第23話 大魔王の第二形態(満身創痍)
まあ、まともに考えて、現代の進歩に付いて来られなかった旧き神が、その神々を調伏するのが仕事のWDOに勝てるはずがありませんね。
相性的にも姉が超有利です。旧き神が使うものって、とっくに解明されてるものがほとんどなので、そう言ったものを全て読んで全て覚えている姉に勝てるはずがありません。
真の魔王ルシファーさんがもう少し現代知識を学んでいれば、多少は粘れたかも知れませんが、結果はこの通りです。
「ば、化け物め………っ!」
「未開世界保護法違反により、あなたを拘束します」
暗殺する暇もありませんでした。もうちょっと頑張ってくれよ、真の魔王ルシファー。どーしましょー。
ほんと、旧き神に対しては無敵レベルに強いですね、私の姉は。
これはあれですね。ゲームで最強設定だった敵キャラが仲間になって、一切の弱体がなかったせいで、主人公たちが空気になる展開です。
プレイヤーは冷める展開のはずなんですが、何故か大歓声が上がるのがうちのチャンネルです。光最強伝説とか、格好可愛いとか、WDOの妖精とか、ようやく主役登場とか、ヒーローは遅れてやってくるとか。
ねぇ、いつの間に私のチャンネルの主役が光姉さんになったの? 私は早く来てくれ光姉さんって叫ぶ係?
もしかして光姉さんの自宅での日常を生配信するのが求められてる? あ、見たいって声多いですね。でも、やりません。当たり前だろ。やったら私のプライベートまで映るだろうが。
まあでも、私なら削りきるのに一週間は必要だった事を、一時間と掛からず達成してくれたのにはお礼を言いましょう。いやいや、お礼ではないですね。私のRTA攻略センスです。最も速い攻略法は、この姉を利用することでした。
「蛍、通信機でWDOに連絡して」
「はーい」
通信機、使う必要あります?
あ、ないですね。もう多数のWDO職員がこっちへ向かっているようです。一日後くらいには着くらしいです。この異世界、結構遠いですからね。私や姉と違って、彼らが到着までに時間が掛かるのは仕方がないでしょう。
ですが私にとっては、唐突にタイムリミットが切られた事になります。
RTAなのでずっと急いでるのには違いないですが、このまま手をこまねいて待っていると、WDO職員が大挙して押し寄せて来ます。
これはマズイですね。このままでは二度と配信できない身体にされてしまいます。まあ、監視くらい軽く抜きますけど。
ここは光姉さんに拘束されてる真の魔王ルシファーさんを、サクッとぶち殺して世界を救った後、WDO職員が来る前にこの異世界から逃げ出すのが最善手です。
アスとジブリールちゃんのコスプレ撮影会? いや、そんな場合じゃないから! ほとぼりが冷めたら必ずやるから勘弁して!
そもそもコスプレ撮影会はタイマー止めた後だから、一度は元の世界に戻らないと駄目だし。お前らだって、もっと高性能なカメラで見たいだろ?
「人間め、どこまで神を墜とせば気が済むのだ」
真の魔王ルシファーさん、抵抗するようです。
ざっけんな! まだ分かんねぇのかよ! 光姉さんに勝てる訳ねぇだろ!
私も視聴者と一緒になってそう叫びたいです。
まあ、でもさ、何事にも例外はあります。うん。
まさか。
真の魔王ルシファーさん、全長千メートルくらいある巨大ゴキブリに変身するとは思わなかったなぁ。
「見るが良い。これが無数の世界で恐れられた我が真なる姿、破壊神だ」
破壊神なんて人種もとい神種は居ないんですけどね。それに姿的に別の意味で恐れられただけじゃね?
私からすると、ここまで大きいと気持ち悪いというよりは、なんか玩具みたいで笑えてくるんですが、Gが大の苦手である光姉さんとしてはそうもいきません。
顔を真っ青にして金魚のように口をパクパク動かしています。餌でも放り込んだら、気付かずに咀嚼しそうです。
「光姉さん、大丈夫?」
「あ、わわわ、いいい」
我が姉、駄目なようですね。
目がぐるぐるしていて、何をしでかすか分からない状態です。
このままだと、洒落にならない超破壊術式を使いかねません。例えば誰にも再現出来なかったから見過ごされていたけど、光姉さんが論文から再現してしまって、国際法で禁じられた術式とか。光姉さんの逸話として、テレビ番組の特集では必ずと言って良いほど取り上げられるエピソードですね。
でもあの論文、効率が悪くてクソ術式なんだけどなー。ま、いいけど。
今なら悪戯出来る? うーん、悪戯出来るのは間違いないですけど、後が怖いんですよねぇ。家に帰ったら逃げ場無いですし。姉は自宅に仕事の事情は持ち込まないですけど、個人的な悪戯は反撃してくるので。
まあ姉の痴態はまたいつか。
今はRTA完遂を優先しましょう。
「光姉さんは下がってて。私がやるよ」
「け、蛍っ!?」
なんか姉を庇ったような雰囲気を出してますけど、実際は姉が敵の力のほとんどを削り取ったので、トドメだけを貰うんですけどね。
まあ、ボスをとことん弱体化させてから倒すって言うのはRTAっぽいじゃないですか。
それでは突撃します。
「神のみが操る事の許される火により、焼かれるが良い、人間!」
「焼かれて下さいお願いしますだろうが。断るけどな」
どうせスーパーノヴァとかだろ。そんなエネルギー残ってる? はい。残ってないー。まるで熱くないです。
やっぱりもうカスみたいなエネルギーしか残ってませんね。天上世界、姉の戦いのためのエネルギーに変換されまくって、すっかすかになってますからね。然もありなんです。
「破壊神に戻った我が力を防ぐと言うのか!?」
「破壊神とか関係なくね? 魔力、神力、電力、原子力、どれも結局はエネルギー、人だろうが神だろうが限界はあるの。ああ、旧き神だから知らんのか。老害は新しいものを取り入れられないから困るね。術式理論は日々進化してるんだよ」
まあ、私の家族みたいに、限界ない種も居たりするけどね。
ではでは、こいつに最も有効な術式を組み上げますか。
見た瞬間から決めてました。
「神殺しの一吹き!」
「このようなもの………ぐ、ぐぅ、なんだ、これ、はっ!? 我が神格が崩れて、行く、だとぉ!?」
おうおう、触覚や足をバタバタと暴れさせて苦しみ出しましたね。これが私がたった今作ったオリジナル術式、殺虫剤ならぬ殺神剤です。目の前で踊り狂いながら死ぬが良い。
「きゅ~~~」
先に姉がノックダウンしました。可哀想だから、次の戦いの時はG弾は止めてあげましょう。
よっと。んー、なんか前より重いな。光姉さん、もしかして太った? ケーキの食べ過ぎ?
あ、WDOから持ってきた装備のせい? それは失礼しました。ここ、後でカットしとこ。
それじゃあさっさとアスたちとのお別れイベントをこなして、クリアしますか。
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