第19話 天災vs天才
凄い勢いで歓声が上がっています。
視聴者数も伸びています。
おいお前ら正直過ぎだろ! 何が光タンが見られると聞いて来ました、だよ! 最初から見てろよ!
他のところで宣伝してるの? いいぞ、もっとやれ。宣伝しまくれ。西園寺光が生放送で出てるぞ。ポロリもあるかもって言って来い。あるのかって? ねぇよ。でも「かも」って付ければ許されるんだよ。
「けい? K?」
アスが空に浮かぶ我が姉を指差してます。目を合わせるな、殺されるぞ、って注意したい衝動に駆られる私は間違っていないはずです。
「大精霊、あれが、真の魔王ルシファーか?」
『いえ、魔王ルシファーではなく、人間の少女のようですが。一体何者でしょう?』
「し、しかし大精霊様、あれの放つ光のせいで、神獣たちが止まったようですね」
「ああ、あれは時空間操作の術式、ミカエルくん的に言うと時空間魔法だよ。あいつの得意術式の一つ」
決して後光じゃないから! 可愛いさに神獣たちが見取れてるとか有り得ねぇから!
「アスも、ミカエルくんも、デルギーンも、まあここで見ててよ」
あ、ちゃんと仲間になった順番で呼んでますよ。私は仲間を差別したりしません。
「私はあいつを説得してくる。まあ、どう転んでも、この世界は救われるよ」
「それって、どういう?」
「ま、待つのだK!」
「さっきの犠牲って、まさかお前!」
ミカエルくんは、自己申告により盾にするかも知れないけど。
はーい、空に浮かぶWDO執行官様に近付いて行きます。
どんどん解像度が良くなっていきますね。WDO執行官様はお怒りのようです。額に怒りマークが張り付いているのが幻視できます。
「蛍っ! あれだけもう配信はやるなって言ったでしょ!」
「おいおい、それは光姉さんにしたら珍しく記憶違いじゃね? 悪役ムーブで異世界召喚配信がWDO的にNGだって言うから、それはやらないって約束してやっただけじゃん」
「いや、そんな屁理屈が通じると思うの!?」
「事実だから屁理屈じゃないし」
「………どちらにしても今アカウント停止するように運営に掛け合ってるから」
「それだけはやめてくださいお願いします」
「駄目」
「このど畜生がぁ、てめぇの血は何色だぁ!」
「あなたと同じ色に決まってるでしょ!」
「外道って事かよぉ! くそがぁ! 血は争えねぇな!」
「どうしてそうなるの! あなた私の妹でしょ!?」
垢BANだけは回避しなければ。だからこの手だけは使いたくなかったんだ。WDO呼んだら、絶対こいつが来るし、容赦なく私のアカウントを停止しようとしてくる。
くそっ、戦うしかない。
「今すぐてめぇの通信機を奪い取って、問題ないから停止処置不要って連絡してやるぜ!」
「出来るものならやってみなさい!」
「はははっ! 抜かったな! 我に勝機有り!」
都合の良い事に、我が姉は下の強化魔獣たちを時空間術式で止めるために力を使っています。加えてWDO執行官という立場上、現地を無差別に破壊する訳にはいかず、私がどこかに被害が及びそうな術式を使ったら逆に守らなければなりません。
更に私はミカエルくんを盾にして良いという承諾を全国配信の場で得ています。WDO的に、罪の無い現地人を抹殺する訳にはいかないはずなので、我が姉の戦いにはかなりの制限が掛かるはずです。
応援ありがとう! 今回は前回みたいに一方的にやられたりはしないぞ!
