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第15話 邪魔なもう一人の勇者

 金ぴかの剣と鎧を身に着けた髪を逆立てた男が竪穴式住居から出て来ました。身長は百九十センチメートルくらいはありそうです。ミカエルくんと違って美形ってタイプでもないです。


 十億ボルトの落雷ライトニング・ストライクで瞬殺してくれって要望が来ました。お前らイケメンとガチムチには厳しいよね。


 では、瞬殺しまーす!


 仕方ないんです。視聴者には逆らえないんです。嘘だけど。


 あ、クソ、最後の村のイベントを消化するべきって声が多くなって来ましたね。


 先に瞬殺しておけば良かった。冗談冗談、ちゃんと消化するよ。


「お前、勇者ユウキだな!?」


 勇者ユウキって語呂悪っ。まあ両親は、まさか自分の子供が“勇者”なんて枕詞を付けられると思ってなかっただろうから仕方ないね。子供が勇者になった場合に備えて、勇気って名前は避けたほうが無難です。そうしないとこうなります。


 うわっ、視聴者にも本名勇気がいたか。ごめんごめん。良い名前だと思うよ。ご両親の願いが込められてるね!


「ミカエルくん、知り合い? 知り合い選んだほうが良いよ」

「いや、こうして直接話すのは初めてだ」

「そうなの? あ、解説するなら手短にね」

「K、こいつは勇者ユウキ。三年前、デュラリオン王国に突如現れて、とてつもない力で多くの魔物を屠っていた戦士で、勇者に違いないって言われてたんだ。もちろん! Kのようなすごい戦果を挙げたわけじゃないし、Kに比べたら大したことない!」


 聞いてもいないのに聞きたくもない話をしないで欲しいですね。そして手短にって言ったのに解説が続きます。


 ミカエルくんの話によれば、目の前の金ぴかはデュラリオン王国で活躍して勇者だと呼ばれるようになったらしいです。金ぴかのお陰で希望に満ちあふれた時期もあったそうな。一時では、金ぴかが伝説の勇者だと言われ、デュラリオン王国はもとい人類を救うのだと囁かれていたらしい。


 ミカエルくんは子供心に彼に憧れていたようですが、ある日を境にぱったりと噂を聞かなくなった。で、デュラリオン王国では金ぴかは死亡したと言われていると。


 金ぴかは、わざわざ確認しなくても転移者か転生者ですね。


 参ったなー。アス、魔王に引き続き三人目の異世界召喚被害者を見つけちゃった訳か。


 ずっと付いて来るアスと、そもそもの討伐目標である魔王なら良いけど、勝手に行動されそうな奴は困るわ。


 忘れそうになってる視聴者多いけど、これRTA配信だからね。もっと真面目にRTAしろ? 真面目だよ。これ“RTA”じゃなくて“RTAのライブ配信”だから。私的に違うから。そこんとこよろしく。


「子供連れで魔大陸に渡って来るとはな。恥を知れ!」


 恥とかそういう問題じゃなくね? ズレてんな金ぴか。


「勇者ユウキこそ、いったい今まで何処にいたんだ!?」

「知れたこと。俺様は三年間、この魔大陸で己を鍛え続けた。魔王を倒すために!」


 無駄な努力ご苦労様。


「無駄な努力ご苦労様」


 あ、言っちゃった。


 金ぴか、私をめっちゃ睨んできましたね。睨み返すのも芸がないので、嘲り笑いを返してやりましょう。


 はっ!


「ユウキ、聞いたことがあるぜ。三年前、四天王に手も足も出ずに敗北して逃げ出したってな」


 デルギーンが金ぴかの前に立ち塞がりました。なんかデルギーンからの信頼度が天元突破してる気がしますね。まあ、たぶんデルギーンの望む敵撃破は、確実に達成しますけど。


「こいつはお前が倒せなかった四天王を全滅させ、一度は魔王も撃退している。お前の出る幕じゃねぇ」

「敗北? 俺様は負けたのではない。三年前の俺様では、魔王を倒すのは難しいと判断した。だが四天王を倒してしまえば、魔王が直接手を下すことになり、人類は更に追い詰められてしまうだろう。高度な戦略的判断だ」

「その三年でどれだけの人間が死んだと思ってる? こいつはな、一分一秒でも早く魔王を倒そうとしてる! 一人の犠牲も出さねぇためだ! どっちが勇者なのか、聞くまでもねぇだろうが!」


 いや急いでるのは配信のためなんですけどね。いくら“RTAのライブ配信”と謳ったところでも、無駄に時間を使う行動をしたら視聴者が黙っていないでしょう。


 今でも無駄な時間を使いまくってる? ちゃんとレギュレーション読んで。視聴者要望に応えるのが義務だから。


 おっと金ぴか、剣を抜いてデルギーンへ向けました。一触即発と言ったところでしょうか。


「魔王は大軍を率いて出立したが、一人で舞い戻ったようだ。今が魔王討伐の最大の好機。邪魔はしないで貰おうか」

「その大軍は二度と戻ってこないけど」

「ついでに戻ったのは逃げたからだ」

「お前こそKの邪魔をするな!」


 話長ぇな。飽きました? 私もです。


「あのさー、話してる時間が勿体ないんだよね。だからさ、眠れる森の野獣スリーピング・ビースト


 私の一撃で勇者勇気を昏倒させました。一日くらいは起きないでしょ。




「この洞窟を行けば、魔王城です」


 ラストダンジョン前の最後の村にいた村人Aが案内してくれた洞窟です。


「お気を付けください。この洞窟は人間が一度入れば二度と出られないほどに入り組んでいます。そして、洞窟の奥には魔王さえも従わせられないという、強大な魔獣が生息していると言われるのです」

「たしかに、こいつは深そうだ。ガキ勇者、きっちり準備して行った方が良いかも知れないぞ」


 視聴者の皆さんは、洞窟を迷わずクリアする方法って知ってますか?


 右手法?


 馬鹿か。それって平面の迷路にしか使えねぇだろ。


 向日葵の花畑で作った迷路とか、人工的に作ったものにしか使えません。普通の洞窟は立体的で、上下左右色んな場所に道、というか穴がありますからね。


 はい。私のチャンネルを登録していつも見てくれる視聴者様は、とっくにご存知ですね。


「万有引力の墜落グラビトン・フォール


 洞窟ごと崩してしまえば解決です。瓦礫の上を歩いて魔王城まで行きましょう。


「どんな魔獣が生息していたんだろうな」

「どんな魔獣でも、どうせKに瞬殺されるだけ」

「今考えると魔王ってやっぱすげぇな。ガキ勇者の前に立って生きてる敵って魔王だけだぞ。さすが魔王だぜ」

「だが、次こそはKなら絶対勝てる!」

「温室王子は、いったいガキ勇者の何を見て来たんだ? 何をどう考えたらそういう言葉が出て来んだよ? 魔王が逃げたんだよ。俺が魔王なら今頃は世界の果てへ逃亡してるぜ」

「あー、デルギーン、良いところ突くね。そうか。逃げる可能性もあるのか」


 地の果てだろうが天の果てだろうが、必ず追い詰めますけどね。


 いよいよ魔王城が見えて来ました。


 異世界召喚された勇者が目指すべき最後の地と言えるでしょう。


「あれが魔王の城か。ガキ勇者! どっから入る? 正面突破か? 空か? それともどっか侵入できそうな箇所を探すか?」

「入らないけど?」

「よし、入らないか。入らない? 何言ってんだ?」

「攻略しに来たんであって、わざわざ入らないよ」


 入る必要のない場所には入らない。これRTAの鉄則。




 73:52:41


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