第24話 エキストラバトルは即覚醒
「蛍!」
「K! 戻ったのか!」
「ガキ勇者!」
デュラリオン王国の王城へ降り立つと、アス、ミカエルくん、デルギーンが迎えてくれました。
「戻ったよ。ルシファーは倒して来た」
「さすがだね」
「僕はKならやってくれると信じて居たぞ!」
「ったく、夢でも見てる気分だぜ!」
アスたちが集まっているタイミングが良すぎる気がするので、ちょっとばかり嫌な予感がしますね。
「蛍のお姉さん、どうしたの!?」
姉はアスからすれば元の世界へ戻してくれると約束したWDO執行官ですから、気絶して私に背負われている姿を見て不安にもなるでしょう。
「ああ、大丈夫。ちょっとルシファーの攻撃を喰らって意識が飛んじゃっただけだから。少し休めば気が付くよ」
本当は巨大ゴキブリになった真の魔王ルシファーを、私が踊らせたせいなんですけどね。
「そうか。あれほどの力を持つKとKのお姉さんでも、それほどの戦いだったのだな」
好意的解釈ありがとう。私はトドメを貰っただけなので、全くと言って良いほど強敵だったって言う感覚はありません。
でも私の姉にとったら、かつてない強敵でしたね。私が居なかったら、この多層世界をまるごと消滅させて大問題になっていた事でしょう。
しかもその理由がGって。姉の黄金の経歴にとてつもない汚点が記された可能性があります。今後、Gに慣れるのが姉の最大の課題です。
姉をGに慣れさせるまでの配信日記? いやぁ。面白そぉ。げふんげふん、そんな非道い事、大切な家族に出来る訳がないでしょう。まったく、私の愛する姉にそんな非道いことを強要する提案をしないで欲しいですね。ところでいくら出せます?
「勇者よ、よくぞ世界を救ってくれた」
「最初に言っただろ。私に任せなってな」
王様たちが歓声を上げてくれます。
視聴者の皆さんからの指摘が止まりません。私も気が付いてます。
まるで測ったようなタイミングでアスたちや王様たちが集まって、私と私の姉を出迎えてくれましたからね。そうですね。何でみんな集まってるんでしょうかね。ゲームじゃないんだから、主人公が戻ってきたら全員集合しているなんて有り得ません。
うごっ、背負っている姉の腕が私の首に回されました。
そのタイミングで王様たちの背後からWDOの制服を着た集団が現れます。
このロリコンストーカー野郎! 嘘吐きやがったな!? 何があと一日くらいで到着するだ! とっくに到着してやがった! いや、私の配信を見ながら連絡前から準備を整えてやがったな!
「蛍、捕まえた」
姉もグルかよ! いや巨大ゴキブリは想定外だったろうから、気を失ったのはマジで、今目覚めたってところか。目覚めてすぐ状況を理解して動き出したんだろうね。
「き、汚いぞ! 姉を気遣う妹の純真を弄びやがって!」
「こっちの台詞だからね! 私本当に心配したんだから!」
ゼロ距離から戦闘開始なんて最悪だ!
おい逮捕エンド連呼すんな!
クソが、このKを、この程度で捕まえられたと思うなよ!
な、ん、て、なぁ!
「ヒャッハー!」
「え………?」
捕まえていた私の身体が消えて、姉が呆然としていますね。WDOの職員たちも私の姿が突然消えたので驚いています。アスたちも驚いてますけど。視聴者は驚けよ。「知ってた」じゃねぇよ。
これこそが太古の昔、RTAで猛威を振るった分身技です。って言いたいところですが、ちょっと違います。
「嘘、今のって、時間複製? いや、そんな感じじゃなかった………もっと別の、あの論文を応用発展した、蛍のオリジナル術式っ!」
私は大空から姉やWDO職員たちを見下ろしています。
視聴者様たちも見えるでしょう。WDO職員たちの呆けた間抜け面が。
「そうだねぇ。名前は時空の幻灯ってところかな。どんな術式だったのかは、後で映像を見てゆっくり解析するんだな。ではさらばだ、また会おうWDOの諸君!」
気球がないのは次の課題ですね。え? 知らない? 本読め。
WDOの職員たちが口々に追い掛けるかどうか騒いでいますね。でも彼らはすぐには追い掛けられないですよね。未知の術式には策も無く深追いしないって、口を酸っぱくして教えられてますからね。
加えて全国配信の場で、素人の、若干十歳の美少女に敗北しようものなら、WDOの信頼が揺らぎます。自分たちの身の危険と組織の評判が下がるのが怖いのです。
敢えて言おう。
相も変わらず独善的で利己的な組織だなぁ!
