第1話 異世界召喚開始
『外道で幼女の異世界召喚』はっじまっるっよぉーっ!
はーい、配信者のKでーす!
いつも私のチャンネルを見てくれてる常連さんはありがとう! 初めての人は、まずチャンネル登録してから続きを見やがれ!
え? 私が何歳かって? なんだ初見か? おめぇら豚はそればかりだよなぁ! 見ての通りの十歳の黒髪美少女だ。ヒャッハー、嬉しいだろ?
配信のタイトルでそれくらい察し欲しいね、まったく。
はてさて今は空前の異世界召喚ブーム! 統計によると百億人に一人くらいの確率で異世界召喚に巻き込まれているらしいです!
流行ってますねぇ! 物凄く流行ってますね! 宝くじ以下? うるせぇ黙れ。
今回もその流行に乗って、そんな異世界召喚を100%RTAで攻略して行こうと思います。
おっと、RTA知らない初見さんが居るみたいですね?
リアルタイムアタックの頭文字で、現実時間を計測しながらタイムを競います。休憩とか睡眠とかの時間もタイマーに含まれるってことです。あとは自分で調べて下さい。
異世界召喚で100%ってなんぞ? って思うかも知れませんが、まあ発生させられそうなイベントは全て回収するって意味で、気楽に考えて下さい。
それでも気になるって視聴者のため、紹介欄にレギュレーションを書いてますんで読んでみて下さいね。あ、ほとんど何も書いてなかった。簡単に言うと王道イベントは必ず発生させます。
セルフ縛りプレイとして視聴者の要望にも応えます。投げ銭次第で。
ちなみに、私の真似をしようとしても責任は持てないので、もしもあなたが異世界召喚に巻き込まれてしまった時のため、世界異世界機関の連絡先は覚えておいたほうが良いですよ。きっとあなたの異世界召喚を助けてくれるでしょう。
初めての召喚に戸惑ったら、慌てず騒がずまずWDOに連絡しましょうね。
あ、私はWDOの力を借りません。ただ生き残るためなら使ったほうのが楽ですけど、遅いんでRTA的にWDOはクソです。
あともちろん、チートも使いません。異世界召喚はチートがある事が多いですが、今回は使わずにやります。チートってガチャ要素ありますからね。チート使っても運の悪い人の参考にはなりませんからね。
いやホントはさー、別に良くね? とは思うんだけど、せっかく正統派美少女の容姿に生まれたからさ、まあ邪道は使わない方向で行こうってね。
だから100%チート無しRTAですね。
早く始めろ? まったくおめぇらは揃いも揃って我慢出来ねぇ早漏だよなぁ!
はいでは始めましょう!
まずですね。異世界召喚で最も厄介なのは、召喚されるまで待つ時間です。
まあ大抵の人は、異世界召喚されずに一生を終えますからね。仕方ありません。さっきは流行ってるとか言ったくせにとか言わない。
さて召喚されるのを待っていたら、RTAは成立しません。
なので他人の召喚に割り込んで、私が召喚されるように術式を書き換えます。
んー、んー、どこかに召喚使ってる異世界はないかなぁー。
お、あったあった。
ホイホイっと。
はい、これで私が召喚されるようになりました。
まあ軽く千年は時間短縮出来ましたかね。前人未到にして未曾有のタイムが産まれたと言えるでしょう。
あ、やっぱダメ? もちろん今のは冗談です。タイマー開始は現地の地面踏んだ時、タイマーの終了は元の世界の地面を踏んだ時です。
おっと宣伝忘れてた。この異世界召喚割り込み術式は公開していますから、欲しい人はダウンロードして下さいね。有料で。
段々と私の身体が光り始めました。
しかし、この召喚術式使っている人、魔力がゴミみたいに少ないですね。これ、失敗するな。ヘボ術士め。
運が悪いとこういう事もあります。
時間が掛かっているようであれば、こちら側から魔力を流し込んで助けてやります。どうせなら術式も、もっと効率が良く安全なものに書き換えましょう。
こういう詰まらないところで視聴者を退屈させない配慮。視聴者の鏡ですね。感心しました? 投げ銭しても良いんですよ?
