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第4話 side 王子ミカエル

 僕ミカエル=ハロルド=デュラリオンが生まれた国、デュラリオン王国は何十年も前から魔王と呼ばれる敵と戦い続けている。


 魔王がどのようにして現れたのかは分からない。けれども魔王は、人間への憎悪を以て村を焼き、町を壊し、国を滅ぼしている。僕が生まれる前にも、いくつもの国が魔王によって滅亡していて、次はいよいよ僕らデュラリオン王国だと言われていた。


 もちろん僕らデュラリオン王国も、ただ指を咥えて魔王の侵攻を見ていた訳ではない。周辺国家と協力して連合軍を結成して、今も魔王軍との最前線を維持し続けている。


 そんなデュラリオン王国の王子として生まれた僕は、物心つく前から剣や魔法など戦うための術を徹底的に教育されて育って来た。


 それもこれも、生まれた時にこの国の誰よりも高い魔法適性を示していたことが原因だった。魔王軍には普通の剣や槍は一切通用しない。魔法の力が絶対に必要なのだ。


 僕は王子とは言われているが、戦うための兵器だ。


 でもそれでも良い。愛する弟や妹、そして民のために命を賭ける覚悟はある。たとえ差し違えてでも魔王を討伐し、デュラリオン王国に平和をもたらして見せる。僕は強い決意を胸に、毎日の辛い修練に耐えていた。


 そんな決意をお父様が理解して下さっていないと知ったのは、お父様たちが勇者召喚の儀を執り行う部隊を派遣したのを知った時だ。


 正直に言えば、お父様は度重なる魔王軍の侵攻で心を病んでしまったのではないかと思った。儀式をしたらどこからともなく伝説の勇者がやって来て、都合良くこちらの要求を聞き入れて魔王を討伐してくれる?


 冗談じゃない。絵本か童話の世界の話だ。現実でそんなことが有り得るはずがない。


 そう。有り得るはずがない。成功するはずがない。


 それなのに成功したという一報が入った。


 信じられないなんて生易しいものじゃない。夢でも見ているのか、頭が狂ってしまったのか。勇者召喚の儀を取り扱っていた神官長が連れて来た少女が、可愛い女の子であったのも何かの冗談かと思った。


 僕は王である父やその側近、神官長たちに試されているのかと疑うほどだ。


 父たちは、この綺麗な黒髪の似合う可愛い少女を戦場に送ろうとしている。そんな父たちの姿に対して、どうしても我慢できずに声を上げた。


「くっ、お待ち下さい、お父様!」


 僕は言葉の限りを尽くして、お父様たちに僕が魔王を討伐する決意を訴えた。


「ですから! このような子供が勇者などと、魔王は僕が必ず打倒いたします!」

「はっ、お前が魔王を討伐する? それができないから、私が呼ばれたって分からない?」


 否定の言葉は、思いがけない方向からやってきた。嘲笑や失笑を越えた、喜劇を見た観客のような反応を件の少女がしたのだ。


「な、何がおかしい!」


 僕は驚きのあまり、思わず怒鳴ってしまった。


「何がおかしいって? 今言った通りだよ」


 すると少女はまったく怯まずに冷静に返して来た。



「良いかい? もしも君が何とかできるなら、君のお父さんは私を召喚しなかった。これくらいは分かる?」

「ば、馬鹿にするな!」

「分かってるんだね。エライエライ。じゃあ、夢物語はベッドの上でママに向かって語ろうね。さあ、お帰り」


 確かに僕は、お母様や弟や妹に対して魔王を討伐してみせると毎晩のように言って聞かせていた。そしてお母様たちも、僕なら必ず出来ると言ってくれていたのだ。


「ぼ、僕は城の誰よりも剣も魔法も上手く使える!」

「でもこの王国軍は魔王軍に敗退してんだろ?」

「そ、それは………。だけど、僕が行けば勝てるんだ!」

「僕が行けば勝てるって、頭大丈夫? つーか、そこまで言うなら自分で行ったら?」

「ゆ、勇者よ、我が息子ミカエルはまだ子供だ。戦場など」


 少女は完全に僕を小馬鹿にしていたけれど、それはまだ我慢出来た。彼女は可愛い見た目とは裏腹に、この国を救うために勇者召喚の儀によって現れた伝説の勇者なのだ。彼女からすれば、僕は救われる側の人間であり守られるべき民の一人に過ぎないと思われている。


 僕だって強がっているだけで、本当に僕が一人行くだけで今すぐ魔王を討伐出来るとは思っていなかった。僕は城内の誰よりも強くなった。それでも一対一での話で、一対多数だったり、連続で戦闘をすればその限りではない。だから一人で戦況をひっくり返すなんて不可能だと分かっている。


 僕がショックだったのは、お父様の言葉だ。お父様は、僕の事を子供だとしか思っておらず、魔王討伐どころか戦場に立たせるつもりさえないという主旨の発言をした。だったら僕は何のために………。


 そして追い打ちを掛けるように勇者の少女が口を開く。


「子供なら仕方ないか。ああそれに、その様子だと、剣も魔法も城内だとみんな手加減して王子に勝たせてる感じ? そういうの良くないと思うよ。特にさ、魔王とか魔物とかに攻められてる時に実力を勘違いさせるのって、百害あって一利なしだから。平和ボケした王子に育っても良い事ないでしょ。ミカエルくんだっけ? 自分の実力を正確に知るのが、上達への第一歩だよ」


