第10話 温泉イベントという視聴者サービス
はい、皆さんお待ちかね。
王道中の王道、ちょっとだけお色気イベントです。
当チャンネルは健全で安心をモットーに、お子さんでも見られる違法配信なのでR指定映像は流れませんのでご安心ください。
ガッカリかい? こればかりは仕方がないね。
さて、さすがに白い砂浜のある海で水着は難しいので、温泉を選びましょう。見つけておいたのは宿が併設されていない、男女で板で区切られた温泉と脱衣小屋があるだけの場所です。無人温泉とか野温とか呼ばれてるタイプです。
ミカエルくんとデルギーンが魔王の幻影相手に大怪我をしてしまったので、その湯治って言うのが表向きの目的になります。この温泉は怪我に対しての効能が強く、湯につかっているだけでみるみるうちに傷が塞がっていくようですね。
魔力の宿ってる温泉の源泉掛け流し。現代だと珍しくもない。スーパー銭湯には当たり前にある薬湯です。
ミカエルくんとデルギーンは治癒術式ですぐに治療するべき、って言う意見があるようですが、まあその通りです。
でもさぁ、じゃあ止める? アスも入らないけど。
ほら、アンケートを取るまでもないじゃん?
そもそも王道イベントは絶対に発生させるって約束だしね。
「アスも温泉入らないの?」
「え? あ、後で」
アスは私が話し掛けたら慌てて写真を隠しましたが、遅いんですよね。それ取った時に、バッチリ全国放送されてますから。ちょっと映った画像から解析班が動いています。
うちの解析班優秀だからなぁ。何か重大な秘密を見つけたらフィルターを掛けて発言してください。視聴者同士喧嘩になるからね。
「でもさ、二人の怪我が治ったらすぐ出るよ。早く入りなって」
「そう。なら、私も入って来る。Kは?」
「私は用事があるから」
おっと、一緒に入らないのかって大合唱が聞こえて来ますね。
入らないです。
私は視聴者様方に楽しんで頂くため、覗きアングルでお送りしまーす。
たったららー、透明化術式ー。あら不思議、私の身体が透明になりました。まあ光学迷彩をまとっただけですけど。
では行きますか。
先にミカエルくんを見たい? いやデルギーンが映ったら大惨事だぞ。一瞬で視聴者が半分になるから駄目。
まずは脱衣小屋に入ります。アスが着ているメイド服。他に荷物はないので、中に居るのはアス一人です。良いのか悪いのか。
この温泉、随分と湯気が多いですね。光処理やモザイク処理を入れ無くて済むので助かります。
意外と広くて岩が多いです。アスはどこに居るのかな、っと。
ん? どこにも、居ない?
「アスタロト! ドラゴンクロー!」
空から竜の爪を象った魔力が私目掛けて降って来ました。私の魔力の腕のように、片腕から魔力で形成された竜の爪を出しているのはアスです。
まさか、ここで裏切りか? いや私の覗き用術式を見破るなんて、アスって想像以上に優秀なんですね。
まあ、アス程度の攻撃で私が傷付くはずもありませんが。
「誰か知らないけど、私を簡単にやれると思わないほうが良い。それに早く逃げないと、勇者を名乗ってる怪物が来るよ」
何か勘違いしているようです。あと勇者を名乗ってる怪物って私でしょうか?
つーか素っ裸だよ、アス。モザイク処理モザイク処理。
それから透明化解除。
「ってK!? な、何やってるの?」
「神のお告げがあったんだよ」
「姿と気配を消して近付けって、神様からのお告げ? メイド服と言い、Kの神様って、変」
お前ら、変だって言われてますよ。むしろご褒美? やべぇ、変態だわ。
覗き失敗は王道。つまり大成功ですね。
結局、アスと一緒に温泉に浸かってます。続いてアスのイベントが起きるようです。
「Kは、その力を使って世界を救って、どうするつもり?」
「どうって言われても、結果じゃなくて過程が大事だからなぁ」
だって、結果がどんなに面白くても、過程がつまんなかったら配信なんて最後まで観ないですよね? この世界で最も重要なのは過程だと断言します。
「でも、どんなに良い事をしたって、最後にどうなるかは、分からないでしょ?」
「良い事とか悪い事ってのが、そもそも違うんだよ。やりたい事をやる、今が楽しい、結果は最悪だけ回避しときゃ何でも良い」
「分かるような………分からないような………」
理解に乏しいのを装ってすっとぼけてみましたが、これヒロインとの重要イベントっぽいので、ちゃんとこなしますか。
真面目な話ってだけで嫌いなんだけどなぁ。
「アスが気にしてんのは、力のほう? それとも世界を救うほう?」
「両方。Kの力は、凄い。その力を、世界を救うために使ってる」
配信のために使ってるに訂正したいですが。まあ広義の意味では、世界を救うために使っていると言えるでしょう。
「でも、その力で世界を救って、それで」
「ああ、たぶん、そこが違うんだわ」
「そこって?」
「私さ、世界を救うのって目的じゃなくて手段だから」
「世界を救うのが、手段? じゃあ、Kはもっと大きな何かを目的にしてる?」
「まあね」
私の目的。
視聴者数、チャンネル登録数、高評価数、ランキング、投げ銭、欲望が溢れ出しますね?
「それは、何?」
「まあ、大勢が笑ってくれることかな?」
嘘は言ってないよ。
「そんなの、本気でそう思ってるって言うの?」
「まあ、私にはアスが何を気にしてるか分からないけど、私が生きていて辿り着いた真理を教えてあげる」
「K、あなたどう見ても私より年下………」
「どんな事だろうと、大体は自分より凄い人が何とかしてくれる」
「た、他力本願? でもKの力を見ると、なんかそれはそれで真理なのかな、とも思うけど」
この三千大世界は広くて狭いですからね。
「何悩んでるか知らないけど、凄い人がどうにかしてくれるよ」
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