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第12話 どうでも良い魔王の正体

 異世界へやって来た時に謁見した部屋がボロボロにされています。


 あの辺りでミカエルくんがお漏らししたのですが、ああ無情、なんて無残な有様なんでしょうか。有耶無耶になって良かったね、という声が多いです。


「ミカエル!? 何故、ここに!?」

「お父様! 助けに参りました!」

「くっ、いかん。早く逃げよ!」


 状況は王座の前で鎧を着て武器を構えているデュラリオン王国の王様ミカエルパパと兵士たち。向き合うのは、身長二メートルはあろう黒い人。床には何人もの兵士たちが倒れています。


「聖剣よ、僕に力を貸してくれ!」


 ミカエルくんがお荷物ソードを振りかぶって突撃しましたが、はい、魔王にあっさり返り討ちにされました。


 魔力の腕でキャッチ! まあここでミカエルくんが死んだらジブリールちゃんが泣いて、視聴者からの要望を達成できなくなりますからね。しっかりと助けてあげましょう。


「魔王! てめぇも終わりだ! このガキ勇者は、本物の勇者だ!」


 魔王が私を睨み付けて来ました。あんまりガン飛ばしてくんじゃねぇよ。ぷちっとしたくなるだろ?


「そうだ! 召喚された勇者がいる!」

「お頼みします! 勇者様!」

「勇者よ、そなたが最後の希望だ!」


 言われなくても、召喚に頼った時点で最後の希望だって分かりますね。まともな神経を持っていたら、王国が危機だから伝説の勇者を召喚しようとはならないでしょう。


「………………召喚………人の国は、どれほど月日が経っても変わらぬ」

「なんだお前、老害かよ。人の国はやっぱ進歩してるよ。お前が付いて来られないだけ」

「地獄の業火で焼かれよ」


 魔王から私に向かって炎が放たれました。なんだこれ、温度低いですね。


 炎には炎で返します。


「一兆度の火炎弾トリリオン・バレット

「ぐおおおぉぉぉーーーーーー!?」


 ご安心ください。きっちり手加減をして温度を抑えておきました。抑えておかないと、焼き尽くしちゃいますからね。


「なん、何者、だ、き、さま!」

「デュラリオン王国に召喚された勇者だ! 私がいる限り、デュラリオン王国の平和は守る!」


 ミカエルパパ呆然、ミカエルくんと兵士たちは揃って歓声を上げてくれてます。ミカエルパパは私の実力を疑っていたのでしょう。でも残念、たぶんミカエルパパの想像の千倍は強いです。


「見事だ人間。いや勇者よ。余をここまで追い詰め―――ごふっ!?」

「口上とかどうでも良いからさ、変身とかするつもりなら早くしてくれる?」


 王都襲撃なんて敗北イベントじゃないかって? あははは、あのさぁ、リアルで敗北イベントって、マジで死ぬ時だから! 絶体絶命の状態から都合良く生き残れたりしないから!


 異世界召喚に慣れていない人は、これ敗北イベントなんだなって戦うの諦めちゃ駄目ですよ。現実とドラマを混同してはいけません。


 さてさて、私のRTAに話を戻します。まさかこのタイミングで魔王との決戦を始められるとは思いませんでした。素晴らしい。素晴らしいですよ、この世界の魔王。


 ここで倒しちゃえば終わりですよね?


 前人未踏のタイムに期待が掛かってきましたね。


 私も興奮しているのか、逸る気持ちを抑えるのに苦労しています。


「変身、か。くくく、後悔するぞ」

「はよしろ」


 駄目だ。言動が雑になってきた。ちょっと深呼吸して落ち着かないといけません。


 魔王がみるみるうちに縮んでいきます。


「驚いたか。これが余の真の姿だ」


 黒髪の少年が魔王の真の姿らしいです。特徴のない顔してますね。特徴がないって事は、それなりに美形って意味でもあります。だから一応褒め言葉です。


 モブ顔は配信に映えないから嫌いだ。


「まさか、その姿は!」

「僕も絵本で見た事があります!」

「おいおい、どういう事だよ! 王族共!」


 ミカエルパパ、ミカエルくん、デルギーンが騒いでいるところを見ると、彼らは魔王の真の姿を知っているようですね。


 まあ、どうせ初代勇者か先代勇者のどちらかで、行方不明になった勇者が魔王として世界を滅ぼそうとしていた、とかでしょう。魔王討伐って言う仕事が終わったにも関わらず、頼んでもないのに残業をしていっている迷惑な奴です。


