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第25話 side 配信者K

 まあそもそも、私西園寺蛍こと配信者Kがこんなグレーゾーンギリギリの配信をするようになったのには理由がある。


 お金のため、お小遣いのため、というのは建前に過ぎない。………いや、お金が欲しくない現代人なんて居ないので、それらが嘘という訳ではない。私だってお金は欲しい。


 けれども一番の理由は、退屈だったからだ。


 勘違いして欲しくないのだが、私は光姉さんが言ってくれるような自分が天才で、この世の何もかもを見下してつまらないから退屈だ、なんて思っていない。


 むしろその逆だ。私は所謂秀才、せいぜい凡人から見た天才止まり、または早熟くらいだろう。そして私の親族は多くが才能の化け物で、中には真の天才まで混じっている。その中じゃ、光姉さんさえ上の下くらいだ。特に上の姉なんてヤバすぎる。なんで天才一族の中に、真の天才が生まれたんだろうってレベルだ。意味不明な表現だけど、意味不明なのが上姉だ。


 だからと言うか、何と言うか、私がいくら頑張って考えても、一生懸命に何かを為そうとしても、別に親族の誰かが代わりにやってくれると思えて仕方がなかった。


 私はそこそこの才能はあるけれど、他の上の上の親族のように大成は出来ない。大成出来ないという事が、そこそこの才能があるからこそ、分かってしまった。


 そうすると、何だか何もかもが退屈に思えてきたって言うのが始まり。


 加えて当時は光姉さんがWDOの仕事で忙しくなって、私一人の時間が増えた。


 そんな時に見た配信動画がある。ヒーローの真似事をするって言う馬鹿なコンセプトでやってた、一回の投稿の視聴者数は百にも満たないチャンネルだ。


 そいつは本当に馬鹿だったから、何の対策もせずに勝手に犯罪者を捜してしばいていたから、あっという間に警察に掴まって、ライブ配信中に公開逮捕エンドを見せてくれた。


 私は画面の前で爆笑していた。とても笑わせてくれたものだ。そして私ならもっと上手くやれると思った。


 配信の知識、ネットワーク、闇ネット、様々な術式、そして何よりも大切な法律。集められる限りの情報を集めて、可能な限りの準備をした。必要な資格は全部取った。他の家族に言っても無駄なので、光姉さんにねだって機材や書籍を買って貰い、最初の頃は光姉さんに協力して貰って経験を積むためホワイトな配信もした。


 そして準備万端に整って、私は始める事になる。


 現代社会で犯罪の配信をしようものならあっという間に見つかって、あっという間に捕まってしまう。こればかりはいくら私にもどうしようもない。配信という形態を取る限り、自分から犯罪の証拠を公開しているのだから、これをどうにか出来る奴が居たらそいつはただの権力を乱用する暴君だ。


 しかし抜け道はある。よくあるのは外国へ行くとか。もうちょっと詳しく言うならば、やろうとしている事が犯罪とならない国でやること。


 それと同じように、その行為が犯罪となる法律が無い場所でならば、犯罪にならない。


 その最たる場所こそが、異世界だ。


 国際交流でさえ難しいのに、異世界交流は更に困難で歴史が浅い。まだまだ未成熟な分野になる。それだけ法整備も遅れているし、各国で対応がバラバラだ。WDOだって他の国際機関に比べたら新参でしかない。


 一言で表せばザルだ。ザルとは言え、それは一流のプロから見た感覚であって、素人が異世界を勝手に行き来したり、異世界で勝手に商売したりするのは簡単ではない。けれど私なら出来る。


