第2話 まずは王様と謁見
まずは被召喚者にとってはありがちなイベント、王国の王様に会ってくれというものです。
地下神殿から出るとそこには時代遅れの移動手段、馬車が何台も駐車していますね。これに乗ってデュラリオン王国の王様と会うようです。
ここ強制イベントです。
タイムを縮める余地がありません。100%でなければ、王様に会うイベントをスキップするんですが、ここではそうもいきません。
仕方がないので流れに任せましょう。
ところで異世界召喚では、この最初に召喚される組織や国によって更にパターンが分かれます。これは私の提唱する第一項パターン、意図しない異世界召喚パターンAや今回の意図されたパターンB共通です。
細かく分ければ差異はありますが、大まかに分けると三つでしょう。
被召喚者を救世主として縋る場合、被召喚者を兵器として利用する場合、被召喚者を邪魔者として排除したい場合です。
一般的に見ると救世主は当たり、協力的なので、こちらが成長するまで育ててくれるまであります。
しかし! RTA的には大外れパターンです。このパターンでは世界を救う以外にも人々に安心感をとか、救った後も現地でとか言い出しかねないのです。
まあさ、無償で危機を救ってくれたんだから、また同じ危機が訪れた時のために被召喚者に留まって欲しいのは分かるよ? でもそれって召喚された側の事情をまったく考えていないよね。
それにさぁ、視聴者が見てるタイマーが進んでんだよ。
世界を救うように頼んでるのに、街のおつかいとか、貴族のどうでも良い頼みごとを依頼してくんじゃねぇよ。てめぇらの頭はいつでも脳内麻薬でハッピーかよ。こちとら時間の神と壮絶なドッグファイトをしてんだよ。
おっと、話が逸れましたね。
二番目はRTA的には当たりになります。これはお互いにビジネスライクな関係を築けるため、世界を救った後に後腐れなくさっさと帰ることが可能です。大人なんだから、こういう関係が理想ですよね。
あん? 私は十歳の子供だろうって? はぁー、有名な言葉知らんの? 頭脳は大人、身体は子供ってな。
そして最後の三番目は誰でも最悪なパターン、被召喚者を生け贄とか燃料としか思っていない異世界召喚です。言うまでもありませんね。これを引いたらリセットして再走を検討するべきでしょう。
もし異世界召喚初心者がこのパターンを引いてしまったら、即WDOに連絡をとって、命の危機があることを伝えて来て貰って下さいね。いやぁ、マジで危険なので! 冗談抜きで!
私? 私が引いたらリセットですよ。容赦なくね。
「勇者様、もうすぐ王都に到着いたします」
「あー、はいはい」
強制イベントで視聴者を退屈させないよう説明を挟んでいましたが、そろそろ着くようですね。
はい、そこー、説明がそもそも退屈とか言わないー、こっちも合間を潰すのに必死なんだよ。忖度しろ。
さて見えて来た王都はっと。
おお、デュラリオン王国とやらは、思ったよりも荒廃していませんね。途中で通った王都を守る砦はボロボロでしたが、建物が崩れている様子もないし、死体が無造作に転がっていることもありません。
見ての通り人通りもなかなか多いです。伝説の勇者とか言いながら、不確かな希望に縋る馬鹿な王様が治めてる国にしては、活気があるようですね。
「出迎えに出てるのって、もしかして王様?」
「はっ! この国を救ってくださる勇者様を王自ら出迎えたいとおっしゃっています!」
あれが王様だそうです。精悍な顔立ちですね。
私の好みかって? んな訳ねぇだろ。視聴者でさえないジジイだし。私の好みはぁ、誰よりも多く投げ銭してくれる人だから、言わせんな、恥ずかしい!
ゴブリンの部隊に攻められたらあっという間に陥落しそうな城の門扉を潜ります。
「よく来てくれた。伝説の勇者よ!」
「ああ、来てやったぜ。お前たちを救うためになぁ!」
私の言葉で歓声が上がるのは嬉しいですね。
よくある王の間での謁見です。
「勇者よ―――」
要約すると、魔王軍に攻められて大変ですね。もう聞いたよ。なんで繰り返すんだか。
ほんとこういう奴らって時間の無駄が好きですね。
でもこの王様はマシです。旅の支度金として革袋一杯の金貨と、サイン入りの通行証兼証明書、城にある剣と鎧でサイズの合う物をくれるようです。
金貨と証明書はポイントが高いですね。色々な時間短縮に使えそうなアイテムです。
異世界召喚で時間を消費させられるイベントは、お金と権力で短縮できるものが多いですからね。
それから皆さんは信じられないかも知れませんが、中には木製の棍棒一つ渡して、レベル一の勇者に魔王を倒して来いって言う王様も居ますからね。コストパフォーマンスの面では最高でしょうけど、プロジェクトを成功させるには投資が必要なんだって理解していない典型です。
私の場合、剣と鎧は辞退します。案内されて選ぶのは時間の無駄ですし、剣はともかく鎧は合うサイズが無いでしょう。あったら未成年を戦場に出してるってことで、大問題です。
「鎧は、そうだな。しかし剣と盾くらいは持って行くべきだろう」
「そいつは戦いたい奴に渡しておくんだな。それで一人の戦力が生まれ、そいつがその剣と盾で一人くらい助けられたら、合計二人助けられる。対して、私が持って行っても助けられる人数は変わらない」
「しかし、それで勇者に万が一の事があれば」
くそ、こいつ粘るな。
こういう良い人ムーブは、強制異世界召喚をする前にやって欲しいですよね。お前らがやったのって、私じゃなければ立派な犯罪だぜ。
え? 私? バレなきゃ犯罪じゃないんだよ? 配信してるけど。
「くっ、お待ち下さい、お父様!」
おっと、何か面倒くさそうなのが話に割り込んで来ましたね。
割り込んで来たのはガキです。小学校高学年か中学生くらいかな。金髪碧眼の美少年。王様の事をお父様って呼んでるくらいだから王子様でしょう。絵本に出て来そうな典型的な王子様です。
えー、はいはい。攻略希望? それって現地残留ルートだから却下。女装に目覚めさせよう? お前がやってろ。泣き顔が見たい? 仕方ねぇなぁ! 100%だから王子とのイベントもこなさないといけないしなぁ! 任せときな!
