第30話 追加放送 隠しダンジョンの情報
義務だったコスプレ撮影会も終わりです。
私は義務を終えて一安心しました。肩の荷が降りた気分です。
そんな中、王様がデュラリオン王国の王城で晩餐会を開いてくれるそうです。
いらねー。
現代技術で採れた食材を現代技術で料理しているファミレスで食べたほうが美味いっての。
そもそもマナーが大丈夫かって? いや私はテーブルマナーくらい知ってるよ。デュラリオン王国のは知らんけどね。マナー駄目だったわ。ま、いっか。
晩餐会は食事から懇談会へ。デュラリオン王国の人たちが次から次へ私へ話し掛けて来ます。
「よう、ガキ勇者、まさかまた来るとは思ってなかったぜ」
「デルギーンじゃん。宮中晩餐会に招かれるなんて、出世でもした?」
初めて会った時のデルギーンは冒険者ギルドで飲んだくれてたおっさんだったはずですが、意外とコネとかあったんでしょうか。
赤ちゃんを抱いた女性も連れています。デルギーンとかなりの年の差がありますが、奥さんと子供らしいです。でも本当にデルギーンの奥さん若いね。十代後半かな?
ああ! うるせー! ログが流れる! 爆撃やめろ!
デルギーンへの罵詈雑言が。いや、ドロップキック希望って言われてもね。十億ボルトの落雷を使えじゃねぇよ。ここで暴れ出したら精神異常者だよ。
異常者ムーブで異世界召喚だと思えって? あれやったら、マジで色んなところから怒られたから二度とやらん。視聴者数もイマイチだったし。
「お前が来るからって、城の奴らが迎えに来たんだ」
「そりゃご苦労なことだね」
「まったくだ。こっちは良い迷惑だぜ」
なんか別人みたい明るく笑ってますね。奥さんと赤ちゃん効果か。
幸せそうなデルギーンがムカつく? 良いんじゃね。前の配信だと一番役に立ってくれたし。
「まあ、お前の機嫌を取りたいって思惑があんだろうな」
「なんで? WDOの職員が滞在してんじゃないの?」
私の機嫌を取ってどうすんだよ。私はあくまで美少女配信者なのに。接待するならWDOの職員を接待するべきでしょ。
ああ、WDOの職員が自らの権限を使って接待を強要したり、裏金を受け取ったりすることは禁止されています。
でもさ、あれだよ。
人と人、組織と組織、国と国、そういう関係が清廉潔白で綺麗事ばかりって有り得ないからね。禁止なんて建前だけで、ほとんど汚いことやってます。
デュラリオン王国くらいの文明レベルだと、神の遣いかってくらい崇めて貰えますから、そりゃ良い気分になっちゃいますよ。
光姉さんもそうなのかだって?
おい、ぶち殺すぞ。
光姉さんがそんな不正するはずないだろ。光姉さんは残念になるくらい真面目なんだからな。
でも光姉さんみたいなクソ真面目な執行官のが少ないです。中には合法的に力を振るえるからって理由でWDOの執行官やってる殺人鬼みたいな奴もいます。
あ、私は非合法で力を振るってるから、殺人鬼以下の外道だったわ!
さて晩餐会も終わったし、帰りますか。最後にジブリールちゃんの寝間着と寝顔の撮影? それって寝所に忍び込めってことだよ。まあお前らがやったら犯罪じゃん。まあ私の年齢なら問題ないけど、出すもん出して貰わないとねぇ。
んー、足りない。投げ銭が足りない。もっと、もっとだ!
仕方ねーなー! バッチリ寝顔を撮影して、お前たちにお届けしてやるぜ!
「勇者Kよ」
うわっ、ビックリした。王様、こいつ、親の勘というやつか。小さい娘の寝顔が違法配信サイトで全国放送されるのを察知したか。もうコスプレ撮影会の生放送しちゃったから手遅れだぞ。
「なんか用? もう帰るところなんだけど」
「実は、一つ頼まれて欲しいことがある」
はい、出ましたー。
無償で魔王を倒して世界を救ってくれたんだから、このくらいの頼みは叶えてくれるだろうってやつです。私が魔王を倒したのは配信のためであって、お前たちのためではないと言うに。
「何を頼みたいのか知らないけど、WDOの職員に頼めば? あっちなら合法………げふんげふん………組織的に対処してくれるよ」
おっと、要らん言葉を口にしてしまうところでした。
「うむ………。しかし、彼らにこれ以上、借りを作る訳にもいかぬだろうと思えていてな」
私なら良いのかよ。まあ勇者召喚に縋っちゃうような、頭お花畑の王様なので、現状とか将来とかよく見えてないんでしょうね。
頑張れ、ミカエルくん。デュラリオン王国の未来は君の双肩に掛かっているよ。割とマジで。
「それにだな」
王様、アスの方向を見ていますね。アスはジブリールちゃんと仲良くなったのか、二人で何やら話してます。世界中にコスプレ姿を晒した者同士仲良くしてください。
ちなみに王様はアスが魔王の妹だって事を知っています。光姉さんが思いっきり二人を並べて、説明しちゃいましたからね。
「アスに関係あるって事?」
ならアスに言えよ。私に言うのっておかしいと思いません? 思いますよね。良かった。私と私の配信の視聴者たちは正常です。
「魔王城の地下に、不可思議な施設が見つかったのだ」
「地下? 魔王城は解体工事したけど、地下なんてなかったよ」
「報告では、人工的にできた施設ではないという話だ。あの辺りには、まだ魔王軍の残党も残っており詳細な調査はできておらんが」
王様、気になるだろう勇者よ、みたいな顔してますね。
私はまったく気になりませんけど。
「K、お待たせ。どうしたの?」
「なんかクリア後の隠しダンジョンを見つけたら、攻略してくれって」
「本当にどうしたの?」
あれ、通じなかったか。アスはあんまりゲームに詳しくないみたいですね。平成ってゲームの全盛期って聞いたことがあるんですが。
王様がアスにも説明してますね。
「K」
「行かないよ」
「あそこに隕石落としてから帰ろう」
アスが真顔でそんな事を言い出しました。どうしたのでしょう。前回の配信の態度と、WDOの社会復帰プログラムを受けているアスがこんな事を言い出すなんて。
アス、ごめんね。
私の神様が見たい、知りたい、っておっしゃってます。
「私に任せな!」
「おお、頼まれてくれるか!」
「ちょ、K!?」