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第16話 魔王城攻略は一度しかしない

「魔王城を守る最強の結界を―――ぎゃあああぁぁぁーーー!」


 何か言ってるのが魔王城から出て来ましたね。ま、いっか。


「………ねぇ、K、何してるの?」

「魔王城を攻略しなきゃいけなくてさ」

「そう。攻略しないといけないのは分かった。でも、攻略しないの?」

「してるじゃん?」

「私には魔王城の解体工事をしているようにしか見えない」


 アス、まさか魔王城の中を歩いて、一部屋一部屋一階一階進めと言ってるんですかね。


 そんなのRTAの攻略じゃねぇ。


 こうして外から億の魔力腕とシャベルカーで解体したほうが早いです。


 素材や構造まですべてを把握し、隠し通路まで解体しちゃうから取りこぼしもありません。これこそ本当の100%の攻略と言えるでしょう。


 この攻略方法の弱点は、一度しか使えないことです。


 使ったら魔王城が平らになってしまうので、二度と使えません。魔王城で見たい景色とか、写真を撮っておきたいって考えている人には使えませんね。


 あのシャベルカーですか?


 原理は魔力の腕と一緒です。魔力によって生成された建築物解体用のシャベルカーです。解体業者がよく使ってる術式を少しアレンジしただけなので大したものではありませんが、欲しい人がいれば公開します。


 有料じゃないのかって? まあ、これは無料で良いかな。使い道がほとんどないし、もっと良いのプロの業者が使ってるからね。優しいでしょ? 立派でしょ? 投げ銭しても良いんだよ?


「俺はついさっきまで、人類で初めて魔王の城へ足を踏み入れることになると思ってた」

「K、敵が出て来たら僕たちが守る! Kは安心して城攻めをしててくれ!」

「俺は一服するから、魔王が出て来たら呼んでくれ」


 さて魔王城攻略も半分が終わりました。ここからは魔王城が崩れないように、綺麗に解体しないといけませんね。


 あとはもう半分、というところで、魔王が出て来るようです。


「貴様ッ、勇者メ!」


 空中を浮遊してくるようですが、背後の魔王城は半分が解体済みなので絵になりません。


 おいお前ら、お兄さんコールやめろ。


 アスは貰っていくって。先にアスに結婚を申し込んでからしろよ。何人か申し込んでるし。


「兄さん!」

「アスカ………」

「もう止めて!」


 アスの涙の説得が始まるのでしょうか。


「余ハ、モウ止マル事ハ許サレナイ」

「そうじゃなくて! Kに勝てると思ってるの!? Kと本気で戦ったら絶対死ぬから!」


 おっと、風向きが変わりましたね?


「それに、船の中で聞いたんだけど、Kはこの世界を救ったら、私たちを元の世界へ帰してくれるって!」


 正確には、世界異世界機関(WDO)へ通報するだけですけどね。


 たとえ異世界召喚の被害者が確定していても、私が自分の手で連れて帰ったら罪なりますから。クソ法滅びろ。


 ま、通報すればいくら腰の重い国際機関でも数日中には迎えに来てくれるでしょ。それまでにRTAを完走して、戻って来てコスプレ大会とお土産とプレゼントの買い物かな。


「だから兄さんが戦うの、本当に意味ないから! Kが絶対勝つし、Kが兄さんから世界を救ったら元の世界に戻れるし! もう自分で言ってても分からなくなるくらい、兄さんが戦う意味ないよ!?」

「………………」

「………………」

「………………………………」

「………………………………」


 魔王、完全にフリーズしましたね。


「………………………………………………………………ドウイウコト?」


 こういう兄を持つ妹は苦労しそうですね。しそうというか、してますね。


 魔王は全身から噴き出していた魔力の渦がすっかり沈静化しています。感情の波が収まったのと同時に制御が戻って来たのでしょう。


 アスが魔王を抱き留めています。兄妹の美しい光景ですねー。


 イケメンには厳しい当チャンネルですが、美少女ヒロインであるアスのお陰で魔王への罵詈雑言は抑えられています。




『ようやくここまで辿り着きましたね。勇者ユウキ』


 戦意を失った魔王を目の前にして、どこからともなく半透明になった美人が現れました。


 私のチャンネルだと歓声と大ブーイングですね。どうせ半透明になるなら服だけ半透明になれよ、と。それだとモザイク処理だけどね。


 透明美人は周囲を見回して、首を傾げてます。


 名前を呼んでいたので、最後の村で会った語呂の悪い勇者ユウキに用事があるのでしょう。


「そいつなら、この瓦礫の山を行った先の村で寝てるよ」


 教えてあげるなんて、うーん、私って親切過ぎて怖いですね。


『あの、誰でしょうか?』

「お前こそ誰? 私が親切に教えてやったのに、まずは礼儀を尽くせ」

「そんな、まさか、大精霊様が生きていらっしゃったなんて!? この方は大精霊様で、世界の守り神なんだ!」


 大精霊で守り神ねぇ。精霊力を感じ取っても、とてもじゃないけど大精霊って感じじゃないけど。オマケして中精霊って感じじゃない?


