勿体ないんだよ」
何せ実績があります。悪役ムーブで異世界召喚とか、安価で異世界召喚とかもやったんで、そっちも見てみて下さいね。
おっさんは一歩二歩とよろよろと後退りして道を空けました。
さて後は、難易度は高いけどすぐ終わるクエストを見繕って達成します。護衛系は問題外なので、納品系か討伐系を探します。
依頼自体の数はそこそこありますが、良いのが無いですね。どうしようかな。
「大変だ! 王子が東から進攻中だった魔王軍の先遣部隊を破って帰還したらしいぞ!」
「嘘だろ!? 千体は居たって話だろ!」
「やるじゃねぇか! ただのお飾りじゃなかったんだな!」
おやミカエルくん、もしかして自分の手柄にしちゃいましたか。まあ、いっか。あの魔物群が全滅してミカエルくんが助かったのは、今私の配信を見てくれている視聴者様たちの大切なお金な訳ですからね。ある意味、ミカエルくんの手柄と言えます。
「おい、ガキ勇者」
「何、まだなんか用?」
「あれ、お前か?」
「誰がやったとか関係ある?」
「っ! ………ちっ」
昨日も言った通り鳥獣保護管理法とか未開世界保護法とかは怖いですからね。特に後者は。私がやったという言質は与えません。
「き、緊急!」
「今度は何だ!?」
次々とイベントが発生しますね。一度に起きてくれれば良いのに。
「魔王軍四天王が動き出したらしい!」
おやおや四天王、序盤で幹部クラスですか。良くある展開ですね。四天王ってのが古いですけど、他の名前だと幹部の数が六人だったり八人だったりするので、少ない事は良い事です。四天王万歳。
「動いたのはどいつだ!?」
「東のオリエンスだ!」
「くそっ、馬鹿王子が先遣隊を倒しちまったからかよ!」
この手の平の返しよう。端から聞いていても酷いものです。
しかしまあ、素晴らしいタイミングじゃないですか。私の冒険者デビュークエストに相応しい。
「ねぇ受付の人」
「は、はい、何でしょうか」
「ギルドから討伐依頼を出してくんない?」
「討伐依頼ですか? ギルドでも手配犯や手配魔獣はありますが」
「いや依頼をこなすのが必須だからさ。依頼の報酬は少なくても良いよ。お金は王様から貰ったし」
「はあ、しかし討伐依頼と言われましても、ギルド自ら依頼を出すような犯罪者や魔獣は希でして」
察しが悪いなこの受付。
「魔王軍四天王、東のオリエンスを討伐してくるから依頼を出してって言ってんだよ」
何か色々言ってますね。私から私への指名依頼という形ならって渋ってます。
そんな書類に残すような事はしたくないので、どうしましょうか。あ、丁度良い人が。先ほど話に割り込んで来たおっさんに頼んで、銅貨一枚の報酬で指名依頼をして貰いましょう。挑発すればやってくれるでしょう。
「ねえ、そこの人」
「なんなら俺から依頼してやる」
あれ? どうやらずっと私と受付の話を聞いていたみたいで、何も言わないのにやってくれるみたいです。会話の時間が短縮出来たんで都合は良いですけど、後で何か要求されそうなので警戒の必要はありますね。
まだ四天王の一匹目、寄り道せずにちゃっちゃっと終わらせに行きます。幹部が四人とは限りませんからね。裏四天王とか、四天王の上に十二天とか護世八方天とか居るかも知れませんから、油断はできません。
「ここ、は………?」
馬に強化術式を掛けて走らせている最中、ようやく銀髪ヒロインが目を覚ましたようです。
「ようやく起きたか」
「………本当にどこ?」
「デュラリオン王国の東にある森の中。今からさ、オリエンスって奴をぶっ殺しに行くから」
「オリエンス………………それより、この腕、何?」
「何? 運び方が気に食わない? お姫様抱っこだよ」
「そういう次元じゃないと思う」
えっと、名前希望ですね。確かに自己紹介は大切でしょう。
「私の名前はK。お前の名前を聞こうか」
「K? 人の名前なの?」
「おいおいお前さん、人の名前にケチを付けた上に自分では名乗らない気かい?」
お前は本名を名乗ってないじゃないか? 配信中の本名はKなんだよ!
「………アス」
アスと言うらしいです。アスちゃんに服とアクセサリをって投げ銭されても、この世界じゃ元の世界のお金使えないし、銀行ないから下ろせないしと無駄だから止めて下さいね。
さてRTAのため、アスの事情をさっさと聞いて、さっさと解決して、さっさとヒロインポジに収まって貰いたいです。
ただまあ、滅茶苦茶警戒されてます。
なんでみんな魔力の腕だけで警戒するんだ。視聴者様たちだって、大きさや操作技術に差はあれど使えるじゃん。これって何をやっても「さすが勇者!」って言われるパターンかな。百メートル走を走っただけで驚かれたら、こっちが引くわ。
アスは魔力の腕の上で周囲を見回していますね。警戒されているとは言え、ここは事情を聞くのが普通の行動でしょう。
「アスは何でクリスタルの中で寝てたの?」
「………覚えていない」
あ、これ嘘吐かれてますね。では私の百八つある得意術式の中でも最凶と名高い―――嘘嘘、しないです。
だから快楽堕ちとか奴隷化とかは止めろっての。NGワードに設定するから。
「ま、覚えてないならいっか」
「いいの?」
「代わりに、しばらく私に付き合って貰うよ」
「………そういう事ね」
アスはお姫様抱っこの姿勢から手を伸ばして私を指差しましたね。
まさか私の十億ボルトの落雷の構えか!?
「そっちに乗せて」
「アスが馬を走らせて、私をお姫様抱っこで運んでくれんの?」
「違う。後ろに乗せて」
「えー、いいよ」
魔力の腕でゆっくり運んで、背中に乗せます。
「どこまで理解しているのか知らないけど、本当に聞かないんだね」
いや、私聞いたじゃん。それで答えなかったの、アスの方だよね? ずっと寝てたから、まだ目が覚めてないんじゃないの?
銀髪ヒロインじゃなければ、目覚まし代わりの脳天チョップをお見舞いしてやるところだよ。
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