 そして私よりも才能があり、私よりも長く生きて、私よりも権威を持つ奴らが作った社会という仕組み。その裏を付くような作業は何だか楽しくて、退屈をすっかり忘れられた。




 んで、ここまでが始めた理由だ。


 続けている理由も、もちろんある。


 それは色んな意味で楽しいから、に集約される。


 自分のやった行為に対して、お金という分かり易い指標で評価される。


 つーか、くだらないお役所仕事や無能な上司に媚び諂うなんて私には無理だし。自分が楽しい事をしてお金を稼いで行けるなら、それが一番じゃん。


 私は十歳にして天職を見つけたのだ。


 光姉さんは理解してくれんけど。


「あのね、私だって健全な動画配信なら、良いかなって思うよ? いくらでも応援するし、手伝いもする。でも蛍のやってるのって、グレーどころか所々真っ黒でしょ!」

「黒点が浮かんでるのは認めるけど、親告罪だからまあ大丈夫でしょ」

「どこが大丈夫なの!?」


 私のチャンネルの持ち味は外道なので、時々は本当に黒い行為をしないと飽きられてしまう。口だけで結局良い子ちゃんだろ? って思われてしまえば、異世界でやる外道行為が単なるパフォーマンスと受け取られてしまうのだ。


 いやパフォーマンスが多いのは否定しないけど。


「ショートケーキに乗せる苺ってさ、わざと酸っぱいの使うじゃん?」

「まあ、お店にも寄るけど、クリームを引き立てるためにそうしてるお店もあるね」

「そういう事だよ」

「言いたい事は分かるんだけど、酸っぱい苺を育てるのと法律を犯すのはまったく別物だから」

「ああ言えばこう言うー」

「蛍がね」


 まあ根が真面目で周囲の信頼も厚く社会的にも評価されてる光姉さんに分かって貰おうとは思っていない。それに自慢の姉だけど、光姉さんのようになりたいとも思わない。


 光姉さんと一緒に育ってきたはずなのに、なんで私はこんなに捻くれちゃったのかね?


 光姉さんが買って来てくれたショートケーキを二人で食べながら、同じソファに座って合法の動画配信サイトで映画を観る。


 この時間は、退屈じゃない。




 しかし今回の配信は色々と反省点が多かった。


 タイムも視聴者の反応も投げ銭額も良好だったけど、これ完全に光姉さんが出て来て活躍したからだよ。


 光姉さんって言うツールのアシストを受けたと思えば、RTAのレギュレーション違反ではないけど、正直自分の力で達成した気がしない。


 そもそも異世界召喚でRTAって難し過ぎ。同じパターンなんかほぼ無いし、リセットして再走も出来ないし、基準タイムとか設けられないし。


 何度か配信してるけど、RTAでタイムが改善されていく様を見せられないのは致命的だったなぁ。


 いや今更だけどさ。


 一番評判の良かった悪役ムーブで異世界召喚が、WDOに目を付けられたのが痛かった。あれが出来なくなってから、ちょっと迷走してる感がある。


 また何か良いネタを考え無いといけないなぁ。毎回毎回私が新術式で攻略するパターンは飽きられてるかも知れないから、他人を使うのが良いかな。今回正にそんな感じだったし。


 引き籠もりながら他人任せで異世界を攻略する異世界召喚とか、遠隔操作ドローンを使って異世界を救う異世界召喚とかどうだろ。


 ん? メールか。視聴者へ公開してるアドレスじゃなくて、個人用? 誰だろ。


 アスと、ミカエルくんと、デルギーン?


 おい姉、勝手に妹のアドレスを教えるなよ。本当にリテラシーが低いな。まあ私が三人に聞かれたら、このアドレスを教えただろうけどさ。


 えっと何々? あー、なるほどね。ミカエルくん以外は上手くやってそうね。ミカエルくんは正直すまない。全て視聴者が悪いんだ。私は悪くない。


 とりあえず次の配信は、アスとジブリールちゃんのコスプレ撮影会にしないと、常連のロリコン野郎共が怒り出すな。一番投げ銭してくれる層だから、私が幼女の内は媚びを売っておかないと。


 それまでに今後のネタを考えておこう。


 WDOが柵みで助けに行けない世界は、まだまだ残ってるし。


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