「時越え!」
ほう。姉は私を追ってくるか。
自分しか使えないと思っていた時空間術式を見せられれば、驚愕で思考停止に陥るかと思いましたが、意外と立ち直りが早かったですね。
姉が動いたのに呼応して他のWDO職員、いえ、武闘派の執行官たちが次々と空へ上がってきます。私の姉だけに戦わせて見てるだけって姿がマズイと気が付いたか。
姉を入れて総勢八名のWDO執行官。
ラスボス撃破後のエキストラバトルが始まります。世界の神を打倒した頃には、異世界召喚された人も圧倒的な力に覚醒しているはずです。
だから擬似的に、私の新技でそれを再現します。
それっぽい音楽でも流しとこう。
では、遠慮なくいきますか。
「時空の凍結」
まず一人!
「何が起きた!?」
「時空間術式を使うぞ! 汎用で良い! 対抗術式急げ!」
「無駄無駄無駄無駄ぁ!」
二人! 三人!
「時間停止!」
「時空の再構築」
「時空間専用の対抗術式!?」
全世界で光姉さんの術式を最も見たのは誰だと思っている? 私以外にいねぇだろう!
「だが、対抗中は時空間術式は使えまい!」
「今がチャンスだ!」
「そういうのはさ。素で私に勝てるようになってから言うんだな!」
四、五人!
「ば、馬鹿な。こんな子供に、WDOの執行官五人が、ほんの一分足らずで………っ!」
あのおっさん、よく見たら制服的に執行官じゃないから、上層部の付き添いかな?
ま、撃墜しちゃえば同じですね。
六人!
「あっはっは、こりゃこっちの負けだな!」
「笑い事じゃありません! 私が捕まえます!」
七人目は自主的脱落ですか。視聴者様方、あいつがロリコンストーカー野郎です。街で見掛けたらタバスコをぶっかけてやってください。
最後は八人目、姉です。
「ははは、いくら光姉さんでも、初見の術式には対抗出来まい?」
「蛍がやたら自信満々だったのは、これのせい!?」
「私が逃げる算段もなく、自分からWDOに通報するとでも思った?」
「思わなかったし、蛍なら凄い隠し球をいくつも用意してると思ってたよ!」
デュラリオン王国の王城の空で、私と姉の時空間術式を使ったデッドヒートです。
すぐに逃げるとエンディングでお替わりが来て、RTA的にタイムロスになるので、ここは姉とWDO職員たちを諦めさせます。
「時間複製」
「時空の多層化」
姉が分身も真っ青な時間の複製で、一気に私を捕まえようとします。
しかし私はあらゆる時間で姉から逃れます。
「うわっ、何今の!?」
「光姉さんから逃れた時間を他の時間に上書きした」
「な、蛍、本当に天才だね」
「その呼び方は本物の天才に失礼だよ。私はあくまで、思い描く術式を自由に作れるだけだから」
直接戦えば、十中八九私は光姉さんに勝てません。何せ光姉さんは一度理解した術式は二度と通用しない化け物ですから。
けれども倒す必要がなく、必要な術式を一度使えば良いだけの逃走であれば、私は光姉さんどころかWDOの誰にも負けません。
世界は救ったし、これで異世界召喚RTAを終わりにしましょう。
「あ、冷蔵庫にショートケーキ入ってるから、帰ったら食べて」
「あ、うん、分かった。美味しく頂くね。光姉さん、何時頃帰って来れる?」
「分かんないから、先に寝てて良いよ」
「じゃあ映画の続き観て待ってる」
「それは駄目! 観たら絶対ネタバレするでしょ!?」
「するよ。外道だからね」
時間を無駄にした?
いや、いくらRTAでも、家族との会話くらい許して!
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