 お父様の発言にショックを受けていた僕は、彼女の年齢を指摘せずにはいられなかった。僕が成人していないことが理由で軽んじられるのであれば、彼女はどうなのだ。彼女の年齢は、どう見ても弟か妹と同じかそれ以下だ。


「お前のが………お前のが子供のくせに………!」

「じゃあこうしよう、ミカエルくん。私と君で決闘しよう。そして勝った方が勇者として魔王を討伐する。やったね! 分かり易いよ!」


 彼女の提案は有り得ない。彼女は勇者である前に女の子なのだ。男が女の子に剣を向けて決闘するなんて出来るはずがない。


「ふ、ふざける―――」

十億ボルトの落雷ライトニング・ストライク


 神の裁きと言われ天空から大地へ向けて降り注ぐはずの雷が、目の前の少女の指先から僕へ向けて放たれていた。


 伝説の勇者だけが操れる神の魔法。


 僕は足腰に力が入らなくなって、床に座り込んでしまった。


 お父様や側近たちも少女の見せた魔法に絶句している。しかし僕の驚きは、彼らとは比較にならない。彼女は神の魔法を無詠唱で、魔力の溜め無しで、何より僕へ向かって使ったのだ。


「いいから決闘しろよ。お前のお遊びに付き合ってる間に、魔王討伐が遅れるんだよ。何人の人が悲しむと思ってんだ」


 反応が無かった事が不満だったのか、少女は神の魔法を連発し始めた。僕の周囲に着弾する雷。光と轟音の度に身が竦む。この中の一つでも彼女が僕に当てたら、僕は死ぬ。ただただ怖くて、この場から逃げたくて仕方がない。僕は自分が如何に無力なのか分かってしまった。


 やめてくれ、僕の負けだ、それらを叫びたかったのに、恐怖に竦んだ口は動いてくれない。


 だから言葉の代わりに、出てはいけないものが出た。




 悔しくて情けなくて、僕は部屋に閉じこもった。お母様や弟や妹たちが何度か訪ねて来てくれたけれど、恥ずかしくて顔を合わせる事が出来なかった。


 それでも城内の騒がしさを聞こえてくるため、僕はベッドから這い出て廊下で待機していた兵士を呼び止めた。


「どうした、何があった?」

「王子、もうお加減はよろしいのでしょうか?」

「何があったのかと聞いている」


 話を聞けば、この王都よりも東にある村が魔王軍に襲われたのだと言う。場所を聞いてみれば、王都から早馬を乗り継いで数日という距離があり、田畑が多くて王都の食糧事情に一役買っている村だった。


「あの子………勇者が出るのか?」

「いえ、勇者様は、まだ準備が整っていないとの事です」

「準備? そんな事を言ってる場合か! 村には碌な装備もないはずだ! すぐに救援に向かわなければ!」

「しかし王と勇者様がお決めになった事ですので」

「もういい! 僕が出る!」

「なっ! お、おやめ下さい!」


 僕は東の村を救うため、勇気ある兵たちを率いて出立した。


 僕を子供だと軽んじるお父様や哀れみの視線を投げ掛ける家臣たち、そして勇者と呼ばれた少女を見返してやりたい気持ちが無かったと言えば嘘になる。けれど魔王軍に襲われて生命を脅かされている民を助けるのは、王族として生まれた者の責務だ。


 だから僕の行動は間違っていなかった。


 間違っていたのは、魔王軍の強大さだった。


 まず魔王軍のほとんどは魔獣と呼ばれる生物で構成されていて、等身大の人型など見当たらなかった。毎日何千と素振りをし、間合いの取り方を覚え、急所へ叩き込む鍛錬を積んだ剣術は何の役にも立たない。


 そして数が違った。僕が率いて来たのは三十名前後の兵だったけれど、東の村を襲撃してその勢いでここまで迫ってきた魔王軍は数千、もしかしたら万の軍勢だったのだ。


 僕は必死に魔法剣で対抗するが、勇敢な兵が一人また一人と倒されて行く中で、次第に絶望感が胸の内へ広がった。兵たちからは戦意が失われ、隊列もなく蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。しかし四方八方を囲まれた状況では誰一人逃げ切れる者は居ない。


 こいつらは魔王軍の本隊でさえない先遣隊だ。それでこの規模、この強さ、この絶望感。


 僕は半狂乱になって叫びながら突撃した。魔獣を一匹か二匹斬り殺した時、王家に伝わる魔剣が音を立てて折れてしまう。それと同時に僕の心も折れた。


 地面に膝をついて、僕を取り囲む魔獣たちを見回す。涙でぼやけて魔獣たちの輪郭しか分からなかった。


「だずげで、おがあざま」


 命を賭ける覚悟があるなんて言葉だけだった。差し違えてでもなどお母様や弟や妹たちの前で格好付けたかっただけだ。死にたくない。僕は助けを求めた。


雷霆の暴風雨ライトニング・ストーム


 助けはあった。


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