戦わずに逃げるなり謝るなりすれば良いんじゃないかって? いや、だってさ、私が抵抗した方がみんな喜ぶじゃん。
さて私の配信の常連様ならご存知の通り、私の姉、西園寺光はもろくそ強いです。
どれだけ強いかと言うと、この年齢で既に数十の異世界を救い、数々の神を去勢して国連に加えさせ、WDOでは三年連続表彰され、未成年の術式競技大会では七年連続無敗のチャンピオンを誇っています。
この姉よりも凄い人なんて、私でも数えるくらいしか思い浮かびません。まだ未成年なので完成された強さではないですが、十年後には歴史に名を残す使い手になっている事間違いありません。
惜しむらくは、この幼児体型が歴史に残ってしまう事ですか。
「熱っ!? いきなり時空間貫通レーザーは反則でしょ!? つーか、それ人間、いや妹に対して使うとか、どんなド外道だよ!」
「あ、ごめん。なんか、凄いイラっとして」
「たくよぉ、情緒不安定な姉を持つと妹は苦労するぜ!」
「苦労してるのは私なんだけど」
さて、ここからは全力で動きます。出し惜しみはしません。
「隙有り! 十億ボルトの落雷、二百連射!」
十億ボルトの雷を二百発、どうせ効いてないのでしょうが、光と音で攪乱には使えます。狙いは姉の襟元に付いている小型通信機。あれさえ奪って逃走出来れば、こちらの勝ちです。
「光速越えの神速!」
召し捕ったり! 通信機ゲットだぜ!
「巻き戻し」
「卑怯なぁぁぁーーー!」
せっかく小型通信機を奪取したのに、時間を戻されて無かった事にされてしまいました。
おい視聴者共! 喜ぶな! こいつだって無敵じゃない!
そう、この姉が新聞や雑誌で無敵と呼ばれる、時間を巻き戻す術式にも限界があります。巻き戻せる時間には限度があるので、その時間耐えきればどうにかなります。………確か、数時間とか言う単位だけど。ついでに付け加えると、姉のこの巻き戻しの術式、自動発動なので姉が死んだり行動不能になると、勝手に発動して姉が完全回復復活します。
ねぇ、今思ったんだけど、私の姉、無敵じゃね?
ちょっと色々やってみるか。これはどうだ。これは? こっちなら。油断誘って。下から行ってパンツを全国放送されたくなかったら。未開世界保護法を遵守する姉なら、事情も知らずに強化魔獣を殺せないだろ。神獣だったかな、神獣アタック。クソ、あっさり殺しやがった。ここに来る前にある程度調べて来てやがるな。
「いいから大人しくしなさい。時越え―――いたっ!?」
「おいおい、いくら三次元空間を超えた速さでも、来る場所が分かっていれば大した事ねぇなぁ。テレフォンパンチだよぉ、WDOの天才少女さん」
ブーイングの嵐! 何!? まさか私が一方的にやられるのが期待されている展開なのかっ!?
しかし、今の瞬間、私のスリ技能を全力で発動させて、通信機を盗んでやったぜ。後は時間を稼げば良い。
「あのね、蛍、これ以上やると、ブラックリストに載っちゃうから、今回は大人しく」
「今回の配信、何が問題なの?」
「え?」
「まったく、どうせ中身を見ずに、私がやってるってだけで飛んで来たんでしょ? しかもアカウント停止措置まで依頼して、職権乱用にも程があるぞ」
「………そうだね。確かに、いくら蛍でも、前回から数日しか経ってないのに、今回も違反するはずが」
「初手で異世界召喚術式使ったけど」
「それが違反だからね!」
「ついでに有料販売してる」
「それも違法ぅー! どこ!? どこのサイトで売ってるの!? 今すぐ販売止めて!」
この姉、将来が心配になるくらい馬鹿がつくお人好しだな。これだけやらかしてる私を、普通信じるか?
「どっちも軽犯罪だから大丈夫」
「大丈夫じゃない!」
「未成年だし」
「そういう問題でもない!」
「WDO執行官は頭が固いね」
「姉として心配してるんでしょ!?」
そろそろ秘伝奥義、お姉ちゃん大好き攻撃を出すかな。仕事が忙しくてなかなか構ってくれないお姉ちゃんに会いたかった、とか何とか言えば、そこそこ時間稼げるだろ。
おい、本音が混じってるとか言ってる奴! マジで特定してぶち殺しに行くぞ!
あああ、休みの日一緒に買い物行ってる写真とかアップするな! あれ、この写真かなり最近じゃね? 姉のルックブックに投稿されてた画像? 今日は妹と一緒の買い物ですって。私の姉、リテラシー低すぎ!
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