はーい、異世界に召喚されましたー! タイマー開始!
どうやらスタート地点は地下神殿か何かのようです。壁や天井にも石のブロックを引き詰めているので、建築技術の水準はそこそこありますね。
「こ、子供、だと?」
「伝説の勇者が召喚されるのではなかったのか!?」
「たしかに勇者召喚の儀に間違いはございません!」
大勢の人に囲まれていますので、これはパターンBですね。国とか宗教団体のような組織が、何かの用事で召喚するパターンです。この場合、最初からある程度の情報を手に入れられますので、事故で召喚されるパターンAと違って大幅な時間短縮が見込めます。
余談ですが、ドラマや小説になっている異世界召喚では強調されませんが、本当の異世界召喚では言葉が通じない場合が多々あります。
今回は私の翻訳術式を通しているので、視聴者のみんなにも言葉が分かるようになってますけど、まあチートを貰わない限りは言葉は通じないと思って下さい。
言葉が通じない場合は色々と悲惨です。だから、みんなちゃんと勉強しましょうね。
「では、この子供が勇者だとでも言うのか!?」
「は、はい………」
「馬鹿を言うな! 子供が成長するまで待つ時間はないのだぞ!」
あと胸に勲章付けた偉そうな男が時間はないとか言ってますね。
こっちのがねぇよ! もうタイマーは回ってんだよ!
えっと話を戻します。召喚されて最初に調べるべきはまずは言葉、次に召喚された目的です。彼らはそこそこのコストを掛けて次元の壁をぶち抜いてる訳ですからね。何か彼らだけでは達成不可能な大変な目的があるはずです。それを最速で確認します。
ここに魔力で作った腕があります。
これを勲章を付けている男へ伸ばします。
「な、何をする!? うわああぁぁ!?」
この伸びる腕はとても便利です。特に私みたいに身体が小さいと、高い所にある物を取るだけでもタイムロスになってしまいますからね。
「私を召喚した理由は何だ。簡潔に話せ」
意外と忘れがちなのが、“簡潔に”の一言です。これを付けないと、五分から十分は足止めされます。
「ご、ごろざないで」
おや、これはマズイですね。
魔力の腕で肩を叩いただけで、ビビって何もしゃべれないようです。
異世界から巨大な力を持つ相手を呼び寄せる、とかやってる癖に、何故かビビる手合いが居ます。
それに当たると無駄な時間を取られてしまいます。今回は運が悪いようですね。
こういう時は優しく笑顔で対応しましょう。
「いいから、さっさと話せ」
「ゆ、勇者殿! どうか気をお沈め下さい!」
私、めちゃくちゃ落ち着いてますけど? 良いタイムを出すには焦ったら終わりですからね。
勲章の男の周囲に居た騎士風の連中が跪きましたね。
しばらくはメッセージスキップです。まあ現実では不可能なんで、聞き流すって意味なんですけどね。暇な人は聞いてください。私は聞きません。
聞き流している間に、千里眼を使って情報収集しておきます。ポイントとしては陸地の形、街や村の場所、特徴的な建造物なんかをさっと俯瞰しておきましょう。
「我々はデュラリオン王国の騎士団でございます! 我らがデュラリオン王国は魔王軍と―――それから数年、長き戦いに―――しかし先日―――ゆえに―――こうして勇者殿に―――何卒魔王を討伐して頂きたく!」
魔王を倒してくれ、の一言がなんでこんなに長いんですかね。
まったく無能な奴ほど話が長い。
「私に任せな!」
「おおおおおおっ!」
今回の異世界召喚は王道中の王道、魔王討伐が目的のようです。
王道という事は、それだけ先達たちが残してくれたノウハウがありますので、タイムは期待出来そうです。
目指せ百時間切り!
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