第11話 王城襲撃イベントは最速で
仲間を得た事で最も効果的なのは、私が寝ている間に馬車を進めておいてくれる移動時間と疲労への影響です。移動時間自体は私が一人で馬を走らせたほうが大分早いですけれど、それだとどうしても疲労が抜けきらないですからね。王都への帰還の道で、デルギーンとミカエルくんが交代で魔導馬車を走らせてくれるのであれば、私はゆっくり身体を休める事ができます。
「おい、ガキ勇者、緊急事態だ」
「緊急事態? WDOの執行官でも来た? だったら私は留守って言って」
「なんだそりゃあ。そうじゃねぇ。今、王都から手紙が来た」
デルギーンの肩には鳩が止まっています。皆さんが似合わないコールの大合唱をしていますが、これがこの世界で最速の連絡手段なんですから仕方ありません。
「王都から? 内容は?」
「デュラリオン王国に、魔王軍が攻め込んできた。奴ら、いよいよデュラリオン王国を攻め落とすつもりらしい」
「それは真か!? 何故急に!?」
「………いや、急でも何でもねぇだろ。それをツッコミてぇのは魔王軍の方だろうよ。四天王が二日と経たずに全滅したんだぞ」
「四天王は“あれ”じゃあ、戦ってる事を連絡も出来なかった。魔王は、今になって四天王が全滅した事に気が付いて、デュラリオン王国を脅威に感じた、んだと思う」
デュラリオン王国が攻められているようです。
イベントのパターンとしては、救援に駆けつける、救援へ向かっても間に合わなかったの二パターンの大枠があります。後者は生き残りの捜索だとか、再起のために各地に散った者たちを集めるとか、時間の掛かるパターンなので回避します。
「それじゃ、王都へ全速力で走らせて」
「良いのか? “あれ”は確かに強力だろうが、敵が王都に入り込んでちゃ使えねぇだろ」
「一秒が勿体ないから協力してくれるんじゃなかったの?」
「ちっ、それが本気だからお前は困るぜ! 飛ばすから掴まってろ!」
デルギーン、意外と魔導馬車の操作上手いですよね。百五十キロから二百キロの間くらいの速度を維持して移動しています。たまにミカエルくんが落ちそうになってますけど。
「そうだ、ミカエルくん、これ使って良いよ」
「これ? って、これは伝説の剣ではないか! Kが魔王を倒すために必要なのだろう!?」
「私よりミカエルくんが必要でしょ?」
つーか、邪魔だよ、伝説の剣。荷物になる。ミカエルくんに持って貰いたいわ。
「K………っ! 僕は、絶対に君の期待に応えて見せる! お母様たちを助けよう!」
「おい勇者! 一応確認するが、“あれ”を王都でぶっ放すつもりじゃねぇだろうな!?」
「流星の耀きの事? やるわけないでしょ。あんなん撃ったら、王都の人みんな死んじゃうでしょ」
無辜なる現地民の無差別虐殺はマジでやばいですからね。帰った瞬間即お縄になってしまいます。
デュラリオン王国がやって良いって保証してくれたら別ですけど、さすがに自国民虐殺OKとは言わないでしょう。
「じゃあ、どうすんだ! 今度こそ、何か作戦あんのか?」
「今ちょっと考えてるから、デルギーンは早く王都に着く事を優先してよ」
「分かってるよ!」
はい、視聴者様方、このイベントですが、どうやってクリアして欲しいですか? 皆様が提示した条件とレギュレーションの範囲内で、私は最速の攻略を目指します。
ふむふむ、ミカエルくんの妹が気になっている方が多いですね。ま、私と同年代らしいんで、私の配信を見てくれてる人にとっては気になるかも知れませんね。ミカエルくんの美形具合からすると、高い可能性で可愛いでしょうし。ミカエルくんの妹の救出をクリア条件に追加します。
デュラリオン王国滅亡を願っている人は少数派みたいですね。私としては、今後異世界召喚される被害者を出さないためにデュラリオン王国にはその文化ごと滅亡して貰うって意見も有りですけど。
まあ、被害者を出さない対策はWDOが考えるべき事で、私の知った事じゃないです。私は視聴者様たちの民主主義に則って、デュラリオン王国を完璧に、一人の犠牲も出さずに救う事にしましょう。
