第14話 魔大陸への道程といえば船
魔王城が聳え立っているという魔大陸への船に揺られて早二時間。ミカエルくんが下ではなく上の口から出してはいけないものをリバースしています。
さすがにこっちの要望は少ないですね。普通に見苦しいんでモザイク入れとこ。
船に乗っている間、私たちは魔王と会話していたアスから事情を聞きました。
船に乗る前にアスが怪しいとデルギーンが騒いでいましたが、話は移動中にするに決まってます。アスが魔王の関係者だなんて、最初から分かってたことですよね。なんでデルギーンは今更騒ぎ出すんでしょう。
もっと私のタイマーを考えて貰わないと困るね。移動時間じゃなかったら、デルギーンを海の藻屑にするところですよ。
「じゃあ、あんたと魔王は兄妹で召喚された勇者だったってことかよ」
「そうなんだと思う」
「ガキ勇者の邪魔をするために付いて来た訳じゃねぇんだろうな?」
いや連れて来たの私、というか視聴者要望ですけど。
「そんな事はしない。私は兄さんを止めたいだけ。今の兄さんは、魔王ベルゼビュートの力が暴走している。私を傷付けないように離れたのもそのせいだから」
おっさんが美少女を責めている光景に批判が殺到してますね。
デルギーンを船から突き落とせ? いやぁ、仲間殺しはちょっと。つーか魔力を測定するとデルギーンとアスには超えられない壁がありますよ。アスが象ならデルギーンは蟻。アスのが圧倒的に強い。蟻が象を責めてる構図です。
私ですか? 私は控え目でドラゴン、実際は太陽ってところですね。
「いや………そもそも邪魔なんて、できなくない?」
「………それもそうだな。悪かったな」
それにしても今倒したイカの魔物は美味しいですね。ちょっと大味ですけど。体長三キロメートルほどで、こいつ一匹でイカ漁が済んじゃうお手軽さじゃないですかね。
どうでしょう企業さん、養殖の方法でも考えてみては? その際は是非是非、発見者としてこのチャンネルと配信者Kの名前もCMしてね。
こんな感じで魔物を食べてみたら意外と上手かったイベントを消化してみました。
「さ、さすがは勇者様でございます。我々人類の魔大陸上陸を阻止し続けた大海魔クラーケンをこうもあっさり………あ、っさり?」
「分かるぜ、船員さんよ。クラーケンに船を引かせて、魔大陸へ近付いた途端、焼き殺して食べてるんだもんな」
「大丈夫。隕石に比べたら大した事ないから。とりあえず上陸する前に、魔大陸へ隕石が落ちて兄さんごと何もかも吹き飛ばなかったからセーフだよ、うん」
アスの言う攻略方法は100%RTAじゃなかったら全然有りですけどね、いちいち敵の領地へ乗り込まずに外からピンポイントで攻撃して終わらせる。ちょっと技術が進歩したら世界なら当たり前に使われている戦術です。ステルス爆撃機万歳。
とかやってる間に、魔大陸に着きました。
私は魔王城を攻略しなければならないので、とりあえず城の場所はきっちり千里眼で調べてあります。魔大陸が広くて、魔王城の場所が奥地とかだったら困りますが、そうでもなさそうです。これならそれほど時間を掛けないで済みそうですね。
「勇者様! 我々は勇者様を信じてこちらでお待ちしております!」
「いやもう帰って良いよ」
「いえ! ご心配には及びません! 我々も逃げることくらいならできます。必ずや勝利して戻ると信じております。だからこそ!」
「いや、帰りは空間転移で帰るから船乗らんよ」
「はい………」
わざわざ船を使った理由は、イベント消化以外に理由なんてありません。
アスが巨大イカにぬるぬるにされるイベントが未消化? ねぇよ、そんなもん。
さて砂浜に着いた途端、アスが紙切れを渡して来ました。ラブレターだったら欲しいって声が多いです。このくらいなら持って帰って、後で抽選でプレゼントでも良いかな。でも違います。