「ですから! このような子供が勇者などと、魔王は僕が必ず打倒いたします!」
「はっ、お前が魔王を討伐する? それができないから、私が呼ばれたって分からない?」
コメ見てる間に話が進んでて内容を聞きそびれましたね。まあどうせ大した内容じゃないからOKです。
とりあえず王子を泣かせるためにコケにします。本当はやりたくないし、心が痛むんですが、私の愛する視聴者様たちのご要望なので心を鬼にして行います。
「な、何がおかしい!」
「何がおかしいって? 今言った通りだよ」
うわ、なんか怒鳴りだした。情緒不安定な王子様ですね。お子様だから仕方ないか。優しく諭して諦めさせるのが近道かな。
「な、ななっ」
「良いかい? もしも君が何とかできるなら、君のお父さんは私を召喚しなかった。これくらいは分かる?」
「ば、馬鹿にするな!」
「分かってるんだね。エライエライ。じゃあ、夢物語はベッドの上でママに向かって語ろうね。さあ、お帰り」
おっと図星だったのか、顔を真っ赤にしていますね。
いやぁ、優しい両親で羨ましいです。大切にしなければ駄目ですよ。
「ぼ、僕は城の誰よりも剣も魔法も上手く使える!」
こいつのせいで無意味にタイマーが進んでいく。やべ、イライラしてきた。
「でもこの王国軍は魔王軍に敗退してんだろ?」
「そ、それは………。だけど、僕が行けば勝てるんだ!」
「僕が行けば勝てるって、頭大丈夫? つーか、そこまで言うなら自分で行ったら?」
「ゆ、勇者よ、我が息子ミカエルはまだ子供だ。戦場など」
息子に天使の名前をそのまま付けるとか、学校で苛められる名前ですね。可哀想に。
「子供なら仕方ないか。ああそれに、その様子だと、剣も魔法も城内だとみんな手加減して王子に勝たせてる感じ? そういうの良くないと思うよ。特にさ、魔王とか魔物とかに攻められてる時に実力を勘違いさせるのって、百害あって一利なしだから。平和ボケした王子に育っても良い事ないでしょ。ミカエルくんだっけ? 自分の実力を正確に知るのが、上達への第一歩だよ」
柄にも無く本気で心配になったから、アドバイスをしてしまいましたね。
ヤバッ、優しさとか見せたら、私のチャンネルの持ち味が無くなって視聴者減っちゃうよ。待って待って! 要望通り、ちゃんと泣かせるから!
ミカエルくん、目に涙を溜めてますね。これは私の心からのアドバイスに感動して泣いちゃうパターンですかね。これって要望達成した事になります? ならない? やっぱ駄目か。
「お前のが………お前のが子供のくせに………!」
これはアレですね。これから何度も何度もミカエルくんと意見がぶつかり、最終的には決闘で白黒付ける事になるやつ。
もちろん、RTAで決闘になるまで待つなんてしません。
「じゃあこうしよう、ミカエルくん。私と君で決闘しよう。そして勝った方が勇者として魔王を討伐する。やったね! 分かり易いよ!」
「ふ、ふざける―――」
「十億ボルトの落雷」
王の間に稲光と轟音が響きます。
いつも私のチャンネルを見てくれてる視聴者様には説明不要ですね。私の百八つある得意術式の一つ、指先から放たれる十億ボルトの雷を狙った箇所に命中させます。雷速にして高い命中率、そこそこの殺傷力、何よりも速射性が抜群。
前々回の放送では、これのガンマンスタイルが猛威を振るい過ぎて、視聴者を飽きさせてしまうという失態を演じましたので、戦闘での使用は自粛しています。
私の放った雷がミカエルくんの足下に着弾し、床を焦がしました。ミカエルくんは光と音に驚いて腰を抜かしたようで、尻餅を付いています。
「いいから決闘しろよ。お前のお遊びに付き合ってる間に、魔王討伐が遅れるんだよ。何人の人が悲しむと思ってんだ」
私の愛する視聴者たちは、私がRTAに失敗したらどんなに嘆き悲しむか分かりません。
おい、そこ、今回も失敗希望って何だ、今回もって。前回だって成功だったろ!
ミカエルくんが何も言わないので、もう二、三発十億ボルトの落雷を撃ち込んでみます。
んん? ミカエルくんの尻餅を付いた床、何か濡れてますね。まさか。まさかまさか。漏らした? ああ、これはさすがにカメラを。
え? どアップ希望かぁ。でもさすがに可哀想だしなぁ。投げ銭があればなぁ。ちらちら。
どアップしまーす!
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