 そうですね。勇者だろうが魔王だろうが、こいつの事情なんて、私や私の視聴者たちにとってはどうでも良いですね。男だし。


「分かるか。余は貴様と同じ日本人だ」

「あ、悪いんだけど、私日本人じゃないんだよね。ていうか、日本って私が生まれる遙か前に無くなっちゃったし」

「え?」

「え?」


 男女の声が交錯しましたね。魔王とアスの二人。まあアスの疑問だから軽く答えておきましょう。こう見えて私は歴史にも詳しいです。


「令和二十一年に革命が起きて体制が変わったんだよ。詳しくは教科書でも捲れ。そして帰って勉強しろ」


 視聴者様も義務教育で習ったでしょう。令和二十一年にあった満月革命です。この頃はまだ異世界外交やビジネスが始まっておらず、独自に異世界交流を持っていた天帝家の勢力を前に、日本政府は追い詰められた末に大政奉還を表明。当時、内戦とは言えないまでもデモや反発は強く、また同盟各国、周辺国の介入はありましたが、僅か一年で平定。こうして一説では紀元前六六〇年から続いた日本国は終わりました。


 あれ? みんな興味ないかな? 反応が悪いので、あとは各自で調べて下さい。


「令和って何? 平成は?」

「平成は三十一年で終わったよ。何、平成生まれ? ホモサピエンスにしてはスーパージジイじゃん。若化技術がない頃だったら、ギネスに載れたね。いや、今でも載れるか?」


 各自でって言ったけど、これだけは補足しておきます。じゃないと魔王の行動の意味が分からなくなりますからね。


 現代では異世界との距離が一般人でもすっかり近くなっていますので、異世界移動はそれほど不思議な現象ではないですし、一般人が巻き込まれた時ために世界中で対策がされています。


 しかし魔王が言った平成という百年以上前の時代では、異世界を認識しているのは極々一部の人たちだけで、それこそ異世界なんて言ったら正気を疑われ、精神病院への入院を勧められるレベルでした。そんな頃に異世界召喚されてしまったら、それはもう大変だったでしょう。


 なんか魔王が慟哭して、アスが俯いてしまいましたね。


 魔王が怒ってる気持ちは分かりますが、現地人虐殺してるんで、帰っても未開世界保護法でとっ捕まって終身刑なんですけどね。あー、でも異世界召喚被害者だから対応が違うのかな。


 おっと、ミカエルくんに持たせていた伝説の剣が反応して、魔王の手元へ飛んでいきました。元の持ち主へ戻ったんでしょう。何せ私は、本当は勇者でも何でも無いので妥当ですね。剣もようやく本当の持ち主の手に握られて、全力を発揮出来ます。


「許サン。余ハ、オ前タチヲ滅ボス」

「待って! もう止めよう!」


 ここでアスと魔王の関係が分かりそうです。大切なヒロインイベントなので、邪魔しないように最後まで話をして貰いましょう。


「確かに私たちは、この人たちの都合で召喚された。だけど、それはもうずっと昔の話なんだよ! 聞いたでしょう? 私たちの帰る場所は、もう無いの。今を生きるこの人たちを殺して、何の意味があるの!?」


 魔王的には意味があるんじゃないですかね。たぶん相当気が晴れると思いますし。誰も彼も未来だけじゃ生きられないでしょ。


 復讐が意味ないなんて嘘っぱちです。達成したら気持ち良いに決まってます。ザマァ!


 まあアスの説得が成功しようが失敗しようが、私の次の行動に影響がないので好きなようにやらせましょう。私はその間に、RTA終了後のイベントの準備をしておきます。アスとジブリールちゃんのコスプレ撮影会と、あと家族に何かお土産。


 何がいいかな。文明レベルを見ると、食べ物が無難かな。保存の利く物だったら視聴者プレゼントに使うのも良いね。どうせこの世界の通貨は、帰ったらゴミになっちゃうし全部使わないと。


「違ウ。余ハ、オレハ、オ前ダケデモ、元ノ世界ヘ」

「私は大丈夫だから。ずっと一人で頑張ってくれてたんだよね。ありがとう、私の自慢の兄さん」

「ウ、ウウウゥ」


 帰る準備していたので途中よく聞いてなかったんですが、なんかアスが説得に成功しそうです。よしよしこれで終わりですね。


 ん?


 え?


 ここで視聴者から指摘がありました。


 100%RTAなのに魔王城(ラストダンジョン)攻略しないの? です。


 いや、ほら、目の前に魔王いるし、倒せるというか、あー、もう、分かりました。


「それはKが僕に託してくれた剣だ!」


 あ。


 ミカエルくんが突撃して、魔王の横っ面を殴りました。


「貴様ラッ!」

「兄さん!」


 ミカエルくんがアスの説得を邪魔しちゃいましたね。


 魔王は腕を振るおうとして、アスを見ます。腕を止めました。


 魔王も一旦逃げるようですね。


 余裕で追い掛けられますけど、まあ、魔王城攻略しないといけないので、見逃してやりますか。




 67:25:56


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