「K、これ魔大陸の地図。船の上で描いてみたの。私が知っている頃だから随分変わってるとは思うけど」
「いやいいよ。千里眼で全部確認してあるし」
「あ、うん、そっか、そうだね」
マップ確認って何より大事ですからね。記憶に頼ったりはしませんよ。素人にしたら上手い地図だったけど、千里眼で見た実際の光景あるし。
地図って言いますが、実は地図ってとっても大事です。現代では惑星を周回する人工衛星とか、世界を周回する人工衛界とかがバンバン飛んで詳細な地形を嫌になるくらい撮影してくれてますけど、文明が送れている世界では地図が無茶苦茶なんです。
実際に異世界召喚をされてしまった人だちで困りごとランキングを作ったら、一位が言語、二位が食糧、三位が地理ってくらい無茶苦茶です。
なので千里眼の術式は役に立ちます。言語術式の次くらいに有用かも知れません。皆さんもいつ異世界召喚に巻き込まれるか分からないので、きちんと勉強して取得しておきましょうね。
「はぁはぁ、ここが魔大陸なんだな」
ゲロエル君はすっかり船旅で体力を削られちゃったみたいです。今にも倒れそうですね。あ、まだモザイク掛かってました。外してあげましょう。
さて魔大陸というと、何だか太陽の光が当たらなくて、おどろおどろしい暗い大陸をイメージしがちですが、この世界の魔大陸はそうでもないようです。
生憎の空模様で曇ってはいますが、普通に緑の植物が群生しています。鳥や虫もいるようで、何なら魔大陸だと言われないと分からないくらいですね。
強いて異なる点を挙げるとすれば、魔力の濃度はデュラリオン王国があった大陸よりも大分濃いことでしょう。
魔力の濃度が濃いとどうなるか? そりゃ色々ありますが、魔獣が強かったり魔草が育ち易かったりです。あと周囲から魔力を取り込む系の術式が強力になります。
どうでも良いですね。
「ハッ! 海から人間がやって来たと思えば、ガキばかりじゃねぇか」
おや誰かが海岸までやって来ました。肌の色が青くて頭から角が生えている種族のようです。
「魔族だ!」
「雲外蒼天の切り刻み」
はい、バラバラです。絶対話が長い奴だったので、しゃべる前にやりました。どうせ警備隊とか何だとかで、碌な話ではないでしょう。
「魔族だったな」
「そうね」
「K、この調子で行こう!」
さて魔大陸最初の目的地は、人間たちを奴隷として働かせている村です。古臭い竪穴式住居が並んでいます。隙間風も入り放題ですし、防犯はザル、住宅環境は良くないですね。
まあ魔王に支配されている地域の村なんてこんなもんでしょう。
「あんたたち、まさか外の人間か?」
若い男が近付いて来ました。痩せ細って………はいないですね。けっこうガッチリしています。ある程度は健康で筋肉がないと仕事ができないからでしょう。魔力は全然無いので反乱されても怖くないでしょうし。
アスやデルギーンに任せると相手の事情を聞き出しそうなので、ここは私が率先して話をします。
「私は勇者だ。魔王を倒しに来た」
「勇者? お前が?」
「あ、別に泊まりに来たとか、魔王討伐に協力しろとか言うつもりはないよ。100%のために寄っただけ」
「こいつはあんたたちに希望を持たせてやろうって来たんだ。安心して良い。こいつは強い! 既にデュラリオン王国を侵攻していた四天王を撃破して、魔王を退けたくらいだ」
村人Aは何か困った顔してますね。まあ十歳の美少女を見て、これで安心だやったー! とはならないでしょう。なったらそいつヤベーよ。
しかし、この反応は何か時間の掛かるイベントの発生フラグかな。早めに折っておくべきか。
「勇者? 勇者は俺様ただ一人だ」
なんか面倒そうな奴が来たな。
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