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第17話 side 世界異世界機関WDO

 世界異世界機関(WDO)、World Different world Organization。


 |五天協定《FIVE SKY Agreement》に基づきXXXX年に設立。


 無数の異世界と異世界の間で発生する様々な問題を解決するための組織であり、世界や国家同士の審理裁判をするだけでなく、異世界の情報収集から研究も行い、紛争解決のための独自の軍事力まで保持している。


 参加加盟国は万を超え、強力なオブザーバーに各国から難関試験を突破した優秀な職員たちを抱えていて、近年は組織の肥大化に苦しんでいる。


 基本原則は『自由』『無差別』『人権尊重』。


 歴史的に他の連合機関と比べて日が浅いものの、その注目度と活躍は凄まじいものがある。


「X53Y94Z65i2世界、行方不明だった三十二名を保護。衰弱していますが命に別状なし」

「X18Y51Z33i8世界、X18Y51Z33i7世界、戦闘行為を確認。担当執行官は現地へ直行してください」

「X61Y75Z42i5世界、文明滅亡級兵器の使用が確認されました。上級執行官に担当を割り振ります」

「今、動画見てっから後でって言っておいて」

「仕事しろクソ野郎」


 WDO本部では日夜問わず大勢の職員が働いていて、さながら取引時間中の株式市場だ。巨大な部屋に所狭しと並べられたデスクとモニタに、何人ものオペレーターが向かって報告と指示を飛ばしている。


 そんな中でデスクに足を乗せ、手元の携帯端末で動画サイトを閲覧している若い男が一人。場違いな派手な赤色のジャケットに、黒い丸サングラス、国際組織の中にいるとは思えないラフな格好で周囲からこれでもかというほどに浮いていた。


 そんな態度で格好にも関わらず、ほとんどの者が男を改めさせようとしない。


「今、義妹になる予定の可愛い子が健気に配信してるんだ。投げ銭してやるのが義兄になる予定の男の甲斐性ってもんだろ?」

「直接お小遣いとして渡せば良いじゃないですか」

「分かってないな。いつもチャンネルを視聴して、投げ銭してくれる視聴者の正体が、未来の義兄だった。感動するだろ?」

「しねぇよ。気持ち悪いわ」


 男は動画サイトから目を離さず、別の職員と会話をしながら携帯端末を操作してコメントを入れる。


> ジブリールちゃん可愛す。魔法少女コス希望! Kは悪役で!


 加えて投げ銭をした。


 配信者Kからの反応は良好だ。


「ほらな?」

「馬鹿なことを言ってないで、さっさと割り振った仕事をしてください」

「それ、別の奴に振っといてくれ」

「ハァ!?」

「悪いな。副事務長に呼ばれてんだ」




 WDOの副事務長はダークスーツに身を包み、白髪交じりの頭に尖った耳をした初老の男性だった。男性はエルフと呼ばれる種族で、見た目通りの年齢ではない。WDOという組織発足当初からいる最古参の一人である。


 WDOは様々な異世界を統轄する性質上、採用している種族は多種多様。あらゆる国際機関で最も多い種類の種族が働いていると言って過言ではない。


「先日の犯罪神討伐の件だ」

「はい。準備は整っていますよ。あとはアナタの判子を貰うだけです」

「結構、では書類を置いていけ」

「そりゃ構いませんが、もしかしてご自分で渡しに行くつもりで?」

「先日の件は大きな失態だ。各国でもニュースに取り上げられた。誠意ある対応をしているところを見せなければならない」


 犯罪神討伐の件、それはWDOが何度も出し抜かれ躍起になって探していた敵を、とある動画配信者が見つけ出して討伐してしまった事件だった。犯罪神によって被害を受けた世界は十以上、被害者は兆に上ると類推されている。その動画配信者がいなければ、今でも被害者は増加し続けていただろう。


 WDOとして違法配信を認める訳にはいかないけれど、助けられた人間の数があまりにも多すぎた。民主主義の世界では数こそが正義となる。兆の人間が助けられたのに、違法配信だからと言って処罰してしまえば民からの支持を失ってしまう。


 たとえWDOの言い分が正しいとしても、命を助けられた者たちに対して、お前たちの救世主は犯罪者だから裁くと言って納得して貰えるはずがない。


 それにここまで数が多いと、連合各国からもどんな反応があるか分かったものではない。特に人権尊重を声高に叫ぶ者たちは、兆の人間を救った英雄を庇うに決まっていた。


 男が苦笑しながら携帯端末を掲げると、副事務長は眉を曲げて画面を覗き込んだ。


 そこには先ほどまで男が見ていた動画サイトが開かれていて、流されている動画の中心には黒髪の幼女がいた。


「それがですね。また、やってるんですよ。ライブで」

「しばらくは、大人しくしているという誓約書を書かせたのではなかったのか?」

「まずあの誓約書には法的拘束力がありません。次に、あくまでもやり過ぎに対する誓約書であって、配信そのものへの制限ではありません。それから」

「分かった。もう良い。小隊を準備しろ。私も同行し直接出向く」


 副事務長は眉間を抑えたまま命令を下す。


「アナタが現地まで? 大丈夫ですか? 失礼ですが、さすがにお歳を考えるべきでは?」

「そこまで礼を失する発言をするのはお前だけだ。私はまだまだ現役だ」


 男は副事務長からの睨み付けに対して、肩を竦めて見せた。


「それから、“彼女”にも伝えてくれ。必ず、取り抑えろと」

「ええ、当然です。あの子を止められるのは彼女しかいない」




 執行命令書。


 配信者ID、XXXXXXXXXX。


 配信者名、K。


 チャンネル名、外道で幼女の異世界召喚。


 タイトル名、外道で幼女の異世界召喚RTA配信。


 WDO一級執行官よりアカウント停止処置を命ずる。


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