「百腕巨人の掻毟」
魔王軍に占領された街の時は数千本の腕でしたが、今回はその千倍、数百万本の腕で王都に入り込んでいる魔王軍を倒します。
ついでに怪我している者には治癒を、死んでいる者には蘇生を、逆らう者には死を。
「よし。後は襲撃されてる王城に向かおうか」
「よし、じゃねぇだろぉ!? なんだよあの腕たちは!? 地獄の亡者が蘇ってお前に従ってるとでも言うのかよ!?」
「今は僕のお母様と弟や妹たちが先決だろう! K! 僕を先頭にして盾にしてくれて構わない! 家族のために傷付くなら本望だ!」
「おい温室王子! この光景を見て、どう考えたら前衛とか後衛とか言う概念に思い至るんだよ! 王都中が勇者が出した不気味な腕に支配されてんだろうが! もうどっちが魔王軍か分かんねぇよ!」
「あー、やっぱこれ、見た目が悪いかな? ちょっと改善の余地があるよね」
「勇者も意味わかんねぇよ! お前はすげぇよ! そのままいけよ!」
「んじゃ、王城へ向けて突撃して」
「ああ! もう分かったよ!」
この世界に来てから魔力の腕に驚かれる事が多いので、今後の配信のためにも改善しておこうかと考えたのですが、デルギーンはそのままで良いと言っています。どっちが良いんでしょうね。
まあ、とりあえず千里眼でミカエルくんの妹を見つけました。ミカエルくんに似て可愛いです。期待していてください。期待って、失禁って意味じゃないです。アスを加えたコスプレ大会くらいは、RTAクリア後に開催しても良いですけど。
「勇者! 王城の前にオークが五匹!」
「十億ボルトの落雷」
ミカエルくんが内股になりました。お、十億ボルトの落雷の再使用希望が増えましたね。ミカエルくんの再お漏らしに期待が高まっているようです。
以前の配信見ている人は知っていると思いますが、十億ボルトの落雷は連射が最大の売りなので、使い出すとほとんどの敵を一方的に撃滅出来ます。だから私に使う事を許可すると、使いまくって面白く無い戦闘になりますからね。それを念頭において、推奨して下さい。
一方的な虐殺を見たいなら、使います。そういう要望が多ければ、あらゆる戦闘を一方的に勝利する異世界召喚とか配信しますよ。
「お母様!」
ミカエルくんが馬車から飛び出して、王城へ向かって走ってます。
まあ私の目的は、一秒でも早くこのイベントを終わらせて、ミカエルくんの妹にコスプレ撮影会の承諾を取り付ける事なので、ミカエルくんの行動は都合が良いです。ミカエルくんが危機に陥れば陥るほど、許可を取り付け易いですから。
「ああ! 無事で良かった、お母様!」
ミカエルくんとその母親、そして弟と妹が城の一室に居ます。私はもちろん、要望にお応えしてミカエルくんの妹に近付きます。
「や、大丈夫? 怖くなかった? 外の怖い魔物は、私が一匹残らず倒しておいたからね」
「ひゃい、勇者様、ありがとうございます」
「ジブリールちゃんだっけ? 可愛い名前だね」
この国の王様、子供に悉く天使の名前を付けてるみたいです。ジブリールちゃんは恥ずかしそうにモジモジしていますね。
王族ならもっとあざとい仕草ができないんですかね。まったく年齢の割に王族としての自覚が足りない。今の君の姿は全国に配信されているというのに。
おいお前ら、純粋なジブリールちゃんに近付くなって何だ。私は汚物か何かか! 私色に染めてやろうか? あ、ごめん、是非とかやってくれとか止めて。
「私たちは王の間へ行くよ。ミカエルくんは?」
「僕も行く! お父様をお助けする!」
「だ、駄目よ、ミカエル! 危険過ぎるわ!」
「そうです。お兄様………」
「本当に危険なのはお父様や家臣、騎士たちだ! 僕たちが行かなければ!」
ミカエルくんの決意表明に応援の声多数です。
「いやぁ、本当に危険なのは魔王軍だろ」
「同感。早く撤退しないと皆殺しにされる」
「嫌だな。デルギーンとアスは。私が鼠一匹逃がす訳ないでしょ」
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