 誰も知らない未開世界で威張り散らしてる小物。井の中の蛙大海を知らずってところでしょう。蛙精霊と呼びましょう。


「で、その蛙精霊がどうして出て来たの? しかも今更。魔王討伐した勇者の手柄を横取りしてやるぜ、ってこと? 良いよ。手柄要らんし、その代わり責任も持ってってね」

『か、蛙?』

「K、大精霊様は」

「いや、もう説明は良いよ。聞きたければミカエルくんが帰ってから、ゆっくり妹さんと一緒に話を聞いて」

「それもそうだ。大精霊、なんで今になって現れた? ガキ勇者はこう言ってるが、安全になったから出て来たなんて言うつもりじゃねぇだろうな」


 デルギーンは蛙精霊への敬意がないようです。


『いえ、これより危険が迫っています。急がなければ』

「良い事言うね。急ごう。だから急いで内容を言え」


 自分で急ごうって言って暢気に話してるのは馬鹿だからなの? まず内容を言えよ。回りくどい表現も要らないし、何なら単語ぶつ切りで良いよ。


『魔王が復活しようとしています』


 おや? 聞き捨てならない話をしようとしていますね? 私の聞き間違いだと思いますか?


「何言ってんだ? 魔王なら、ガキ勇者が倒し………無力化しただろうが」


 デルギーンが指差す先には脱力してしまっているアスの兄魔王がいます。


 蛙精霊が兄魔王を見て首を横に振ったところを見ると、私の聞き間違いではないようです。


『彼は、真の魔王ルシファーに利用されてしまったのでしょう』

「大精霊様! 私たちが異世界に転移する時、兄さんはベルゼビュートの、私はアスタロトの力を貰いました。もしかして、それが!?」


 船の上の昔話で、アスが誰かからチート能力を貰ったって話は聞いていました。それはこの蛙精霊ではないようです。


『間違いないでしょう。自らの封印を解くため、異界より呼び寄せたのです。そしてその封印も、もはや解けかかっている』

「それで、さっきの勇者ユウキって人を召喚して、真の魔王を倒そうとしていたんですか?」

『魔王ルシファーの力は、既に私をも上回っています。こちらの世界に顕現してしまえば誰にも止められません。私は、魔王ルシファーへからの干渉を抑えられる勇者を召喚しました』


 精霊も魔王も揃って誘拐犯かよ。


 異世界召喚って立派な誘拐犯罪だからね? やって来た人が傷付いたら誘拐傷害罪、死んでもしたら誘拐殺人罪だって分かってるんですかね。


 あれ、なんか、空の様子がおかしいですね?


 まだ夜には遠い時間なのに、どんどん暗くなっています。具体的には自然界には有り得ないほどの濃密な魔力に覆われています。この展開を見るに世界中の空を魔力が包み込んで、日の光を遮っていると考えられますね。


「な、なんだこれ!?」

「K、何かやったの!?」

『そんな、まだ僅かな猶予があったはずなのに、干渉が始まろうとしているのですか』


 お空が暗いですね。


「ハーハッハッハ! さっきはよくもやってくれたなクソガキ! これでてめぇも終わりだ!」


 なんか金ぴかが突然現れて叫び出しました。


 説明を聞くまでもなく、金ぴかには干渉を抑制できる能力があるらしいので、その逆に干渉を促進できる能力もあったということでしょう。


 私に殴られてプッツンして、真の魔王ルシファーを復活させてやる、って言い出したってところですか。


 キレ易い若者の典型ですね。皆さんは反面教師にしないとダメです。


『そんな! 勇者ユウキ! 何故、そのようなことを!?』

「うるせぇ! 俺様を何年もこんな場所で過ごさせやがって! 碌な食事もねぇ、水だって泥みてぇ、ゆっくり眠れることもできねぇ、終いにはなんでガキにまで馬鹿にされなきゃいけねぇんだ! ふざけんな!」


 まあ金ぴかが召喚された能力者なら、召喚される前は現代科学と現代魔学の都市で暮らしていたかも知れないですからね。


 サバイバル環境で過ごせってのは酷な話です。異世界に来たから良い思いができるなんて事はありません。現代都市の環境って良いもんですよ。


 はぁーーあ。


 私は、そうです。


 見ての通り、テンションが駄々下がりです。もうお分かりですね?


 RTAをやってたのに、この兄魔王が討伐目標じゃなかったんです。


「K! 空が変だ!」

「知ってる知ってる。真の魔王ルシファーってのが何かやろうとしてるんでしょ? 良いよ。分かった。もう良いよ」


 これはRTA配信です。


 真の魔王ルシファーとやらは、兄魔王とアスに対してチート能力を付与できるくらいの存在な訳です。


 つまり一般的な言葉を使うと、“神”なんですね。


 異世界召喚において、多くの場合の召喚された目的である魔王討伐と、その先にある神とかを倒すのはまったく別次元の難易度と、何よりも時間が掛かります。


 RTA以外の私の配信も見に来てくれている視聴者様は、とっくにご存知でしょうけど、“神”は魔王に比べて打倒するのに酷く時間が掛かります。


 もう余りにも時間が掛かったため、ライブを諦めて、後日の配信にしたこともありました。


 つまりクソランダム要素によって、このRTAは失敗です。




 74:44:44


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